日本官能評価学会誌
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研究報文
文字の読みやすさ2:読みやすさと読みの速さの比較
阿久津 洋巳近藤 雄希
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2010 年 14 巻 1-2 号 p. 26-33

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1. はじめに

日常生活を営むうえで, 視覚健常者は印刷された文字や文章を毎日沢山読む. 人々が快適な生活を送り, 効率的な読みを達成するためには, 読みに適した文字のデザインはきわめて重要である. 文字のデザインには, 文字の大きさ, 文字のコントラスト, 文字のコントラストの極性(黒字に白, 白地に黒), フォントタイプ, 文字が提示される方向(縦, 横, 斜め, 逆さま), 線の滑らかさ文字の間隔など多くの要因があり, これらが読みやすさに影響する. コンピュータディスプレイのような電子画面を使った表示ではさらに, 画素の大きさと密度や文字の色と背景の色の関係も重要な要因である(窪田, 2001;窪田, 小田, 高橋, 2006;佐部利, 2009;斉藤, 斉藤, 斉藤, 東, 犬井, 2009). 文字デザインの要因中, 文字の大きさとコントラストは, 読める・読めないを決める重要な要因と考えられる(Legge, 2007). コントラストの影響は, 文字の大きさにより異なるが, Michelsonコントラストでおよそ0.2以下であると読みに支障がある(Legge, 2007).

文字の大きさを考えるとき, 観察距離によって変化しない大きさの測度を使うと便利である. 本研究では, 対象の網膜像の大きさとして一般に使われる視角(visual angle)を使うことにする. 観察距離57.3cmにある1cmの線分の長さは, 視角 1°(60′)で表される.

英文を使い読みの速さを調べた研究によると, 文字の大きさは視角0.2°~3.0°(12′~180′)が読みに適している(Legge, 2007). 液晶画面(LCD)を使った実験では, 画面上で自由に文字の大きさを調整した場合, 日本語文では30′が見やすい大きさであり(平野, 2009), 主観的評定結果は27′~38′が読みやすい大きさである(井戸・林・宮木・原田, 2002)と報告されている. JIS(Japanese Industrial Standard)ではVisual Display Terminalを用いた作業における推奨文字サイズを最小で視角25′に定義している(JIS Z 8513). 読みに適した最小文字サイズに関して, 読みの速さによる推定値と読みやすさの評価の間でおよそ2倍ほどの開きがある. 「読める」と「読みやすい感じ」の違いを反映しているのかもしれない.

人は種々の印刷された文字を読むが, 読みの状況を新書版程度の説明文を読むことに限定して考えよう. このような読書の際に読むのに支障がなく, また主観的にも「読みやすい」と感じる文字の大きさはどれくらいであろうか. 本研究は2つの実験を通して, この疑問に答えようとした.

実験1と2の目的は, 読みやすい文字の大きさを決めることであった. ここでいう「読みやすさ」とは, 黙読と音読両方における文字の読みやすさを指す. 読みやすさを調べるために, 実験1と2では黙読, 実験3では音読を課題としたが, 課題に共通する一般的読みやすさを仮定した. 先行研究(阿久津, 2008)は, フォントサイズが大きくなるにしたがって, 読みやすさの評価(以下読みやすさとよぶ)が増大するという結果を得たが, そこで使われた最大のフォントサイズは10.5ptであった. 実際には読みやすいと感じられる最適文字サイズがあり, この大きさを超えると読みやすさは減少すると推測できた. この最適文字サイズを確かめるために, 先行研究よりも大きなフォントサイズを使って実験を行うことにした.

実験3の目的は, 読むのに支障がない文字サイズを確認することであった. 日常, 人は努力すれば読むことはできるが快適には読めない文字の大きさを経験する. 「読むのに支障がない」文字サイズと読みやすい最適文字サイズは同じではない. 本研究では, 「読むのに支障がない」文字サイズを速く読める(音読できる)文字サイズと定義する. これまでに, 英文を使用して文字サイズと読みの速さの関連を調べた研究は多数報告されている. たとえば, Legge(2007)のp.49に彼らの研究の一覧が掲載されている. それらの研究を概観すると, 小さい文字から大きい文字までサイズを変化させたとき, 文字サイズが視角で約0.2°までは読みの速さは上昇し, それ以上では読みの速さはほぼ一定となり, 文字サイズが視角で約 3.0°を超えると読みの速さは減少する傾向がある(Legge, Pelli, Rubin, Schleske, 1985;Legge, Ross, Luebker, LaMay, 1989;Legge, 2007). ここでいう文字サイズ 0.2°を40cmの読書距離に当てはめると, 約1.4mmの文字サイズになる. MS明朝のフォントサイズにするとおよそ4~5ptの大きさであり, 読みやすさの評価からみると読みにくい文字の大きさである(阿久津, 2008). この読みやすさと読みの速さの間の不一致の一因には, 英文のアルファベット表記と日本語の漢字かなまじり表記の違いもあるかもしれないが, 読みやすさと速く読めることの特性の違い(読むのに支障がないことと快適に読めることの違い)もあろう. そこで, 2番目の実験では日本語の文章を使って, 印刷された文字の大きさを変化させて読みの速さを調べた.

2. 実験

     実験I

2-1. 方法と手続き

材料:1枚ごとに異なる内容の文章が書かれた5枚1組の課題文冊子を作成した. 課題文は5冊の本からそれぞれ連続する200字程度の一節を抜粋して作成した. 使用した本は, 「格差社会」(橘木, 2006), 「温泉で健康になる」(飯島, 2002), 「人間は脳で食べている」(伏木, 2005), 「超バカの壁」(養老, 2006)「伝わる・揺さぶる!文章を書く」(山田, 2001)であった.

課題文はMicrosoft Wordを用いて作成し, 文章を21cm×15cmの紙の中央に縦書きで印刷した(KONICA MINORUTA Page Proを印刷に使用した). 各課題文の文字の大きさはフォントサイズ4pt, 6pt, 9pt, 12pt, 15ptのいずれかで, 5枚の課題冊子は, 4~15ptのフォントサイズを全て含んでいた. フォントは通常の太さのマイクロソフト明朝体を使い, 文字間は通常の間隔, 行間はそれぞれの文字サイズの1.5倍に固定した. 実験に使用された文字の大きさと視角の関係をTable 1に示す.

読みやすさに影響する課題文内容の効果, 試行順序の効果が参加者間で相殺されるように, 課題文とフォントサイズの組み合わせを25種類用意し, 提示順序を変えた5枚1組の課題文冊子を10種類作成した. 課題文とは別のセットとした質問紙を作り, 課題文の内容理解を確認するため, 3肢選択法による質問1問を加えた.

質問紙で使用した尺度:本研究のためにSD法の質問紙を作成した. 質問項目は読みやすさと見やすさに関する形容詞対(「読みやすい-読みにくい」, 「楽だ-疲れる」など)からなる13項目である. 回答方法は5つの反応カテゴリーから1つを選択する5件法とし, 質問項目である形容詞対の一方にどの程度あてはまるかを「非常に」「やや」「どちらでもない」から選択して回答した. 質問紙は, 全ての参加者に同じものを使用した. 阿久津(2008)と同様に, 尺度構成には項目反応理論を適用した(豊田, 2002).

実験参加者:岩手大学の学生 120人(男子:25人, 女子:95人)を対象に実験を実施した. 実験参加者の年齢範囲は18~27歳, 平均年齢は20.64歳, 標準偏差は1.43であった. 必要な者は, 眼鏡かコンタクトをつけたまま課題文を読んだ. 参加者全員が実験に使用された最小フォントサイズ4ptの文字を40cmの観察距離で読むことができた. この観察距離ではフォントサイズ4ptは, 視角にして約11′であるから, 単純に視力を測定するSnellen lettersの大きさに重ね合わせるとおよそ視力0.5となるが, Snellen lettersとMS明朝体では, 線の太さと線の数が大きく異なる. MS明朝体を読むためには, Snellen lettersを読む1.5倍の空間解像度が必要であると大まかに仮定するならば, 実験参加者の近見視力は0.75以上と推定できる. 実験は, 2008年11月中旬に実施された. 未記入の項目があるなど回答に不備があった者および調査に同意しなかったものを除き, 110人のデータを分析対象とした.

手続き:授業中に読みの課題冊子1種類と質問紙セットを配布し, 課題の性質と回答方法について説明した. 同時に, 読書時の観察距離を統制するために, 両端に5円玉をつけた長さ40cmの細紐を配布した. 課題文を読む際はこの細紐の長さを額と課題冊子の距離とし40cmの観察距離を確認させた. 参加者は自分のペースで課題文を黙読し, 課題文を1つ読み終わるごとに質問紙1枚に答えた.

2-2. 結果

分析データの選定:10種類の課題文冊子に対して, ほぼ同人数の実験参加者を配分した(範囲は7~14人, 平均11人). 課題冊子間で「読みやすさ」評価(以下「読みやすさ」とよぶ)の平均に差があるかを1元配置分散分析を使って調べたところ, 課題冊子の読みやすさに統計的な違いはなかった(F4, 518)=0.487).

5つの文字サイズ(フォントサイズ4pt, 6pt, 9pt, 12pt, 15pt)に対する評定を分析対象としたが, 110人の参加者のデータ中, 課題文に対応する質問項目に未回答がある場合と, 内容理解を確認する質問に誤解答がある課題文に対する評定結果は分析から除外した. その結果, 5つのフォントサイズに対する有効評定シートは, 合計で523であった. 各評価シートには質問事項1から13に対応して13項目の評価値(1, 2, 3, 4, 5という回答)があった. この523枚を分析の対象とした.

読みやすさの尺度:評定シートにある13項目の平均値を調べたところ, 極端な平均値をもつ項目はなく, 得点の分布に大きな偏りはなかった(1から5の評定値で, 11項目中最小平均値は2.95,最大平均値は3.33). 次に, 評価の選択番号(1から5)を直接使って探索的因子分析を行い(varimax回転), 数量的側面(因子負荷量, 固有値, 寄与率)と項目内容を検討して, 2因子構造が適合することを確認した. 13の項目と因子負荷量をTable 2に示す. 項目内容を検討して2番目の因子(質問番号2, 4, 6, 10)が「読みやすさと見やすさ」に該当すると解釈した. 523枚の評価データからこれら4項目間のピアソン積率相関係数を計算したところ, 相関の平均0.850, 標準偏差0.047, 最大値0.906, 最小値0.788, Cronbach's α=0.957であったため, 4項目は全て類似の特性をもつと解釈した. これら4項目に対する回答を分析対象とした.

次に項目反応理論を適用して, 評価データ 523枚(523ケース)に含まれる質問項目に対する反応(4つ)から523ケース各々の尺度値を求めた(本研究での523枚の評価データは個人内の繰り返し[個人xフォントサイズ]であるが, 通常の質問紙検査のケース[個人]のように扱う). 調査参加者が4つの項目(Table 2の丸で囲まれた番号の項目)に回答した結果をデータとした(ケースの数は523). 回答(1~5)は, 数値にしたがって順序を表わす(順序つきのカテゴリーデータ). これら4つの項目では, 反応が1~5と増大すると, 項目の背後に仮定される共通の潜在特性である「読みやさと見やすさ」が低下する. そこで回答数値を逆転した(すなわち5~1に変換). 次に, 各項目について潜在特性と項目反応(各カテゴリーの反応生起確率)の関係を表わす項目反応カテゴリー特性曲線を決定するために, 識別力母数とカテゴリー位置母数を求めた. 1つの項目内では, 反応段階に共通する識別力母数を仮定した. これらの計算は, Samejima(1969)の方法をRで実現するltmパッケージを使用して実行した(CRAN;Rozopoulos, 2006). 推定された項目母数とケースごとの項目反応を使って, 潜在特性(「読みやすさと見やすさ」)を計算した. この計算もRのltmパッケージを使って実行した. ケース毎の潜在特性の値が, 読みやすさの尺度値である(標準化得点のz値). 平均0,標準偏差1, 平均以上は+, 平均以下は-の符号がつき, 程度の大きさは絶対値によって示される. この尺度構成により得られた最大値は1.30, 最小値は-1.89であった.

文字サイズの影響:各フォントサイズについて読みやすさの平均値を求め, フォントサイズが読みやすさにあたえる影響を調べた. フォントサイズが4ptから12ptの範囲では, フォントサイズが大きくなるにつれて読みやすさはほぼ直線的に増大したが, フォントサイズ15ptの読みやすさはフォントサイズ12ptと同じであった(Figure 1の実線のプロットに示す).

便宜的に, Figure 1の読みやすさ(legibility)の値が-の場合は読みにくく, +の場合は読みやすいと考えると, フォントサイズ4pt, 6ptは読みにくいが, フォントサイズ9ptは読みやすくも読みにくくもないと評価され〔読みやすさの値0と比較すると有意差はない(t106)=0.32, p0.5)〕, フォントサイズ12ptになると読みやすいと評価された. フォントサイズ15ptも読みやすいという評価だが, その値はフォントサイズ12ptとほぼ同じであった.

文字サイズの効果を確認するために, 文字サイズ(5水準)と課題文(5種類)を要因とした2元配置の分散分析を行った. 除外したデータがあり, 全ての参加者について文字サイズ(5)x課題文(5)にもれなくデータが用意できなかったため, 被験者内繰り返しの分散分析は適用しなかった. 文字サイズの要因は統計的に有意であった(F4, 498)=227.74, p0.001)が, 課題文の要因および文字サイズと課題文の交互作用は有意ではなかった(それぞれF4, 498)=0.788, p0.5F16, 498)=0.91, p0.5). 文字サイズによる読みやすさを比較するためにTukeyのHSD法を用いて検定を行ったところ, フォントサイズ12ptと15pt以外の全ての文字サイズ間で読みやすさの評価に有意差があった(p0.05).

次に, フォントサイズ4ptから12ptまでにみられる読みやすさの直線的上昇について検討した. フォントサイズの効果を推定するために単回帰分析を行い, 読みやすさが上昇するフォントサイズ4ptから12ptでフォントサイズに回帰直線を当てはめた. フォントサイズ4ptから12ptではフォントサイズが1pt大きくなると読みやすさが0.26上昇していた(標準誤差は0.0096, r2=0.64). 言い換えれば, フォントサイズが1pt大きくなると読みやすさは約4分の1単位上昇した.

2-3. 考察

本研究ではフォントサイズ4ptから12ptの間で, 印刷された文字が大きくなるにつれ, ほぼ直線的に読みやすさが増大し, フォントサイズ12ptから15ptにかけては読みやすさが変化しないことが確認された. 使用された文字サイズの範囲では, 40cmの読書距離においてフォントサイズ12~15ptが最も読みやすい文字サイズ(読みやすさの値は0.59~0.52)であり, 逆に最も読みにくいフォントサイズは4pt(読みやすさの値は-1.51)であることが示された.

フォントサイズ4ptから12ptにおける読みやすさの直線的上昇は先行研究(窪田・松戸・丸本, 1999;井戸・林・宮木・原田, 2002;阿久津, 2008)と一致する. 多少の数値の違いはあるが, 読みやすさが-から+に移行する値も阿久津(2008)と同じである. その値はフォントサイズ9ptあたりであり, 読書距離においてはこれらの値を境により小さいフォントサイズに対して, 人は読みにくさを感じると考えられる. フォントサイズ12ptから15pt(視角33′から42′)にかけては読みやすさに統計的に有意な変化はなかった.

以上の結果は, これまでの研究とほぼ一致する. すでに, 高精細液晶ディスプレイを使って, 文字サイズが13′から28′の間で読みやすさ評価が直線的に上昇し, その後28′あたりから38′の間で評価が一定になるという変化を報告した研究がある(井戸・林・宮木・原田2002). 液晶ディスプレイに漢字かな混じりの文章を横書きに提示して, 主観的な文字の大きさを評価した研究では, 若齢者では32′を越えると文字がやや大きすぎると評価された(窪田・松戸・丸本, 1999). iPod touchを利用し, 直接LCD上で文字サイズを調整して見やすい大きさを調べた研究では, 最適文字サイズの平均は30′であった(平野, 2009).

     実験II

文字の大きさと読みやすさの関連をより明確にするため, 文字サイズを, 6, 12, 20, 30ptと大きく変化させてデータを収集した. 20ptと30ptは視角55′と83′である.

2-4. 方法と手続き

材料, 手続き, 参加者 読みの課題文は, 実験Iと同じものを4つ用意した. 印刷の方法も同じである. 課題文内容の影響とフォントサイズの影響が交絡しないように, 課題文4つが同じ頻度で4種の文字サイズでテストされるように4種類の課題冊子を編集した. 課題冊子で文字サイズが順に大きくなる(6, 12, 20, 30ptの順)課題冊子と文字サイズが順に小さくなる(30, 20, 12, 6ptの順)課題冊子を準備した. したがって, 課題冊子は合計8種類あった. 各課題冊子に5人の実験参加者が割り当てられた. 合計20人が実験に参加した(平均年齢20.45, 範囲は19~28). 質問紙の項目は実験Iで読みやすさの尺度作成に使われた4項目に限られた. 実験手続きと回答の分析法は実験Iと同じであった.

2-5. 結果

実験IIの結果をFigure 1に破線と△で示した. フォントサイズが20ptの読みやすさは, 12ptの読みやすさと同じであるが(分散分析後のTukeyのHSDによるとp>0.05), フォントサイズが30ptの読みやすさは, 12ptと 20ptより低かった. 文字サイズと課題文の2要因分散分析によると, 文字サイズの要因は統計的に有意で(F3, 138)=79.47, p0.001), 課題文の要因は有意ではなかった(F3, 138)=0.60, p0.51). 文字サイズの効果を詳しく見ると, 12ptと20ptの違いは有意ではなく(TukeyのHSDによるとp>0.05), 30ptと12および20ptの違いは有意であった(HSDによるとp<0.05). 言いかえると, 文字の大きさが視角にして55′程度までは読みやすいと感じ, それ以上大きいと読みやすさが低下した. 最適文字サイズの上限値である視角55′は, これまでLCDで得られた結果より大きい. LCDと紙媒体の違いか, 測定法の違いによるのかは, 今後検討する必要があろう. いづれにせよ, あまり大きい文字サイズになると, 人は読みにくいと感じることが確認された.

     実験III

実験IIIでは, フォントサイズを変えることにより読みの速さがどう変化するかを検討した. 従来の研究結果から, フォントサイズが大きくなるにつれて読みの速さは増大するが, ある一定のサイズを超えると読みの速さは一定になると予想した.

2-6. 方法と手続

材料:1枚ごとに異なる内容の文章が書かれた, 10枚1組の課題文冊子を作成した. 課題文は5冊の本からそれぞれ連続する200字程度の一節を2つ抜粋して作成した. 使用した本は, 実験1と同じであり, 文字の大きさおよび課題文の作成法も, 実験1と同じであった. 課題文の内容の効果, 順序の効果が参加者間で相殺されるように課題文冊子を10種類作成した.

実験参加者:岩手大学の学生10人(男子3人, 女子7人)を対象に実験を行なった. 実験参加者の年齢の範囲は18~22歳, 平均年齢は20.3歳, 標準偏差は1.35であった. 必要な者は, 眼鏡かコンタクトをつけたまま課題文を読んだ. 実験参加者全員が, 実験に使用された最小フォントサイズ4ptの文字を読むことができた. 実験は, 2008年11月下旬に実施された.

手続き:実験参加者は, 実験の手順を説明された後, 実験者の合図とともに提示された課題文1枚を実験者が聞き取れる程度の音声でできるだけ速く音読した. 実験者はストップウォッチを使い参加者が読みに要した時間を測定し, 同時に読みの間違いも記録した(実際には読み間違いはなかった). この作業を課題冊子1セット分, 合計10回行なった. 読み始めの際, 参加者に課題文の内容を確認する時間はあたえず, 参加者は課題文が提示されるとすぐに読み始めることとした. 10人の参加者は, 全員異なる種類の課題文冊子を使った(各冊子ごとに1名の参加者).

2-7. 結果

分析データの選定:10の課題文(フォントサイズ4pt, 6pt, 9pt, 12pt, 15ptがそれぞれ2枚ずつ)に対する読みに要した時間を分析対象とした. 10人の分析対象者中, 各フォントサイズを読めないといった者はなく, 1人につき10の課題文の音読が行なわれ, その全てが有効なものであった. 各フォントサイズに関して20回(フォントサイズ5段階x2つの課題文x10名)の音読が行なわれた. このデータ全てを分析対象とした.

読みの速さ:本研究では読みの速さを次のように算出した. まず, 各課題文の正確な文字数を数えた. ここで文字数とは, 文章に記載されている文字の数である(例えば「大きい」で3文字, 「心理学」も3文字). 句読点, 括弧(「」など), 中黒(・)は文字数から除外した. 次に, 各参加者が各課題文を音読し終えるのに要した時間(測定データ)を分単位で表し, 読みの速さを[文字数÷読みに要した時間(分)]と定義した. したがって, 読みの速さは, 1分間に読むことできる文字数で表された(北尾1960)とLegge(2007)の方法を参考にした).

文字サイズの影響:フォントサイズが4ptから6ptになると, 読みの速さは急激に上昇した(対応のあるt検定, t=-2.619, df9, p0.028). フォントサイズがさらに大きくなると, 6ptから15ptの範囲でわずかに上昇したが, 統計的に有意ではなかった(1元配置被験者内繰り返しのある分散分析によるとF1.15, df=(3, 27), p0.3). 読みの速さの平均値をフォントサイズごとにプロットした曲線を破線とでFigure 1に示した.

加えて, 読みの速さに緩やかな直線的上昇がみられたフォントサイズ間(6pt~15pt)で, フォントサイズの効果を推定する目的で単回帰分析を適用したが, フォントサイズの増大にともなう読みの速さの上昇は確認されなかった(標準回帰係数=1.88,標準誤差=1.64, r20.016, p0.25). 以上の分析から, フォントサイズ4ptと6ptから15ptは読みの速さに関して異なる特性をもつといえる.

2-8. 考察

実験IIIでは, 40cmの読書距離において, 人はフォントサイズ4ptの文章を音読する速さはそれより大きいフォントサイズの文章より遅く, フォントサイズ6pt, 9pt, 12pt, 15ptの文章は同じように速く音読できることが示された.

フォントサイズを15ptより大きくしても, 急激な数値の上昇があるとは考えにくく, フォントサイズ6pt以降の数値がほぼ上限であろう. 一般的にみて, 小さなフォントサイズからあるフォントサイズ(臨界文字サイズ)までは速くなり, そのフォントサイズ以上になると一定になるという2段階の関数があると予想できる. (より正確にいうなら, フォントサイズをさらに大きくすれば(例えば30pt以上)読みの速さは低下するであろう. )実験IIの結果は先行研究(e. g, Mansfield, Legge & Bane,1996;Legge,2007)とも一致する. 速く読むための臨界文字サイズ(Mansfield et al.,1996)がフォントサイズ6pt(視角0.28°)に相当する.

6ptのフォントサイズの印刷された紙面上での横幅は1.9mmである. これを40cmの読書距離における視角に直すとおよそ16.6′である. 視力1.0に対応するスネレンチャート視力表の文字の大きさ(横幅)は視角5′であるから(市原, 1994), 速く読める文字の大きさはその約3倍の大きさである. MS明朝とスネレンチャートの文字は線の太さが異なるので, 正確な比較はできないが視力と速く読める文字の関係を考える上で大まかな目安となろう.

Table 1

Font size (point) and Visual angle of letters used in the study

The height of 9pt is assumes about 2.9mm

Table 2

13 paired items used to measure legibility

Figure 1

Solid line (Experiment 1) : mean legibility is plotted as a function of font size. The maximum legibility is at 12 point. Broken line (Experiment 2) : Mean legibility with larger font sizes. Dotted line (Experiment 3) : Reading speed is plotted as a function of font size. Note large increment of reading speed between 4 and 6 pts and little increment between 6 and 15 pts. Error bars indicate 95% Confidence Intervals.

3. 総合考察

本研究の目的は, 読書の際に読むのに支障がなく, また主観的にも「読みやすい」と感じる文字の大きさを調べることであった. 実験の結果, この特性に適合する文字の大きさは, フォントサイズ12~20ptの範囲(視角0.55~0.92°)であった.

読みやすさと読みの速さの両方の特性からみると, フォントサイズ4ptの文字サイズは, 読みにくい印象を与え, 同時に読みの速さも比較的遅い. フォントサイズ6ptは, かなり読みにくいと評価されていたが, 読みの速さではより大きいフォントサイズと同様の速さで読むことが可能であった. 6ptの文字は, 読むという機能のみを考えるならば, 十分な大きさであるが, 読みやすいという主観的感覚(それは快適さに似ているかもしれない)を考慮すると, 適切な大きさとはいえない. 先行研究(阿久津, 2008)の結果と合わせると, 40cmの読書距離にあってはフォントサイズ10.5pt~20pt(視角0.4~0.92°)の文字は, 読むのに支障がなく, また主観的にも「読みやすい」と感じる大きさとえいる.

読みやすいと感じる文字の大きさがどのような要因によって決まるのか, 理論的に興味深い問題である. たとえば, 視覚的な制限によるのか, それとも見慣れた大きさという順応水準によるのかは, 新たな研究課題である.

最後に, 読みやすい文字を考える上では, 読みに関するいくつかの特性を同時に考慮することが重要であろう. たとえば, 単語探索課題の遂行を調べることで, 読みに適した文字サイズを検討することもできる(阿佐・小田, 2006). あるいは, 文章の理解度を指標としたり(清原・中山・木村・清水・清水, 2003), 視覚疲労を指標として(氏家・中村・佐川, 2004), 読みに適して文字デザインを検討することもできる. 「はじめに」で述べたように, 文字の大きさ以外に読みやすさに影響する要因は沢山ある. 大きさも含めて多くの要因について, 知覚閾上の文字を種々の日常の活動に関連する機能的側面から詳細に比較していくことにより, 読みやすい文字を適切に定義できるであろう.

引用文献
 
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