日本官能評価学会誌
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研究報文
低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳の物性および風味特性
高木 和子依田 一豊宮澤 賢司原田 岳何 方平松 優
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2016 年 20 巻 1 号 p. 10-15

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1. 緒言

牛乳は,栄養バランスの優れた身近な食品として知られ,衛生的な安全性確保のため加熱殺菌処理が施される.日本では,食品衛生法に基づく「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」により加熱殺菌することが規定されている.加熱殺菌の方法には,120~150°Cの超高温で1~3秒間殺菌する「超高温瞬間殺菌」,63~68°Cで長時間(30分間)殺菌する「低温殺菌」,72°C以上で15秒間以上殺菌する「高温短時間殺菌」などがある(社団法人日本乳業協会,2014).

加熱殺菌の温度や時間は,牛乳の風味に大きく影響することが知られている(岩附ら,1999a岩附ら,1999b荒井と玉木,2008).その原因の一つとして,ホエイタンパク質が加熱変性し,加熱臭と呼ばれる風味変化を起こすことが挙げられる.そのため,低温殺菌や高温短時間殺菌された牛乳では,超高温瞬間殺菌されたものよりホエイタンパク質の熱変性度合いが少なく,加熱臭も少ない.また,国内で市販されている牛乳の9割以上は超高温瞬間殺菌牛乳(超高温殺菌牛乳)であり(社団法人日本乳業協会,2014),日本人には加熱臭のする超高温殺菌牛乳のほうが飲み慣れたものとして好まれる傾向にあることが報告されている(岩附ら,1999a).一方で,牛乳の風味は集乳地域や季節によっても大きく変化するため,市販牛乳を用いて殺菌温度による風味の評価を行うには,これらを考慮する必要がある.岩附ら(1999a)の市販牛乳を用いた風味評価では,供試された超高温殺菌牛乳や低温殺菌牛乳などに使用された生乳の由来は明らかでない.また,2003年に実施された市販牛乳の調査では,七種類の低温殺菌牛乳のうちタンパク質の熱変性の高いものが検出されている(独立行政法人国民生活センター,2003).

そこで,本研究では同地域で同日に集乳された生乳を用いて同一工場で製造された市販の成分無調整牛乳を比較することで,生乳の由来や製造要因による誤差を減らし,殺菌方法による牛乳の物性や風味の違いを調査した.さらに,調理品に対する影響を調べるため,異なる殺菌方法の牛乳を素材としたカスタードプリンのテクスチャーについて調査した.

2. 実験方法

2-1. 実験試料

本研究では,岩手県葛巻地域で集乳された生乳を用いて,タカナシ乳業株式会社の同一工場で製造された市販の低温殺菌牛乳および超高温殺菌牛乳を使用した.低温殺菌牛乳は連続式低温殺菌法で66°C30分間,超高温殺菌牛乳は130°C2秒間,両牛乳ともに間接加熱法によって殺菌された.また,乳脂肪分3.6%以上,無脂乳固形分8.4%以上を規格とし,ホモジナイズされた成分無調製牛乳であった.各試験では同日に集乳された生乳で製造されたものを比較し,異なる集乳日の生乳で製造された牛乳製品間の比較をした場合には,各試験項目にその旨を記載した.

2-2. 実験方法

1) 未変性ホエイタンパク質の測定

牛乳中の未変性ホエイタンパク質量を測定するため,Leighton(1962)の方法に準じてホエイタンパク指数(WPNI: Whey Protein Nitrogen Index)を求めた.試料20 mlに塩化ナトリウム8 gを添加した後,ろ過し,ろ液1 mlを0.05 Mフタル酸水素カリウム/飽和食塩水10 mlに加え,420 nmでの透過率を測定し,あらかじめケルダール法で作成しておいた標準曲線よりWPNIを算出した.試料は,異なる4集乳日の生乳から製造されたものを使用した.

2) 一般消費者による牛乳の風味比較

一般消費者として大学生27名(男性6名,女性21名)をパネルとし,記号化した二種類の牛乳(10°C)をプラスチック容器に注いで供試し,7段階評点法で評価させた.評価項目は「においの強さ」「においの好み」「すっきり感」「甘味の強さ」「甘味の好み」「濃厚感」「後味の強さ」「後味の好み」「飲み慣れた味」「総合評価(好み)」の10項目とした.また,においについては,口に含んだ際に鼻に抜けるにおいについて評価した.

3) においセンサーによるにおい比較

においセンサー(におい識別センサーシステムαFOX3000 Alpha M.O.S.フランス)を用いて,二種類の牛乳およびこれらの製造に使用された生乳のにおいを測定した.測定温度は40°C,50°C,および60°Cで,同一試料を3回ずつ測定した.

4) 粘度測定

音叉型振動式粘度計(SV-10,株式会社エー・アンド・ディ)を用い,10°Cで測定した.試料は,異なる3集乳日の生乳で製造された低温殺菌牛乳および超高温殺菌牛乳を使用した.

5) カスタードプリンのテクスチャーへの影響

牛乳を素材とする調理品への影響を確認するため,二種類の牛乳を用いてカスタードプリンを調製し,分析パネルによるテクスチャー比較およびクリープメーターによる硬さ(最大荷重)の測定を行った.カスタードプリンの調製方法は下記に示した.

①材料

牛乳は,低温殺菌牛乳および超高温殺菌牛乳を使用した.そのほかの材料には,市販鶏卵,グラニュー糖(パールエース印 株式会社パールエースE),バニラエッセンス(クラウンフーヅ株式会社)を使用した.

②配合

調製試料は,牛乳500 g(低温殺菌牛乳または超高温殺菌牛乳),全卵135 g,卵黄30 g,グラニュー糖100 g,バニラエッセンス0.45 mlとした.

③調製方法

全卵,卵黄,グラニュー糖を混ぜたものに,60°Cに温めた牛乳を少しずつ加え混ぜた後,金属メッシュで漉し,バニラエッセンスを加えた.25°Cまで冷やした後,プリン型(底面直径60 mm,上面直径80 mm,高さ35 mm)に65 g注ぎ,天板に並べた.また,上面にも天板を載せて覆った.天板にプリン型の高さの3/4の位置まで60°Cのお湯を張り,オーブン(KS6-2-4,櫛澤電気製作所)で160°C,60分間加熱した.プリンが固まった後,オーブンから取り出し室温で1時間放置して粗熱をとった.その後,ラップをかけて10°Cで20時間保存し,下記の試験を実施した.

A. 官能評価によるテクスチャーの比較

タカナシ乳業社員の分析型官能パネル12名(男性6名,女性6名)により,記号化した2種類のプリンを7段階評点法で評価した.評価項目は,「口溶け」「硬さ」「もっちり感」とした.

B. クリープメーターによる硬さの測定

調製したカスタードプリンの硬さをクリープメーター(RE-33005,株式会社山電)で測定した.測定方法は,プリンをカップに入れた状態で直径16 mmの円柱型プランジャーを圧縮速度1 mm/sec,圧縮率67%で進入させ測定した.

6) 統計処理

低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳の2群間の有意差検定は,Studentのt検定で行った.解析ソフトはJMP10(SAS Institute Inc., アメリカ)を用いた.

3. 実験結果

1) 市販牛乳中の未変性ホエイタンパク質の比較

供試した市販牛乳製品の加熱変性度合いを確認するため,異なる4集乳日の生乳から製造された二種類の牛乳のWPNIを求めた(各群n=4).低温殺菌牛乳では6.93±0.38 mg/ml,超高温殺菌牛乳では0.70±0.05 mg/mlであり,低温殺菌牛乳のほうが有意に未変性ホエイタンパク質(p<0.01)を多く含んでいた.また,生乳のWPNIは7.85±0.36 mg/mlであった.

2) 一般消費者による牛乳の風味比較

二種類の市販牛乳製品に対する一般消費者による官能評価結果をFigure 1に示した.低温殺菌牛乳は,超高温殺菌牛乳に比べ「すっきり感」が有意に強く(p<0.01),「においの強さ」「甘味の強さ」「濃厚感」「後味の強さ」が有意に弱かった(p<0.01).また,「飲み慣れた味」では超高温殺菌牛乳が有意に選ばれた(p<0.05).しかし,「においの好み」「甘味の好み」「後味の好み」「総合評価(好み)」について有意差はなかった.

Figure 1 牛乳の風味比較(平均値)

3) においセンサーによるにおい比較

12個のセンサーデータを主成分分析した結果をFigure 2に示した.40°Cでのにおいは,低温殺菌牛乳と生乳が近く,超高温殺菌牛乳はやや離れたポイントに位置した.温度の上昇に伴ってにおいの質は徐々に変化したが,その挙動は低温殺菌牛乳と生乳が近く,低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳の差は大きくなった.

Figure 2 40°C,50°C,60°C 牛乳のにおいセンサー結果

4) 粘度の比較

二種類の牛乳製品の粘度測定結果をFigure 3に示した.低温殺菌牛乳の粘度は2.06±0.12 mPa·s,超高温殺菌牛乳の粘度は2.31±0.04 mPa·sで(各群n=9),低温殺菌牛乳のほうが超高温殺菌牛乳と比較して有意に粘度が低かった(p<0.05).

Figure 3 牛乳の粘度

5) カスタードプリンのテクスチャーに対する影響

二種類の牛乳で調製したカスタードプリンに対する分析型官能パネル12名の7段階評点法による評価結果をFigure 4Aに示した.「硬さ」は,低温殺菌牛乳で調製したプリンのほうが有意に軟らかいと評価された(p<0.01).また,「口溶け」については,低温殺菌牛乳で調製したプリンにおいて有意に口溶けがよいと評価された(p<0.01).「もっちり感」については有意差がなかった.次に,官能評価に使用したプリンの硬さをクリープメーターで測定した結果をFigure 4Bに示した.低温殺菌牛乳で調製したプリンの硬さは,超高温殺菌牛乳で調製したものより有意に軟らかかった(p<0.01).また,異なる3集乳日の生乳由来の牛乳製品で調製されたカスタードプリンの硬さは,低温殺菌牛乳で63.6±8.6 gf,超高温殺菌牛乳で91.6±12.2 gf(各群n=12)であり,低温殺菌牛乳で調製したプリンが有意に軟らかくなることが明らかとなった(p<0.01).

Figure 4 カスタードプリンの官能評価によるテクスチャー(A)および物性測定による硬さ(B)の比較

4. 考察

国内における低温殺菌牛乳の流通量は少なく,同じ生乳由来で,かつ市販されている低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳を比較した研究報告は見当たらない.独立行政法人国民生活センター(2003)による調査では市販の低温殺菌牛乳製品の中には,未変性ホエイタンパク質含量が少なく,熱履歴が高いと推測される製品があることが報告されている.そこで本研究を実施するにあたり,使用する牛乳製品の未変性ホエイタンパク質量を調査し,研究に使用するサンプルとして適当かどうかを確認した.Renner(1979)は,間接加熱法で殺菌された牛乳の場合,低温殺菌牛乳ではホエイタンパク質の変性率が7~21%,超高温殺菌牛乳では70~93%であることを報告している.本研究では,低温殺菌牛乳で11.8±4.8%,超高温殺菌牛乳で91.1±0.6%となり,過去に報告されている低温殺菌牛乳および超高温殺菌牛乳と同等の特性を持つと考えられた.

牛乳は80°C以上で殺菌された場合に加熱臭が生成され(上野川ら,2009),超高温殺菌牛乳は低温殺菌牛乳より香気成分の種類や量が多いことが報告されている(岩附ら,1999b).本研究の一般消費者による官能評価でも「においの強さ」は超高温殺菌牛乳で有意に高かった.一方で,「においの好み」について差は見られず,岩附ら(1999a)の一般消費者および専門パネルによる評価と異なる結果となった.その理由として,専門パネルに比べて一般消費者では加熱によるにおいの変化が好みに影響しておらず,また上記の報告では一般消費者によって評価された製品の生乳の由来が異なることも考えられ,一般消費者にとっては加熱によるにおいより,生乳由来のにおいのほうが好みに影響している可能性が考えられた.さらに,においセンサーを用いたにおいの質の比較では,二種類の牛乳の間に大きな差があった.特に,測定時の温度を40°Cから50°C,60°Cへと上げた際にこの差はより大きくなった.一般的に高温のほうが揮発する成分が多くなるため,香気成分を多く含む超高温殺菌牛乳ではより多くのにおいが測定され,差が大きくなった可能性が考えられる.また,60°C程度の温度はホットミルクとして飲用する温度帯であり,ホットミルクにした場合にはヒトが二種類の牛乳のにおいの違いをより感じやすくなる可能性が示唆された.今後,ホットミルクを用いた官能評価も実施する必要があると考えられた.一方で,本試験では低温殺菌牛乳と生乳のにおいは近く,測定温度による変化の挙動も近かった.生乳のにおいが自然なにおいと考えた場合,低温殺菌牛乳はよりナチュラルなにおいを維持していると考えられた.

低温殺菌牛乳は超高温殺菌牛乳よりさっぱりしており,また超高温殺菌牛乳のほうが風味に慣れていることから好まれるという評価が報告されている(岩附ら,1999a).本研究においても,低温殺菌牛乳は「すっきり感」が強く,「甘味の強さ」「濃厚感」「後味の強さ」が弱く,超高温殺菌牛乳は「飲み慣れた味」と評価され,上記報告と一致していた.一方で嗜好に関する項目では,いずれも二種類の牛乳の間に有意差は見られなかった.これらの結果は,一般消費者が両牛乳の風味を感じとり差別化し,超高温殺菌牛乳を飲み慣れた味として認識しているものの,好みは二分していることを示唆する.また,最近の牛乳・乳製品の消費者動向調査(独立行政法人農畜産業振興機構,2015)によると,消費者の牛乳風味に対する不満点は,「牛乳は味にクセがある」「牛乳のにおいが嫌い」「牛乳は飲んだあと口に残る」ことが報告されている.本研究の官能評価では,低温殺菌牛乳はすっきり感が強く,においや後味の少ない牛乳と評価されており,消費者の不満に応える牛乳であることが示唆された.また,過去の報告と比較して嗜好に差が見られなかったのは,時代による消費者の嗜好の変化もあるかもしれない.

低温殺菌牛乳の風味評価において,超高温殺菌牛乳より粘性が低く感じることが報告されている(岩附ら,1999a).本研究では物理的粘度を測定したところ,超高温殺菌牛乳と比較して低温殺菌牛乳で有意に粘度が低かった.牛乳の殺菌と粘度に関する研究は,1800年代後半~1900年代前半に多く実施されており,低温殺菌の温度である60°C近辺までの温度では粘度が低下し,75~80°Cでは粘度が上昇する(Bateman & Sharp, 1928; Evenson & Ferris, 1924).また,加熱による粘度の上昇は,β-ラクトグロブリンの加熱変性とそれに伴うカゼインミセルへの結合によるところが大きい(McCarthy, 2011).そのほかにも牛乳の粘度に影響する要因として乳脂肪やホモジナイゼーションなどが知られているが(Bakshi & Smith, 1984; McCarthy, 2011),本研究では同一の生乳が用いられ,ホモジナイズされた製品を使用していることから,これらの要因よりむしろホエイタンパク質の加熱変性が粘度に大きく影響していると考えられた.そして,この粘度の違いをヒトが敏感に感じ取り,低温殺菌牛乳を「すっきり」「さっぱり」と感じていることが考えられる.

また,二種類の牛乳でカスタードプリンを調製した際に,官能パネルによる評価だけでなくクリープメーターによる物理的な硬さ測定によっても,低温殺菌牛乳で調製したカスタードプリンにおいて有意にテクスチャーが軟らかいことが示された.ホエイタンパク質の加熱によるゲル化や凝集を考慮すれば(Bromley et al., 2005),二種類の牛乳中における未変性ホエイタンパク質含量の違いが,調製時の加熱過程におけるプリンのゲル化に大きく影響していることが考えられた.これらメカニズムの調査は今後の検討課題である.

近年,日本では牛乳の飲用頻度が減少しており,飲用以外の牛乳利用を普及させることも,国内の酪農政策の観点から重要な課題である.市販飲用牛乳の物性や風味特徴を把握し消費者に公開することは,牛乳利用の幅を広げることにつながるだろう.たとえば,チーズ作りのような生乳に近い特徴を持つ牛乳を使用したいユーザーにとっては,低温殺菌牛乳は一つの選択肢となるだろう.また,本研究の結果は,牛乳それぞれの特徴を活かすことで,添加物などを使用せずに料理や菓子に物性の変化をもたらすことができることを示している.このように低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳の特徴やアプリケーションを明らかにしていくことで,それぞれの牛乳に利用価値が付加され,牛乳利用の促進につながると考える.

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