日本官能評価学会誌
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技術報告
陸上養殖された無毒化トラフグの肝臓の調理法別食味特性
西念 幸江小澤 啓子峯木 真知子野口 玉雄
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2009 年 13 巻 2-2 号 p. 115-124

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1. はじめに

トラフグの肝臓(フグ肝)は, 従来伝統食品として食されていたが, 中毒の報告もあることから, 厚生省環境衛生局長通知(昭和58年12月2日)により, 飲食店で扱うことができず, 現在は廃棄されている. しかし, 飼料を考慮し, 陸上養殖などによって, 無毒が証明されたフグが生産されるようになった(野口ら, 2004, Noguchi etc., 2006). 著者らは無毒のフグ肝について, 成分およびテクスチャーなどの食料価値を検討し(大貫ら, 2006, 峯木ら, 2009), フグ肝が脂肪を70%含む食品で, n-3系脂肪酸, ビタミンAおよびビタミンEを多く含み, サプリメントとしての活用も期待できることを報告した4). しかし, ゆでたフグ肝を用いた官能評価では, いずれの項目でも, 高い評価は得られなかった(大貫ら, 2006). 特ににおい, 脂っぽさの項目が好まれない傾向にあった. フグ肝はグルタミン酸を多く含んでいる(峯木ら, 2009)可能性があることから, 調理方法により, 食べやすくなると考えた. そこで, フグ肝を多種の調理方法で調製し, 官能評価を行った. また, フグ肝の食味に影響を及ぼすと考えられる脂肪の状態については, 走査型電子顕微鏡を用いて, 観察を行った.

2. 実験試料および方法

2.1 試料

佐賀県唐津市呼子にある(株)萬坊で室内水槽(100t)により, 養殖されている2年魚のトラフグから腑分けされた肝臓を試料とした. フグ肝は, 2009年1月に207個体を冷蔵配送で入手した. フグ肝の重量は, 1個188.4g±44.7gであった. このフグ肝は食品衛生検査指針・理化学編中のフグ毒検査法に準じて, フグ毒を抽出し, マウス毒性試験(厚生労働省, 2005)を行い, 毒性がすべて認められなかったことを確認した. その後, -50℃で冷凍保存した. このフグ肝のうち18個を調理に用いた.

2.2 材料

フグ肝のにおいをマスキングするために, 二級酒((株)黄桜酒造)と市販青果店より購入した生姜, 長葱を用い, 調味料には, 食塩(精製塩財団法人塩事業センター), 醤油((株)キッコーマン), ポン酢醤油((株)キッコーマン), 白味噌(塩分12%, (株)宮坂醸造)味噌床に用いた西京味噌(塩分4.9%, (株)石野味噌), 上白糖((株)日新製糖), 本みりん((株)宝酒造), サラダ油((株)日新製油)を用いた.

2.3 フグ肝の下処理

冷凍保存したフグ肝を流水で解凍し, 血管の太いものをはさみで裂き, 血抜きを行って水で十分に洗浄した. その後, フグ肝をフグ肝重量の1.5倍量の酒水(二級酒:水=1:4), フグ肝重量の20%の薄切りにした長葱とフグ肝重量の5%の薄切りにした生姜に浸漬した. 冷蔵庫で3時間放置後に各調理に用いた.

2.4 調製方法

フグ肝の調理は, 「生食」調理で刺身, 「ゆで」調理で味噌汁, 「蒸し」調理で蒸し物・ポン酢醤油がけ, 「焼く」調理法で西京焼き, 「炒める」調理法で照り焼き, 「揚げる」調理でてんぷらを調製した. これらの材料および分量はアンコウの肝(アン肝)や魚料理のレシピを参考にした(畑, 1998 高橋ら, 2007). 各料理に用いた材料を表1に示した.

1)刺身

フグ肝30gを, 厚さ約3mmの薄切りにし, ポン酢醤油10gをかける.

2)味噌汁

フグ肝30gを沸騰した湯で7分ゆでる. 水に対して2%のかつお節((株)マルアイ)で調製してとっただしに, 白味噌を加えてだし汁の0.8%塩分の味噌汁を調製する. そこに, ゆでたフグ肝をいれ, 1分間加熱後, 小口切りにした万能ねぎ0.3gを添える.

3)蒸し物

フグ肝30gを, 食塩, 二級酒, 水, 出し用昆布((株)マルアイ)に漬け, 冷蔵庫で1時間放置する. 沸騰した蒸し器で, そのフグ肝とフグ肝の各5%にあたる薄切りした長葱, 生姜を入れ, 10分加熱する. 加熱終了後は氷水に取り, 水分をふき取って器に盛り付け, ポン酢醤油10g, 紅葉おろし5g, 小口切りにした万能ねぎ0.3gを添える.

4)西京焼き

フグ肝30gに, 1%にあたる食塩0.3gをふって15分置く. その後, 食塩を洗い落とし, 表1の分量に調製した西京味噌床に冷蔵庫で48時間漬け込む. その後, ガスオーブン((株)HARMAN DR508E型)で200℃, 7分加熱する.

5)照り焼き

フグ肝30gを表1の配合の醤油, 本みりん, 上白糖に1時間に漬け込む. その後, フライパンにフグ肝の3%のサラダ油をいれ, フグ肝を約2分加熱して火を通す. 残った調味料はフライパンで煮詰め, 最後にフグ肝を戻し, 煮汁をからめる. あたたかい飯(40g)にゆかり0.1gをふり, その上に照り焼きにしたものをのせ, 照り焼き丼として提供した.

表1

フグ肝料理の材料表

6)天ぷら

フグ肝30gの水分を取り, 水と同重量の天ぷら粉((株)日本製粉)で調製した衣をつけて180℃の油で約2分揚げる. 天つゆはめんつゆ(ストレートタイプヤマキ(株))を用い, 15g添えた.

2.5 調理による重量変化

フグ肝の下処理(解凍, 血抜き, 臭み抜き)および各加熱調理後に重量を測定した. 加熱後重量は生(加熱前)の重量に対する比(重量比)として求めた.

2.6 官能評価

フグ肝の下処理については, 5名による円卓法により検討を行った. 試料は, ①血抜き後, 薄切りにしたもの, ②①を酒(水の20%)と水に浸漬したもの(冷蔵庫で3時間放置), ③①を5%の生姜と20%の長葱の薄切りを加えた水に浸漬したもの(冷蔵庫で3時間放置)の3種について検討した.

調理したフグ肝の官能評価パネルは, 20~30歳代本学教職員および学生11名で, 各料理の分量は, 一人15gとした.

一回目の料理は, 刺身, 味噌汁, 西京焼き, 2回目の料理は蒸し物, 照り焼き, 天ぷらとした(図1).

分析型官能検査の評価項目は, フグ肝のにおいの強さ, 脂っぽさの強さで, 評点は, 1:非常に弱いから 5:非常に強いとした. 嗜好型官能検査の評価項目は, フグ肝のにおいの好ましさ, 料理としての香りの好ましさ, 脂っぽさの好ましさ, 味の好ましさ, 料理としての好ましさで, 評点は, 1:非常に好ましくないから 5:非常に好ましいとした. 料理の感想も自由記述により, 記録させた.

官能評価の実施にあたっては, ヘルシンキ宣言の精神にのっとり, インフォームドコンセンサスを得るために, 実験内容を文章で提示し, 口頭で無毒が証明されたフグ肝を用いることを説明し, 承諾書に署名してから官能評価を行った. さらに, 本学倫理委員会の承認を得た.

2.7 組織観察

各料理のフグ肝の中央部から, 7mm角に試料を切り出し, 2.5%グルタルアルデヒド溶液(リン酸緩衝液pH7.4)5℃, 3時間の前固定, 洗浄後, 1%オスミウム酸溶液(リン酸緩衝液pH7.4)5℃, 4時間の後固定を行い, エチルアルコール脱水系列で脱水し, 乾燥した. 試料台に取り付け, イオンコーティング後に卓上型電子顕微鏡(TM-1000, (株)日立製作所)で観察し, 脂肪の分散状態を観察した.

2.8 統計処理

統計処理にはExcel統計Ver.6.0(株式会社エスミ製)を用いた. 有意差検定は, 一元配置分散分析(ANOVA)後, 多重比較法(チューキー)で有意水準1%における検定を行った.

図1

官能評価を行ったフグ肝料理

3. 実験結果および考察

3.1 フグ肝の重量

フグ肝の重量は, 解凍後199.2±30.1g(n=18)で, 血抜き後の重量は196.3±31.7g, 下処理後の重量が196.0±31.5g(解凍後重量に対して98.4%)であった.

各料理の加熱後の重量比では, 味噌汁59.8%, 蒸し物60.5%, 西京焼きおよび照り焼き約68%, 天ぷらが約77%であった. 加熱後の重量比は加熱前よりいずれも低下していたが, 天ぷらで高く, 味噌汁や蒸し物で低かった(表2). フグ肝を加熱していると, ゆで汁やフライパンへの脂肪の溶出が肉眼でみえることから, 加熱後の重量の減少はフグ肝に70%含有される脂肪の溶出によると考えられる.

3.2 官能評価

3.2.1 フグ肝の下処理

水による血抜きをしたフグ肝では, においが強いと評価された. それに対して, 酒と水に浸漬したフグ肝では, フグ肝らしいにおいが残り, 濃厚な味も感じると評価された. 生姜や長葱を加えて浸漬したものは, においがかなり気にならない程度になると評価された. これは, 生姜の魚臭を消す効果(富安ら, 1955)や, 葱類は硫化アリルのにおいによって魚臭を弱める効果(下村, 2003)が報告されていることから, 両者の使用によりフグ肝のにおいがマスキングされたと考える. このことから, フグ肝の下処理に酒, 生姜, 長葱を用いることがよいと判断し, 下処理に用いたこととした.

3.2.2 フグ肝料理の分析型官能評価

分析型官能評価(図2)では, においの強さは蒸し物が1.9点±1.0点で最も弱く, 刺身2.3点±1.2点であったが, 西京焼き, 照り焼きでは, それぞれ2.5点±1.4点, 2.6点±1.0点であった. 脂っぽさについては, 蒸し物が2.5点±0.8点で最も弱く, 他の料理は3点以上を示した. 特に天ぷらは4.0点±0.8点で強いと判断された.

蒸し物は, 下処理後にさらに酒, 長葱, 生姜などにつけて下味をつけ, 蒸す時に酒, 長葱, 生姜も加えている. そのため, 下味や蒸している時にもマスキング効果(下村, 1997, 2003, 富安, 1955)が得られたと考える. 同時に「脂っぽさ」が弱いのも蒸し物である. 加熱後重量を見ると, かなり減少している. 蒸すことでフグ肝に含まれる脂肪の流出が大きく, フグ肝独特のにおいは, その脂肪に含まれていると考えられることから, においがうすまり, 組織構造が密になって, うまみが凝縮した状態になったと考える. したがって, フグ肝のにおいが嫌いな人には, 脂肪の溶出の大きな調理法が向いている. 天ぷらは加熱時間も短く, 表面を衣で覆っているため脂肪の溶出が少ないこと, さらに揚げることでの吸油によりサラダ油の油っぽさが加わり, においが強く感じたと考える. サラダ油以外の使用する油の検討および天ぷらの衣の工夫, 例えば, 衣の粘度を強くして, 油の交代を弱めるなど一層の工夫が必要である.

3.2.3 嗜好型官能評価

嗜好型官能評価(図3)では, においの好ましさは, 刺身3.9点, 蒸し物3.8点, 天ぷら3.7点, 味噌汁3.4点, 西京焼き・照り焼き3.2点で, どの料理でも3点以上を示した. 料理としての香りの好ましさは, 蒸し物3.9点, 照り焼き3.8点, 最も低い西京焼き3.4点で, いずれの料理も良好な結果であった. 脂っぽさの好ましさでは, 味噌汁・蒸し物・西京焼きがいずれも3.5点, 刺身が3.4点で3点以上を示したが, 油を使用した天ぷらと照り焼きが2.6-2.7で幾分低い結果であった. 味の好ましさでは蒸し物が4.3点を示し, 味噌汁, 刺身, 天ぷらもかなり好まれる4.0点以上で, 最も低い西京焼きでも3.5点を示した. 西京焼き・照り焼き3.5点であったが, いずれも好まれたことがわかった. なお, すべての項目において調理法の違いによる有意差は認められなかった. また, いずれの料理も評価の標準偏差が大きいことから, その独特のにおいと脂っぽさが気になるかどうかが大きなポイントになり, 個人差の好みの幅が大きい「珍味」にあたる食品と考える.

今回の試料は, 下処理で臭み抜きをしたこと, 薬味やポン酢を添えたこと, 調味料による香りの付与, 味噌の揮発性アミンを吸着し, 消臭効果(青木, 2004)などにより食べやすくなり, 評価が向上したと考える. これらのデータを, 相関分析した場合, 「料理としての好ましさ」と相関が高いのは, 「フグ肝のにおいの好ましさ」と「料理としての香りの好ましさ」(両項目ともr=0.70)であった.

「フグ肝のにおいの好ましさ」は, 刺身が他の料理よりやや好まれる傾向にあり, パネルからも「加熱した料理より, 刺身の方がにおいは少なく食べ易い」というコメントがあった. これは, 刺身は未加熱で加熱した料理よりにおいがしないこと, 加熱による成分の溶出がないので, うまみが強いことが原因と考える. 「脂っぽさの好み」では, 照り焼きや天ぷらが好まれない傾向にあった. これは, フグ肝自体が脂っぽいうえに, さらに調理で油を用いたことが嫌われたと考える. 今回は, サラダ油を用いているが, バターや落花生油などの油との相性を今後, 検討する必要がある. 「料理としての好ましさ」では, 蒸し物が4.1点で高い評価を得た. これは, 重量が減少することから, 素材から脂が最も取れたことが原因と考えられる. また, 蒸し物調理は, においが強くなる傾向(和田, 2004)にあるが, 脂の中に含まれる臭みが, 加熱により脂が一緒に取り除かれたので, 味が濃く, 臭みが少なく感じたと考える.

官能評価結果を性別の違いでみると, 「においの強さ」は女性の評点(7名;蒸し物2.0点, 天ぷら2.3点, 照り焼き2.7点)に対し, 男性(4名;蒸し物1.8点, 天ぷら1.8点, 照り焼き 2.5点)はいずれも0.2点程度低く評価していた. 「脂っぽさの強さ」は女性の評点(7名;蒸し物2.1点, 天ぷら3.9点, 照り焼き3.3点)に対し, 男性(4名;蒸し物3.0点, 天ぷら4.3点, 照り焼き3.6点)で男性の方がいずれの料理も強いと評価していた. しかし, 嗜好型官能評価の味の好ましさでは, 蒸し物の男性の評価は全員5点(満点)で有意に女性より高く(p<0.01), 天ぷらでも男性4.3点で女性3.9点より有意に好んでいた(p<0.01). 従って, 蒸し物および天ぷらの料理について, 男性パネルは脂っぽいと判断しながらも好むことがわかった. このことより, 男性は脂っぽさはあまり気にせずにフグ肝料理を味で好むと考える. 照り焼きでは「味の好ましさ」は, 女性4.0点で男性の3.5点より好む傾向があった. これは醤油の甘辛味を好むのか, あるいはご飯を添えたことが影響したのかどうかは不明であるが, 味付けを工夫することで女性のフグ肝料理に対する嗜好が向上することを示している.

3.2.4 アンケート・自由記述による料理の感想

「これまでにフグ肝を食べたことがある」と答えた人は31.8%であった. フグ肝と類似している食品としては, アン肝(30.0%), フォアグラ(16.6%), トロ(10.0%)などがあげられた.

今後, 食べてみたいフグ肝料理としては, 鍋物, 煮付け, 寿司などであった.

フグ肝を試食してみて気づいた点を自由記述で書いてもらった結果では, 刺身は生臭さを感じにくい, 蒸し物は生臭さや脂っぽさが消えて食べやすい, 天ぷらは脂っこいなどの調理法による食味の違いや脂っぽさについてのコメントがあった(表3, 4).

3.3 レシピの検討

官能評価から見ると, いずれの料理も「料理としての好ましさ」の評価が高く, しかも調理法の違いによる有意差がなかった. このことから, 今回用いたレシピは, 実用に値するレシピであったと判断する. フグ肝に独特な臭いがあることは, 既に報告している(峯木ら, 2009). フグ肝を調理する場合, 酒や味噌などによるマスキング効果により独特な臭みを抑え, 蒸すなど脂肪を溶出させて脂っぽさを減らす工夫をすることが有用であると考える. よりよいレシピにするため, アンケートから各料理についての注意点を検討した.

刺身は脂っこさが気になるという感想があった. そこで, もみじおろし・にんにく・山椒など, 香りの強いものの使用も味の変化として期待される.

味噌汁では, 分析型官能評価の香りのよさで3.9点の高い評価が得られている. これは鰹だしの風味が影響しており, だしを十分に利かせることも臭みをとるよい方法と考える. しかし, 「フグ肝の臭みが気になる」というコメントが多いため, 七味唐辛子やゆずこしょうなどの吸い口を添えることで, 更に臭みが抑えられるかもしれない.

西京焼きは, 分析型官能検査では, 香りの弱い傾向ではあったが, アンケートでは, 「フグ肝が生臭く感じる」というコメントもあった. 香りやこくが強い味噌を用いることで, さらにフグ肝の消臭効果が期待できると考える.

照り焼きの評価は他の料理より低いことから, 揚げ・炒めるなどのサラダ油の風味がフグ肝の脂の臭いと混じると, あまりおいしくないことが考えられるので, さらに強い味付け, 油の種類も検討する. 油を用いた料理では, 西洋料理のテクニックの応用を工夫する必要があると考える.

天ぷらでは, 大根おろしでさっぱりしたいという感想があった. 今回は油っこい揚げ物に天つゆしかつけていないが, 生姜・大根おろしの使用は効果があると考える. 臭みを感じさせないようにするために, 試食会(大貫ら, 2006)ではカレー塩を用いた. また, 天ぷらの衣がはがれた部分があり, 小麦粉をつけてから, 天ぷらの衣をつけるなどの工夫が必要かもしれない. 揚げ物としては, フライも考えられるが, フグ肝から流出する脂がパン粉に移行し, 同時にパン粉に揚げ油からの吸油もあり, 脂っぽさがさらに強く感じるかもしれない. 揚げ物については, 検討が必要である.

3.4 組織観察

フグ肝の走査型電子顕微鏡による観察では, フグ肝に含有する脂肪と考えられる白い球状あるいは流状物質(矢印)が多量に観察され, 調理法によって, その大きさと分散状態に違いが見られた(図4).

フグ肝(刺身)の構造(図4-A)は, 細い繊維状構造が基本構造となって, その繊維状構造に包括された白い球状あるいは流状物質が多量に観察された. これらはその表面構造のなめらかさ, 光学顕微鏡観察および成分分析(脂肪含有率は約70%)(峯木ら, 2009)から, 脂肪と考えられる.

味噌汁のフグ肝(図4-B)では, 加熱により繊維状構造が融合して太く, 組織構造が密になっているようにみえた. また, 空隙が観察され, その数は多い. 白い流状物質は生の構造で見られる大きい形状のものはほとんどなく, 小さいものが多かった. 脂肪があったと考えられる部分に空隙が観察されたことから, 加熱中に球状物質がゆで汁へ流出したと考える.

蒸し物(図4-C)では, 繊維状構造が太くなっており, 空隙は不均一であった. 流状物質はほとんどなく, 球状物質が観察された. 生に比べて脂肪様物質が少ないのは, 味噌汁と同様に加熱による脂肪の流出が大きいと考える.

西京焼き(図4-D)では, 基本の繊維状構造が細く連続しており, その間隙に大小の白い球状物質が存在していた. 球状物質と線維状構造の間には間隙が存在している. 球状物質は他の調理の構造に見られるものより大きいものが多く, 数も多い. また, 繊維状構造に添って付着した顆粒状の脂肪様物質が観察された. これはフグ肝に塩分(味噌)に漬ける脱水効果が繊維状構造に影響し, 天火焼きによる影響が考えられる. 星野(1998)は焼魚の組織において焼く操作では, 生で検索しがたい脂肪粒が多量に出現することを観察している. 西京焼きでは, 他の調理と違って大きな脂肪様物質が表面に多量に観察されるので, 加熱による影響と考えられる.

照り焼き(図4-E)では, 線維状構造が太くなって, 繊維の形状が一部明瞭な部分もあり, 小さな空隙が多かった. 蒸した場合より疎な構造で, 白い小顆粒の脂肪様物質が繊維状構造に添って付着しているのがみえた. 蒸したものより疎であるので, 加熱による収縮は少ないと考える.

天ぷら(図4-F)では, 繊維状構造が照焼よりは太くなっているようにみえ, 繊維状構造の表面は, 凹凸が多く, ちぢみ状に見えた. また, 比較的大きな空隙が見られた. 白い球状物質は比較的大きく, 流状のものも見られた. 今回の試料は中央の部分を採取したが, 衣がついている表面付近では, 揚げることにより, 油の交換や脂肪の移動が行われるので, 調理前後の変化は, 表面付近の方が中央部分より大きい可能性がある.

以上, 西京焼きでは脂肪が表面に露出するために脂っぽいと判断されたと考えられる.

今回は, 日本料理としてレシピを検討した. これは, フグ肝に類似した食品としてはアン肝(大貫ら, 2006)があげられたことから, アン肝を用いた料理を参考にしたためである. しかし, フグ肝の高い脂肪量および濃厚なうま味はフォアグラに近い(峯木ら, 2009)ことから, フォアグラを用いた料理を参考にすることが考えられる. 最近フランス料理において, フォアグラを塩漬け(岩塩)にして, 味を濃縮させてから提供する方法もある. これはフグ肝に応用できるかもしれない.

以上のように, フグ肝を用いた料理は, さらに好まれる料理ができる可能性があり, 今後発展が期待できる.

表2

各料理の重量比

表3

各料理についての記述内容

表4

フグ肝料理を試食しての意見

図2

フグ肝料理の分析型官能評価

図3

フグ肝料理の嗜好型官能評価

図4

調理法の違いによるフグ肝中の脂肪球の分散状態

4. 要約

これまで, 無毒のフグ肝について, 新たな食料資源としての可能性および価値を検討してきた. ゆでたフグ肝の官能検査では, その色, におい, 脂っぽさの点から, いずれの官能評価項目でも, 高い評価は得られなかった. そこで, 試食会で提供した調理方法を基に, 調理法の異なる料理を調製して, 食味特性を官能評価および組織観察より調べ, フグ肝の食味を検討した.

1)分析型官能評価では, すべての官能評価項目において料理による有意差は認められなかった. においの強さは平均2.5点でやや弱く, 脂っぽさについては, 2.5-4.0点の範囲であったが, 蒸し物の評点がいずれも低かった.

2)嗜好型官能評価では, いずれの料理も, 「料理としての好ましさ」の評点が高く, 特に「蒸し物」が好まれた. 「味の好ましさ」では, 刺身, 味噌汁, 蒸し物, 天ぷらが5点中4.0点以上で好まれた. なお, 調理法の違いによる有意差はなかった. 「脂っぽさの好ましさ」で, 天ぷらと照り焼きが3.0点で低い結果であったが, それ以外の項目ではいずれの料理も3.5点以上を示した.

男性パネルは, 蒸し物や天ぷらの料理に脂っぽいと判断しながら, 味の好ましさに高い評価を下した.

3)官能評価の結果より, 用いたレシピはいずれも実用に値するレシピであると判断する. 西洋料理への展開は, 今後の課題である.

引用文献
 
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