In this study, we investigated the characteristics of three types of eggs (normal, vitamin D (VD) enriched, and docosahexaenoic acid (DHA) enriched) by sensory evaluation, complemented with a taste sensing system. Additionally, the viscoelasticity and chromaticity of the egg yolks were evaluated and the concentration of free amino acids was measured. The dynamic viscoelasticity and free amino acid concentration did not vary significantly in the three types of eggs evaluated. However, the difference in each egg was highlighted in the chromaticity of the egg york. The “saltiness” and “bitterness (initial taste),” but not the “richness” of each egg, could be recognized by the taste sensing system. Contrastingly, in the sensory evaluation, VD- and DHA-enriched eggs scored higher in terms of egg yolk chromaticity, umami, and richness in taste compared to normal eggs. The findings of the taste sensing system did not necessarily correlate with those of the sensory evaluation. However, “saltiness” and “bitterness (initial taste),” which could not be distinguished by sensory evaluation, were recognized by the taste sensing system.
現在,ビタミンD, E, DHA, α-リノレン酸,葉酸など,ビタミンや各種栄養素を添加して機能性を付与した栄養強化卵が開発され,市場には1,400種類を超える卵が販売されている.卵は日常的に食する機会が多い食材であるため,栄養成分が強化された機能性卵の社会的意義は大きいと考える.
卵に関する研究は,液卵の貯蔵条件による力学特性の変化(Jaspal et al., 2014),液卵の流動特性に関する研究(Vojtěch et al., 2015),卵の物理的特性を調べた研究(日比,1980;市川他,2001),また餌にビタミンD(VD)を添加して卵黄の質およびVD含量を調べたもの(Linxing et al., 2013),貯蔵や加熱による卵黄球の微細構造の変化を画像解析した研究(峯木・小林,1999)など多岐に渡っている.また卵のおいしさについてはゆで卵や卵かけごはん,錦糸卵などの卵加工品についての官能評価を行った研究(清水他,1997;平島他,2011)がある.さらに,卵の呈味成分についても関心が持たれており,ゆで卵を対象とした嗜好調査においては,鶏種間に差が認められたものの,卵黄,卵白中の遊離アミノ酸,イノシン酸濃度には違いが見られず,呈味有効成分の差は特定できなかった(堀口,2009)との報告がある.この他,味認識装置を用いて,2品種間の卵黄にうま味センサーによる評価に差はみられたものの,全卵,卵白においてはうま味の違いを確認できなかったとの報告がある(中村他,2013).
そこで本研究では,特徴の異なる2種の栄養成分強化卵を選び,コントロールの通常卵と比較して,官能評価で卵の特性を明らかにしたうえで,物理的特性として動的粘弾性と色度,化学的特性としてアミノ酸分析と味認識装置による味覚特性を評価し,これらの関連性を検討することを目的とした.
市販の3種の卵,A:通常卵(純生卵:イセ食品株式会社),B:VDを強化した卵(ディズニーくらしのたまご:イセ食品株式会社),C:DHAを強化した卵(森のたまご:イセ食品株式会社)を選び,産卵後3日以内の新鮮卵を用いた.今回使用した3種の卵の栄養成分および特徴をTable 1に示す.
Classification of eggs | Nutritional ingredients (/100 g) | Others | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Energy (kcal) | Protein (g) | Fat (g) | Carbohydrate (g) | Sodium (mg) | VD (µg) | VE (mg) | DHA (mg) | ||
(A) Normal egg | 151 | 12.3 | 10.3 | 0.3 | 140 | 0.9 | 1.0 | 120 | Paprika |
(B) VD-enriched egg | 133 | 11.6 | 9.2 | 0.9 | 131 | 3.5 | 10.0 | Paprika | |
(C) DHA-enriched egg | 135 | 12.5 | 9.0 | 1.1 | 143 | 10.0 | 260 | Paprika |
動的粘弾性測定,色度測定用の試料としては,卵黄を選んだ.卵黄試料は,卵3個を割卵後,卵黄を取り出し,ストレーナーで濾して卵黄膜を取り除いたものを用いた.
味認識装置(TS-5000Z:株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)測定用試料は全卵,卵黄,卵白を選んだ.全卵試料については卵2個を,カラザを取り除き,バーミックス(M200: Gastro)で10秒間撹拌した後90 gを量りとり,純水で3倍に希釈し,さらに30秒間撹拌した後,液体部分を150 g遠沈管に量り取った.3,000 rpmで1分間遠心分離(卓上遠心機 CT-6E型:日立工機株式会社)した上清を味認識装置測定用試料とした.卵黄試料については4個分の卵黄を純水で2倍に希釈し,30秒間撹拌した後,120 gを遠沈管に量り,全卵と同様の操作を行って調製した.卵白試料は4個分の卵白を,カラザを取り除き,10秒間撹拌した.次に,90 gを量り取り純水で3倍に希釈し,さらに30秒間撹拌した後,液体部分を150 g遠沈管に量り取った.その後の調製方法は全卵に準じた.
官能評価では,全卵,卵黄,卵白について測定を行った.全卵試料,卵白試料は,卵3個を割卵後,それぞれ泡立てないように撹拌した後,ストレーナーで濾した.卵黄試料は,動的粘弾性および色度測定用と同様に調製した.
2-3.動的粘弾性測定直径50 mmのパラレルプレートを用いて,貯蔵弾性率G′,損失弾性率G″,損失正接tan δ[G″/G′]のひずみ依存性および周波数依存性を,動的粘弾性測定装置(ARES-RFS-BATH: TA Instrument Japan社)を用いて測定した.また,動的粘性率η′=G″/ω(ω=角振動数)を算出した(中濱他,2011).測定温度はISO 1の国際基準に則り,20°Cにて各試料を3回測定した.
2-4.色度測定試料を直径55 mmのシャーレに15 mL入れ,ハンディー色差計(NR-3000:日本電色工業株式会社)を用いて,明度(L*),赤色度(a*),黄色度(b*)を測定し,色相(b*/a*),彩度(),色差(
)を算出した(平井,1989).測定温度は25°Cとし,各試料を3回測定した.
味認識装置を用いて全卵試料,卵黄試料,卵白試料について,味を測定した.センサーは,‘酸味’(CA0),‘塩味’(CT0),‘苦味雑味’(C00),‘渋味刺激’(AE1),‘うま味’(AAE)の5種類を使用した.測定温度は25°Cとし,各試料を3回測定した.なお,五基本味応答の基準物質は,‘酸味’は2.7 mM酒石酸,‘塩味’は270 mM塩化ナトリウム,‘苦味雑味’は0.01%イソアルファ酸,‘渋味刺激’は0.05%タンニン酸,‘うま味’は10 mMグルタミン酸ナトリウム(Kobayashi et al., 2010)とした.
各センサーは,人間の唾液に相当する,ほぼ無味の溶液である基準液(30 mM塩化カリウムと0.3 mM酒石酸)に浸漬させ,基準電位(Vr)を測定した後,試料に浸漬し,試料電位(Vs)を測定し,[Vs−Vr]を口に入れた瞬間に感じる味=先味とした.その後,センサーを基準液で3秒間共洗いし,再び試料に浸漬し,試料電位(Vr′)を測定し,[Vr′−Vr]から得られた電位差を後味とした.‘苦味雑味’(C00)センサーで測定した後味を‘苦味’CPA(C00),‘渋味刺激’(AE1)センサーで測定した後味を‘渋味’CPA(AE1),‘うま味’(AAE)センサーで測定した後味を‘うま味コク’CPA(AAE)とした.CPAとはChange of membrane Potential caused by Adsorptionの略である(辻他,2005).なお,‘苦味雑味’とは苦味センサーの先味で評価されるもので,隠し味としての微量の苦味物質による味の奥行き感を表しており,‘うま味コク’はうま味センサーの後味で評価されるもので,‘うま味’の持続性によるコクを表している(池崎,2013)といわれている.
2-6.アミノ酸分析卵黄試料および卵白試料の遊離アミノ酸について,アミノ酸分析を行った.卵白試料の分析は食品分析開発センターSUNATECに依頼した.検査方法は,アミノ酸自動分析法にて測定し,シスチンのみ,高速液体クロマトグラフ法を用いた.
卵黄試料については,純水で10倍に希釈し,4,000 rpmで遠心分離した上清を試料とし,C18カラム(UG120:株式会社資生堂)を用いてHPLCにより定量分析を行った.試料の注入量は20 µLとし,移動相には,25 mM酢酸ナトリウム/4%ジメチルホルムアミドの溶液と,100%アセトニトリルを用い,流速1.0 mL/min,オーブン温度40°Cとし,吸光度436 nmで検出した(Ishikawa et al., 2019).各試料3回測定した.
測定したアミノ酸は遊離アミノ酸で,イソロイシン,ロイシン,リジン,メチオニン,シスチン,フェニルアラニン,チロシン,スレオニン,トリプトファン,バリン,ヒスチジン,アルギニン,アラニン,アスパラギン酸,グルタミン酸,グリシン,プロリン,セリンの18種類である.
2-7.官能評価全卵,卵黄,卵白について,官能評価を行った.液卵の提示量は15 mLとし,試料温度は25°Cで,パネルは日本女子大学学生,教職員,企業研究員の計33名とした.官能評価を行うにあたり,あらかじめ趣旨を説明し生卵を食べることに抵抗のない人達に同意を得たうえで行った.パネルの訓練として,事前に企業研究員を交えて試食をし,言葉出しをして意見交換をし,生の卵の味に慣れたうえで実施した.官能評価は分析型と嗜好型で行った.通常卵(A試料)を基準として,VDを強化した卵(B試料),DHAを強化した卵(C試料)をそれぞれ「−3から+3」の7段階評点法で評価した.評価項目は,分析型として,「色」,「粘り」,「塩味」,「酸味」,「苦味」,「渋味」,「うま味」,「コク」の8項目,嗜好型として,「香り」,「総合評価」の2項目とした.評価項目の内,『「コク」は,味,香り,食感がバランスよく,持続性(lastingness)や広がり(mouthfulness)がある味わいである』(西村,2011)ということを説明して評価してもらった.
官能評価を実施するにあたり,日本女子大学(ヒトを対象とした実験研究に関する)倫理審査委員会の承認(課題番号279)を得て,対象者に目的や意義を説明し,インフォームドコンセントを得た.また,データの取り扱いについては個人のプライバシーの保護に充分留意して行った.
2-8.統計処理統計処理についてはエクセル統計2008(Bell Curve for Excel)を用い,動的粘弾性測定,色度測定,味認識装置測定,アミノ酸分析においては一元配置分散分析,官能評価においては二元配置分散分析の後,Tukeyの多重比較を行った.また各測定項目間の相関については,SPSS(Ver. 25.0: IBM)を用いPearsonの相関係数を求めた.いずれも危険率5%未満を有意水準とした.
3種類の卵の卵黄試料について貯蔵弾性率および損失弾性率のひずみ依存性を周波数1 rad/sで測定したところ,ひずみ率1%までは線形領域を示した.そこでひずみ率を1%とし,動的粘弾性の周波数依存性を測定した.その結果をFigure 1に示す.周波数0~100 rad/sの範囲において,いずれの試料においても貯蔵弾性率よりも損失弾性率の方が値が大きくなり,両者はともに周波数が高くなるに従い,増加する傾向を示した.損失正接はいずれの卵黄試料においても1以上であったことから,粘性要素が大きく,また,20~40 rad/sをピークに低下し弾性要素が大きくなる傾向が認められた.
貯蔵弾性率,損失弾性率ともに3種の卵黄試料間において有意差は認められなかった.一方で,損失正接についてはC試料はA試料と比べ有意に値が高いことが示された.この結果より,VDの強化は卵黄の動的粘弾性に影響を及ぼさないが,DHAの強化は,卵黄の弾性要素に対する粘性要素の比率を高めることが示された.先行研究において,餌にビタミンEとα-リノレン酸を添加した場合の卵黄は,標準飼料の卵黄に比べて粘性が大きくなったという報告(小川・峯木,1999)がある.その理由として,飼料組成が卵黄の脂質に影響を与え,脂肪酸組成およびトリアシルグリセロールでの脂肪酸の配置に変化が生じ,これに伴い低密度リポ蛋白質の構造が変わることで脂肪球の形状にも変化がみられ,これらが複合して卵黄の粘性が大きくなったと考察している.本研究においてDHA強化卵の損失正接が高くなったのは,DHA強化卵の脂質組成が関与していると思われるが,今後さらに詳細な検討が必要であると考えられた.
次に,卵黄試料の動的粘性率の結果をFigure 2に示す.A, B, Cとも試料間には有意差はなく,VDやDHAの強化は卵黄試料の粘性率に影響を及ぼさないことが示された.
The same lowercase letters denote non-significant differences.
卵黄の色度の結果をTable 2に示す.B試料はL*値,b*値,色相,彩度のいずれも有意に高く(p<0.05),明るく黄色度が高く鮮やかな色を呈した卵黄であるのに対しC試料は,明度が有意に低く(p<0.05)黄色度も有意に低い卵黄であった(p<0.05).またb*値が低いことが彩度にも反映した.赤色度については3種の卵黄間に有意差は認められなかった.一般的に卵黄色が濃い卵が好まれる傾向にあり(渡邊,2008),卵黄色は飼料中に含まれるカロテノイド色素の影響を受けることが示されている.標準的な産卵鶏用飼料には,原料として黄色トウモロコシ中のクリプトキサンチン,およびコーングルテンミール中のルテインおよびゼアキサンチンが配合されており,これらは卵黄の黄色度(b*値)に影響を及ぼし,またパプリカ抽出物に含まれるカプサンチンは赤色度(a*値)に影響を及ぼしている(小嶋,2010).現在では多くの特殊卵の飼料にパプリカが使用されているといわれており,本研究においても,A, B, Cいずれの試料にも飼料にパプリカが使用されていた(Table 1).その結果,a*値には有意差が認められなかったと考えられる.卵黄の色調を決定するのは,赤色および黄色のバランスが重要であり,その濃淡で卵黄色の濃さを表すと考えられ(Fletcher & Halloran, 1981),今回用いたDHA強化試料は卵黄の色が有意に薄いことが示された(p<0.05).色差についてはA試料に対してB試料は9.8, C試料は14.1となり,B試料は『大いに』,C試料は『多大に』A試料との差が認められた.
L* | a* | b* | Hue | Chroma | ⊿E | |
---|---|---|---|---|---|---|
(A) Normal egg | 21.5b | 19.4a | 31.9b | 1.6b | 37.3b | — |
(B) VD-enriched egg | 26.5c | 18.7a | 37.2c | 2.0c | 41.7c | 9.8 |
(C) DHA-enriched egg | 13.8a | 18.7a | 18.7a | 1.0a | 26.4a | 14.1 |
Hue=(b*/a*)
The different lowercase letters denote significant differences with p<0.05 in the same column.
味認識装置による測定に用いた基準液の値を0「無味点」として,それより値が上回った味覚項目のみ,評価の対象とした.8項目のセンサーの内,基準液の値0「無味点」に満たなかった項目は‘酸味’,‘苦味’,‘渋味’,‘渋味刺激’の4項目であった.‘塩味’,‘苦味雑味’,‘うま味’,‘うま味コク’の4項目の結果について示す.
3種の全卵試料に関する食味特性の結果をFigure 3に示す.‘塩味’はB試料がC試料よりも有意に弱かったが(p<0.05),‘苦味雑味’はB, A, C試料の順にいずれも有意に弱くなった(p<0.05).また‘うま味’はC試料が,AおよびB試料よりも有意に強くなったが(p<0.05),‘うま味コク’はいずれの試料も有意差はなかった.
次に3種の卵黄試料,卵白試料の味認識装置による食味特性の結果をFigure 4に示す.卵黄試料においては,‘塩味’はB試料はA試料に比べ有意に弱かったが(p<0.05),‘苦味雑味’はA試料が最も強く(p<0.05),C試料は有意に弱くなった(p<0.05).‘うま味’,‘うま味コク’についてはいずれの試料間においても有意差は認められなかった.
卵白試料においては,‘塩味’は,B試料がA試料に比べ有意に弱く(p<0.05),‘苦味雑味’はA試料に比べBおよびC試料が有意に弱かった(p<0.05).また,‘うま味’,‘うま味コク’については卵黄同様,いずれの試料間においても有意差が認められなかった.
全卵試料においてはDHAを強化することで‘うま味’が有意に強く(p<0.05),‘苦味雑味’が有意に弱いことが示された(p<0.05).また,卵黄試料においてはVDを強化することで通常卵に比べ‘塩味’が有意に弱く(p<0.05),またDHAを強化することで‘苦味雑味’が有意に弱いことが示された(p<0.05).卵白試料においてはVDを強化することで通常卵よりも‘塩味’,‘苦味雑味’が有意に弱くなる(p<0.05)という結果が示された.以上のことより,味認識装置を用いることによって,‘塩味’,‘苦味雑味’,‘うま味’に関しては,機能性を有した卵の特徴を明らかにすることができた.一方‘うま味コク’については識別が難しいことが示された.
3-4.アミノ酸分析3種の卵における卵白試料と卵黄試料について遊離のアミノ酸を分析した.卵白試料については,3種ともにすべてのアミノ酸が100 g当量1 mg以下であった.
卵黄試料のアミノ酸分析の結果をTable 3に示す.遊離アミノ酸含量はA,B,C試料いずれも有意差は認められなかった.
Inspectional items | (A) Normal egg | (B) VD-enriched egg | (C) DHA-enriched egg |
---|---|---|---|
Ile | 4.1±0.3 | 4.1±0.1 | 4.5±0.2 |
Leu | 6.8±0.3 | 6.9±0.3 | 6.8±0.3 |
Lys | 10±0.7 | 10.4±0.3 | 10.4±0.5 |
Met | 1.9±0.2 | 1.9±0.1 | 2±0.1 |
Cys | 0±0 | 0±0 | 0±0 |
Phe | 5.2±0.2 | 5.2±0.2 | 5.4±0.4 |
Tyr | 4.4±0.3 | 4.6±0.2 | 4.6±0.5 |
Thr | 8.6±0.4 | 8.8±0.7 | 8.5±0.5 |
Trp | 1.4±0.2 | 1.3±0.1 | 1.6±0.1 |
Val | 5.9±0.6 | 6±0.4 | 6.4±0.2 |
His | 1.4±0.9 | 1.1±0.2 | 1±0.2 |
Arg | 5.8±0.3 | 5.8±0.2 | 5.9±0.2 |
Ala | 2.7±0.5 | 2.7±0.3 | 2.9±0.5 |
Asp | 1.8±0.1 | 1.9±0.4 | 1.9±0.2 |
Glu | 6.8±1.6 | 7±1.4 | 7.2±2.1 |
Gly | 1.9±0.3 | 1.9±0.1 | 2.1±0.1 |
Pro | 1.7±0.1 | 1.8±0.2 | 1.9±0.1 |
Ser | 5.5±0.5 | 5.2±0.3 | 5.1±0.2 |
Mean free amino acid content showed no significant differences among three types of egg yolk.
味認識装置による食味特性の結果では,卵黄試料の‘苦味雑味’の値は3種の試料間でA, B, C試料の順に有意に苦味雑味が強くなったが(p<0.05),アミノ酸分析では苦味を呈するロイシン,イソロイシンの値に有意差は認められず,アミノ酸分析と味認識装置の結果は対応していなかった.
一方,‘うま味’については,味認識装置では有意差は認められず,またアミノ酸分析によるうま味を呈するグルタミン酸の結果も有意差は認められなかった.
3-5.官能評価3種の卵について全卵の官能評価の結果をFigure 5に示す.分析型評価においてはA試料に比べB, C試料は有意に「色」が濃く,「うま味」が強く,「コク」があると評価された.B試料とC試料の間には有意差は認められなかった.
** indicates significant differences with p<0.05 relative to control (normal eggs).
また嗜好型評価において,C試料はA試料に比べ,「香り」が良いと評価され,B, C試料は総合的に好ましいと評価された.B試料とC試料の間には有意差は認められなかった.VDやDHAを強化すると「うま味」,「コク」が増し,総合的に好まれることが示された.さらに,3種の卵の栄養成分の結果(Table 1)から,B, C試料にはいずれもビタミンE(VE)が同量含まれていることより,A試料に比べ,B, C試料が好まれたのは,VE添加の影響もあると考えられた.
3種の卵について卵黄の官能評価の結果をFigure 6に示す.分析型評価においては,全卵の結果と同様にA試料に比べ,B, C試料は有意に「色」が濃く,「うま味」が強く,「コク」があると評価された.卵黄の官能評価においてB試料とC試料の間に有意差は認められず,いずれもA試料よりも「色」が濃いと評価されたことは,色度測定においてA試料に対しB試料はa*値以外,いずれの数値も高く「大いに」差があると評価され,C試料はA試料に対しいずれの数値も低く,「多大に」差があるという結果と異なる傾向となった.官能評価の結果ではB試料とC試料は同程度の数値であり,B–C間においては色差の数値が示すほどの差は認められなかった.色度の結果からC試料はA試料より卵黄の色が薄いと評価されるのではないかと考えられたが,色が濃いと評価された理由として,b*値,明度,彩度よりもa*値の影響が大きく,赤色度の強さが大きな影響を及ぼすと推察された.先行研究において,赤色系のキサントフィルの方が黄色系のキサントフィルよりも感応が強い(中嶋他,1994)との報告があり,今回のVDやDHA強化卵においては飼料のパプリカ色素の影響が考えられた.
** indicates significant differences with p<0.05 relative to control (normal eggs).
卵黄に関する官能評価においては,B, C試料はA試料に比べ「うま味」があると評価されたが,遊離グルタミン酸量は3種の卵黄に有意差はなく,官能評価の結果とアミノ酸分析値とは対応していなかった.これは今回のアミノ酸分析は加水分解法を用いており,グルタミン酸として測定された量の中に本来は味を呈しないグルタミンが含まれていると考えられ,その割合が不明のため,アミノ酸分析の結果と官能評価値とが一致しなかったと考えられた.また,B, C試料はVDやVE, DHAを強化しているため,ビタミンや油脂の味が混ざることにより,官能評価ではA試料に比べ「うま味」があると評価されたと推察された.また,B試料はA試料に比べ,有意に「粘り」があると評価され,B試料とC試料の間には有意差は認められなかった.卵黄の嗜好型評価の「香り」「総合評価」の結果には有意差は認められなかった.
3種の卵について卵白の官能評価の結果をFigure 7に示す.A試料に比べ,B, C試料はいずれも有意に「色」が薄いと評価された.それ以外の項目についてはいずれも試料間に有意差は認められなかった.全卵や卵黄に比べて,卵白は「うま味」や「コク」に関する項目において,識別しにくいことが明らかとなった.卵白についていずれの試料においても官能評価に有意差は認められなかったことは,アミノ酸分析で卵白中に遊離アミノ酸がほとんど検出されなかったことと対応しており,アミノ酸由来のうま味などの味の識別は卵白のみでは難しいということが判明した.これらの結果から,VDやDHAの強化は卵白よりも卵黄の呈味に影響を及ぼし,全卵の味の評価は卵白よりも卵黄の影響が大きいと考えられた.
** indicates significant differences with p<0.05 relative to control (normal eggs).
味認識装置による味の強度は,センサー応答値に,係数を乗じて得られるEIT(Estimated Intensity of Taste)値として計算されている.この数値は,ウェーバーの法則に基づいて推定された味強度として定義され,係数はウェーバー比を用いていずれの味(センサー)に対しても0.20と設定されている.つまり,味強度推定値のスコア1目盛りは,その味の基準物質の20%濃度差に相当していることを意味し,その味が20%濃くなると味の強さが1目盛大きく表示されるように設計されており,この1目盛分を,ヒトが識別可能な限界濃度差としている(中村他,2010;安食他,2007).
装置におけるこの設定は,1957年の先行研究(Howard & Francis, 1957)で報告されたヒトの弁別閾,塩味(塩化ナトリウム)0.15,甘味(スクロース)0.17,酸味(クエン酸)0.25,苦味(カフェイン)0.30という結果を元に,これら四味の平均値0.2175を採用したことによる(Kobayashi et al., 2010).
近年では,この味認識装置を用いてさまざまな食品の食味特性を明らかにし,商品開発に利用しようとする試みが行われている.味認識装置を用いる評価は繰り返し測定が可能で,官能評価と比べて測定環境に依存しにくい結果が得られると考えられている.雪茶製品の味強度の違いを検証した研究では,苦味,苦味後味センサーによって製品間の差を検知することができた(安食他,2007).さらに,みその熟成過程を味認識装置を用いて調べた研究では,酸味,塩味,苦味センサーは熟成過程の特徴をよく捉えていたが,一方でうま味センサーによる評価は官能評価によるうま味の評価と異なる傾向となった(戸井田・蟻川,2011)との報告がある.また,12種類の砂糖製品を,塩味,うま味コク,苦味センサーで測定したところ,官能評価による黒糖味の強度と高い相関を示した(藤井他,2019)という報告もある.異なる条件で抽出した緑茶においては,官能評価の渋味と渋味センサーを用いて測定した味強度の間に高い相関が見られた(久保他,2014)との報告がある.以上のように,ヒトが味を評価する際,舌による味質のみではなく鼻からの風味,香りを含めて評価していると考えられている一方で,液相成分の寄与のみを考慮している味認識装置を用いた品質評価が実用試験法として試みられている.卵についても,全卵,卵白,卵黄についてうま味センサーによる評価が試みられたが(中村他,2013),その他の味の特性評価に有効かどうかは明らかにされていないのが現状である.卵は主要アレルギー原因食物の一つであり,また食中毒原因食物でもあり,生で食することを敬遠する人もいるので,その食味特性の違いを味認識装置を用いて識別することができれば意義がある.
そこで,本研究においても,味認識装置による液卵の食味特性評価の有効性を検討するため,官能評価結果との比較を行った.装置での‘塩味’,‘苦味雑味’は全卵,卵黄,卵白いずれも,3種試料間で有意に差が認められたのに対し,官能評価における「塩味」,「苦味」はすべての試料間において識別不能であった.一方,装置での‘うま味コク’は3種の試料間において有意な差があるとは言えない結果であったが,官能評価では全卵と卵黄の「コク」を識別できた.以上のように,今回の試料(液卵)においては,味質によって,味認識装置の結果と官能評価との結果が必ずしも一致しておらず,食味の識別に関して味認識装置で官能評価を代替するには,限界があることが示された.
官能評価による味認識は,鼻からの風味,香りも含めて評価されることから,今後ノーズクリップを用いた官能評価の結果と比較するなど,更なる検討が必要であると考えられた.また,味認識装置の味の強度目盛が,味質にかかわらず一律の値(20%濃度)に設定されていることも,味質によって官能評価との結果の一致性が見られない一因かとも推察された.しかし,「塩味」,「苦味」については,ヒトが識別できない僅かな違いを,味認識装置を使うことにより違いを明確にすることが可能であることが示唆された.評価項目によっては,適切なセンサーを選択することで,液卵の食味特性の評価に味認識装置が有効となる可能性が示された.