日本緑化工学会誌
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ブナ樹冠の大気飽差が光合成速度と気孔開閉に与える影響
斎藤 秀之須藤 博角張 嘉孝
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2000 年 26 巻 3 号 p. 178-187

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抄録

富士山ブナ天然林を対象に樹冠の大気飽差が光合成速度に与える影響について, 大気飽差の実測と切り枝法による光合成・蒸散速度の測定をもとに検討した。1997年4月21日から10月31日において大気飽差の最大値は陽樹冠で32.8PakPa-1, 陰樹冠で24.2Pa kPa-1であった。測定期間のうち大気飽差が10PakPa-1を超した日数は陽樹冠で101日, 陰樹冠で80日であった。30分おきに測定した昼間の結果のうち10PakPa-1を超した大気飽差の頻度は陽樹冠と陰樹冠ともにほぼ10%であった。チェンバー内の大気飽差を3PakPa-1から15PakPa-1まで制御したとき, 大気飽差と葉面飽差の違いはほぼ1PakPa-1以内であった。光合成速度は葉面飽差が9PakPa-1以上になると陽葉と陰葉ともに最大光合成速度の90%以下に低下した。気孔コンダクタンス, 細胞間隙CO2濃度, 葉肉コンダクタンスは葉面飽差が6PakPa-1を超すとそれぞれ低下した。葉面飽差の増大にともない蒸散速度は大きくなり, 光合成の水利用効率は低下した。まとめると, ブナ樹冠において大気飽差は光合成速度と光合成の水利用効率を低下させ, 蒸散速度を上昇させる環境要因と言える。光合成速度の低下は気孔コンダクタンス, 細胞間隙CO2濃度, 葉肉コンダクタンスの低下をともなう。

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