チョコレートの主原料として知られているカカオ豆は,アオギリ科の木本植物である.最大の生産地は,西アフリカ(ガーナ)であるが,発祥地であるフレーバーの良い中南米は人気がある.前報(葛西ら,2007)では,原産地の異なるカカオ豆を用いたチョコレート10種の官能評価を行った結果,「香り」「テクスチャー」「味」を総合して好まれた原産地は,ガーナ・ベネズエラ・エクアドルであった.Steiner(1979)によると,ヒトは本来,苦味を避ける傾向にあるため,一般的に苦い味は好まれないはずであるが,エクアドル豆チョコレートは,ポリフェノール量が多く,苦味・渋味が比較的強い.ところがそのエクアドル豆チョコレートを一定割合で嗜好する人が存在するのはなぜか,「香り」「テクスチャー」「味」の特徴とその嗜好背景について,苦味をキーワードとして検討した.
カカオ豆は,ポリフェノールやアルカロイドの一種であるテオブロミン,カフェインといった苦味成分を多く含む(後藤他,2002)が,これらの成分の含有量や発現の仕方がカカオ豆の発酵やロースト方法と深く関わっている(Loannone et al., 2015)ことが指摘されている.ローストによって味や香りに変化が生まれ,苦味成分もこれに左右される.さらに,ロースト温度と時間により化学反応が異なることが分かっている(Hu et al., 2016).より高濃度のテオブロミンとカフェインは,それぞれカカオ豆の外側と内側に存在しており,ロースト時にカフェイン,テオブロミンの順で放出され,ロースト時間の経過により苦味成分の濃度が低下していくことが分かっている(藤田,1970; Diab et al., 2014).そこで,われわれはローストの温度と時間を変化させた,産地および苦味の異なるチョコレートの官能評価を行い,苦味嗜好に関する調査と比較した.
一方,苦味嗜好については,小杉・堀尾(2005)は,PROP(6-propyl-2-thiouracil)味覚感受性の低い人が,苦味食品嗜好があることを報告している.森本他(1995)は,マウスを用いて精神的ストレスおよび肉体的ストレス状態を人工的に作り出し,味の感受性の測定を行い,苦味を嗜好するようになったことを報告している.また,中川・乾(1997)によると,苦味の感受性は,精神的ストレス前後でストレス前より後の方が苦味を弱く感じることを報告している.一方,肉体的ストレスでは苦味の感受性の変化は全く見られず,酸味感受性だけが低下すると報告している.さらに,小林(2014)は,気分が味覚感受性に影響を及ぼすことを報告し,カフェインの感受性に差があったと報告している.荒木田・山森(2007)は精神的ストレス負荷により,唾液中の苦味関連タンパク質の1つであるHistatin 5の濃度が低下すると同時に,苦味抑制作用があるリン脂質が増加し,精神的ストレス負荷による疲労状態では苦味の感受性が低下し,苦味の許容範囲が広がること,そして,苦味を呈する嗜好品の摂取量が増加することを明らかにしている.しかし,ビターチョコレートの精神的ストレスや食習慣と苦味嗜好の関連性を明らかにした研究はみられない.
そこで本研究では,嗜好度の高い産地のカカオ豆のロースト条件を変化させた5種のビターチョコレートを用い,官能評価と調査により苦味嗜好とその背景を探ることを試みた.
苦味嗜好性の背景を探るため,食物学科学生を対象とした「苦味に関するアンケート」を7問,中野(2005)による「ストレス自己診断 ハッスルスケール」による学生の精神的ストレス度調査,また,「生活スタイルに関するアンケート」8問を行った.質問項目は,研究室内での予備調査により項目を選定した.ストレス度の測定に関しても,予備試験を実施し,項目が適切であるかを確認した.
「苦味に関するアンケート」の項目は,苦い食品30種類からの選択(複数回答),上記以外の苦い食品嗜好,苦い食品のイメージ,好きになった時期,契機,購入理由,ブラックコーヒー摂取の7問とした.
「生活スタイルに関するアンケート」の項目は,居住形態,通学手段,通学時間,所属団体,活動状況,アルバイト,睡眠時間,食事回数と栄養バランスに関する8問である.
「苦味に関するアンケート」は,苦味成分の主な含有食品とされる「コーヒー」「ビール」「ブロッコリー」「ピーマン」「ゴーヤ」「レバー」の6種類を含むTable 1に示した計30種類の食品の中から好きなものを選択させ,上記6種類の食品を2個以上選んだ人を「苦味好き」,1個以下を「苦味嫌い」と定義付けた.さらに,「苦味好き」の中から6種類の食品を2個選んだ人と3個以上選んだ人をそれぞれ「やや苦味好き」「かなり苦味好き」にレベル分けをし,3タイプで比較を行った.アンケートに用いた苦味食品は,教科書に用いられる池田・柴田(2012),知地(2011),佐藤(2010),菅野他(2007),山崎(1990)を参考として,苦味物質に偏りのないよう次に示すように抽出を行った.つまり,「コーヒー」カフェイン【アルカロイド】,タンニン【ポリフェノール】,「ビール」ホップ:フムロン(イソフムロン,ルプトリオン)【テルペン】,「ブロッコリー」:ケルセチン【ポリフェノール】,「ピーマン」ルテリオン【ポリフェノール】,「ゴーヤ」ククルビタシン【テルペン】,「レバー」胆汁,である.
| ①コーヒー | ②ビール | ③緑茶 | ④紅茶 | ⑤ウーロン茶 |
| ⑥カフェインレス(飲料) | ⑦ブロッコリー | ⑧ピーマン | ⑨ホウレン草 | ⑩小松菜 |
| ⑪水菜 | ⑫菜の花 | ⑬大根 | ⑭キャベツ | ⑮白菜 |
| ⑯ゴーヤ | ⑰キュウリ | ⑱山菜 | ⑲グレープフルーツ | ⑳ブルーベリー |
| ㉑柿 | ㉒ブドウ | ㉓レモンピール | ㉕レバー | ㉖ダークチョコレート |
| ㉗サザエ | ㉔グリーンスムージー | ㉘チーズ | ㉙小魚 | ㉚豆腐 |
2016年の8, 9月に,日本女子大学に在学する食物学科学生1~4年生193名,本研究室の訓練パネル9名の合計202名(18~20歳72名,20~22歳130名・すべて女性)を対象に行った.
2-2.官能評価2-2-1.項目の選定と訓練訓練パネルにおいて,官能評価を行うにあたり,項目の選定および以下の訓練を実施した.
| 味の種類 | 甘味 | 塩味 | 酸味 | 苦味 | うま味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 溶質 | グルコース | 食塩(NaCl) | 酒石酸 | 無水カフェイン | MSG |
| 濃度(g/dL) | 0.4 | 0.13 | 0.005 | 0.02 | 0.05 |
ガーナ豆の通常ローストを対照とし,産地とロースト条件の異なるカカオ豆から作成したビターチョコレート,ベネズエラ(高温ロースト:以下ベネズエラ(高))(低温ロースト:以下ベネズエラ(低)),エクアドル(高温ロースト:以下エクアドル(高))(低温ロースト:以下エクアドル(低)),計5種を用いた.配合割合および作製方法は,葛西ら(2007)および飯田他(2007)と同様,カカオ分(ココアバターとカカオマスの合計)60%,砂糖40%,その他バニラ香料微量とした.一般成分値およびロースト条件はTable 3に示したとおりである.試料の大きさは1.9×3.8×0.8 cm3,品温は室温(20°C)とし,テクスチャー・味・香り項目ごとに3口で食した.
| ガーナ | ベネズエラ(高) | ベネズエラ(低) | エクアドル(高) | エクアドル(低) | |
|---|---|---|---|---|---|
| pH | 5.6 | 5.6 | 5.7 | 5.6 | 5.7 |
| スクロース(%) | 44.3 | 44.4 | 44.6 | 44.4 | 44.8 |
| カフェイン(%) | 0.05 | 0.1 | 0.07 | 0.1 | 0.08 |
| テオブロミン(%) | 0.48 | 0.46 | 0.48 | 0.49 | 0.45 |
| ポリフェノール(mg%) | 1280 | 1690 | 1760 | 1700 | 1540 |
| 温度 | max 147°C | max 147°C | 125°C一定 | max 147°C | 115°C一定 |
| 時間 | 40~50分 | 45~50分 | 70~80分 | 45~50分 | 70~80分 |
※ロッテ中央研究所分析結果
上記訓練を施したパネルおよび訓練をしていない学生パネルに対して試食順序をランダマイズした5種の試料について,項目ごとに分析型および嗜好型官能評価の2通りを−3~+3の7段階評価尺度採点法で行った.評価項目は「口どけのよさ」「口ざわり」「甘味」「酸味」「渋味」「こく」「初期の苦味」「苦味の後味の強さ」「ナッツ様の香り」「はちみつ様の香り」「花の香り」「総合評価」の12項目とし,分析型評価では+3強い(ある)⇔−3弱い(ない),嗜好型評価は+3好き⇔−3嫌いで評価した.食し方は,香り項目は噛んで,その他の項目は舐めて評価するように指示し,オープンパネル方式で実施した.
2-3.解析方法コンピュータの統計データ処理ソフトSPSS Statistics 22.0を用いて,一元配置分散分析およびtukey-t検定,相関分析,カイ2乗検定を行った.
なお,調査および官能評価の協力は任意とし,2016年度日本女子大学倫理委員会(課題番号248号7月11日)の承認を得た上,インフォームドコンセントを行い実施した.
アンケート調査は,202名100%の回答を得た.まず,各調査に先立ち,中野(2005)の方法を参考にハッスルスケールを用いたストレス自己診断を行った.ハッスルの合計点は日常生活において,厄介な出来事がどれくらいの頻度で生じていると感じたかを数値で示すもので,13~34点は「ふつう」,35~49点は「やや多い」,50点以上は「多い」と感じるとされる.今回は35点以上の人を「ストレスあり」と定義付け,「苦味に関するアンケート」と「生活スタイルに関するアンケート」との関連をみた.その結果,202名中「ストレスあり」は45名(22.3%),「ストレスなし」は157名(77.7%)であり,対象学生の約1/4がストレスを感じていた.
「苦味に関するアンケート」では,193名中無回答者14名を除く179名,訓練パネル9名,合計188名の有効データ(93.1%)を得た.ストレスと苦味嗜好との関係をFigure 1に示した.「ストレスあり」と回答した人の中で(左図),「苦味嫌い」は46.7%,「苦味好き」は53.3%で苦味好きの方が多く,「苦味好き」をさらに分類すると,「やや苦味好き」22.2%と「かなり苦味好き」31.1%となった.しかしその割合は,ストレスなしも併せて全体で分類した(右図)結果との有意差はみられず,今回の調査では,ストレスと苦味嗜好の関連性はないとされた.

そこで,以後,ストレスによる分類分けはせず,苦味に関するアンケート結果を示した.しかし,苦味段階別にみると項目ごとにあてはまる人数が少なくなるため,ほとんどχ2検定で有意差が出なかった.本研究では,実態調査である,官能評価との相関をみるため,有意差がみられないが傾向がつかめた項目について結果を報告する.はじめに,苦い食品のイメージ(複数回答)をFigure 2に示した.「苦味嫌い」の苦い食品のイメージは,「健康的」41.6%,「不味い」28.7%,「リラックス効果」17.8%,「優越感」5.0%であった.「やや苦味好き」は,「健康的」48.3%,「不味い」21.7%,「リラックス効果」16.6%であった.「かなり苦味好き」は,「健康的」58.4%,「リラックス効果」13.0%,「不味い」13.0%であり,全体的に苦い食品に対するイメージは,「健康的」であったが,苦味嗜好が増すほど苦い食品を健康的ととらえていた.また反対に「不味い」は苦味嗜好が増えるほど,減少した.

次に,苦い食品を好きになった時期および契機をFigure 3に示した.「苦味嫌い」は,「高校生」43.9%,「中学生」18.3%,「小学生以下」および「大学生」9.8%であった.「やや苦味好き」は,「中学生」44.7%,「高校生」27.7%,「小学生以下」19.1%,「大学生」8.5%であった.「かなり苦味好き」は「小学生以下」32.2%,「中学生」23.7%,「高校生」28.8%,「大学生」15.3%となり,苦味好きほど早い時期から苦味を嗜好していたことがうかがえる.

そこで,苦い食品を好きになった契機上位3位を示すと,「苦味嫌い」は「いつの間にか好きになっていた」52.4%,「苦い食品は好きではない」19.5%,「眠気覚ましに食べ始めた」11.0%であった.「やや苦味好き」は「いつの間にか好きになっていた」49.0%,「眠気覚ましに食べ始めた」17.0%,「大人っぽいと思い食べ始めた」12.8%であった.「かなり苦味好き」は「いつの間にか好きになっていた」64.4%,「物心ついた時から好きだった」18.6%,「眠気覚ましに食べ始めた」11.9%であった.どの型も「いつの間にか」といった無意識が多いが,他の型が眠気覚ましや健康を意識してといった理由が多いのに対し,かなり苦味好きは小さい頃から嗜好しているためか無意識と回答した割合が多かった.
次に,苦い食品購入理由をFigure 4に示した.

「苦味嫌い」は「味が好き」34.3%,「眠気覚まし」19.6%,「健康に良いから」15.7%,「リラックスするため」11.8%,「好奇心」8.8%,「大人っぽいから」2.9%であった.「やや苦味好き」は「味が好き」52.3%,「眠気覚まし」16.9%,「健康に良いから」13.8%,「好奇心」6.2%,「リラックスするため」4.6%,「大人っぽいから」3.1%であった.「かなり苦味好き」は「味が好き」53.8%,「健康に良いから」18%,「眠気覚まし」14.3%,「リラックスするため」9.9%,「大人っぽいから」1.7%,「好奇心」1.7%であり,全体として味が好まれているものの,苦味の嗜好が高くなるほど「味が好き」と回答した割合は増加した.また,健康に良いという理由も多くみられ,健康志向が苦味嗜好を増加させていることが示唆された.
苦い食品を代表するブラックコーヒーの摂取頻度と苦味嗜好との関係をFigure 5に示した.「苦味嫌い」は飲む32.9%,飲まない67.1%,「やや苦味好き」は飲む46.8%,飲まない53.2%,「かなり苦味好き」は飲む74.6%,飲まない25.4%であり,苦味嗜好とブラックコーヒー摂取との間には有意な関係(p<0.05)がみられた.

その他,摂取頻度では,「週4日以上」は「かなり苦味好き」が最も多かった.所属団体は,Figure 6に示したように「かなり苦味好き」は運動系が多くみられた.

ガーナ豆通常(高温)ローストを対照としたベネズエラ(高)と(低)とエクアドル(高)と(低)5種の同配合のビターチョコレートの7段階評価尺度の分析型官能評価結果(全体)をFigure 7に示した.総合評価の有意差がみられなかったが,ベネズエラ(高)試料は,対照に比較し「苦味の後味の強さ」は高く,「はちみつの香り」「花のような香り→以下花の香り」が低く評価された.ベネズエラ(低)は対照に比較し「はちみつの香り」「花の香り」が低く評価された.エクアドル(高)(低)共に対照に比較し「はちみつの香り」は低く評価された.

続いて,各試料の特性を検討するため,訓練パネルの分析型官能評価の相関分析を行った.ベネズエラ(高)は,「総合評価」と「花の香り」(r=0.812)「こく」(r=0.674)は正の相関を示した.また,「口どけのよさ」と「こく」,「酸味」と「ナッツの香り」(r≧0.600),「苦味の後味の強さ」と「ナッツの香り」(r=0.863)は強い正の相関,「渋味」と「花の香り」(r=−0.655)は負の相関を示した.
ベネズエラ(低)は,「総合評価」は「口どけのよさ」(r=0.897)と強い正の相関を示し,「苦味の後味の強さ」(r=−0.734)と負の相関を示した.また,「酸味」と「なめ始めの苦味」「苦味の後味の強さ」「花の香り」,「花の香り」と「口ざわり」「はちみつの香り」はそれぞれ正の相関を示し(r≧0.600),「なめ始めの苦味」と「苦味の後味の強さ」(r=0.924)は強い正の相関を示した.また,「甘味」と「酸味」,「口どけのよさ」と「苦味の後味の強さ」(r<−0.600)はそれぞれ負の相関を示し,「甘味」と「ナッツの香り」は強い負の相関を示した(r=−0.821).
エクアドル(高)は,「総合評価」は「甘味」と負の相関を示した(r=−0.637).また,「なめ始めの苦味」と「こく」「ナッツの香り(r≧0.600)」はそれぞれ正の相関を示し,「ナッツの香り」と「苦味の後味の強さ」(r=−0.648)が負の相関を示した.
エクアドル(低)は,「総合評価」に相関する項目はみられなかった.「苦味の後味の強さ」は「渋味」「なめ始めの苦味」と正の相関を示し(r≧0.600),「なめ始めの苦味」と「口どけのよさ」(r=−0.632)は負の相関を示した.
訓練パネルの分析型官能評価の主成分分析結果をFigure 8に示した.第1主成分と第2主成分のバイプロットは相関分析結果を反映していた.

以上をまとめると,ベネズエラ(高)は「苦味の後味の強さ」が特徴,ベネズエラ(低)は「口どけのよさ」「こく」,エクアドル(高)は「なめ始めの苦味」「苦味の後味の強さ」が比較的弱く,エクアドル(低)は「こく」が特徴とされた.
さらに,嗜好型官能評価では,Figure 9に示したように,ベネズエラ,エクアドルともに高温ローストより低温ローストがより多くの人に好まれたことから一般的な高温ローストが好まれるとは限らないことが示唆された.アンケートによる「苦味嗜好」との関連では,「かなり苦味好き」は,ベネズエラ(高),エクアドル(低)を好んでいた.「苦味の後味の強さ」があるベネズエラ(高)は理解しやすいが,苦味については有意差が特にみられなかったエクアドル(低)は,「なめ始めの苦味」「苦味の後味の強さ」のほどほどであったが,相関分析からも,苦味や渋味と口どけの良さとは負の相関であったことから,口中の広がりや停滞時間との関連性も示唆された.

以上の結果より,全体,苦味を好む層の両者ともに,それぞれの嗜好性の高いロースト条件は,豆ごとに検討する必要があると考えられた.
ヒトは本来苦味を避ける傾向がある(Steiner, 1979)はずにもかかわらず,「苦味好き」は,全体の半数以上である.その内訳では「やや苦味好き」よりも「かなり苦味好き」が多い.人における苦味受容体は複雑で(Behrens et al., 2017),苦味受容体のTAS2R群は,発現形態が複雑なうえに,25種類も存在する.さらに,カフェインのように,それらに結合せず,発現経路が不明な苦味も存在する.また,同じ遺伝子をもつ母子でも,苦味受容の現れ方が異なること(Ross, 2017)も報告され,苦味の味の感じ方およびその嗜好は複雑である.本研究から,苦味を好む人は少なからず存在し,その割合は意外と多いと考えることができる.苦い食品のイメージは,苦味嗜好パターンにかかわらず,「健康的」と答えた人が多く「苦味嫌い」から「かなり苦味好き」にかけて増加した.昨今の健康ブームは苦味のイメージを刷新していることが示唆される.嗜好性の高い苦味成分の代表であるカフェインは,昨今の研究成果により,神経伝達に関するものでは,試合後によく眠れる効果(Dunican et al., 2018),パーキンソン患者の神経保護効果(Fujimaki et al., 2018)や肝臓がんを減少させる(Godos et al., 2017)効果を増幅させるなどの健康的作用も報告されている.このような何らかの体調調節機能が感じられた過去の経験から,その苦味を嗜好することになっていく可能性が示唆されるものも存在すると考えられた.また,その「苦味嗜好」は後天的なものであることは,「苦味嗜好」の獲得時期が苦味嫌いから苦味好きになるにつれて早く,より多く摂取していたため,「苦味嗜好」獲得が早期であったと考えられる.苦味は経験を積むことで好きになっていく味でもあり,また,前述したが,小杉と堀尾(2005前掲)が示したような苦味に関する感受性の違いもあることも含めて今後検討していく必要があろう.
「苦味好き」は,健康を意識して食品を選択している生活スタイルで,かつ運動系が多かったことも,健康を意識した生活の一端と考えられる.また,今回の調査において,苦味嗜好のレベル分けを行う際の定義付けに用いた苦味成分の主な含有食品6種類にはそれぞれ健康に良いとされる成分が含まれていることからも,今回調査の苦味味は健康志向に関する因子をかなり含むと考えられた.
官能評価の結果より,テクスチャーに関する項目では,ベネズエラ・エクアドルともに好まれた(低)は(高)に比べて「口どけのよさ」があった.味に関する項目ではベネズエラ・エクアドルともに(低)は(高)に比べて「甘味」「こく」「なめ始めの苦味」が強く,エクアドル(低)はエクアドル(高)に比べて有意に「こく」があるとされた.
5種のチョコレート嗜好では,エクアドル(低)が最も好まれ,次いでベネズエラ(低),ベネズエラ(高),エクアドル(高),ガーナ(対照)の順であった.このことより,ベネズエラ・エクアドルともに(低)は(高)に比べてより好まれることがわかり,通常用いられている高温ローストのチョコレートが必ずしも好まれるとは限らないことが示唆された.
さらに,今回の結果のすべてを通して考察されることは,ベネズエラ(高)好きは,「かなり苦味好き」が多く,苦い食品を早い時期から好きになり,健康的やリラックス効果があるというイメージをもち,リラックス効果を求めて購入している.ベネズエラ(低)好きも苦い食品に対してリラックス効果があるというイメージをもっていた.
エクアドル(高)好きは,「苦味嫌い」が多く,苦い食品に対して不味いというイメージをもっており,味が好きという理由で購入する人が少なかった.分析型官能評価でエクアドル(高)は,「口どけ」が悪く,「なめ始めの苦味」と「苦味の後味の強さ」が弱いためと考察された.エクアドル(低)好きは「苦味好き」が半数以上を占めており,全体的にも最も好まれた.訓練パネルの分析型官能評価の相関分析において,エクアドル(低)は,「なめ始めの苦味」「苦味の後味の強さ」がほどほどであったが,甘味や渋味も含めた味の出現の仕方も関与している可能性も示唆された.
以上より,苦味が最も強いとされたチョコレートはベネズエラ(高)であったが,「苦味好き」が好んだものはベネズエラ(高)とエクアドル(低)であった.「苦味の後味の強さ」は,ベネズエラ(高)は有意に強いが,エクアドル(低)は他の試料と有意差がなかった.しかし,官能評価の「苦味の強さ」の評価が口中停滞時間のどの時点で強く感じるかによっても,評点が異なる可能性があり,今回は経時的な検討まで加味できてなかったため,今後はTDS(temporal dominance of sensations)測定などでさらに検討していくことが期待される.
本研究では,嗜好度の高い産地のカカオ豆のロースト条件を変化させた5種のビターチョコレートを用い,官能評価と調査により苦味嗜好とその背景を探り以下の結果を得た.
本研究を行うにあたり,チョコレート試料の作成に多大なご協力をいただきました株式会社ロッテ中央研究所に感謝申し上げます.
この論文の内容は,日本官能評価学会2016年度大会におけるポスター発表優秀賞を受賞したものである.