日本官能評価学会誌
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研究報文
呈示回数増加による閾下呈示における単純接触効果
-刺激として衣服を用いた検討-
長田 美穂小林 茂雄
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2007 年 11 巻 2-2 号 p. 89-98

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1. 緒言

新奇な刺激対象でも何回も見慣れると好感度が増す現象を, Zajonc(1968)は単純接触効果と名づけた. 筆者らは今までに第1研究(長田・杉山・小林, 1992), 第2研究(長田・小林, 1995), 第3研究(長田・小林, 1996), 第4研究(長田・小林, 2005a), 第5研究(長田・小林, 2005b), 第6研究(長田・小林, 2006a)を行い, 刺激対象を衣服とした場合において単純接触効果が出現するかどうかを検討し, 確かに衣服を対象としても効果が出現することを確認してきた. さらに第7研究(長田・小林, 2006b)においては, 新奇なファッションのイラスト画を刺激対象にして閾下で呈示した場合の単純接触効果の出現を検討した. その結果, 筆者らの第6研究までの研究のようにはっきり刺激対象が見える方法より, 閾下で呈示する方法によるほうが, 多くの好感度項目尺度において単純接触効果が出現することが分かった.

今回の研究は, 筆者らのこれまでの研究では呈示回数が最大20回だったが, 最大40回までに増やし, 単純接触効果の出現のピークを検討することを目的とした. これまでの研究では被験者の疲労などを考慮して, 20回までの呈示しか行わず, その20回呈示条件で好感度がもっとも高くなり単純接触効果が出現した. しかし, 呈示回数を増やせばそのまま好感度も上昇し続けるのか, それとも上昇が止まるのかは検討されていなかった. なお, 回数増加の先行研究にはZajonc, Crandall, Kail & Swap(1974)の 1, 9, 27, 243回の呈示回数条件で実験したものがある. Zajoncらは, neutralな感情価を持つ漢字を16ミリフィルムでコマ送りのスピードを変えた呈示方法で実験を行った結果27回まで好感度は上昇するが, それ以後は減少することを示した. 好感度減少に関しては, Crandall, Montogomery & Rees(1973)は呈示回数を増加することにより被験者の注意力が散漫になるためと考えている.

本論文では具体的に, 第7研究と同様に刺激を閾下で呈示することにより, 刺激対象をはっきり見せるより単純接触効果が出現するものと考えられるため, 実験方法は閾下, あるいは閾上であっても認知閾に達していないレベルで瞬間呈示を行った. また, 筆者らの第5研究(第6研究は調査)までの実験方法では呈示回数が増す分, 実験時間の長さによる疲れが出るが, 瞬間呈示による実験方法は, 被験者に負担を減らす効果も期待できた. 実験は第7研究と同様に閾下である実験1, 瞬間呈示であり, 認知閾には達していないものの閾上である実験2, ビデオの中に刺激画像をとり入れて被験者に気付かれないように操作した実験3の3つの実験で成り立っている. 最後に, 刺激画像が妥当なものであったかどうかをラテン方格方式により吟味した.

2. 実験 1

実験1では, 刺激写真に新奇なイラスト画を使用し, 呈示回数条件を1回, 10回, 20回, 30回, 40回とした. 刺激対象として新奇なイラスト画を閾下で瞬間呈示したときに, 呈示回数にともなって単純接触効果がどのように出現するかを検討することを目的とする. ここでの閾下とは, 10枚のイラスト画の弁別において, 5枚以下, つまり50%以下の弁別成績を引き起こす呈示条件を指す.

2-1 方法

刺激写真画像 筆者によって作成された, イラスト画から予備実験により新奇性の高いものを選定し, A~Jの 10枚の画像(Fig. 1)を使用した. またイラスト画は, 婦人服に限定しないユニセックスで新奇なファッションであり, モデルについても男女差が影響しないように配慮した. この画像は第7研究で使用したものと同様である.

被験者 被験者は21~23歳の女子大学生15名であり, 2001年7月~10月に個別実験を行った.

手続き 実験の手続きは, 以下に示すように閾値測定, 本実験, 閾値の吟味の3段階からなり, これらを連続してコンピュータの画面を見て個別で実施した. 方法は本実験の呈示回数が増える以外は, 第7研究と同じである.

まず個人ごとに異なる閾値を各々測定した. 最初15msecの長さでグレイ地があらわれ, 続いて50msecの間グレイ地に5つの白い点を施した注視点が呈示された. その直後, 刺激画像である顔写真が瞬間呈示され, その直後顔写真を見えにくくする妨害刺激として, ランダムドットパターンが50msec呈示された. 顔写真の呈示時間は, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40msecの7条件であり(名目上は10msec, 15msec, 20msecの時間設定をしたが, 呈示時間のキャリブレーションを行わなかった), これらが1secの間隔で次々呈示された.

また, この場合の刺激画像である顔写真は, 実験当時若い女性に知名度の高い女性タレント10名(安室奈美恵, 梅宮アンナ, 神田うの, 菅野美穂, 中山美穂, 浜崎あゆみ, 広末涼子, 藤原紀香, 松たかこ, 松嶋奈々子)をアンケートにより選定した. 被験者には呈示された顔写真が誰だったか, わかった時点で報告してもらった. 1枚の写真がわかれば10%の正答と換算し, 10名の顔写真のうち 5名がわかった時点の一番短い呈示時間を50%の正答と考え, その呈示時間を閾値とした. 衣服写真を弁別するのは顔写真を弁別するよりも複雑な作業であると予測できたため, 本実験で顔写真の弁別の呈示時間を使用すれば閾下時間として成り立つと考えた. この呈示時間を確定することを目的に実験を行った. 15名の被験者のうち10msecが2名, 15msecが10名, 20msecが3名という結果となり, これらの時間を本実験の閾下呈示時間とした.

続いて本実験では, 1回, 10回, 20回, 30回, 40回の5呈示条件を閾下で行った. 被験者により閾値が違うため, 呈示時間を操作して個別に実験を行った(Fig. 2). 10枚のファッション図版を呈示回数条件の各画像の新奇性が予備実験により, ほぼ等しくなるように操作し画像を見せた. 具体的には1回条件としてはA・Cの2枚の画像を各1回の計2枚, 10回条件としてはE・Iの2枚を各10回の計20枚, 20回条件としてはF・Gの2枚を各20回の計40枚, 30回条件としてはD・Hの2枚を各30回の計60枚, 40回条件としてはB・Jの2枚を各40回の計80枚, 合計202枚の画像をランダムな順序に配列した. まず10枚の画像をコンピュータ上に順に映し, 通覧してもらった後, 改めてコンピュータの画面上に映し, 衣服の印象をTable 1の13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定してもらった(1回目の評定).

実験は最初グレイ地が15msecあらわれ視点の準備をさせた後, すぐに50msecの間グレイ地に白で書いたフォントサイズ150の1桁の数字が出る. 被験者には数字をできるだけ早く読みあげる, というダミーの作業をしてもらった. 数字があらわれるとすぐに, 先に個別に調べた閾値の呈示時間で, 刺激画像を呈示した. 刺激画像が消えた直後に妨害効果をもたらすランダムドットパターンを50msec呈示した. この刺激画像とランダムドットパターンの組み合わせを202回繰り返し, 202枚の刺激画像すべてを見終わった後で, もう一度同じSD評定項目で, 10種類の衣服についての印象を評定してもらった(2回目の評定).

本実験の後に閾値の吟味を行った. 閾値測定で決めた閾値を用いて本実験をしたが, 各被験者にとって刺激画像をファッション図版にした場合, 本当に閾下実験として成り立つかどうか, 本実験終了後に本実験で刺激画像を呈示した時間で1回ずつ呈示し, そのファッション図版がどれであったか言い当ててもらった. 方法としては, 本実験と同様に最初15msecの長さでグレイ地があらわれて, すぐに50msecの間グレイ地に白で書いた1桁の数字があらわれた. 被験者には本実験同様に, 数字をできるだけ早く読みあげるというダミーの作業をしてもらい, 本実験での閾値により各々の呈示時間で刺激写真を呈示し, その後に50msecの間ランダムドットパターンを呈示した. 1枚を見終わった後, A4サイズの写真用の用紙にプリントアウトしてあるファッション図版10枚と, ダミーであるファッション図版5枚の合計15枚の中から, 今見た図版があればどの図版であるかを, 無いと思ったなら無かったと, また分からない場合も分からないと報告してもらった. この手続きを本実験で用いた10種類の図版全てについて行い, 1枚につき10%と換算し, 10枚全て言い当てた場合は100%となるため, 5枚以下, すなわちファッション写真の弁別が50%以下であることを確認した. 閾値の吟味を行った結果, 全ての被験者が50%以下であり, 閾下実験は成り立つといえる. 具体的には10%であった被験者は2名, 20%は2名, 30%は3名, 40%は8名であった.

2-2 結果

印象評定の結果は, 7段階尺度の各評定に1点~7点を与えて数値化した. 13の尺度(Table 1)の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. Table 2が実験1の結果であり, 固有値1.0以上, バリマックス回転後の因子負荷量を示したものである. これらの因子のうち第1因子は評価性因子であり, その中から好感度を測定するために, 尺度3「感じのよい-感じのわるい」, 尺度6「親しみやすい-親しみにくい」, 尺度7「好きな-嫌いな」, 尺度11「心地よい-心地わるい」の4尺度を用いた.

次に, 用いた刺激画像がどのくらい新奇であったかを第1回目の評定結果から示す. Table 3がA~Jの10種類の, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の評定の平均値と標準偏差である. 平均値が大きいほど, その刺激画像が新奇なものとして受けとめられていることを示している. 中立点は4.00であり, 全ての刺激図版は新奇な側に位置している.

各呈示条件の4つの好感度尺度の平均値をグラフにして, Fig. 3に示す. 尺度3, 6, 7, 11, および4尺度の合計値ごとに分散分析した結果は, 尺度6「親しみやすい-親しみにくい」(F(4,56)=2.58, p<0.05), 尺度7の「好きな-嫌いな」(F(4,56)=3.39, p<0.05)において, 有意差が認められた. 多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, 尺度6においては20回呈示条件と 30回呈示条件間に5%水準で有意差が認められた. 20回をピークに, 30回で親しみやすさが下がってきている. また尺度7においては, 10回呈示条件と20回呈示条件間, 20回呈示条件と40回呈示条件間に5%水準の有意差が認められた. やはり20回呈示条件をピークに好感度が下がってきている.

最後に第7研究の実験1による1回, 10回, 20回呈示と今回の20回呈示までの間に差があるのかどうかを分散分析により検定した. 第7研究が1回, 10回, 20回と呈示回数増加とともに好感度が上がるのに対して, 今回の実験では10回で一度好感度が下がり再び20回でピークを示している. しかしながら, 尺度7の「好きな」で5%水準の有意差が認められただけであった. つまり尺度3「感じのよさ」, 尺度6「親しみやすさ」, 尺度11「心地よさ」は第7研究と有意差が認められず, 10回条件で好感度が下がったものの, 差がなかったといえる.

Fig. 1

Photos of the dresses experimentally manipulated [Dress A, B, C, D, E, F, G, H, I and J were created by the author.]

Fig. 2

Flow chart of experimental procedures

Fig. 3

Means of favorability impression ratings under five experimental conditions in Experiment 1

Table 1

Thirteen rating scales measuring impressions of dresses

Table 2

Factor analysis of impression ratings

Table 3

Mean and standard deviation of novelty impression

3. 実験 2

実験 2では, 実験1の方法で, ランダムドットパターンを入れない場合について検討する. すなわち, 瞬間呈示ではありながらわずかに見える, という状態でも単純接触効果が成り立つのかを検討することを目的とする. 具体的には, 閾上(60~90%)でありながら100%見える状態を避け, 瞬間呈示方法をとって実験した. 実験方法は, ランダムドットパターンを呈示しないという条件を除けば, その他条件は実験1と同様である.

3-1 方法

刺激写真画像 第7研究, 実験1と同一の, 新奇なファッションのイラスト画10枚の画像(Fig. 1)を使用した.

被験者 被験者は21~28歳の女子大学生の15名であり, 2002年7月に個別実験を行った.

手続き 最初に個別に閾値を測定した. まずコンピュータ画面にグレイ地が15msec呈示され, 続いて50msecの間グレイ地に白の5つの点を施した注視点が呈示された. その後刺激画像である実験1と同様の10名の顔写真を10~40msecで5msecきざみ(7呈示時間)に瞬間呈示した. 被験者には呈示された顔写真が誰だったか, わかった時点で報告してもらった. 呈示時間決定の基準は実験1と同じである. 本実験で呈示時間として確定した時間は, 10msecの被験者が3名, 15msecが9名, 20msecが3名であった.

本実験も個別で行い, 1回, 10回, 20回, 30回, 40回の呈示条件であり, 実験1同様に刺激画像を組み合わせて行った. 刺激の呈示の仕方は, ランダムドットパターンが無いことを除けば実験1と同様である(Fig. 2). まず10枚の画像をコンピュータ上に1枚ずつ映し, 通覧してもらった後, 改めてコンピュータの画面上に映し, 衣服の印象を7段階評定尺度のSD法で評定してもらった. 実験は最初グレイ地が15msecあらわれ, すぐに50msecの間グレイ地に白で書いた数字があらわれる. 被験者には数字をできるだけ早く読み上げる, というダミーの作業をしてもらった. 数字があらわれてからすぐに, 個別で調べた閾値の呈示時間で, ファッション画像を呈示した. これを202回繰り返し, 202枚の刺激画像すべてを見終わった後で, もう一度10種類の衣服についての印象をSD法により評定してもらった.

最後に閾値の吟味をした. 方法は, 実験1と同様であり, ランダムドットパターンが無い点のみが異なる. 吟味は10種類の図版全てについて行い, 1枚につき10%と換算し, ファッション図版の弁別が50%以上であることを確認した. 閾値の吟味においては50%だったものが1名, 60%が6名, 70%が1名, 80%が4名, 90%が3名であり, 瞬間呈示でありながら閾上である, という条件での実験は成り立つといえる.

3-2 結果

印象評定の結果は, 7段階尺度の各評定に1点~7点を与えて数値化した. Table 1の13の尺度の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. その結果, 実験1と同様に好感度を測定する尺度として, 尺度3, 6, 7, 11の4尺度を用いた.

また刺激図版がどのくらい新奇なものであったかについても, 実験1と同様にA~ Jまでの10種類の, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の第1回目の評定の平均と標準偏差で検討し, その結果, 全ての図版が新奇な側に位置した.

各呈示条件の4つの好感度尺度の平均値は, グラフにしてFig. 4に示す. 各好感度尺度項目を分散分析した結果は, 尺度6の親しみやすさ, 尺度11の心地よさ以外の, 好感度尺度で有意差が認められた. すなわち, 尺度3の感じのよさ(F(4,56)=3.39, p<0.05), 尺度7の好きな(F(4,56)=3.18, p<0.05), 4尺度の合計(F(4,56)=2.83, p<0.05)である.

多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, 尺度7の好きなでは, 1回呈示条件と 30回呈示条件間に5%水準で有意差が認められ, 30回呈示で好感度が下がる結果となった. また4尺度合計においては, 1回呈示条件と30回呈示条件間に5%水準の有意差が認められた. やはり30回呈示条件で好感度が下がる結果となった.

最後に第7研究の実験2による1回, 10回, 20回呈示と今回の20回呈示までの間に差があるのかどうかを分散分析により検定した. 実験1同様に第7研究が1回, 10回, 20回と好感度が上がっていくのに対して, 今回の研究では10回で一度好感度が下がり再び20回でピークとなっている. しかしながら, 第7研究の結果との間に有意差は認められなかった.

Fig. 4

Means of favorability impression ratings under five experimental conditions in Experiment 2

4. 実験 3

実験3では, 実験1, 実験2の実験と同様の呈示回数で, 瞬間的に映る画像をできるだけ意識させずに, 実験を行った. 具体的には, 11分25秒間の動く映像であるビデオテープの中に, 一律に33msecの長さで刺激画像202枚をランダムに入れ込んだ(Fig. 2).

4-1 方法

刺激写真画像 実験1, 実験 2と同様, 10枚の新奇なファッションのイラスト画(Fig. 1)を使用した.

被験者 被験者は, 19~27歳の専門学校生男子36名, 女子16名であり, 実験は2001年9月に集合実験により実施した.

手続き 実験は, まず1人1台となるようにコンピュータの前に座ってもらい, 10枚の画像をコンピュータ上に順に映し, 通覧してもらった後, 改めてコンピュータ画像を映し, 衣服の印象を, 実験 1, 実験2と同様のTable 1に示す13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定してもらった. 次に, 刺激画像202枚がランダムに入ったビデオテープを同じくコンピュータの画面上に流し, 11分25秒間注視してもらった. その際, 特定の記号がいくつ出てきたか, 出てきたキャラクターの色を答えるというビデオの内容について後で質問する, というダミーの作業をしてもらった. 続いてビデオの内容についての質問と, 再び10種類の刺激画像についての印象評定を, 先のSD評定と同様の評定用紙に記入してもらった. 最後に, 今見たビデオテープの中に瞬間呈示されたと思う画像を, 刺激画像10種類, ダミー写真画像5種類の合計15枚の中から選んでもらった. これは, 実験1, 2の閾値の吟味にあたる. この結果により5枚以上, すなわち50%以上見えた, と答えた被験者は皆無であり, 実験1と同様に閾下実験として成り立つものと考えられる.

4-2 結果

印象評定の結果は, 7段階尺度の各評定に1点~7点を与えて数値化した. 用いた13の尺度の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. その結果, 13形容詞のSD尺度のうち, 実験1, 2と同様に, 感じのよさ, 親しみやすさ, 好き, 心地よさの4つの尺度を用いて行った.

また刺激画像がどのくらい新奇なものであったか, についても実験1, 2同様にA~Jまでの10種類の, 第1回目の評定による, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の平均値と標準偏差で検討した. 結果は, 全ての画像が新奇な側に位置した.

次に, 単純接触効果が出現したかどうかの結果を示す. Fig. 5に各呈示条件における尺度3, 6, 7, 11および4尺度の合計値の平均値をグラフ化して示した(男女被験者の非加重平均値).

また好感度尺度項目(尺度3, 6, 7, 11, 4尺度の合計値)に関する2元配置(A:呈示回数条件, B:男女差)の分散分析をした結果, 呈示回数条件の主効果においては, すべての好感度尺度に有意差が認められた(尺度3:F(4,200)=4.09, p<0.01;尺度6:F(4,200)=8.69, p<0.01;尺度7:F(4,200)=10.64, p<0.01;尺度11:F(4,200)=5.09, p<0.01;4尺度の合計値:F(4,200)=11.33, p<0.01).

多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, 尺度3では1回と10回の間に5%水準で, 10回と20回の間に1%水準で有意差が認められた. 尺度6では1回と10回, 10回と20回, 10回と40回の間に1%水準で, 10回と30回, 20回と30回間に5%水準で有意差が認められた. 尺度7では1回と20回, 10回と20回, 20回と30回, 20回と40回間は1%水準で, 10回と30回間に5%水準で有意差が認められた. 尺度11では1回と10回, 10回と20回間に1%水準で, 10回と40回条件間に5%水準で有意差が認められた. 4尺度の合計値では, 1回と10回, 10回と20回, 20回と40回間に1%水準で, 1回と30回, 10回と30回, 20回と30回間に5%水準で有意差が認められた. いずれの尺度も呈示回数が20回でもっとも好感度が高く, 単純接触効果が出現している. しかし20回を越えると好感度が下がる結果となった. また被験者の性別による有意差は尺度6の親しみやすさでのみ5%水準で認められ, 女子の方が高い値となった.

Fig. 5

Means of favorability impression ratings under five experimental conditions in Experiment 3

5. ラテン方格方式による吟味実験(実験4)

実験1~3までの閾下を中心とする単純接触効果の実験を行ったが, 刺激画像の要因と呈示回数の要因が混合していた. 刺激画像の要因が単純接触効果としてあらわれたという可能性を除くために, ラテン方格方式の実験計画を用いて, 問題を検討した. 具体的には, 実験1から実験3まで使用したファッション図版のうち, 予備実験において新奇性が1番目のB(平均値:6.09), 4番目のI(平均値:5.67), 5番目のA(平均値:5.41), 8番目のG(平均値:5.25), 10番目のJ(平均値:5.12)の5枚で画像, 新奇性の差における吟味実験を行った.

5-1 方法

刺激写真画像 研究5, 実験1, 実験2, 実験3で使用した10枚の新奇なファッションのイラスト画(Fig. 1)のうちA, B, G, I, Jの5枚により検討した.

被験者 被験者は, 22歳の女子大生10名であり, 実験は2003年11月に個別実験で行った.

手続き 実験は, 実験1同様にランダムドットパターンを入れて刺激画像が見えないように妨害する方法をとった(Fig. 2). まずコンピュータの前に座ってもらい, 顔写真を使って, 個人の閾値を測定した. それから, 10枚の画像をコンピュータ上に順に映し, 通覧してもらった後, 改めてコンピュータ画像を映し, 衣服の印象を, 実験1, 実験2, 実験3と同様のTable 1に示す13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定してもらった. 次に各々の閾値により, Table 4に示す枚数で被験者(各群 2名)に呈示した. すなわち, 5枚の刺激画像うち1画像は40枚, 1画像は30枚, 1画像は20枚, 1画像は10枚, 残り1画像は1枚の合計101枚の刺激写真を瞬間呈示した. 続いて再び10種類の刺激画像についての印象評定を, 先のSD評定と同様の評定用紙に記入してもらった. 最後に刺激画像の呈示時間が妥当であったかどうか閾値の吟味をした. 方法は, 実験1と同様である.

5-2 結果

印象評定の結果は, 7段階尺度の各評定に1点~7点を与えて数値化され, 用いた13の尺度の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. 結果は, 第1因子が評価性因子であり, 実験1, 2, 3と同様に, 感じのよさ, 親しみやすさ, 好き, 心地よさの4つの尺度が好感度尺度項目として該当した.

また刺激画像の新奇性については, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の評定の平均と標準偏差で検討した. 予備実験より新奇性が総じて高くなり, 順位が若干変わった(G:8番目→3番目, I:4番目→10番目, J:10番目→5番目)が, 5枚全ての画像が新奇な側に位置した.

次に画像により好感度に差があったのかどうかを検討した. 好感度の尺度のうち尺度6の親しみやすさのみに有意差(F(4,36)=3.52, p<0.05)が認められた. 多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの刺激画像間に有意差が認められるのかを検討した結果, GとJの間に5%水準で有意差が認められた. しかしながら, その他の好感度尺度項目(尺度3, 7, 11)には有意差は認められなかったことから, 使用した刺激画像によって好感度が異なるために実験1~3の結果が得られたわけではないといえる.

Table 4

Allocation of subject's groups to combination of five exposure condition

6. 総合的考察

本研究では, 閾下で刺激対象を呈示することにより, 今まで最大20回までだった呈示回数条件を40回に増やし, 単純接触効果がどの呈示回数でもっとも出現しやすいかを検討した.

結果は, 実験1と実験3の2つの実験において20回呈示条件で好感度がピークとなり, その後好感度は下降していく傾向となった.

まず, 第7研究と今回の研究の1回, 10回, 20回までの呈示回数条件との分散分析をして有意差が生じているのか検定したが, 実験1, 実験2, 実験3ともどの尺度にも有意差は認められなかった. 20回呈示条件まで3呈示条件で実験した第7研究と, 40回呈示条件までの5呈示条件で実験した本実験の20回呈示条件までに実験条件において差が生じなかったことを意味している. 次に実験方法別にみると筆者らが行った第7研究と同様に, 全く実験を意識しない状態(実験3)はすべての好感度尺度項目に有意差が認められ, もっとも単純接触効果が出現した. しかしながら, 3つの実験は共通して, 好感度の変化を見ると, 1回から10回でやや落ち込み, 20回でピークとなる. その後30回, 40回と好感度が下がっていく. Zajonc(1968)も25回までの呈示回数条件で行っており, 呈示回数の増加とともに好感度が増すことを論じたわけであるが, 衣服を対象とした場合, ほぼ20回前後で好感度はピークとなることが明らかになった. このことから, 20回が単純接触効果の最適な接触回数であると考えられる. そして30回になると好感度は下がっていく.

なお, 実験1と実験3には20回呈示にはっきりとピークがあらわれるのに対して, 実験2においては20回においてはっきりとピークがあらわれなかったことについても触れておきたい. 筆者らの第2研究(長田・小林, 1995)においても, 刺激対象に意識が集中しすぎるとうまく効果があらわれないことがわかっている. 実験2においてもはっきり見えないにしろ, 刺激対象がわずかながらわかることにより, 第2研究同様に効果がうまくあらわれなかったものと考えられる.

7. 結言

刺激対象を閾下呈示すると, 単純接触効果が出現しやすいという傾向が, 対象を衣服にした場合にも見られることが第7研究で明らかにされた. 閾下実験以前での第6研究までの実験においては, 刺激対象の衣服着用写真をじっくりとみてもらうために実験時間が長くなり, 被験者への負担も比較的大きくなってしまっていたが, 瞬間呈示される閾下実験の方法は実験時間も短く負担も軽くなることが予測された. そのため本研究では今までの20回呈示条件から40回呈示条件にまで増やして実験した. 衣服を対象にした場合, 呈示回数をどこまで増加しても好感度が増すのか, 単純接触効果がもっとも出現するのはどのくらいの呈示回数条件のときなのかを検討することを目的として3つの実験を行った. 実験1は閾下(50%以下)で行い, 実験2は100%はっきり見える状態を避けつつ, 閾上(60~90%)でありながら瞬間呈示で行い, 実験3は閾下でありながら実験を全く意識しない状態で行った. 実験1, 2は個別実験であり, 20代の女子被験者で行い, 実験3は集合実験で, 20代を中心とした男女被験者で行った.

刺激画像は新奇なファッションのイラスト画であり, コンピュータの画面に映した. 10枚の画像を1回条件としてはA・Cの2枚の画像を各1回の計2枚, 10回条件としてはE・Iの2枚を各10回の計20枚, 20回条件としてはF・Gの2枚を各20回の計40枚, 30回条件としてはD・Hの2枚を各30回の計60枚, 40回条件としてはB・Jの2枚を各40回の計80枚, 合計202枚の画像をランダムに入れ込んだものを実験1, 2は個人の閾値にあわせて瞬間呈示し, 実験3では一律33msecの長さでビデオの中に混在させたものを見せて行った.

結果は実験1と実験3において, 呈示回数が20回条件においてもっとも単純接触効果が出現し, 30回を過ぎると好感度は下降していった. また実験を意識しない実験3にもっとも単純接触効果が出現した.

最後にラテン方格方式により, 得られた結果が特定の刺激画像と呈示回数の組み合わせによるアーチファクトであったかどうかを検討した. 尺度6の親しみやすさのみに有意差が認められたものの, その他の好感度尺度項目(尺度3, 7, 11)には有意差は認められなかったことから, 使用した刺激画像は, アーチファクトではなかったといえる.

なお, 今後の課題として, マスク刺激が50msecであったことについて付言しておきたい. Wiens(2006)によれば, 顔刺激を用いたbackward masking事態でマスク刺激がターゲットをマスクする場合, マスク刺激の呈示時間やターゲットとマスク刺激のonsetの時間差など, 刺激の呈示時間条件の少しの違いがターゲットの見えに大きく影響することがあり, 特に, Esteves & Öhman(1993)によれば, SOA(ターゲットとマスク刺激のonsetの時間差)が大きな影響力を持つという. ここで用いられているマスク刺激は, 今回のようなランダムドットパターンではないが, 刺激の時間条件の統制は, 閾下知覚研究をする上で非常に重要なことといえる. 今回の実験では, マスク刺激やターゲットの呈示時間やそれらのSOAが閾値に及ぼす効果についての検討が十分に行われたとはいえなかった. 今後の研究では, 刺激の呈示時間条件に対する検討をさらに進め, また, 実験装置の改良を図ることで, さらに厳密な測定をめざしたい.

引用文献
 
© 2007 日本官能評価学会
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