日本官能評価学会誌
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研究報文
赤酒および本みりんの保存温度の違いによる品質の変化
宮田 美里 重村 泰毅西念 幸江峯木 眞知子
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2015 年 19 巻 2 号 p. 91-98

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1. 緒言

赤酒は,熊本県特産の郷土酒でうるち米から作られる赤褐色の酒である.その製法は,蒸米,酒母添加,もろみの製造までを清酒と同様の製造工程で行い,その後木灰を加えてアルカリ化させる.アミノカルボニル反応により,赤酒特有の赤色を呈し,酒の酸敗を防いで,保存性が向上する(赤酒.com).赤酒は,酒税法上の品目では雑酒(酒税法3条21号)に分類される.熊本県では古くから飲用として親しまれ,現在でも屠蘇や料理酒として親しまれている.熊本県以外でも,調味料として本みりんと同様に,外食および中食産業に使用されている.本みりんは,味の浸透をよくする,生臭みを消す,煮崩れを防ぐ,コク・うま味を出す,上品でまろやかな甘みをつける,てり・つやを出す,などの調理効果が報告されている(高倉ら,2000高宮と宇都宮,1979津田,2009中村ら,2004森田,2003).赤酒では,その糖度およびアルコール含量は,本みりんと同等度であるので,同様の調理効果が期待される.日本料理店の職人の間では,赤酒は素材を締めず軟らかく仕上げる,風味がよく,本みりんより調理効果が高いと言われて使用されている(プラスジー,2014).

赤酒に関する研究は,1980年代に若干みられる(高宮と浜田,1979)が,調理効果や味覚に関する報告は少ない.奥田と上田(1979)は,鯨肉に赤酒を使用した場合,赤酒の保水性はみりんと同程度で,可溶性成分の溶出抑制効果はみりんより大きいことを推察している.西念ら(2011)は,料理用赤酒を豚肉に用い,可溶性成分の溶出抑制効果を検討した結果,本みりんと同程度であることを報告した.

本研究では,赤酒の特徴である微アルカリ性の効果を調べる目的の一つとして,赤酒を保存した場合の品質を検討した.

調味料の保存による品質の変化を検討した論文は少ない(富永ら,2012).調味料の保存には,一般に冷暗所で常温が勧められている.調味料を保存する間に,空気中の二酸化炭素の影響で調味料のpHは低下する(竹村ら,2011).赤酒では,開栓前の賞味期間は冷暗所で18ヶ月,開封後は90日程度とされており,保存による着色は品質や調理効果に問題がないと紹介されている(赤酒.com).また,江戸期の調味料であるいり酒では,保存により濁度と黄色の色調を表すb*値が上昇したと富永ら(2012)は報告している.

そこで,赤酒および本みりんを,低温と常温の2種の保存温度を設定し,12ヶ月間保存した.その場合の品質を,液のpH・色度・糖度,アミノ酸を測定し,その変化を観察した.また,食味への影響は,味覚センサーおよび分析型官能評価を用いて評価した.

2. 方法

2-1. 試料

赤酒は,褐色ビン720 mlとペットボトル1000 mlの2種(瑞鷹(株),東肥赤酒料理酒)を用いた.

本みりんは,タカラ本みりん醇良(宝酒造(株))1000 mlペットボトルを用いた.

保存温度は,冷蔵保存(冷蔵:5±1°C,電気冷蔵庫MR-39B,三菱電機(株))と常温保存(インキュベーター:25±1°C,インキュベーターMIR-253,三洋電機(株))を設定した.

保存期間は,開封して使用した場合を想定し,12ヶ月間とした.測定は,開封後1ヶ月ごととした.保存試料に対する対照試料は,それぞれの流通開始直後の新酒試料を用いた.

2-2. 測定

1) 試料液のpH,色,糖度

新酒および保存試料のpH,色,糖度を測定した.

pHはpHメーター(D-52,(株)堀場製作所)を使用した.

色度は測色色差計(ZE2000,日本電色工業(株))を用いて,透過色のL*値,a*値,b*値を測定した.それぞれのペットボトルを,開封直後の保存0ヶ月を基準として,色差(ΔE*ab)を算出した.

糖度は糖度計(PAL-1,(株)アタゴ)を用いて全糖を測定した.

2) 試料液のアミノ酸分析

新酒および開封試料の冷蔵と常温の6ヶ月保存したものを試料とした.

試料中のアミノ酸はBidlingmeyerら(1984)の方法に改良を加えたアミノ酸分析法(Sato et al., 1992; Iwai et al., 2005)によって測定した.親水性アミノ酸の分離を改善するため,エドマン分解法の一過程である,phenylisothiocyanate(PITC)誘導化を行った.その誘導化処理により,PTC-アミノ酸となった試料中のアミノ酸は,Superspher Lichro CART 250-4.0 RP-18(e)(関東化学)を装着した島津LC20 HPLCシステムで,分離されて検出した.移動相には150 mM酢酸アンモニウム5%アセトニトリル(pH 6.0)(溶液A)および60%アセトニトリル(溶液B)を流速0.5 ml/分で使用した.測定前にカラムをA液でカラムを平衡化し,分離中のB液は下記の濃度勾配で流した.0~0.1分,B 0%;0.1~1.01分,B 0~10%;1.01~20分,B 10~47.5%;20~25分,B 47.5~100%;25~37分,B 100%;37~37.1分,B 100~0%;37.1~50分,B 0%.測定中のカラムは45°Cで保たれ,カラムから溶出されたアミノ酸はUV 254 nmで検出した.

3) 味覚センサーによる食味の測定

赤酒および本みりんの新酒,6ヶ月間冷蔵および常温で保存した試料を,蒸留水で2倍希釈し,味覚センサー(味覚認識装置TS5000Z(株)インテリジェントセンサーテクノロジー)で測定した.

味覚センサーは,基本五味のうま味,苦味,塩味,酸味,甘味と渋味を数値化する機器である.主に親水性物質を計測する「先味」は,うま味,酸味,塩味などの8種で,疎水性物質を計測する「後味」には苦味,渋みなど5種があり,合わせて13種の食味をセンサーで感知できる.これを用い,試料の食味を測定した.各味のセンサーについて,Table 1に示した.

Table 1 味覚センサー測定に用いた各味のセンサー
先味後味センサー名
酸味ASB2AC0
苦味雑味/薬苦味/薬SB2AT0
にがり系苦味SB2AN0
苦味雑味/食苦味/食SB2C00
渋味刺激渋味SB2AE1
甘味SB2AAZ
旨味旨味コクSB2AAE
塩味SB2CT0
酸味BSB2CA0

味覚認識装置:TS5000Z,(株)インテリジェントセンサーテクノロジ-

4) 官能評価による食味の測定

赤酒および本みりんの保存条件による食味を比較するために,それぞれの新酒,冷蔵および常温6ヶ月保存の3種試料を用い,評点法による分析型官能評価を行った.試料の特徴を示す評価項目は,あらかじめ行った用語出しを基に,「渋み」を追加した.

パネルは,官能評価の知識があり,実際に官能評価の経験が多い女子大学生13名である.評価項目は,「香り」「甘み」「渋み」「味の濃さ」「アルコール感」「後味」の6項目とした.評点は,弱い1点,どちらでもない3点,強い5点の5段階評点法を用いた.

試料はプラスチックカップに各15 mlを入れて提供した.試料の温度はいずれも室温で行った.試料を入れたカップは,底を黒く塗り,アルミホイルで全体を覆って色の影響を排除した.試料の味わい方は,予備実験によりプラスチックスプーンで1さじ(約1 g)を口に含んでゆっくり飲むように指示した.

2-3. 統計処理

統計処理にはエクセル統計を用いて,有意差の検定には一元配置分散分析を用いた.なお,パネルには研究の主旨を説明し,同意書により承諾を得たうえで実施した.

3. 結果

3-1. 試料液のpH,色度,糖度

1) 保存によるpHの変化

赤酒および本みりんの保存によるpHの変化を,Figure 1に示した.赤酒のビンとペットボトルの容器形態による違いでは,常温および冷蔵保存のpHの差は保存12ヶ月でいずれも0.09以内であった.容器形態における差異は少なかったので,ペットボトル試料の結果を示した.

Figure 1 赤酒および本みりんの保存によるpHの変化

新酒のpHは,赤酒pH 7.2で,本みりんはpH 5.9であった.

赤酒では,常温保存下3ヶ月でpH 6.8に低下し,6ヶ月ではpH 6.4,12ヶ月ではpH 5.5であった.保存12ヶ月後では新酒よりpHが1.7程度低下した.冷蔵保存では,6ヶ月で約pH 6.9,12ヶ月で約pH 6.7で,新酒より0.5程度低下した.

本みりんの常温保存では,6ヶ月でpH 5.6,12ヶ月はpH 5.2を示し,新酒より0.7程度低下した.冷蔵保存では,保存12ヶ月でpHはほとんど変化しなかった.

赤酒および本みりんでは,常温保存でpHが低下し,冷蔵保存で低下が少なかった.赤酒では,本みりんより保存によるpHの影響は大きかった.

2) 保存による色・色差の変化

赤酒および本みりんの保存による色度の変化をTable 2に示した.

Table 2 開封して保存した赤酒と本みりんの色の変化
試料色度保存期間(ヶ月)
036912
常温赤酒ビンL*63.7155.7251.4346.6142.16
a*23.5827.3429.3930.4931.21
b*80.5375.7770.7965.0759.23
ペットボトルL*64.6257.5552.4548.3845.93
a*23.5225.7424.8829.6131.18
b*81.6676.6871.3766.9263.44
本みりんL*97.8697.8697.2096.6697.85
a*−1.39−2.14−2.57−2.39−2.39
b*8.4615.4419.8923.7526.13
冷蔵赤酒ビンL*63.7164.5865.4666.2967.72
a*23.5821.9421.9020.8421.12
b*80.5379.7979.9379.8280.89
ペットボトルL*64.6266.8866.4368.2769.56
a*23.5220.7920.4819.8719.71
b*81.6680.7579.4580.5281.00
本みりんL*97.8698.4398.6299.2797.28
a*−1.39−1.35−1.73−1.50−1.72
b*8.468.719.099.129.26

測色色差計:ZE2000,日本電色工業(株)

赤酒の容器形態における色度の差異は,みられなかった.

赤酒では,常温保存により,L*値が有意に低下し(p<0.01),a*値は上昇した.冷蔵保存では,L*値はやや上昇し,a*値はわずかに低下した.冷蔵保存による色の変化はわずかであった.

本みりんでは,常温保存でb*値が上昇した.冷蔵保存の本みりん試料では,色度はほとんど変化しなかった.

新酒を基準にして保存試料の色差を求めると,赤酒では,常温保存6ヶ月試料との色差(Δ*E)は13.87で「Very Much・非常に大きい」であった.冷蔵保存6ヶ月試料との色差は4.17であり,常温保存試料より色差は少なかった.

本みりんでは,新酒と常温保存6ヶ月試料の色差は8.80で「Much・大きい」であった.冷蔵保存試料では6ヶ月以降12ヶ月でも1.04で,「Slight・わずかに感じられる」の判定であり,色の変化が少なかった.

いずれの試料も,開封時間経過とともに色が濃くなった.色の変化では,常温保存で顕著であり,冷蔵保存では少なかった.特にみりんでは,冷蔵保存の効果は高いと考える.

3) 糖度

赤酒新酒の糖度は42.5%で,本みりんは43.0%であった.

赤酒の糖度は,常温保存6ヶ月で43.3%,12ヶ月で43.2%と,保存によりやや上昇した.

冷蔵保存では6ヶ月で43.3%,12ヶ月でも43.2%であった.常温および冷蔵保存いずれも大きな変化はみられなかった.

本みりんでは,糖度の変化はみられなかった.

3-2. アミノ酸含有量

新酒および冷蔵・常温6ヶ月保存した赤酒と本みりん試料のアミノ酸含有量をTable 3に示した.

Table 3 新酒および6ヶ月保存後の赤酒および本みりんのアミノ酸含有量(mg/100 g)
試料IleLeuLysMetCysPhe
AVESDAVESDAVESDAVESDAVESDAVESD
赤酒
新酒5.710.6710.371.240.810.362.830.5414.182.356.370.95
常温6.090.4411.090.821.360.312.660.9416.381.186.640.36
冷蔵7.171.3312.952.462.061.101.410.1717.661.907.881.10
本みりん
新酒13.140.9025.921.913.210.326.680.3614.310.6317.011.07
常温12.730.7626.472.043.440.460.600.0714.571.4616.971.54
冷蔵14.180.9829.042.624.401.037.360.4415.021.2518.421.11
試料TyrThrValHisArgAla
AVESDAVESDAVESDAVESDAVESDAVESD
赤酒
新酒11.310.927.460.988.821.125.512.7730.115.01
常温21.521.028.390.479.540.696.500.2132.253.11
冷蔵13.601.449.620.8911.281.948.723.6537.816.21
本みりん
新酒44.219.6715.900.7121.391.364.930.2524.931.1125.741.52
常温23.021.6815.121.0319.293.174.180.2014.820.5328.961.92
冷蔵46.2912.2617.440.9723.011.595.360.3127.891.0827.882.07
試料AspGluGlyProSer
AVESDAVESDAVESDAVESDAVESD
赤酒
新酒18.432.23108.1414.1710.682.5816.472.065.951.07
常温21.461.5399.966.7710.741.4919.791.026.620.52
冷蔵21.861.03133.7413.2415.363.0819.382.509.571.07
本みりん
新酒34.981.9453.413.047.400.8620.880.9717.841.22
常温33.213.0034.302.488.930.9419.950.6818.831.41
冷蔵36.421.2851.022.299.822.0119.060.2819.382.00

HPLC:SPD-20AVおよびSPD-20AVi,(株)島津製作所

新酒では,イソロイシン,ロイシン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,チロシン,スレオニン,バリン,ヒスチジン,アルギニン,アスパラギン酸,セリンの含有量は,赤酒より本みりんのほうが多かった.アラニン,グルタミン酸,グリシンは赤酒で含有量が多かった.赤酒のグルタミン酸量は,グルタミン酸が添加されているので(赤酒.com),高い値を示した.ヒスチジンは赤酒には含まれなかった.

保存した赤酒および本みりんでは,常温保存によりアミノ酸の含有量に変化したものがあった.

赤酒では,チロシンの含有量は,常温保存試料21.5 mg/100 gで,新酒試料11.31 mg/100 gより有意に高い値を示した(p<0.05).本みりんではメチオニン,チロシン,アルギニン,グルタミン酸の含有量が低下する傾向にあった.本みりんでは,チロシンの含有量が常温保存試料23.0 mg/100 gで,新酒試料の44.2 mg/100 gより有意に低い値を示した(p<0.05).

3-3. 味覚センサーによる赤酒および本みりんの食味特性

赤酒および本みりんの新酒および6ヶ月保存試料の食味を,味覚センサーで測定した(Table 4).

Table 4 新酒および6ヶ月保存後の赤酒および本みりんの食味特性
試料先味
酸味A苦味雑味/薬苦味雑味/食渋味刺激旨味塩味甘味酸味B
赤酒
新酒25.973.401.390.6710.24−2.3031.57−27.39
常温25.294.591.25−1.479.78−4.6129.29−25.13
冷蔵27.753.591.260.1810.23−2.6431.67−27.16
本みりん
新酒6.694.761.99−1.8114.41−8.6240.25−33.41
常温1.925.321.68−1.8313.03−8.9338.18−27.85
冷蔵5.494.881.83−1.8514.53−8.4341.13−33.17
試料後味
にがり系苦味苦味/薬苦味/食渋味旨味コク
赤酒
新酒1.191.43−0.53−0.370.92
常温1.011.03−0.39−0.101.49
冷蔵1.101.26−0.47−0.301.38
本みりん
新酒0.560.31−0.63−0.401.91
常温0.560.57−0.38−0.562.29
冷蔵0.580.35−0.55−0.561.86

味覚センサー:味覚認識装置TS5000Z,(株)インテリジェントセンサーテクノロジー

新酒では,「酸味A(先味)」は赤酒で強く,「旨味(先味)」および「甘味(先味)」は本みりんで強かった.このことより,赤酒の新酒の特徴は,酸味であり,本みりんでは旨味と酸味であった.

赤酒では常温保存により,「苦味雑味/薬(先味)」,「酸味B(先味)」および「旨味コク(後味)」がやや強くなり,「渋味刺激(先味)」および「塩味(先味)」がやや弱くなった.

本みりんでは,常温保存により,「酸味B(先味)」および「旨味コク(後味)」がやや強くなり,「旨味(先味)」がやや弱くなった.赤酒,本みりんともに,冷蔵保存による食味の変化は,常温保存より少なかった.

測定した13項目のうち,特徴のみられた「旨味(先味)」「塩味(先味)」「旨味コク(後味)」「酸味B(先味)」の4項目について,赤酒および本みりんの新酒試料を0として,各保存試料と比較した(Figures 2, 3).

Figure 2 6ヶ月保存後の赤酒の食味特性
Figure 3 6ヶ月保存後の本みりんの食味特性

赤酒の常温保存試料では,「塩味」が2.3低下し,「酸味B」は2.3増加した.冷蔵保存試料ではいずれの項目も差が少なかった.

本みりんの常温保存試料では「旨味」は1.4の低下で,「塩味」もやや低下していたが,有意差はなかった.「酸味B」は5.6増加し,有意に変化した.冷蔵保存試料ではいずれの項目でも新酒との間に有意な差はみられなかった.

3-4. 保存した赤酒および本みりんの分析型官能評価

赤酒の新酒および6ヶ月保存試料の分析型官能評価を行った(Figure 4).

Figure 4 赤酒の新酒および保存試料の分析型官能評価

また,同様に本みりんの新酒および6ヶ月保存試料の分析型官能評価を行った(Figure 5).

Figure 5 本みりんの新酒および保存試料の分析型官能評価

赤酒では,冷蔵保存試料の「香り」は弱く,常温保存試料は「味の濃さ」,「後味」が強い傾向にあったが,有意ではなかった.「アルコール感」は,新酒試料で高い値であったが,有意ではなかった.「渋み」では,新酒試料,冷蔵保存試料に対し,常温保存試料は渋みが強いと識別された(p<0.05).

本みりんでは,常温保存試料の「味の濃さ」が新酒試料より強いと識別された(p<0.05).「後味」は新酒試料,冷蔵保存試料に対し,常温保存試料は後味が強いと識別された(p<0.05).

4. 考察

4-1. 赤酒および本みりんの保存温度の違いによるpH, 色度およびアミノ酸含有量の変化

赤酒では,冷蔵保存,常温保存共にペットボトルとビンの容器形態による差はほとんどなかった.ペットボトルはビンよりもガス透過性が高く,pHや色度に影響が出ると考えたが,容器による差はなく,影響はなかったといえる.

常温保存では,赤酒および本みりんともにpHの低下が大きかった.冷蔵保存では,pHの変化が少なかった.pHは温度が高いと低くなり,温度が低いと高くなる.保存温度がpHの変化に影響を与え,赤酒も本みりんも常温で保存することにより,pHが低下したと考える.よって,赤酒のpHを維持するには,冷蔵保存が望ましいと考える.

なお,未開封のまま12ヶ月冷蔵保存した場合では,赤酒はpH 7.02,本みりんはpH 5.90を示し,pHの変化はほとんどみられなかった.そのことから,pHの低下には,容器上部の二酸化炭素も影響しているといえる.開封後のわずかな容器上部の空気がpH低下に影響を及ぼすと考える.空気中の二酸化炭素は水と結合し,炭酸分子となる.炭酸分子は安定した水素イオンと炭酸水素イオンに分離するため,水素イオンは増え,pHは低下する(Fry/林訳,2009).赤酒や本みりんも開封後,長期に保存することで,pHの低下が進んだと考える.pHの低下に容器の影響は受けなかったことからも,ヘッドスペースや開封後の空気の影響を受けているといえる.したがって,開封後は冷蔵保存し,短期間に使用してしまうことが望ましいと考える.

赤酒を常温保存した場合,新酒より色が暗く濃くなった.冷蔵保存でも色の変化はややみられたが程度は低く,赤酒の着色を防ぐには冷蔵保存が望ましいといえる.赤酒および本みりんの着色は,アミノカルボニル反応によるものである(竹村ら,2011).アミノカルボニル反応は高温で反応速度が速くなる.冷蔵保存試料より常温保存試料で色の変化が大きい原因であると考える.

本みりんの着色物質は,アミノカルボニル反応で生成されるメラノイジンで,その抗酸化性が認められている(竹村ら,2011).本研究では,着色物質やその抗酸化性は検討していないので,今後の研究課題である.

赤酒で本みりんより色の変化が大きかったのは,赤酒のpHは本みりんより高く,アミノカルボニル反応がより促進されたからであると考える.

赤酒の常温保存試料におけるアミノ酸含有量では,チロシン量の増加がみられた.チロシンは苦味を呈するアミノ酸であり,官能評価において,常温保存の赤酒で渋みが強く感じられたことに影響を及ぼしている可能性がある.アミノ酸が増加したことや,食味の変化については,赤酒のpHや含有する有機酸,金属イオンが影響していると考えるが,本研究においては詳細は解明できておらず,今後の研究課題である.

4-2. 赤酒および本みりんの食味の変化

保存した赤酒の官能評価では,常温保存試料で「渋み」が有意に強く感じられた.前述したが,この「渋み」はアミノ酸分析におけるチロシンの増加が影響している可能性がある.新酒試料と冷蔵保存試料はいずれの項目でも有意差がなく,赤酒のそのままの食味としては,常温保存では変化が大きいことがわかった.

本みりんの官能評価では,常温保存試料で「味の濃さ」および「後味」が,有意に強く感じられた.新酒試料と冷蔵保存試料の間には,いずれの項目でも有意差がなかった.

このことから,赤酒および本みりんを常温で6ヶ月保存したものは,味が新酒試料とやや異なり,冷蔵保存では味に対する影響は少ないと考える.

味覚センサーによる赤酒の常温保存試料の食味では,新酒試料と比較して,「旨味コク(後味)」や「酸味B(先味)」が高いと測定され,官能評価において,「味の濃さ」や「後味」が強いと認識された結果と一致していると思われた.

一方,本みりんの常温保存試料では,味覚センサーの「旨味(先味)」が低い値を示し,「酸味B(先味)」が有意に高い値を示した.この結果は,官能評価の結果と一致していなかった.実際にわれわれが感じる甘みやうま味は,その他に含まれる有機酸やアミノ酸,金属イオンなどの影響を受け,複合的に感じるものである.味覚センサーと官能評価による総合的な評価が必要であると考える.

以上,pH,アミノ酸含有量,味覚センサーおよび官能評価による食味を分析した.

赤酒では,常温保存で渋みと後味が強くなり,本みりんでは,旨味が低下した.冷蔵保存では,いずれの食味にも変化が少なく,常温保存で変化が大きくなることがわかった.このことより,赤酒では,開封後冷蔵保存することが望まれる.常温保存の場合には,3ヶ月以内が望まれる.これは,HPに掲載されている開封後90日とほぼ一致する.本みりんでは,赤酒よりpH,色などの変化が遅いことより,6ヶ月以内の使用で消費することが望ましいと考える.赤酒および本みりんでは冷蔵保存で変化が少なく,常温保存で変化が大きくなることがわかった.このことより,赤酒においては,開封後3ヶ月以内で消費するか,あるいは冷蔵保存することが望まれる.

Acknowledgment

本研究は,東京家政大学生活科学研究所より研究助成金を受けて進めたものである.また,赤酒をご提供いただいた瑞鷹株式会社東京支店長 吉竹氏に謝意を表する.

References
 
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