2006 年 10 巻 2 号 p. 100-104
ブランドイメージを築き上げることは, 企業活動にとって大変重要なことである. その一方で, 一度ブランドが確立してしまうと, そのブランドイメージを壊さないよう心がけるため, 新製品開発の自由度を制限してしまうことにもなる. そこで, どこまでのイメージ拡張であれば, ブランドイメージを維持できるかを確定するための手立てが重要となる. 本報告で述べるブランドイメージとは, 消費者が商品に接する時に連想するであろうベネフィットやシーン(状況・気持ち)を指す.
飲料を飲む場合, 状況や気持ちといったシーンに合わせて飲料を選択している場合が少なくない. その際, ブランドイメージに添ったシーンで選択されているであろう. そこで, 大学生124名を対象に, 乳性飲料3品について試飲はせずイメージ上の想像で, もしあるシーン(IF)の時にこの飲料を飲んだとしたらという条件設定の下で, どのような回答(THEN)が得られるかを明らかにするための調査を行ったところ, シーンによって異なるイメージが感じられることが分かった(神宮・小池, 2005a). また, 実際に乳性飲料3品を飲んでもらった官能評価実験(1回目計12名, 2回目計18名)で, シーン(IF)によって風味の着目点(THEN)が異なる事も明らかとなった. (神宮・小池, 2005b). これら一連の研究から, ブランドイメージの拡張にとって, シーンを提示する「IF-THEN型官能評価」の有効性が示唆された.
しかし, 現在のブランドイメージを維持しながら, どのようなイメージを新たに付加していけばよいかを特定することができたとしても, 品質構成上の配合に反映させることができなければ, 商品開発につなげることはできない. そこで, IF-THEN型官能評価で得られたデータから, 特性値の改良幅を導くための手順を提案する.
パネルに特定のシーンを提示し, そのシーンをイメージしてもらった後に, 実際にある飲料を飲み, 各評価項目について評価してもらう. 今回は, 乳性飲料1品を使用し, 大学生63人(男性56名, 女性7名, 18歳から22歳)をパネルとして, 1人ずつ評価してもらった.
イメージしてもらうシーンとしては, 予備調査によりその飲料のブランドイメージに合致していると考えられる「家族と一緒にいる時」と「ゆったりしている時」を基準シーンとして採用し, 現在のブランドイメージにはないが近接の新たなイメージとして取り込みたいシーンとして「朝起きた時」と「うきうきしている時」・「いらいらしている時(に飲むと気分が改善される)」を採用し, 合計5種類を使用した. 評価項目は, この飲料の風味を考えるうえで重要な項目である「甘さ」・「濃さ」・「すっぱさ」・「すっきり感」・「ねっとり感」の5項目について(神宮・小池, 2005b), どうなっていたら良いかを7段階(1: もっと弱く~4: ちょうど良い~7: もっと強く)で評価してもらった.
評価データの解析には平均値が頻繁に用いられるが, データのばらつき具合にも多くの情報が潜んでいると考え, データ分布の形状・面積に着目した.
飲料のブランドイメージである「家族と一緒にいる時」・「ゆったりしている時」と, ブランドイメージにはない「朝起きた時」「うきうきしている時」「いらいらしている時」とでの分布の違いを見るために, 状況と気持ちに分けて評価項目ごとに度数分布図を作成した. その結果, 「家族と一緒にいる時」「ゆったりしている時」の分布は, 4(ちょうど良い)を中心とした, 左右対称の正規分布に似た分布になっている. これら2つのシーンは, そのブランドイメージに見合ったシーンであることが再確認できた. 一方, ブランドイメージにないシーンにおいては, 正規分布でないものがみられた. 例として, 「朝起きた時」の「すっきり感」(図1)を示す.
このことから, 状況では「家族と一緒にいる時」, 気持ちでは「ゆったりしている時」を基準として, 分布の平均値の差から, ブランドイメージから外れたシーンに見合った特性値を特定することを試みた. しかし, 分布の異なる集団に対して, 平均値の差だけで特性値を決定することは, 誤った解釈をしてしまう可能性ある. そこで, 分布の形状を加味した特性値への変換方法が必要となる.
基準となるシーン(「家族と一緒にいる時」・「ゆったりしている時」)を基に, 目指すシーンでの評価値を標準化し, それぞれの平均値から分布における面積の割合を求める(図2). 例えば, 「家族と一緒にいる時」の評価結果(Xi)をその平均値(m)と標準偏差(SD)を使って, 標準化(Xi-m/SD)する. この基準のもとで, 「朝起きたとき」の代表値のz値を求める. これは, EXCELの関数の「STANDARDIZE」で計算できる. なお, 代表値に関しては, 「朝起きた時」の評価結果の分布を反映した値を, 下記の手順で特定する. その際, 評価結果の分布が正規分布と大きく異なる場合(歪度が±0.5以上)は, 次の補正を行う. 正規分布の尖度3を基準とし, 尖度が3以上の分布には最頻値, 3未満の分布には中央値を, 平均値の代わりに代表値として用いて面積比を求めた. なお, EXCELの関数の「KURT」で計算した場合は, 3ではなく0が基準となり, プラスで最頻値, マイナスで中央値となる. この一連の計算は, 例えば, 「家族と一緒にいる時」を基準とすれば, この平均値が表す分布上の面積は50となる. 「朝起きた時」の代表値のz値に対応する面積は, EXCELの関数の「NORMSDIST」より求められる. この結果を100倍した値を先の50で割った値が, 面積比である. その結果を表1に示す. 表1において◆印の記された箇所は, 補正した事を示しており, 即ち正規分布とは異なる事を示す. 「甘さ」を0.77倍, 「濃さ」を0.56倍, 「すっぱさ」を0.82倍, 「ねっとり感」を1.32倍, 「すっきり感」を1.44倍にすることで, 「朝起きた時」に合った飲料になると考えられる. 「うきうきしている時」と「いらいらしている時」についても, 表1の比率で改善すればそれぞれのシーンに合った飲料になると考えられる.
つまり, 横軸を甘味度(特性値), 縦軸を「甘さ」の評価(心理評価)として, 甘味度と「甘さ」の評価の関係が, 図3のようになっているとする. いわゆる心理物理関数が得られていることを前提とする. 飲料の現在の甘味度に相当する「甘さ」の評価が, 基準となる「家族と一緒にいる時」(面積比1)に相応しいと仮定する. その時に, 「朝起きた時」の面積比0.77を甘さの評価軸上(縦軸)に布置し, そこからグラフで対応させて, 面積比0.77に相当する甘味度(横軸)を明らかにすることができる.
この一連の手法を面積比法(method of area's ratio in N(0.1))と呼ぶ, 面積比と特性値(酸度など)との対応関係が得られていれば, 改良の際に面積比を算出することにより, 特性値に変換することができ, 効率的な開発が可能となる.

「家族と一緒にいる時」を想定した時の「すっきり感」と, 「朝起きた時」を想定した時の「すっきり感」の分布を示す.

面積比率=A/B(A=∫ dx(朝), B=∫ dx(家族))「家族と一緒にいる時」の, 例えば「甘さ」の代表値の面積(偏差値)を50とした時,
「朝起きた時」の「甘さ」代表値z値に対応する面積(偏差値)を算出し, 先の50で割った値を面積比とする.
代表値は, -0.5<歪度<0.5で平均値を, それ以外の時は, 尖度<3で中央値, 尖度≧3で最頻値を用いる.

現在の飲料Aの甘さは「家族と一緒の時」に相応しいと仮定し, 面積比として算出された「朝起きた時」の改良幅を, グラフで対応させて物理量に変換する.

Aは「家族と一緒にいる時」を基準(1.00)とした「朝起きた時」の面積比,
B, Cはそれぞれ「ゆったりしている時」を基準(1.00)とした「うきうきしている時」および「いらいらしている時」の面積比を示す.
「うきうきしている時」の改良点を, 「ゆったりしている時」を対照として従来行われている平均値を比較する方法(t検定)で分析すると, 「甘さ」のみ1%水準で有意であり, 「甘さ」について改良が必要である, との結論となる(表2). 一方, 先で示した面積比では, 「すっきり感」に大幅な改良が必要であり, 「甘さ」は微小の改良で良い事が分かる(図4). このことから, 面積比法は平均値の比較とは異なった改良ポイントが得られる可能性が示唆された. 両者の違いは, 面積比法が評価の分布状況を加味した算出方法であり, データの多様性を反映している点に由来するものと考えられる.

従来法であるt検定により, 「ゆったりしている時」と「うきうきしている時」の平均値を比較した.
このように, ブランドの代表イメージを基準とした時に, 目指すイメージに求められる風味を解析すると, 風味のバランスを大きく変える必要のあるイメージとほとんど変えなくて良いイメージ(近接イメージ)が存在した. 各シーンにおける面積比をレーダーチャートで表した(図5). ブランドイメージを維持するためには, 大きく変わらないイメージを優先的に考えて製品展開を行う方が効率的であろう. 今回の実験では, 「うきうきしている時」の気持ちに見合った風味に改善することが, バランスの変化が最も小さいことから, 今回使用して3つの目指したいシーンの中では, 「うきうきしている時」が飲料のブランドイメージに最も近いといえる. そのため, 「うきうきしている時」の気持ちに見合った新製品の方が, 他の2つのシーンに見合った新製品よりも, 顧客に受け入れられやすいと考えられる. このことから, 「うきうきしている時」の気持ちに見合った新製品から作っていくことで, ブランドイメージを広げて行くことができると考えられる.
今回使用した5つの評価項目は, 飲料の配合を考えるうえで, 重要な項目であるが, それらの項目の中でも, シーンの違いによって, 改良の仕方の違いがはっきりと異なった. 「甘さ」・「濃さ」・「ねっとり感」については, それぞれのシーンに合わせて強くしたり, 弱くしたりして改良していく必要があるといえる. 「すっきり感」に関しては, どのシーンにおいても強くする必要があり, この飲料は, 多くのシーンで「すっきり感」が不足している可能性が考えられる.

「ゆったりしている時」を基準(面積比1)とし「うきうきしている時」の面積比(改良幅)を算出した結果を示す.

基準シーンである「家族と一緒にいる時」「ゆったりしている時」の面積比を1とし, 目指すイメージの面積比をレーダーチャートで表す. 上段は, レーダーチャートの形が異なり大幅改良が必要なシーン, 下段はわずかな改良で目的の風味に達するシーンの例である.
「すっぱさ」については, シーンの違いによっての差はほとんどなく, 改善する必要性はないことから, ブランドイメージに関係なくこの飲料のキー品質であるといえる.
ブランドの代表イメージを調査し, そのイメージをどのように拡張していけばよいかの指針を得ようとする場合には, 何らかの工夫が必要となる. 本研究では, 代表イメージと異なる状況と気持ちを, 「IF」という設定で提示した. これを, 「IF-THEN型評価」と呼んでいる. そして, 消費者の多様性に対応し, ブランドイメージを壊さずに新製品を作り出すための改良幅を明らかにし, 特性値を特定する手法として「面積比法」を提案した. 今後は, この手法に基づいて開発された試作品の評価を行い, 実際にブランドイメージを壊さずに新しいイメージを取り込めるかを検証する必要がある.