日本官能評価学会誌
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研究報文
感触よくきれいに仕上げるファンデーション用パフの開発
染谷 有紀今井 由美妹尾 正巳
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2009 年 13 巻 2-2 号 p. 96-105

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1. 緒言

ファンデーションは, 肌をきれいに見せるために用いるベースメイクアップ化粧品で, 顔全体に塗布し, 肌の色や質感を調整するものである. このファンデーションの仕上がり次第で, 顔色や後に用いるポイントメイクアップ化粧品(アイカラーや口紅など)の仕上がり効果が大きく左右されるため, メイクアップをする上で最も重要な位置づけにある. 中でも, パウダーファンデーション(粉状のファンデーションをプレスして押し固めたもの-Fig. 1)は, 使用の簡便性, 携帯性の良さという点からユーザーが多い商品である.

パウダーファンデーションは固形状であり, その表面は固く, 手・指で粉をとり, 肌に塗布することは不可能であるため, 必ず小道具を使用しなくてはならない. その代表的な小道具がスポンジ状樹脂製のパフ(Fig. 2)である. ユーザーはこのパフを手に持ち, パウダーファンデーションの表面を撫でるようにパフに取った後, 肌の上を軽く押し付けながら滑らすことで肌に塗布し, ファンデーションの使用感や仕上がりを官能特性として感じている. すなわち, ファンデーションの官能特性は, ファンデーション自体の品質だけではなく, パフとファンデーションの相互関係の上に成り立っている.

この相互関係に着目した研究として, 鋤柄ら1)は, パフの肌触りと表面特性との関係について, 「弾力性」「なめらかさ」「パフへのファンデーションのつきやすさ」を官能評価し, 同時に, パフの弾性率や表面の粗さといった物理特性を測定することで, これら3項目の官能特性はパフの物理特性値で説明できるとしている. また, 横山ら2)は, 目の粗さの異なるパフを用いて, パフへのファンデーションの付き量を測定し, さらに, 付きの良さについて官能評価を行い, 両者の関係性をみている. ここではパフに付いた量が少ないほど官能評価では付き感が良いという結果を示している. しかし, これらの報告に取り上げられた相互関係を示す要因以外にも, パフとファンデーションが相互に影響を及ぼす要因は数多くあると考えられる.

ファンデーションは肌をきれいに見せるための化粧品であるため, パフの最も重要な品質は「ファンデーションをきれいに仕上げること」, すなわち機能的品質である. しかし, パウダーファンデーションは使用の簡便性, 携帯の利便性から日常的に頻回に使われることが多いため, パフ自体の官能的品質も大変重要となる. 毎日使用する際に, 感触の悪さ(例えば, がさがさして肌にひっかかる, 抵抗感を感じるなど)や, 持ちにくさを感じたりすると, ユーザーの立場にとっては, 化粧行為, 化粧動作, 更には化粧自体にネガティブな印象をもたれることも想定される.

従って, ユーザーが心地よく, きれいにファンデーションを仕上げることができて, 満足感が高まり, 長く使い続けることを可能とするためには, パフの機能的品質と官能的品質の双方を高める必要があると考えられる.

そこで本研究では, 「ユーザーが心地よく使えて, ファンデーションをきれいに仕上げることができる理想のパフ」を開発することを目的とし, 9種類のパフと2種類のファンデーションを対象として, それらの物理特性測定と官能評価を多項目にわたって実施し, 得られたデータを合わせて解析することで物理特性と官能特性の関係性を明らかにし, 理想のパフについて指標を導出し, 設計の提案を行った.

Fig. 1

powder foundation

Fig. 2

cosmetic puff

2. 実験方法

2.1 試料

試料となるパフは, 製造工程で調節できる特徴として, セル(気泡)の大きさ・硬度の2軸でマップを作成し, 各軸において3段階に設定した9種類(No.1~9)を調製した. Fig. 3に設定マップを示す. 材質はいずれもアクリルニトリルブタジエンラバーで, 寸法は40×53×8mmで作成した.

ファンデーションは, 配合原料種を固定し, 主たる原料のうち, 板状粉体と油剤の配合量比を変えて, タイプが異なる2種類のサンプルA, Bを調製した. ファンデーションAは, 板状粉体を多く油剤を少なくすることで, 理論上, 粉っぽく伸び広がりが軽く感じられるタイプ, ファンデーションBは板状粉体を少なく油剤を多く配合することで, 粉っぽくなく, 伸び広がりが重く感じられるタイプであり, 官能特性が大きく異なるように調製した.

Fig. 3

The design of Experiment

2.2 物理特性測定

パフの物理特性は8項目をJISに則った条件下で測定した. Table 1に測定項目を示す.

「硬度(HF°)」は, JISK6253, 旧JISK6301より加圧面φ80mm, 500g加圧する高分子計器株式会社製F型硬度計を用いて測定した. 「密度」はJISK6268-01の指定する寸法にゴムを型抜きし, 質量計測し密度換算(g/cm3)を行った. なお, この密度はパフ中の空気の混入量をあらわすものである. 「のび(%)」は低伸張モジュラス試験機(JISK6251)により25mm/min速度にて破断時の伸張比率より算出し, 「引っ張り強さ(kPa)」は同じく破断時の圧力で測定した. 「圧縮荷重(kPa)」はJISK6251, JISK6253により25%圧縮時の圧縮力を速度10mm/minにて5sec放置後測定した.

パフはファンデーションならびに肌と接して使用するものであるため, その表面特性も重要な因子である. 空気を混入して調製するパフには, 空気が滞留していた部分に無数の気泡状の孔が存在し, それらは「セル」と呼ばれている. このセルはレーザー顕微鏡でパフ表面を撮影し画像解析にて計測するという手順3)で測定を行った. 画像の撮影には, OLYMPUS社製共焦点型レーザー顕微鏡OLS1200-NMSP1を用いた. 撮影時の測定範囲は, 深さ方向で1000μm, 面積で1280μm×690μmを計測範囲とした. 画像の解析と計測は, 画像の二値化と計測にデジタルビーイングキッズ社製Pop-Image, セル数カウントにScion-Corporation社製Scion-Imageの2種のソフトウェアを用いた. レーザー顕微鏡の画像は, 計測した深度を可視光スペクトルと似た赤~青のスペクトルで画像に表すことができ, このスペクトルを用い, パフの表面にファンデーションが付着する部位である深度200μmを閾値として二値化した. パフにおけるファンデーションの収納可能な容量を表す「セル容量(mm3)」は, 二値化した画像の黒色部面積に深度を用いて容量を体積計算し, セルとセルの間に存在する樹脂部分を表す「セル壁幅(μm)」の計測は, 白く表示されているセルの骨格部の幅を, 隣接したセルとセルの最も近接した箇所に垂線を引きPop-Imageで計測した(Fig. 4). 計測には1画像ごとに30箇所のセル壁の幅を計測し, 平均値を算出した. 使用時のパフの変形を分析に加味するために, 加圧状態におけるセル壁幅も計測した. 実際の使用状況から, 一般的にユーザーがパフに対して約200gで加圧することを参考に, パフ表面に均等に2.04kPaの荷重をかけてセル壁の計測を行った.

Table 1

Measurement items of physical properties

Fig. 4

Measurement of the cell-wall thickness

2.3 パフ及びファンデーションの官能評価

パフ自体に関する評価項目6項目と, パフを使ってファンデーションを評価する際の評価項目11項目をあわせた全17項目を評価項目とし, それぞれ9段階の採点法を用いて専門評価者2名にて行った. この17項目は, 専門評価者が通常業務としてパウダーファンデーションを評価する際に用いている項目の中から, 今回のパフの違いを判別するにあたり不要な項目を排除した官能評価項目である. また, 専門評価者は2名とも10年以上の評価経験を有する者である. Table 2に評価項目及び評価用紙を示す. パフ自体の評価は, 実際にファンデーションを塗るときと同じ持ち方(Fig. 5)をし, 持ったときの感触, 肌上を滑らせたときの感触を評価した. ファンデーションを用いての評価は, 実際に顔に塗布して行った. 専門評価者2名が評価する際, パフの持ち方, 塗る手順等は全て同じとした. 評点は単に2名がつけた点数の平均値ではなく, 2名で同時に評価を行い, 評価結果がわずかながらも異なった項目は再評価を繰り返すことで合意を得た点数である. ファンデーションの評価は高度な塗布技術を要するため難易度が高く, 肌の状態によって評価結果にばらつきが生じる可能性も考えられたため, 評価日時をかえ, 何回も評価を繰り返すことで, 評価結果の精査を行った. なお, 「パフの良し悪し」という項目は, 全体を通して「パフ」の機能的品質と官能的品質を総合的に評価した.

Table 2

The items of evaluated sensory characters and evaluation form

Fig. 5

How to hold the puff

3. 実験結果

3.1  物理特性

パフの物理特性を測定した結果及び各項目間の相関係数行列をTable 3に示す. なお, 静時のセル壁幅と加圧時のセル壁幅の変化を見やすくするため, 静時のセル壁幅を100%として変化率を計算した結果も併記した. 硬度値と密度, セル容量からみて, ほぼ設定マップ(Fig. 3)のとおりに, No.1~9の9サンプルが調製されていることが確認できた. すなわち, No.1・2・3, 4・5・6, 7・8・9の3グループ間において硬度値が異なり, No.1・4・7, 2・5・8, 3・6・9の3グループ間においてセル容量及びセル壁幅に違いが見られた. また, 硬度値が低くなるにつれ, 圧縮荷重値も低かった(r=0.958, p<.05). そして, セル壁幅が小さいほど, 静時と加圧時におけるセル壁の幅の変化率が高かった(r=-0.894, p<.05).

Table 3

Physical properties of 9 puffs and correlation matrix

3.2 官能特性

9種類のパフのみの官能評価結果をTable 4に, 2種類のファンデーションを組み合わせ計18通りの評価対象にて官能評価を行った結果をTable 5に示す. これら評点から各パフの官能特性を弁別するため, それぞれの結果について分散共分散行列を出発行列とする主成分分析にて解析を行った. データ構造は, まずパフのみの官能評価結果においては, 縦に9種類のパフサンプル, 横に6つの官能評価項目とした. また, ファンデーションを用いた官能評価結果では, 縦に9種類のパフでファンデーションAを用いた結果の9データと, ファンデーションBを用いた結果の9データを縦積みにした18データを, 横に官能評価項目の11項目とした. なお, 解析ソフトはJUSE StatWorks V4.0(日本科学技術研修所製)を用いた.

パフのみの官能評価の因子負荷量をTable 6, 因子負荷量散布図及び主成分得点散布図をFig. 6, 7に示す. 第1主成分の寄与率は0.59, 第2主成分は0.35で, 累積寄与率は0.94であったため, これら2つの主成分を結果解析に用いることとした. 第1主成分は「手に感じるパフの硬さ」を, 第2主成分は「パフの感触の心地よさ」をあらわしていると考えられた. また, Fig. 7において9種類のパフの布置位置は, パフサンプル調整時に設定したマップ(Fig. 3)と同様の位置関係になっていた.

ファンデーションを用いた官能評価の因子負荷量をTable 7, 因子負荷量散布図及び主成分得点散布図をFig. 8, 9に示す(Fig. 9中のA, BはファンデーションA, Bを用いたときの結果を表す). なお, 第1主成分の寄与率は0.43, 第2主成分は0.25で, 累積寄与率は0.68であり, 上記結果と同様にこれら2つの主成分を結果解析に用いることとした. 第1主成分は「パフとファンデーションの組合せ効果」をあらわしており, Fig. 9中で第1主成分(+)領域に布置されるサンプルほど, ファンデーションが密着し, きれいに仕上がることを示していると考えられた. 第2主成分は「ファンデーションの広がり方」であり, Fig. 9中で第2主成分(+)領域に布置されるサンプルほどファンデーションを広げやすいことを示していると推察された. なお, 第3主成分は「ファンデーションの付き方」, 第4主成分は「ファンデーションの含み方」をそれぞれあらわすものと考えられた.

この官能評価はパフの違いに主眼を置いたものであり, サンプルパフの違いを顕著に検出した結果となったが, 同じパフであっても, ファンデーションの違いによって評価結果が異なることも明らかとなった. セル容量ならびにセル壁幅が小さいNo.1, 4, 7は, A・Bどちらのファンデーションを用いたときでも, 第1主成分(+)の領域に布置された. このことからセル容量・セル壁幅が小さいパフは, 官能品質が大きく異なるパウダーファンデーションでも, ファンデーションをきれいに仕上げることができることがわかった. 一方, セル容量やセル壁幅が大きいNo.2・3・5・6・8・9は大半が第1主成分(-)領域に布置され, ファンデーションを塗布する小道具としての有用性は低いものと考えられた.

以上, パフのみの官能評価, ならびにファンデーションを用いた官能評価の主成分分析結果を総合すると, セル容量・セル壁幅が小さい方が, 柔らかく, 良い感触で持ちやすく, ファンデーションをきれいに仕上げる傾向を示すと考えられた.

Table 4

The score of sensory evaluation (puff only)

Table 5

The score of sensory evaluation (with foundation)

Table 6

Component score and proportionate contribution of the sensory characters (puff only)

Table 7

Component score and proportionate contribution of the sensory characters (with foundation)

Fig. 6

Result of the evaluated sensory characters (puff only) - Two dimensional graph of factor loading

Fig. 7

Result of the evaluated sensory characters (puff only) - Two dimensional graph of principal component score

Fig. 8

Result of the evaluated sensory characters (with foundation) - Two dimensional graph of factor loading

Fig. 9

Result of the evaluated sensory characters (with foundation) - Two dimensional graph of principal component score

3.3 物理特性と官能特性の相関関係

つぎに, 物理特性と官能特性がどのように関係しているのかを明らかにするため, 2つの結果を合わせて解析した. 官能評価結果から得られた第1, 第2主成分の各主成分得点を用いて, 物理特性値との相関係数を求めた. パフのみの結果との相関行列をTable 8に, ファンデーションを用いた結果との相関行列をTable 9に示す.

パフのみの結果(Table 8)から, 官能評価結果として得られた第1主成分「手に感じるパフの硬さ」は, 物理特性測定の結果として得られた「硬度」及び「圧縮荷重」と正の相関が強かった. また, 「セル容量」「セル壁幅」とも正の相関が強く, 静時と加圧時における「セル壁幅の変化率」とは負の相関が強かったことから, セルの状態も手に感じる硬さに関与することが考えられた. 第2主成分「パフの感触の心地よさ」は, 「密度」「引張り強さ」と正の相関が強かった. 密度とはパフ中, に混入されている空気量であり, 引張り強さとはパフを破断する際の圧力のことである. 従って, パフの感触の心地よさは, 弾力や粘性に関係するものと考えられた.

ファンデーションを用いた結果(Table 9)では, 官能評価結果として得られた第1主成分「パフとファンデーションの組合せ効果」は, 「セル容量」「セル壁幅」と負の相関が, 「セル壁幅変化率」とは正の相関が強かった. このことから, セル容量・セル壁幅が小さく, 加圧によってセル壁幅が変化しやすいほど, ファンデーションをきれいに仕上げることができることが考えられた. 第2主成分の「ファンデーションの広がり方」に対してはいずれの物理特性値とも相関がみられなかった.

Table 8

Result of correlation matrix (puff only)

Table 9

Result of correlation matrix (with foundation)

4. 考察

主成分分析の結果, 寄与率の高い主成分として「手に感じるパフの硬さ」「パフの感触の心地よさ」, 及び「パフとファンデーションの組合せ効果」「ファンデーションの広がり方」が得られた.

「手に感じるパフの硬さ」は, 硬度, 圧縮荷重といった硬さに関する物理特性と強く関係していた. すなわち, 硬度値が高いパフは, 官能評価でも「柔らかさ」の得点が低く, 「硬い」と評価されていることから, パフの硬度は物理特性と官能特性が一致していると考えられた. また一方で, セルの形成状態とも強く関係しており, セル容量, セル壁幅は正の相関が強く, 静時と加圧時におけるセル壁幅の変化率とは負の相関が強かった. このことから, セル容量が大きく, セル壁幅が厚く, 加圧されても壁が変形しにくいセルであるほど, 手には硬く感じられると考えられた. 従って, 手に感じる硬さというのは, 物理特性の硬度だけでなく, 表面の状態も関与すると示唆された.

「パフの感触の心地よさ」は, 密度, 引張り強さと正の相関が強かった. このことから, 密度が高い, すなわちパフ中に混入されている空気量が少なくて弾力があり, 引っ張りに強い粘性を持つパフほど, 触ったり, 持ったりする際に, 心地よいと感じる感触であると考えられた.

「パフとファンデーションの組合せ効果」は, セルの形成状態(容量, セル壁幅, 静時-加圧時セル壁幅の変化率)が強く関係していた. 「パフとファンデーションの組合せ効果」とセル容量, セル壁幅は負の相関にあり, 加圧時変化率とは正の相関にあることから, セル容量が小さく(気泡部分が小さく), セル壁幅が薄く, 加圧によってセルが変形しやすいほど, ファンデーションを塗布するための小道具であるパフ本来の機能性が向上すると考えられた. この機能には今回測定は行っていないが, パフ表面のセル内に含まれるファンデーションの量や, 肌に接するパフ(セル壁部分)の面積や接触状態が影響していると思われる. セル容量が小さいということは, ファンデーションを多く含みすぎないということであり, セルが変形しやすいということは, ファンデーションを放出しやすいことにつながる. その結果として, ファンデーションを少量ずつつけることができ, 肌への密着性を高め, きれいに仕上げることを可能にするのではないかと考えられた.

また, セル壁幅が薄いということは, 肌との接触面積が小さく, パフ(樹脂)の感触が直接肌に伝わりにくくなると考えられる. このことは, ファンデーションを肌に塗る際の肌触りの良さに結びつくのではないかと考えられた. 先に記述した「手に感じるパフの硬さ」もセルの形成状態が強く関与しており, 「手に柔らかいと感じる」ことと「パフとファンデーションの組合せ効果」は関係性があるのではないかと推察される. そこで, 官能評価の評点で相関分析を行ってみたところ, 「柔らかさ」は「持ちやすさ」との相関が高く, 相関係数はr=0.81(p<.01)であった. パフが持ちやすいということは, パフを用いた動作, すなわち, ファンデーションをパフにとり, 肌に塗る, という一連の化粧動作がしやすくなると考えられる. 従って「持ちやすさ」と「柔らかさ」に関連があるとするならば, パフが柔らかくなるほど, ファンデーションが塗布しやすくなり, 仕上がりのきれいさにもつながる可能性が考えられた. しかし, 今回のサンプルの領域を超える極端に柔らかいパフは, かえって塗布しにくくなると考えられる. 従って, 「柔らかさ」と「持ちやすさ」の関係は線形性でなく, 閾値を有する非線形性であると考えられた.

「ファンデーションの広がり方」は, いずれの物理特性値とも相関がみられなかったことから, 今回未測定の物理特性か, または, ファンデーションの性質によるところが大きいと考えられたため, 今後の検討課題としたい.

パフの物理特性値を計測し, 官能特性とあわせて解析をすることにより, 両者の関係を明らかにすることができた. 「感触よくきれいに仕上げるパフ」をつくるには, サンプルとしたパフより「セル容量を小さくする」「セル壁幅を薄くする」「柔らかくする」という方向性を見出せた. この方向性にのっとったパフを提供することで, 多くのユーザーが毎日心地よく使うことができ, ファンデーション本来の目的である「きれいに化粧をすること」を容易とするならば, 日々の化粧に満足し, さらに化粧を楽しむことができるのではないかと思われる.

しかしながら, この方向性には閾値が存在すると考えられた. 「セル容量を小さくする」「セル壁幅を薄くする」ことには当然のことながら物理的に限界がある. また, 「柔らかくする」ことの閾値はこれまでの官能評価経験から容易に想像できるものである. なぜならば, 全く硬さがなく柔らかすぎてしまうと, パフにファンデーションを取り, 肌に塗布するという動作がかえってしづらくなるからである. また, 柔らかいパフは耐久性も心配される. わずか数回の使用で磨耗し, 破壊されることも充分に予想され, 品質の保証の面からも問題となる.

本研究では, これら閾値を見出すことができなかったが, その主たる原因としてサンプルパフの材質(アクリルニトリルブタジエンラバー)が挙げられる. この材質からなるパフにおいては, 今回最良の結果を得たNo.7よりもセル容量が小さく, かつ, 硬度値が低いパフを調製することは技術上困難である. 従って今後は, 材質を変えてサンプルパフの領域を広げ, 柔らかさ等の閾値(最適値)を見出したいと考えている.

引用文献
 
© 2009 日本官能評価学会
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