平成25年8月の日本の総人口に占める65歳以上の割合は24.9%であり,約4人に1人が高齢者となっている1).
高齢者では,年齢を重ねるにつれてさまざまな機能低下が生じ,咀嚼・えん下困難もその1つに挙げられる.特に,えん下困難者では,誤嚥の危険性が生じ,誤嚥が継続すると誤嚥性肺炎となる.そのためえん下困難者用食品は,やわらかく調理すること,粘度の低い場合には,とろみをつけるなど,まとまりやすくして,誤嚥を防ぐ工夫がなされている.えん下困難者用食品の指標としては,厚生労働省が示したえん下困難者用許可基準2)や,日本介護食品協議会が示したユニバーサルデザインフードの規定3)がある.これらえん下困難者用食品の規格では,硬さ,凝集性,付着性などのテクスチャー特性が指標として定められているが,粘度についての規定はユニバーサルデザインフードの規定2区分に定められているだけである.
岩崎らは,咀嚼困難用食品を検討し,とろみ調整食品を液状食品に添加するときは,攪拌動作を伴うことから,テクスチャー特性のみではなく,攪拌による測定から得られる流動特性が重要であると報告している4).また,小城らは,物性の特徴を示すジャム状,ケチャップ状,ヨーグルト状といった表現を,粘度を定義づける主観的表現であると記しており5),粘度はえん下困難者用食品の評価において考慮すべき特性といえる.2012年には,えん下調整食学会基準案2012が示されており,この基準案には粘度が示されている6).
高齢者を中心としたえん下困難者の介護は,家庭だけでなく,特別養護老人ホームや介護老人保健施設でも行われている.そのため簡便にとろみをつけることができるとろみ調整食品の需要は高まっており,とろみを正確に調整することは重要であると考えられる.
これまで,ハチミツなどのイメージを指標として,言語聴覚士により行われたとろみ調製については,被験者の調製したとろみの状態に,ばらつきが大きかったことが報告されている7).しかし,病院や高齢者施設においてとろみ調製は,給食を管理する管理栄養士・栄養士が行うことが多いと考えられる.
そこで本研究では,今後給食管理を担うであろう管理栄養士養成施設の学生を対象とし,とろみ調製について検討した.
とろみ調整食品は,低粘度,中粘度,高粘度などの指標として,ポタージュ状,とんかつソース状,ケチャップ状などの一般的な食品名が示されている.事前に製造会社への聞き取りを行ったところ,市販とろみ調整食品の指標は,必ずしも実際に食品の粘度を測定して,表示されてはいなかった.併せて行った高齢者施設への聞き取りにおいてほとんどの高齢者入居施設に,とろみ調製時の目安となるマニュアルは存在しておらず,とろみ調製は各自の経験に頼って行われていた.そこで本研究では,指標として示されている食品の粘度を正確に調製再現できるかを検証した.また,指標食品の妥当性およびとろみ調製に及ぼす調製液量の影響について検討した.
みかけの粘度(以下ηappと称す)を測定するための試料として,とろみ調整食品製造会社6社の7製品(以下とろみ調整食品A~G)を用いた.7種の製品中6種類は低粘度,中粘度,高粘度の3段階で,1種類(D)は2段階で,指標となる粘度が設定されていた(Table 1).とろみ調整食品の指標は,低粘度指標食品としては,フレンチドレッシングとポタージュ,中粘度指標食品としてはとんかつソース,ヨーグルトとハチミツ,高粘度指標食品としてはマヨネーズ,ジャムとケチャップを用いた.指標とされた食品と比較に用いた実際の食品をTable 2に示した.
各市販とろみ調整食品の指標
異なるアルファベットの文字間には有意差(p<0.05)があることを示す.
比較食品一覧
内径80mm,高さ10cmの300ml容ビーカーに蒸留水200ml(30°C)を入れ,各社指定の容量あるいは重量割合のとろみ調整食品を添加し,薬さじを用いて,130~160回/minの速度で100回撹拌し,試料(以下とろみ溶液と称す)とした.表示量に幅のある場合は下限値と上限値2種類の調製を行った(下限値の添加量を(下),上限値の添加量を(上)と示す).
食品試料の温度は,えん下困難者用食品の設定の基準では,「冷たくして食する又は常温で食する食品は10±2°C,温かくして食する食品は20±2°C及び45±2°Cで行うとある8)が,市販食品ととろみ溶液の比較における市販食品の温度は,実際に調製するときの温度を考慮し,予備実験の結果より,実際の喫食状況に近いようTable 2に示した通りに設定した.
2.パネルが調製したとろみ溶液の評価パネルが指標食品のηappをどのように認識しているか調べるため,パネルにとろみ調整食品を用いて指標とされる食品のηappと同じとろみに調製するよう指示した.
実験は1人ずつのブースに区切られた官能評価室で行い,パネルは管理栄養士養成を行っている松本大学20~22歳の女子学生50名とした.とろみ調整食品として,予備実験より,水に溶けやすく,時間依存性の少なかったナイスデイ製の「トロメイクSP」を用いた.300ml容ビーカーに蒸留水200mlを入れ,所定量のとろみ調整食品,泡立て器を用いて指定した指標食品と同じとろみに調製した.指標食品は,低粘度食品としてポタージュ,中粘度食品としてとんかつソース,高粘度食品としてケチャップの3種類とした.ポタージュについては予備実験を行った結果,イメージするポタージュが,粉末タイプ,レトルトタイプ,手作りタイプと分かれたため,調製時にどんなポタージュをイメージしたかを併せて質問した.調製した溶液は直ちにBROOK FIELD社製デジタルB型回転粘度計RVDV-Eを用いてηappを測定した.粘度の異なる試料を同一速度で測定するため高粘度溶液においても測定可能な回転速度として5rpmに固定した.スピンドルは,直径14.62~46.93mmの5種類を,各試料の粘度に合わせて使用した.いずれの試料も回転開始60秒を保った後のηappを測定値とした.
3.指標食品ととろみ溶液のみかけの粘度Table 1に示した7製品およびTable 2に示した実際の食品について,前述の通り粘度計にてηappを測定した.
4.調製液量によるみかけの粘度の認識調査一般に食品にとろみを付ける場合,そのとろみ付けの対象となる食品の液体量はさまざまである.そこで,調製に用いる水の量を変化させて,マヨネーズ状にとろみをつけたときの,とろみの程度を比較した.溶媒となる蒸留水の量は,20ml,50ml,100ml,150mlの4種類とし,松本大学人間健康学部健康栄養学科の20歳代の女子学生計52名を対象にマヨネーズ状を高粘度の指標としている株式会社クリニコの「つるりんこQuickly」を使用し,2の実験と同様の方法で官能評価を行った.
また,溶液量が少ない場合,前述の粘度計では,とろみ溶液の測定を行うことができないため,とろみの程度を測定する方法として,高橋ら9)の方法に準じて,リング法を用いた.リング法の測定量は10ml以上必要であると報告されている.ガラスリングは内径30mm,高さ20mmとし,リングに試料(試料温度30°C)を充填した後,リングを上方向に取り除いて,ばらつきが小さく,数値が安定する120秒後の試料直径と高さを測定した.直径を測定する際は,最も直径の長い部分をr1とし,それに直角に交わる直径をr2とし,その平均値をrとして用いた(式1)).垂直に試料の最も高いところまでの高さ(h)とし,直径rと高さhの比を広がり係数Rとして求めた(式2)).また,リング重量の変化から付着量を求めた
r=(r1+r2)/2 (式(1))
R=r/h (式(2))
5.統計処理統計処理は統計解析ソフトPASW Statistics 18を用いて分散分析を行い,Schefféの方法により検定を行った.等分散が仮定されない項目についてはKruskal-Wallisの方法によりノンパラメトリック検定を行った.
とろみ調製の指標として表示されているポタージュ状(低粘度),とんかつソース状(中粘度),ケチャップ状(高粘度)について,パネルが調製したとろみ溶液のηappをFig. 1に示した.
パネルが調製したとろみ溶液の粘度
低粘度の食品として指標とされたポタージュ状について,調製されたとろみ溶液のηappはパネル間で64~11,900Pa・sとばらつきがあった.
パネルがポタージュ状のとろみ溶液を調製する際,イメージしたポタージュの種類をFig. 2に示した.その結果,レストランのポタージュや手作りより,加工品である粉末タイプのポタージュをイメージして,とろみを調製する被験者が最も多く,パネル中66%が粉末ポタージュをイメージしていた.ただし,調製されたとろみ溶液のηappにおいて,イメージしたポタージュによって有意差は認められなかった.
とろみ調製時にイメージしたポタージュ
とんかつソース状に調製されたとろみ溶液のηappは,56~19,480Pa・sとポタージュ状よりさらにばらつきが大きかった.また,ポタージュ状に調製されたとろみ溶液ととんかつソース状に調製されたとろみ溶液のηappに有意差は認められなかった.
3)ケチャップ状ケチャップ状に調製したとろみ溶液のηappは,64~30,720m Pa・sであり,ポタージュ状,とんかつソース状よりさらにばらつきは大きかった.また,ケチャップ状に調製されたとろみ溶液は,ポタージュ状およびとんかつソース状に調製されたとろみ溶液より有意に高いηappを示した(p<0.05).
2.指標食品のみかけの粘度表示通りのとろみ調整食品添加量で調製したとろみ溶液と,指標として用いた実際の食品のηappを,Fig. 3(a-h)に示した.
とろみ溶液と実際の食品のみかけの粘度
異なるアルファベットの文字間には有意差(p<0.05)があることを示す.
フレンチドレッシング状については,実際の食品として乳化タイプの2品種(a,b),分離タイプの1品種(c)および手作りドレッシング10)の1品種(d)の計4種類とした(Fig. 3a).分離タイプ(c)および手作りドレッシング(d)は,乳化タイプ(a)との間に有意差が認められず,乳化タイプ(b)より有意にηappは低かった(p<0.05).とろみ溶液B,Gのηappは,いずれの実際の食品との間にも有意差は認められず,乳化タイプ(a,b)と分離タイプのフレンチドレッシング(c)及び手作りドレッシング(d)間のηappを示した.
2)ポタージュ状ポタージュ状は,実際の食品として粉末タイプ(a,b),手作り10)(c)の3種類のポタージュと比較した(Fig. 3b).その結果,とろみ調整食品の指標通りに調製したとろみ溶液4種類(A,C,E,F)のうち,最もηappの高い(A)は,実際の食品中最も低いηappであった手作り(c)より有意に高いηappを示した(p<0.05).実際の食品間では,粉末タイプである(a)は手作り(c)より有意にηappが高かった(p<0.05).
3)とんかつソース状とんかつソース状は,実際の食品として,3種類の市販とんかつソースと比較した(Fig. 3c).
その結果,市販のとんかつソースのηappはいずれの試料間にも有意差は認められなかった.表示通りに調製したとろみ溶液について,とろみ溶液Bは,とろみ溶液を表示の下限量を添加したとろみ溶液D(下)より有意に高いηappを示した(p<0.05)が,とろみ溶液を,表示の上限量を添加したとろみ溶液D(上)との間に有意差は認められなかった.また,とろみ溶液Gは,とろみ溶液(B,D(下),D(上))との間に有意差は認められなかった.また,とろみ溶液と市販品間において,とろみ溶液Gは市販品bより有意に低いηappを示した(p<0.05).
4)ヨーグルト状ヨーグルト状は,実際の食品として3種の市販ヨーグルト(a,b,c)とηappの比較を行った(Fig. 3d).
ヨーグルトはとろみ調整食品の指標通りに調製したとろみ溶液間において有意差は認められず,同程度に調製されていた.また,市販品のヨーグルトは,市販品間において有意差は認められなかった.とろみ溶液と市販品間においては,いずれのとろみ溶液も市販品より低いηappを示し,市販品中最も高いηappを示した市販品(c)は,とろみ溶液E,Fより有意に高いηappを示した(p<0.05).
5)ハチミツ状ハチミツ状について,実際の食品として4種類の市販ハチミツとηappを比較した(Fig. 3e).市販品a,b,c,dはとろみ溶液Cとの間に有意差は認められなかった.
6)マヨネーズ状・ジャム状・ケチャップ状マヨネーズについて,2種類の市販マヨネーズとηappの比較を行った(Fig. 3f).その結果,とろみ溶液Aのηappはいずれの市販マヨネーズより有意に低く,とろみ溶液と実際の食品との差は大きかった(p<0.05).
ジャム状について,4種類の市販ジャムとηappの比較を行った(Fig. 3g).その結果,最もηappの高かったとろみ溶液Cは,他のとろみ溶液(E,F)より有意に高いηappを示した(p<0.05).しかしいずれのとろみ溶液も4種類の市販品(a,b,c,d)との間に有意差は認められなかった.また,市販の4種類のジャムも市販品同士の有意差は認められなかった.
ケチャップ状は,4種類の市販ケチャップとηappの比較を行った(Fig. 3h).その結果,いずれのとろみ溶液(B,G)も,市販ケチャップ(a,b,c,d)より有意にηappが低く(p<0.05),実際の食品のηappと,指標通りに調製したとろみ溶液のηappは異なる値を示した.
以上のことから,指標の表示通りに調製したとろみ溶液のηappは,実際の食品のηappとは異なる場合があることが示された.
高粘度の指標とされた,マヨネーズ状,ジャム状,ケチャップ状について,ジャム状では,いずれのとろみ溶液でも,全ての市販品との間に有意差は認められなかった.マヨネーズ状,ケチャップ状においてはいずれのとろみ溶液も,全ての市販食品より低いηappを示し,実際の食品より低粘度に調製するよう指示されていた.
3.溶液量によるとろみ調製への影響とろみ調整食品を溶解する蒸留水の量を20~150mlに変化させて,マヨネーズ状にとろみをつけて調製したときの120秒後の広がり係数をFig. 4に示した.広がり係数は,粘度が高い試料ほど小さい値を示す.また,Fig. 5に示した通り,ガラスリングに付着した溶液量に有意差は認められず,付着量は広がり係数に影響を与えないものと考えられた.
液量によるマヨネーズ状に調製したとろみ溶液の広がり係数
異なるアルファベットの文字間には有意差(p<0.05)があることを示す.
リング法におけるとろみ溶液のリングへの付着量
※ いずれの試料間も有意差無し
Fig. 4より,調製液量が少なくなるほど広がり係数は小さくなり,150mlで調製されたとろみ溶液は20mlで調製されたとろみ溶液より,有意に広がり係数が大きくなった(p<0.05).また,パネルが調製したとろみ溶液は,いずれの調製液量で調製した場合も,表示通りに調製したとろみ溶液Aとの間に有意差は認められなかったが,市販マヨネーズと比較して有意に広がり係数が大きくなった(p<0.05).マヨネーズはケチャップ同様とろみ調整食品において高粘度食品の指標とされているが,ケチャップ同様に実際の食品より低粘度側にイメージされることが示唆された.
小城らは,栄養士を対象に,粘度を定義づける主観的表現から受ける物性イメージを検討し,個人差が大きい表現がある事を報告している5)
本研究においても,低粘度,中粘度,高粘度いずれのとろみ溶液調製でも,食品の物性イメージに個人差がある事が示された.低粘度の指標であるポタージュについて,実際の食品(Fig. 3b)と比較すると,最もηappが低かった手作りより低いηappに調製したパネルは少なく,4名であった.対して,実際の食品のうち最もηappが高かった市販品aより高くηappを調製したパネルは27名で,パネルの半数以上が実際の食品より高いηappにとろみを調製していた.また,今回,粉末スープをイメージしてとろみを調製するパネルが多かったが,パネルが調製したとろみ溶液の平均ηapp値は粉末スープ2種のηappの範囲内より,高値であり,イメージより高い粘度にとろみをつけてしまうことが推測された.
ポタージュ状については,ヒトの感覚で調製したとろみ溶液のかたさ,凝集性,付着エネルギーについて,製品のパンフレットにみる目安量と一致する,との報告がある11).本研究の結果より,とろみ溶液A~Fのポタージュ状との比較において,パネルが調製したとろみ溶液の平均値ととろみ溶液4種の平均値はほぼ同程度であり,とろみ調整食品製造会社のとろみイメージとパネルのイメージはほぼ一致していた.
とんかつソース(Fig. 3c)は,とろみ溶液,市販品ともに全体的に低粘度のポタージュ状より高いηappを示していたが,パネルが調製したηapp(Fig. 1)は,ポタージュととんかつソース間に有意差は認められなかった.また,とろみ溶液において,いずれの製品も,ポタージュ状ととんかつソース状間には有意差が認められなかった.また,市販とんかつソースa~cのηappより低くηappを調製するパネルが多かった.とろみ溶液との比較においては,パネルの50%にあたる25名が,とろみ溶液のうち最も低いηappを示したD(下)と最も高いηappを示したBの間に調製しており,とろみ調整食品製造企業のとろみのイメージは半数のパネルのイメージと一致していた.
高粘度食品であるケチャップについて,ほとんどのパネルが市販品(26,984~32,056Pa・s)より低くηappを調製し,実際の食品のηappを再現できていないことが示唆された.また,企業がイメージしているとろみ溶液のηapp(6,717~13,466Pa・s)より低くとろみを調製するパネルが6割以上であり,高粘度のケチャップに関しては,提示された食品のイメージより低粘度側に調製する傾向が示唆された.
この結果を踏まえて,高粘度にとろみ溶液を調製する際には,実際より,そして企業がイメージしているより低くとろみをつけてしまう傾向があることに注意する必要があると推察された.
2.食品の指標ドレッシング(Fig. 3a)は,乳化タイプa,bと分離タイプc,dでηappに大きな違いがあった.JAS法において,ドレッシングは食用植物油脂と酢もしくはかんきつ類の果汁を主原料として,水中油滴型に乳化したもの,または分離液状の調味料(中略),としている12).しかし,水中油滴型エマルションにおいて,油滴サイズは粘度に大きく影響する.とろみ調整食品で想定されているηappは,分離タイプに近く,指標とする場合は,少なくとも分離タイプであることを明記する必要があると推察された.
ドレッシングと同じく低粘度食品の指標であるポタージュは,とろみ溶液Aが他のとろみ溶液より高いηappを示した.とろみ溶液A,Eにおいてとろみを発現する主な原料は,キサンタンガムであり,とろみ溶液Cにおいては,でんぷんである.とろみ調整食品Aのキサンタンガム含有量は表示によれば30%,とろみ調整食品Eの同含有量は44%である.とろみ調製の際の添加量から算出されるとろみ溶液のキサンタンガム含有割合は,とろみ溶液Aで0.45g/100ml,とろみ溶液Eで0.22g/100mlである.また,でんぷん系はガム系のとろみ調整食品より粘度が低い事が知られている13)これらの成分および添加濃度の違いにより,とろみ溶液Aで,他のとろみ溶液よりηappが高くなったと推測された.
とんかつソースはJAS法によるソースの分類において濃厚ソースにあたるものである14).
濃厚ソースはウスターソース類のうち,粘度が2.0Pa・s以上のものをいい,本研究で用いた市販とんかつソースはいずれも2.0Pa・sを超えていた.
とんかつソース状のとろみ溶液Bのηappは,とんかつ状に調製したとろみ溶液のうち最も高いηappを示した.また,同じく中粘度の指標であるヨーグルト状のとろみ溶液A(上)のηappは,それ以外のヨーグルト状に調製したとろみ溶液のηappより有意に高かった.これらA,Bのとろみ溶液は,いずれもキサンタンガム系のとろみ調整食品で,且つ各指標において添加割合が高かった.キサンタンガム系であっても添加量が少ないとろみ溶液,あるいはでんぷん系のとろみ調整食品を用いて調製したとろみ溶液のηappは低くなった.
ポタージュは,実際の食品間の差が,フレンチドレッシングの差より小さかった.また,ポタージュ状のとろみ溶液Aと手作りの間のみに有意差が認められ,その他の実際の食品ととろみ溶液との間にηappの有意差が認められなかった.さらにはパネルが調製したポタージュ状のとろみ溶液のηappは表示通りに調製したとろみ溶液と同程度であった.以上のことから,ポタージュは粘度の指標として使用できる可能性があることが推察された.
ハチミツについては,今回用いたとろみ調整食品のうち,1製品のみで使用されていたが,いずれの市販品とも有意差が認められず,市販品間にも違いがなかったことから,今回の測定においては,中粘度の指標として適当であることが示唆された.しかし岩崎らは,ハチミツとヨーグルトを用いて市販食品ととろみ溶液の性状について検討し,ハチミツのようなニュートン流体は,攪拌した時の抵抗がとろみ調整食品添加試料と大きく異なっており,攪拌時に評価されるずり速度である50s-1における粘性率が有意にとろみ調整食品添加試料より高値にあったことから,とろみ溶液の指標として適さないことを示唆している4).このことから,ハチミツを指標とする場合は,測定条件に注意が必要であると考えられた.
高粘度食品として,とろみ溶液と実際の食品の比較をマヨネーズ,ジャム,ケチャップで行った.
その結果,市販マヨネーズのηappは,とろみ溶液との差が大きく,ジャムに関しては,市販品間に有意差が認められなかったが,ジャムには果肉や果皮が含まれており,標準偏差が大きいことから指標として適当とはいえなかった.ケチャップは,市販品間に有意差が認められたものがあったが,平均値の差はマヨネーズ,ジャムより小さかった.また1製品の標準偏差が,高粘度食品の中では比較的小さく,高粘度の指標としては適している可能性があると考えられた.ただし前述のように,パネルは実際の食品より低くとろみを調製する傾向があることを踏まえて指標とする必要があると推察された.
3.調製液量本研究により,調製液量が物性の認識に影響し,液量が多くなるほど粘度を低く認識していることが示唆された(Fig. 4).調製に際しては,液量が多いと撹拌する際,感じる抵抗が大きくなることが,一因と推測された.とろみの基準については,先に示したようにさまざまな規程あるいは基準,測定法が示されているが,食卓でとろみ調製を行う際には,人の感覚により調製されることが多い.例えば,えん下困難な場合お茶にとろみをつけることがあるが,一般的な湯量は,ほうじ茶では100ml,紅茶では150ml,コーヒーで80~140mlとお茶の種類によっても喫食液量はさまざまである15).更に食事に含まれる液体量は料理毎に異なっている.食品から思い浮かべるとろみは個々人においては統一されていると推測されるが,液体の量が影響して,想定と異なるとろみ溶液を調製してしまうものと推察された.このことから,調製者には液量について考慮しながらとろみを付けるよう指導する必要があると示唆された.また,Fig. 1でパネルが調製したとろみ溶液量は200mlであったため,より低いηappに調製されてしまったものと推察された.すなわち調製液量の多さが前出のように高粘度のケチャップにおいて,実際の食品より,パネルが調製したとろみ溶液のηappが低くなった要因の一つと考えられた.ただし,本研究より,高粘度のマヨネーズの広がり係数は,最も少ない調製液量であった20mlにおいても実際の食品より有意に小さく(粘度が高く)調製されていたことから,調製液量を少し減らした程度では,実際の食品より低い粘度にとろみを調製してしまうことが解消されるわけではないことが推察された.
今回の被験者は,日常的にとろみ調製を行っておらず,とろみ調製の経験や訓練が乏しい学生が対象であった.そのため,より調整液量の影響が表れてしまった可能性が考えられる.適切なとろみを調製できるよう,増粘剤の特徴などの,とろみ調整に関する知識を持つことが必要であると推察される.
本実験では,管理栄養士養成施設の学生間でポタージュ状,とんかつソース状,ケチャップ状の各指標に基づいて調製されたとろみ溶液のみかけの粘度にばらつきがあった.また,市販食品のみかけの粘度自体にもばらつきがあり,さらには調製する際の液量もとろみの程度に影響する事が,とろみ調製時のばらつきの諸要因であることが示唆された.従って,調製者によらず正確に一様なとろみを調製する為には,食品のイメージに頼らない指標が必要であると推察された.また,調製する際の液量も,とろみ調整剤の開発や,高齢者養成施設などの調製現場等で,考慮すべき事項であると考えられた.
本研究にあたり,予備実験にご協力いただきました松本大学人間健康学部,雨宮伊穂子氏,太田沙希氏に深謝申し上げます.