日本官能評価学会誌
Online ISSN : 2187-2546
Print ISSN : 1342-906X
ISSN-L : 1342-906X
研究報文
泡あり・泡なし清酒酵母の違いが食パンの構造およびおいしさに与える影響
峯木 眞知子田中 隆介田中 友香里西念 幸江五百藏 良庄司 善哉
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2011 年 15 巻 2-2 号 p. 98-106

詳細

I.緒言

パン酵母は,一般的にビール酵母の上面酵母を起源とした泡あり酵母である.酒造に用いられる清酒酵母には,親株である「泡あり酵母」と,その変異株の「泡なし酵母」が用いられている.泡あり酵母,泡なし酵母は遺伝学的に親子関係にあり,また,発酵生理,増殖能など同等の性質を持つが,細胞表層構造に違いがある(下飯,2002;竹田,1996).細胞表層構造のタンパク質の違いによって,泡あり酵母は「疎水性」,泡なし酵母は「親水性」である.清酒酵母のこのような性質が,酒醸造以外の食品製造に用いた場合における影響および機能は明らかにされていない.

そこで,本研究では,清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae)として分離した泡あり酵母,泡なし酵母を用いた食パンを調製して,食パンに与える影響を検討した.対照としてパン酵母を用い,疎水性および親水性の酵母の性質を知るためにバター有無による配合のパンを調製した.

ドウの発酵力,食パンの比体積,測色,テクスチャーを測定し,組織観察および官能評価を行った.清酒酵母を用いた食パンの品質特性を知ることにより,清酒酵母の新たな小麦粉製品への技術開発の基礎資料としたい.

II.実験方法

1.試料の調製

1)使用酵母

①パン酵母(S. cerevisiae,日清フーズ(株):ドライイースト)

②清酒酵母・泡あり酵母(S. cerevisiae,協会7号)

③清酒酵母・泡なし酵母(S. cerevisiae,協会701号)

清酒酵母2種はグルコース濃度2% YM培地(和光純薬工業(株))で24時間25℃,静置培養した前培養液20mlを本培養液400mlに接種した.本培養を25℃,24時間振とう培養で行い,4000rpm,5minにて遠心分離機(日立工機(株)CT6E)で集菌した.

2)食パンの調製

食パンの配合は,雁瀬(1976)に準じて調製した(Table 1).使用酵母は集菌した上記の清酒酵母2種とパン酵母を用いた.

材料は,強力粉(日清製粉(株),カメリヤ)100に対し,上白糖(日新製糖(株))10,塩(財団法人塩事業センター)1.5および水50とした.なお,清酒酵母の特性を見るのに,無塩バター(よつ葉乳業(株))を添加した配合とバターを添加していない配合の2種を調製した.

パンの調製には,ホームベーカリー(パナソニック(株)SD-BH)を用いた.パン酵母の場合は,通常のドライイーストコース(全工程4時間)を,清酒酵母は天然酵母コース(全工程7時間)を用いた.この機器では,ドライイーストコースで第一次発酵が35分,第二次発酵が130分で,天然酵母コースでは第一次発酵160分,第二次発酵が185分で設定されていた.発酵時間が主な工程の違いであった.

Table 1

食パンの配合

2.測定項目

1)ドウの発酵力

ドウの発酵力は,河野と小林(2001)の方法に準じ,発酵した体積を測定した.それぞれの酵母で調製したドウを,プラスチックチューブに各10g(10ml)いれ,それを36±1℃下の恒温器(SANYO)で発酵させ,ドウの体積の変化を調べた.測定時間は10分ごとに120分間までとした.測定は,ドウを各9個調製し,平均値と標準偏差を求めた.

2)食パンの重量および比体積

焼成1時間後室温(25℃)に放冷した食パンの重量を測定し,また,菜種法(金谷,1999)により,その体積を測定した.比体積は「比体積=体積(ml)÷重量(g)」により算出した.測定は,食パンを各3個作製し,平均値と標準偏差を求めた.

3)食パンの測色

焼成後1時間後室温(25℃)で放冷した食パンの中央部より,超音波カッター((株)山電)を用いて1.5×1.5×1.5cmの大きさに切ったものを測色定用試料とした.測色色差計(日本電色工業(株)ZE2000)により,CIE系に属するL値,a値,b値を測定し,色差(⊿E)を求めた.

測定はパンを各7個作製し,それぞれのパンより3個の試料をとり,各6面を測定した.

4)食パンのテクスチャー

測色用試料と同様の試料を用い,クリープメーター((株)山電RHEONER II RE2-33005B)で,テクスチャー測定を行った.

測定条件は,30mmプランジャー,歪率50%,測定速度1.0mm/s,ロードセル200N,アンプ倍率10倍で行い,かたさ,凝集性を求めた.測定は3種の試料ごとにパンを7個作製し,それぞれのパンより3個の試料を用いた.

5)食パンの組織観察

焼成1時間後室温(25℃)に放冷したパンの中央部から5×7×7mmに切りだした試料を10%ホルマリン液(リン酸緩衝液pH7.4)で,24時間以上固定し,常法に従い,パラフィン切片にした.多糖類をPAS反応によって染色後,光学顕微鏡(OLYMPUS BX50)で観察した.

同様の試料を2.5%グルタルアルデヒド(TAAB社製)・リン酸緩衝液(pH7.4)に浸漬して5℃,2時間以上の前固定を行った.洗浄後,1%オスミウム酸溶液(TAAB社製)による5℃,2時間の後固定を行い,エチルアルコール脱水系列を経て,臨界点乾燥した(庄司と峯木,1996).それを試料台に取り付け,イオンコーティング後,走査型電子顕微鏡((株)日立MiniscopeTM-1000,以下SEM)で観察した.また,食パンの構造の特徴を見るために,気泡の長軸の長さと長短軸比を求めた.

6)パンの官能評価

焼成後12時間室温(25℃)に放冷したパンの中央部より2×2×2cmに切りだしたものを官能評価用の試料とし,T大学学生21名をパネルとした.3種の酵母を用いた食パンについて,5段階評点法で行った.評価尺度は,パンのきめ,色,香り,甘味,軟らかさ,総合評価で,カテゴリーは好ましさ(1:非常に悪い~5:非常に良い)とした.

3.統計処理

ドウの発酵力,パンの比体積,測色,テクスチャー,気泡の大きさおよび官能評価のデータは,バター添加配合およびバター無添加配合内の各酵母パン群で比較した.一元配置分散分析後,Tukey-KramerのHSD多重比較を用いて検定し,5%未満を有意水準とした.ソフトはJMP8(SAS Institute Inc.)を用いた.

III.結果および考察

1)ドウの発酵力

酵母の違いによるドウの発酵時間ごとの体積の変化をFigure 1に示した.

パン酵母のドウは,発酵の開始が早く,発酵速度を示す傾きの角度が大きかった.

泡あり酵母ドウは発酵時間10分でも膨らまなかった.発酵速度の傾きの角度は,3種の中で最も小さかった.泡なし酵母ドウは,発酵時間10分間でわずかに体積が膨らんだ.

発酵120分後のドウの体積をみると,バターを添加したドウは,いずれもバター無添加ドウより体積が大きかった.バター添加したドウをみると,泡なし酵母ドウ34.1±0.3mlが最も大きく,パン酵母ドウ33.9±0.9ml,泡あり酵母ドウ30.9±0.8mlの順に小さかった.しかし,バター無添加のドウでは,発酵120分後3で種間に違いはなかった.

泡あり酵母で,バター添加したドウは,発酵体積が他のドウより有意に小さかった.親水性の泡なし酵母は,発酵はやや遅いが,発酵体積をみると,パン酵母パンと同様の体積を示すことが分かった.

Figure 1

酵母の違いによるドウの発酵体積の変化

1)値は平均値±標準偏差(n=9)

2)ドウを,プラスチックチューブに10g(10ml)混入,36±1℃下の恒温器で120分保温

2)食パンの断面

酵母の違いによる食パンの断面をFigure 2で示した.バター添加の場合,パン酵母パンは,膨らみが良く,その断面の気泡が大きかった.泡あり酵母パンも,膨らみが良かったが,泡なし酵母パンは膨らみがやや悪く,断面のきめが細かく見えた.

バター無添加の食パンでは,いずれも形がいびつで,保形性が悪い傾向であった.

Figure 2

酵母の違いによる食パンの断面写真

1)スケールバーは5cm

3)食パンの比体積

酵母の違いによるパンの重量および比体積をTable 2に示した.

パン酵母パンでは,バター添加した場合の比体積は,5.7で最も大きかったが,バター無添加では4.5で小さかった.

泡あり酵母パンでは,バター添加した場合の比体積は5.2で,泡なし酵母パン4.9に比べて大きかったが,有意差はなかった.泡あり酵母では,Figure 1で示した通り,120分発酵させたドウの体積は,泡なし酵母パンに比べて有意に小さかったが,焼成したパンでは,泡なし酵母パンより大きかった.このことより,泡あり酵母は,ドウの発酵が悪くても,焼成時の釜のびが大きいことが推測される.

バター無添加のパンの比体積は,いずれも4.5を示し,3種に違いがなく,ドウにおける発酵120分の体積がほぼ同じ大きさであったことと,類似した傾向を示した.バター添加した場合,パンの比体積は添加しなかったパンよりいずれも大きかった.バターはそのクリーミング性(下村と和田,1998)によりパンの膨化がよくなることが知られている(O. Leissner, 1988).

泡なし酵母パンの比体積をみると,バター添加で4.9,バター無添加のパン4.5で,バターの影響は,他の酵母を使用したものより小さかった.

Table 2

食パンの重量および比体積

4)食パンの測色

酵母の違いによる食パンの測色をTable 3に示した.

パン酵母パンとの色差(⊿E)を比較すると,バター添加では,泡あり酵母パンとの色差は0.6で,泡なし酵母パンの色差は2.1で「感知せられるほどに」であった.バター無添加の場合では,泡あり酵母パンでは2.8で「感知せられるほどに」の判定で,泡なし酵母パンでは4.4で「めだつほどに」と違うと判定された.

泡あり酵母を用いたパンはバターの有無にかかわらず,パン酵母に近い色のパンが調製できることがわかった.逆に泡なし酵母パンは,パン酵母パンと識別できる色を示し,特にバター無添加の場合では明らかに異なることがわかった.

Table 3

食パンの測色

5)食パンのテクスチャー

酵母の違いによる食パンのかたさと凝集性の結果をFigure 3に示した.

食パンのかたさでは,パン酵母パンはバター添加で最も低く,バター無添加では,泡あり・泡なし酵母パンの中間の値を示した.泡あり酵母パンは,最も高い値を示し,バター無添加配合では,699.9±143.5Paで有意に高かった.

食パンの凝集性では,パン酵母パンがバター添加0.82±0.02で,泡あり酵母パン0.83と泡なし酵母パン0.81の中間の値を示し,バター無添加では0.87±0.02Paで最も高い値を示した.泡あり酵母パンはバターの添加にかかわらず,最も低い値を示した.泡なし酵母パンはバター添加配で最も高い値を示した.

泡あり酵母パンは,バター添加の有無にかかわらず,パンのかたさが最も高く,凝集性は低い傾向を示した.泡なし酵母パンはバターの有無によるかたさおよび凝集性の違いが少なかった.

Figure 3

酵母の違いによる食パンのテクスチャー

1)値は平均値±標準偏差(n=21) 2)*:p<0.05

3)クリープメーター((株)山電RHEONER II RE2-33005B)を用い,30mmプランジャー,歪率50%,測定速度1.0mm/s,ロードセル200N,アンプ倍率10倍の条件で測定

6)食パンの組織構造

酵母の違いによるバター添加配合の食パンの組織構造をFigure 4に示した.

パン酵母パンでは,気泡(g)が丸く大きく,比較的形がそろっていた.グルテンの網状構造は細く,連続性があった(Figure 4-A).泡あり酵母パンでは,気泡の形は不均一で大きかった.また,グルテンの網状構造は太いが,隙間が見られた(Figure 4-D).泡なし酵母パンでは,気泡の形は丸く小さいものが観察され,グルテンの網状構造は比較的太く,連続性が悪かった(Figure 4-G).そこで,気泡の長軸を調べると(Table 4),パン酵母パンと泡あり酵母パンは,1.23-1.24mmでほぼ同じ大きさであったが,泡なし酵母パンは0.73mmで有意に小さかった.気泡の長短軸比では,泡あり酵母パンは1.89で楕円形であったが,泡なし酵母パンは1.33で小さい値を示し,丸い形を示した.これらは泡なし酵母パンの比体積が悪いことに関与していると考える.また,パン構造におけるでんぷん粒は,グルテンの網状構造間に油脂とともに包含されて存在しているが,その結合性が弱いために光学顕微鏡試料作製過程において,露出したものと考えられた.泡あり酵母は,疎水性であるために,油脂との結びつきが強く,試料の脱水過程による非水系溶媒の脱脂により,気泡中に飛び出したものが多いと推察された.

グルテンの網状構造を高倍で観察すると,パン酵母パンでは糊化したでんぷん粒を包みこんで,密な状態で細長く伸びていた(Figure 4-B).それに対して,清酒酵母パンのグルテンの網状構造では空隙が多く,粗い状態であった(Figure 4-E, H).特に泡あり酵母パンでは空隙が多く観察された(Figure 4-E).気泡面を見ると,パン酵母パンと泡あり酵母パンは白い小さな脂肪球(f)が多くみられ,脂肪球はいずれもでんぷん粒を囲んだ状態で表面に存在していた(Figure 4-C,F,I).

酵母の違いによるバター無添加配合の食パンの組織構造をFigure 5に示した.

バター無添加配合の食パンでは,いずれも,バター添加配合パンより気泡が大きく,不均一であった(Figure 5-A,D,G).これらの気泡の長軸の長さは(Table 4),パン酵母パンが1.47mmで長く,泡あり酵母パンが1.37で短かったが,有意差はなかった.気泡の長短軸比をみると,パン酵母パンは小さく,泡なし酵母パンが有意に大きかった.気泡の長軸の長さの標準偏差をみると,ばらつきが大きかった.

バター無添加配合の食パンでは,グルテンの網状構造はいずれも粗く,太くてその中に空隙が観察された(Figure 5-E).泡あり酵母パンは,連続性が悪い傾向であった(Figure 5-H).気泡面をみると,泡あり酵母パンにはでんぷん粒の露出と大きな空隙(矢印)が観察され,泡なし酵母パンは平滑面を示した(Figure5-C,F,I).空隙の多いグルテンの網状構造は,バター無添加配合パンの比体積の小さいことやテクスチャーに関与していると考える.油脂を添加していない配合では,気泡面に油脂が存在しないことから,気泡の保護やグルテンの網状構造が弱く(庄司と峯木,1987),パン酵母や泡あり酵母パンの比体積が小さくなった原因と考える.

Figure 4

酵母の違いによる食パン(バター添加)の組織構造

A-C:パン酵母パン A,B:断面 C:気泡面

D-F:泡あり酵母パン D,E:断面 F:気泡面

G-I:泡なし酵母パン G,H:断面 I:気泡面

A,D,G(光学顕微鏡像):パラフィン切片5μm,PAS反応 B,E,H:グルテンの網状構造

B,C,E,F,H,I(SEM像):2.5%グルタルアルデヒド,1%オスミウム酸二重固定後,脱水し,臨界点乾燥,イオンコーティングして観察((株)日立Miniscope TM-1000) g:気泡 f:脂肪球

Table 4

食パンの気泡の大きさ

Figure 5

酵母の違いによる食パン(バター無添加)の組織構造

A-C:パン酵母パン A,B:断面 C:気泡面

D-F:泡あり酵母パン D,E:断面 F:気泡面

G-I:泡なし酵母パン G,H:断面 I:気泡面

A,D,G(光学顕微鏡像):パラフィン切片5μm,PAS反応 B,E,H:グルテンの網状構造

B,C,E,F,H,I(SEM像):2.5%グルタルアルデヒド,1%オスミウム酸二重固定後,脱水し,臨界点乾燥,イオンコーティングして観察((株)日立Miniscope TM-1000) g:気泡 矢印:でんぷん粒の露出部分

7)食パンの官能評価

バター添加の食パン3種の官能評価(Table 5)では,「香り」の項目で,泡なし酵母パンが3.7点で,泡あり酵母パン3.2点,パン酵母パン3.1点より有意に好まれた.甘味では,泡あり酵母パンがパン酵母パンより有意に好まれなかった.また,パンの軟らかさで泡なし酵母パン3.5が有意に好まれた.その他のきめ,色および総合評価では,3種のパンに有意な差はなかった.従って,パン酵母パンと色で識別できる泡なし酵母パンでは,パン酵母パン同様に好まれたと考える.

バター無添加配合の食パンの官能評価(Table 5)では,甘味で泡なし酵母パンが最も低い値を示し,有意に好まれなかったが,その他の項目では,いずれも有意差はなかった.

以上のことから,バター添加の食パンにおいては,香り,甘味,やわらかさでそれぞれの酵母の特性が表れたと考えられ,バター無添加配合の食パンの場合では,それぞれの項目で差が少なくなる傾向があった.これは,バター無添加配合の食パンでは,使用酵母の性質が表れにくいことを示すと推察された.

Table 5

酵母の違いによる食パンの官能評価

IV.まとめ

清酒酵母の泡あり酵母および泡なし酵母を用いて食パンを調製し,パン酵母で作ったパンを対照にして,その比体積,色,テクスチャー,組織構造および官能評価を検討した.

1)食パンの比体積は,バター添加配合では,パン酵母パンが大きく,泡あり酵母パン,泡なし酵母パンの順に小さかった.バター無添加パンでは,泡あり・泡なし酵母パンはパン酵母パンと同様の比体積であった.

2)食パンの色は,泡あり酵母パンはパン酵母パンに近い色を示したが,泡なし酵母パンは,識別できる色を示した.

3)食パンのかたさを見ると,バター添加配合では,3種のパンに有意差はなかったが,バター無添加配合では,泡あり酵母パンが有意に硬く,泡なし酵母パンがやわらかい傾向を示した.食パンの凝集性では,泡あり酵母パンが低い傾向を示し,バター添加の影響はみられなかった.

4)食パンの組織構造では,酵母の種類による違いが気泡の形状にみられ,特に泡なし酵母パンでは,気泡の形が小さく丸かった.これは酵母の性質が関与していると考える.バター無添加配合の場合は,気泡はいずれも大きく,扁平で,グルテンストランドが粗く,空隙が多く見られた.これらは食パンの保形性に影響した.

5)食パンの官能評価では,バターの有無にかかわらず,総合評価で3種の食パンに有意差は見られなかった.

以上より,酵母の種類からまとめると,疎水性の泡あり酵母では,バターの有無による影響が大きく,バター添加では食パンの比体積が大きく,食パンの凝集性は泡なし酵母パンより有意に低かった.また,組織構造をみると,気泡の大きさは,パン酵母パンに近い構造を示した.バター無添加パンでは,比体積が小さくなり,泡なし酵母パンより硬いことが分かった.官能評価では,泡なし酵母パンと大きな差がなかった.

親水性の泡なし酵母では,バターの有無による影響が比体積,テクスチャーおよび官能評価で泡あり酵母パンより少なかった.しかし,バター添加配合の食パンの比体積は,パン酵母パン,泡あり酵母パンに比べて小さかった.組織構造をみると,気泡が均一ではあるが,小さな球形で気泡の保持に泡あり酵母パンとの違いが認められた.官能評価においては香りおよび軟らかさが好まれた.バター無添加配合では,官能評価の総合評価においてパン酵母パンおよび泡あり酵母パンと同等の評価を得た.

従って,泡あり酵母パンは,発酵時間が多くかかるものの,パン酵母に近い比体積,色,組織構造を示し,パン酵母同様の用い方ができると考える.泡なし酵母パンでは油脂を添加した配合の場合,好ましい香りで,他の食材と相性が良いと考えられるため,食パン以外で,肉まん,アンパンなどの利用で性質が活かされるのではないかと考えられた.また,油脂が添加されない配合では,比体積,保形性,凝集性および官能評価などで,パン酵母パン,泡あり酵母パンと違いが少なかったので,フランスパンなどへの利用の可能性を検討したい.

謝辞

本研究に当たり,試料作成にご協力いただいたライカジャパンの泉恵子氏,予備実験にご協力いただいた大妻女子大学佐藤香澄氏に深謝いたします.

引用文献
 
© 2011 日本官能評価学会
feedback
Top