日本官能評価学会誌
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研究報文
ポテトフレークを利用した高齢者向き豚肉加工品の性状
金 娟廷高橋 智子品川 弘子大越 ひろ
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2006 年 10 巻 2 号 p. 94-99

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1. 緒言

現在, 日本の高齢者人口は増加し, 平均寿命も伸びている. 高齢者では咀嚼・嚥下機能の低下により経口的に食物を摂取することが困難な人が増加している(手嶋, 2005). そのため, 高齢者にとって食べやすい食品の開発が社会より求められている. 同時に高齢者にとっての最大の栄養問題は, たんぱく質・エネルギーの低栄養状態(Protein Energy Malnutrition : PEM)とされている(杉山, 1999). 食肉は良質なタンパク質をはじめ, 鉄やビタミンB群の優れた供給源であり, 健康を維持するために重要な食品の一つである. しかし, 食肉は魚肉に比べ, 組織的に強固な筋繊維やコラーゲン繊維の集合体であるという特性のために, 硬く, 咀嚼した後に口腔内における残留感も大きい. また, 食肉は咀嚼や嚥下能力が低下している高齢者にとっては, 義歯や歯の間に挟まって苦痛を伴ったり, 円滑に飲み込むことも難しい(矢野と中村:2005)と報告されている. 著者らも, この点から食肉を軟らかく, しかも咀嚼しやすくする試みを報告した(高橋ら, 2002, 2003, 2004). 食肉は繊維状組織を残したままの食肉よりも, 繊維を切断したミンチ肉にでんぷんをつなぎとして加えた食肉加工品の方が, 高齢者にとって, 食べやすいことを報告した(高橋ら, 2004).

また, 新しい食形態として「高齢者ソフト食」が注目されている. ソフト食は, ミンチした肉にほぼ同量のみじん切りにして炒めた玉ねぎ, 卵黄と油の乳化物等を混合したものである(黒田, 2002). 同様に, 大越ら(2005)は, 鶏ひき肉にマッシュポテトを加えて, 高齢者が咀嚼しやすい「やわらか食」を開発した.

そこで, これらの研究をふまえ, 本研究では, 基礎研究として価格が安定しており, 輸送や貯蔵面でメリットの高いポテトフレークおよび結着性を高めるために使用されているデンプンを, 豚肉の一部と置換して調製した食肉加工品の食べやすさについて, 高齢者及び若年者を対象として検討した.

2. 実験方法

(1)試料調製

1)材料

実験に用いた肉の部位は, 前報(高橋, 2002)に準じ, 豚肉ロース芯部である. 肉は(株)伊藤ハムの工場で屠殺された後, カットされ, 2日間4℃以下の状態で保存したものを入手した. 豚ロース肉は4等分し, -80℃で一晩冷凍し, その後, -20℃の冷凍庫内で保存した. この豚ロース肉を5℃の冷蔵庫内で約16時間かけて解凍し, 脂肪分を取り除き, 1cm角に切断後, ミンサー(バミッスガストロ200:17000回転/分, (株)チェリーテクス製)を用いて, 1ブロックにつき4分間ミンチした.

マッシュポテトはポテトフレーク(スタンダードポテトフレーク:米国ポテト協会)に対して4倍量の水を添加し, 60回(1分間)主導で撹拌して, 調製した.

2)試料調製

調製した飼料の配合割合を(Table 1)に示した.

① 基準肉(C)の調製

ミンチした4ブロック肉をあわせて, 全量の0.5%の食塩を添加したものを, 手動(木べら)で60回(1分間)撹拌混合したものを, ミンチ肉とした, このミンチ肉をさらに, 3分間ミンサーによる撹拌を行い, 基準肉とした. 以下, 基準肉をCと表記する.

② マッシュポテト置換肉(M)の調製

ミンチ肉の20%(置換)にあたる調製したマッシュポテトをミンチ肉に添加し, 3分間ミンサーによる撹拌を行い, 混合して調整した. これをマッシュポテト置換肉とし, 以下Mと表記する.

③ デンプン置換肉(MS)の調製

ミンチ肉の17%(置換)にあたるマッシュポテトをミンチ肉に添加し, 1.5分間ミンサーによる撹拌を行い, さらにミンチ肉の3%(置換)にあたるデンプン(馬鈴薯デンプン)を添加し1.5分間撹拌(ミンサー)し, 合計で3分間撹拌混合を行い, 調製した. これをデンプン置換肉とし, 以下MSと表記する.

3) 測定用試料の作成

3種の試料とも, 縦4cm×横6cm×高さ2cmの大きさに成形し, 前報(高橋, 2002)に準じ, オートバキュームパッカー(東静電気株式会社:トスパックV-22)を用いて, 真空調理専用袋に封入後, 真空度600mmHgで真空包装した. 真空包装した試料肉を, いずれも80℃恒温水槽で30分間加熱後, 氷水中で中心温度が20℃になるまで急冷した.

(2)水分含有率および重量減少率

水分含有率は, 加熱前および加熱後の試料肉を約5gずつ秤量皿に入れ, 135℃の乾熱器内で2時間半乾燥させ, 恒量値を得た.

重量減少率は, 加熱後の各試料肉の重量減少量を加熱処理前の肉重量に対する割合で示した.

(3)テクスチャー特性の測定

加熱した試料肉は縦2cm×横3cm×高2cmに成形し, 測定用試料とし, レオロメーターマックス(形式RX-1700:(製)アイテクノ)を用いて, テクスチャー特性の測定を行った. クリアランスは試料厚の20%に設定した. プランジャーは圧縮面積が0.24cm2のくさび型を用い, 圧縮速度は10.0mm/secとした. 硬さ, 凝集性, および付着エネルギーは, テクスチャー記録曲線より, 大越(1995)の方法に従い, 算出した, 測定温度は20℃である.

(4)官能評価

1)試料肉

官能評価には, 上記3種の試料を用いた(Table 1). 3種類とも, 縦1cm×横1cm×厚1cmに成形し, 官能評価用試料とした.

2)方法

若年者パネル(20~24歳)は健常な女子大生30名, および高齢者パネル(65~78歳)は摂食機能および認知機能が正常な30名である.

官能評価方法は順位法(ISO8587:1988, Sensory analysis-Methodology-Ranking)を用いた. 順位法は, 3種類の肉試料を一度にパネルに提示し, 項目に従って順位付けして評価する方法である. 3種類の肉試料はラテン方格に従いトレー上に配置し, 肉試料の温度を20℃程度で提示した. 評価項目および順序は, 分析型評価項目として, かたさ(かたいものを1位), 飲み込みやすさ(飲み込みやすいものを1位), 残留感(口の中に食べかすの多いものを1位)の3項目とした. また, 風味(好ましいもの1位), かたさ(かたさが好ましいもの1位), おいしさ(おいしいもの1位)を嗜好型の評価項目とした. 評価項目ごとに各試料の順位合計を得, 順位法の検定はフリードマンの検定を行い, 試料間の順位合計の差については, 正規分布による近似を用いて検定を行った.

若年者パネルの評価では, 肉試料の提示温度を20℃とし, 室温22~23℃で個室法により官能評価を行った. いずれの肉試料も一個ずつ白色小皿に載せ, 肉試料一個を一口量とし口中に取り込み, 自由に咀嚼・嚥下した後, 評価してもらった. 試食した際の印象を記憶法により, 評価項目ごとに順位を記入してもらった.

高齢者パネル官能評価では, 高齢者パネルリストと記録者の各一名を1グループとし, 個別に聴取した. いずれの肉試料も, 一個を一口量として口中に取り込み, 自由に咀嚼嚥下した後, 評価してもらった. 肉試料の提示温度は20℃である. 官能評価実施時間は, 昼食の影響が少ないと考えられる食後2時間を経過した午後2時より開始した.

Table 1

The mixture ratio of different processed meat samples

Table 2

The water content of different processed meat samples

Table 3

The weight reduction of different processed meat samples

3. 実験結果および考察

(1)水分含有率および重量減少率

各試料肉の加熱前及び加熱後における水分含有率(Table 2)および加熱後の重量減少率(Table 3)を示した.

加熱後において, マッシュポテトやデンプンで置換したMとMSはいずれもCよりも有意に水分含有率が高くなっている. 加熱前および加熱後の差は, MSが他の2試料と比べ小さくなっている(p<0.01). また, MSは試料肉CとMよりも有意に重量減少率が低下した.

以上の結果から, マッシュポテトの一部をデンプンで置換することにより, 保水性が向上し, 水分含有率が高くなり, 加熱後の重量減少率が低下したと言えよう.

(3)テクスチャー特性

3種類の試料肉について, テクスチャー特性の測定結果を(Table 4)に示した.

マッシュポテトやデンプンで置換したMとMSは, Cよりも有意に硬さが低下した. しかし, MとMSの間には有意差は認められなかった.

MはCよりも凝集性および付着性エネルギーは両者ともに有意に低下した. 凝集性は食品内部の結合力を, 付着エネルギーは粘さをあらわしていることから, 肉の一部をマッシュポテトで置換することにより, 粘りが少なく, 脆くなったと言える.

しかし, マッシュポテトの一部をデンプンで置換すると凝集性と付着エネルギーがやや増加し, まとまり易く, 崩れにくい試料になることが考えられる.

以上の結果から, 肉の一部をマッシュポテトとデンプンで置換することは, やわらかくする効果があり, 特に, デンプンの添加はまとまりやすくなり, 食べやすいテクスチャー特性を示したといえる.

(4)官能評価

この研究は高齢者に適した豚肉加工品の性状を検討する目的のため, 若年者および高齢者をパネルとする評価を行った.

1)フリードマンの検定および試料間の有意差検定

若年者群(Table 5)および高齢者群(Table 6)の分析型および嗜好型の各評価項目について, 順位合計およびフリードマン検定より得られたF値を示した. また, フリードマン検定で有意差が認められた項目について, 試料間の有意差検定を行い, 併せて示した.

① 若年者群

若年者群(Table 5)では, 分析型評価項目のかたさおよび飲み込み易さにおいて, 1%の危険率でF値に有意差が認められた. 残留感においては, 5%の危険率でF値に有意差が認められた. そこで, 試料間の有意差検定を行ったところ, かたさでは, 3種類の試料肉に差があり, 基準肉のCが最もかたく, 次に, マッシュポテトで置換したMが, さらにデンプンとマッシュポテトで置換したMSが最も軟らかいと評価された.

しかも, 飲み込みやすさおよび残留感では, 基準肉のCとマッシュポテトで置換したMの試料間には差が認められず, デンプンとマッシュポテトで置換したMSで, 試料肉CとMに比べ, 飲み込みやすく, 残留観が少ないと評価された. これらのことから, 肉をマッシュポテトやデンプンで置換することで, やわらかさが改善され, しかも, マッシュポテトの一部をデンプンで置換することで, 飲み込み易さおよび残留感の改善がみられたので, 有効な手段といえよう.

若年者群の嗜好型項目の結果を見ると, 風味, かたさ, おいしさ(総合評価)のいずれについても, F値に有意差が認められなかった. このことから, 肉製品の硬さについては, 個人の嗜好の影響が大きく, 好ましいかたさに関しては3試料肉間に有意な差が認められなかったものと推測される.

Table 4

The textural properties of different processed meat samples

Table 5

The sensory evaluation of different processed meat samples in a panel of the youth people

② 高齢者群

高齢者群(Table 6)では, 若年者群とは異なり, 分析型の残留感に有意差が認められなかった. そこで, 有意差の認められたかたさと飲み込みやすさについて, 試料間の有意差検定を行った. マッシュポテトで置換したMとマッシュポテトとデンプンで置換したMSの試料間にはいずれも有意差が認められず, 基準肉のCは, 試料肉MとMSに比べ, かたく, 飲み込みにくいと評価された. 以上の結果から, 高齢者にとって, 肉の一部をマッシュポテトやデンプンで置換することは, 飲み込みやすい性状を有する肉製品へと改善するのに役立つものといえる.

高齢者群の嗜好型項目の結果を見ると, 風味およびかたさについては, F値に有意差が認められなかったが, おいしさ(総合評価)については, 5%の危険率でF値に有意差が認められた. 試料間の有意差についてみると, 基準肉Cよりも肉の一部をマッシュポテトやデンプンで置換したMやMSが有意においしいと評価された. このことから, 軟らかく, 飲み込みやすい試料の方がおいしいと評価されたのではないかと推測できる.

③ 若年者群と高齢者群の比較

分析型の残留感について若年者群と高齢者群を比較すると, これら3種の試料の残留感は若年者群では識別可能であったので, 高齢者群は識別機能が低下している可能性を示唆しているといえよう. しかも, 残留感に対する口中感覚の低下は, 口中に食物の残渣が残っていることへの認識の低下が示唆される. また, 口中の食物残渣は, 口中の衛生面のみならず, 就寝中に生じる気管への食物残渣の誤嚥の可能性(野村, 1998)も指摘されているので, 口腔感覚の低下した高齢者にとっては, 口腔ケアの必要性が示唆される.

そこで, 客観評価値である硬さと主観評価の項目との関係から若年者群および高齢者群の比較を行った.

Table 6

The sensory evaluation of different processed meat samples in a panel of the elderly people

(5) 主観評価と客観評価の関係

テクスチャー特性から得られた硬さと主観評価のかたさ(分析型)および飲み込み易さ(分析型)の関係を若年者群(Fig. 1), 高齢者群(Fig. 2)および若年者群と高齢者群をあわせた結果を(Fig. 3)に示した.

① 若年者群

若年者群の結果(Fig. 1)では, テクスチャー特性の硬さ(Table 4)と分析型評価のかたさ(Table 5)との間に負の関係が認められ, 硬い肉製品は食べたときにも「かたい」と認識できていることが明らかとなった. 硬さ(テクスチャー特性)で有意差が見られなかったMとMSは, かたさ(分析型評価)ではMとMSの試料間に有意差があり, MSの方がやわらかいと評価していた. また, 飲み込み易さ(分析型評価)でもMとMSの試料間に有意差があり, MSの方が飲み込みやすいと評価していた.

② 高齢者群

高齢者群の結果(Fig. 2)では, 硬さ(テクスチャー特性)とかたさ(分析型評価)との間に若年者同様, 負の関係が認められている. しかし, 硬さ(テクスチャー特性)で有意差が認められなかったMとMSは, かたさおよび飲み込み易さ(分析型評価)の結果と一致し, マッシュポテトやデンプンで置換したMとMSはCよりやわらかく, 飲み込みやすいと評価していた.

③ 全体(若年者群と高齢者群をあわせて)

若年者群と高齢者群(Fig. 3)をあわせて示した. 若年者群と高齢者群をあわせた結果では, 硬さ(テクスチャー特性)とかたさ(分析型評価)の間に有意な正の相関関係が認められた(r=0.911, p<0.05). また, 硬さ(テクスチャー特性)と飲み込み易さ(分析型評価)の間に有意な正の相関関係が認められた(r=0.942, p<0.01). 従って, 軟らかい試料肉ほど食べたときにやわらかく, 飲み込みやすいと評価されたといえよう.

Fig. 1

Relationship between the hardness of different processed meat samples and sensory evaluation (youth people)

Fig. 2

Relationship between the hardness of different processed meat samples and sensory evaluation (elderly people)

Fig. 3

Relationship between the hardness of different processed meat samples and sensory evaluation (youth & elderly people)

以上のことから, 食物の飲み込み易さは, 硬さの影響をある程度受けることが明らかとなった. 既報(高橋ら, 2004)では, 硬さの異なる豚肉について, 嚥下までの咀嚼回数と食塊の硬さについて検討を行い, 人は飲み込む際に咀嚼回数を調製することで, 飲み込みやすい食塊にしていることを明らかとした. そこで今回用いた試料についても, 嚥下までの咀嚼回数と飲み込むことのできる食塊の硬さについて検討する必要があるといえる.

また, テクスチャー特性から得られた硬さと主観的評価から得られた嗜好型評価の各項目との間には, 明確な相関関係が認められなかった.

以上の結果より, 高齢者は若年者よりも試料肉間の差を認識しにくくなっていると判断されたことから, 試料肉間の性状の差をより明確に評価するためには, 若年者による評価が必要であると思われる. また, 嗜好型評価は, 若年者群と高齢者群では異なったため, 高齢者の嗜好に適した製品の開発を行うためには, 高齢者による評価は重要といえる.

引用文献
 
© 2006 日本官能評価学会
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