日本官能評価学会誌
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研究報文
口腔内食塊の重量/容量に関する感覚評価―水を用いた実験
宮岡 洋三, 宮岡 里美, 山田 好秋
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2001 年 5 巻 1 号 p. 36-41

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1. 緒言

Stevensとその共同研究者達によって確立された感覚評価におけるマグニチュード推定法は, 感覚心理学を初めとする基礎的研究分野ばかりではなく, 臨床医学など応用的研究分野においても有用性が認められている. 動揺による不快感[Bock & Oman, 1982, Parker et al., 1979]や呼吸の困難感[Adams et al., 1985, Horowitz et al., 1996]を定量化するために使われているのは, 臨床医学への代表的な応用例と言える. 近年, 摂食・嚥下障害者の増加に伴い, 摂食・嚥下機能の基礎的ならびに臨床的研究が増えている. 中でも, 健常者や摂食・嚥下障害者の一口量ならびに一回嚥下量を調べ, 口腔における食塊量の認知機構を明らかにすることは重要な問題である[宮岡洋三等, 1999, 武原格等, 1998]. しかし, 食塊量認知の心理学的ならびに生理学的機構の解明は未だ不十分である. 他方, マグニチュード推定法を口腔感覚分野へ適用した例は少なくないが, その適用は味覚[Bartoshuk et al., 1983, Green et al., 1996], 痛覚[Weinstein et al., 1990], 体性感覚[Fucci et al., 1992, Siegel & Hanlon, 1983]などの分野に限られ, 食塊量を直接の対象とした実験研究はまだない. 本論文では, 健常な被験者を用いて食塊量認知において「Stevensのベキ法則」[Stevens, 1957, Stevens, 1960]が成立するか否かを中心に検討した.

2. 方法

口腔内にある食塊量の認知は, その重量に関する感覚情報に基づくのか, あるいはその容量に関する感覚情報に基づくのかが不明である. 本研究では, 被験者へ食塊量の重量評価を指示した場合と容量評価を指示した場合とで, 結果に相違があるか否かを調べることにした.

被験者は, 健康な成人(18~20歳)女子46名であった. 被験者は2群に分けられ, 「重量評価群(n=26)」では被験者に口腔内食塊の重量評価を, 「容量評価群(n=20)」では容量評価をそれぞれ求めた. いずれの群においても, 基本的な実験手続きは同様であった. 実験に先立ち, 被験者全員が実験内容に関する十分な説明を受けた後, 実験への参加を了承した. 実験室の気温は25~27℃であった.

本実験では, 強い味や匂いがなくかつ取り扱いが容易である水道水(温度は17.0℃)を疑似(simulated)食塊として使用した. 実験材料である「水」は, 重量と容量が等しい物質であるため, 以下の説明ではmL(あるいはL)単位で表示することとする. 但し, 被験者へ与えた指示の通り, 重量評価実験では「gm」, 容量評価実験では「mL」をそれぞれの表示単位とした部分もある. 今回用いた水量は10mLから40mLの7段階で, 概ね等比級数(公比, 1.26)となるようにし, 計量誤差を考慮して小数第1位で四捨五入した. すなわち, 「10, 13, 16, 20, 25, 32, 40mL」の7水量とした.

口腔への水注入には, 50mLのディスポーザブル針なし注射筒を用いた. 被験者毎に約1.3Lの水道水を用意し, 注射筒へ所定量の水を充填した. 実験者は被験者の前側方に立位で侍し, 実験内容を個別に再び説明した.被験者には, 座位で楽な姿勢を取らせた. また, 水注入時には, 頸を軽く後屈させ, 水量についての視覚的な情報を除くために開眼するように求めた. 実験者は水注入に先立ち被験者へその旨を告げ, 軽く開口するように指示した. その後, 実験者は水を被験者の口腔底へ3~4mL/sの速度で注入した. 被験者には, 注入された水を口腔内に数秒間留めさせた後, 全量を吐き出させた. 重量評価群にあってはその重量を, また容量評価群にあってはその容量をそれぞれ感覚評価するように指示した(以下を参照). また, 被験者の口腔内に水がある間, 特に顎舌運動を制限するような指示はしなかった.

感覚評価では水20mLを標準刺激として用い, その主観的感覚量を「100」とさせ, 各変化刺激の感覚量を「10」刻みで評価させた. 「10」刻みとしたのは幾何平均値算出の煩雑を避けるためで, 標準刺激に対する感覚量100の1/3あるいは1/4などの場合には, その値を四捨五入させた. 具体的な指示は, 「最初に口へ含む水20mLを標準として, その重量感(ないしは容量感)を100と評価して下さい. 後で口へ含む水によって生じる重量感(ないしは容量感)が, 仮に標準の半分ならば50, 逆に倍ならば200と評価して下さい. 尚, 標準の四分の一ならば25となりますが, データ整理の都合上から, 四捨五入して30として下さい.」という内容であった.

無作為化した注入順序に従い, 約30秒の間隔を置き, 各水量を4回ずつ繰り返させた. 本試行に先立ち, 標準刺激ならびに刺激の上限と下限(最大水量と最小水量)を十分に把握させるために, 予備試行を実施した.この予備試行は, 20mL(標準刺激)→ 10mL(最小量刺激)→40mL(最大量刺激)→20mL(標準刺激)の4試行をおこない, 感覚評価は求めなかった. 尚, 測定誤差を小さくするために, 実験に先立ち口腔内の唾液を吐き出させた.

3. 結果

感覚評価の結果を刺激量に従ってまとめ, 最頻値と範囲, 中央値と四分偏差ならびに幾何平均値と標準誤差を刺激量毎に算出した. さらに, 算出された中央値と幾何平均値から, 刺激量と感覚評価との間における回帰直線, 相関係数, 回帰方程式ならびに決定係数をそれぞれ求めた.

1)重量評価実験

全被験者26名から得られた延べ728試行(28試行/被験者×26名)の感覚評価は, 最小値の20(10mL刺激時)から最大値の250(40mL刺激時)までばらついた. 刺激量毎の範囲は, 10mLと13mLで70と90と相対的に小さかったが, それ以外の5刺激では120~140であった.

感覚量の代表値として中央値を採用した場合には, 刺激量をS, 感覚量をΨとすれば, 回帰方程式log Ψ=1.152logS+0.459がえられた. この方程式に基づく回帰直線はFig.1Aにあり, 各中央値の四分偏差はTable 1に示す. また, 相関係数(r)は0.996(95%信頼区間, 0.973-0.999), 決定係数(R2値)は0.992となった. 次に, 感覚量の代表値として幾何平均値を採用した場合には, 回帰方程式がlog Ψ=1.125logS+0.509となった. この方程式に基づく回帰直線はFig.1Bにあり, 各幾何平均値の標準誤差はTable 1に示す. また, 算出されたrとR2値は, それぞれ0.998(0.982-1.000)と0.995となった.

尚, 中央値と幾何平均値の回帰方程式を指数関数で表せば, 中央値を代表値とした場合Ψ=2.877S1.152となり, 幾何平均値を代表値とした場合Ψ=3.228S1.125となった.

2)容量評価実験

全被験者20名から得られた延べ560試行(28試行/被験者×20名)の感覚評価は, 最小値の10(10mL刺激時)から最大値の220(40mL刺激時)までばらついた. 刺激量毎の範囲は, 10mLと20mLでは190と150と相対的に大きかった. しかし, 両刺激量とも200という感覚評価を示した各1試行を除けば, 10mLでは70, 20mLでは100となって, 他の刺激量とそれほど大きな隔たりはなく100前後であった.

感覚量の代表値として中央値を採用した場合には, 回帰方程式はlog Ψ=1.151logS+0.469となった. この方程式に基づく回帰直線はFig.2Aにあり, 各中央値の四分偏差はTable 1に示す. また, 算出されたrとR2値は, それぞれ0.989(0.921-0.998)と0.977となった. 次に, 感覚量の代表値として幾何平均値を採用した場合には, 回帰方程式がlog Ψ=1.080logS+0.578となった. この方程式に基づく回帰直線はFig.2Bにあり, 各幾何平均値の標準誤差はTable 1に示す. また, 算出されたrとR2値は, それぞれ0.994(0.958-0.999)と0.989となった.

尚, 中央値と幾何平均値の回帰方程式を指数関数で表せば, 中央値を代表値とした場合Ψ=2.944S1.151となり, 幾何平均値を代表値とした場合Ψ=3.784S1.080となった.

Table 1

Variability of magnitude estimation data

4. 考察

近年, 摂食・嚥下機能の基礎的また臨床的研究が盛んになるとともに, 口腔内にある食塊量の認識機構が大きな問題となっているものの[宮岡洋三等, 1999, 武原格等, 1998], 食塊の重量あるいは容量についてマグニチュード推定法を用いて調べた研究はこれまでなかった. マグニチュード推定法は直接的尺度構成法の代表とされ, この方法によって導かれる感覚量Ψは比率尺度とされる. 刺激量Sと感覚量Ψとの間には,

Ψ=kSn

という関係が成り立ち, 「Stevensのベキ法則」と呼ばれる[Stevens, 1957, Stevens, 1960]. この式の両辺の対数を取ると,

log Ψ=nlogS+logk

となり, 感覚量の対数値は刺激量の対数値に比例することを意味する. 今回の研究から, 口腔中の食塊量についても, このベキ法則の成立することがわかった(Fig.1とFig.2).

マグニチュード推定法でえられる感覚評価の代表値としては, 通常中央値あるいは幾何平均値が用いられる[中谷和夫, 1977, 齋藤尭幸, 1982]. 本研究では, 中央値と幾何平均値の両者を使ったところ, 両者に本質的な差は認められなかった(Fig.1Aと1B, Fig.2Aと2B). 従って, 計算のより容易な中央値を用いても, 実際的には問題がないと言える. 但し, 標本の散布度に関しては, 四分位数については重量評価実験と容量評価実験とに大きな差異はなかったが, 平均値の標準誤差(S.E.M.)については容量評価実験の方が重量評価実験よりも大きい傾向はみられた(Table 1). 散布度としては, 四分位数よりもS.E.M.の方がより感度が高いと考えられるので, 今回みられた傾向は注目に値する. 一つの可能性として, 容量評価が重量評価より被験者にとってより困難な課題であったため, 容量評価でのS.E.M.が大きくなった可能性もあるが, いずれにしても今後のさらなる検討を要する.

ところで, ベキ関数Ψ=kSnにおけるベキ指数nは感覚種によって種々の値を取り, 感覚種特性指数[modality characteristic exponent]と呼ばれる[Stevens, 1960]. この感覚種特性指数は, 実験条件が変化しでも大きく影響されないという[相場覚, 1977]. 今回の結果では, 重量評価実験ならびに容量評価実験とも, 約1.1というベキ指数を示した(Fig.1とFig.2). 今回得られたベキ指数と近似値を示す感覚種としては, 時間の持続・圧力・発声努力などがある[Stevens, 1960]. 但し, 今回は同一の実験方法を用いて他の感覚種におけるベキ指数を得ていないので, Stevensが得たベキ指数[Stevens, 1960]と本研究のそれを直接的に比較することは困難である. しかし, 少なくとも痛覚(電気ショックによる)の3.5という大きなベキ指数や明るさの0.33あるいは音の大きさ(両耳による)の0.6という小さなベキ指数とは異なるようである. これから, 口腔中の食塊量を認知する神経機構は, これらの感覚種とは違う可能性も考えられる.

口腔中の食塊量認知に関与する感覚情報源としては, 1)食塊の容量が口腔粘膜などを伸展させるために生じる機械受容器の興奮[Cooper et al., 1991, Ermirio et al., 1989], 2)食塊の重量が咀嚼筋などを伸張させるために生じる筋紡錘の興奮[Hidaka et al., 1999, Scutter & Turker, 1999], 3) 食塊の重量が顎関節を伸張させるために生じる関節受容器の興奮[Broekhuijsen et al., 1983, Ohya, 1992]などが候補として挙げられる. 本研究では, 被験者に口腔内にある水の重量あるいは容量を評価するよう指示したところ, 両実験の結果にはほとんど差が認められなかった. 従って, 被験者は, (1)本来食塊の重量と容量とを区別できない, (2)食塊の重量と容量とを同一の神経機構で認知している可能性が示唆される. 重量認知か容量認知かの問題を解決するために, 今後は口腔内に留置したバルーンを伸展させるなどして, 重量が関与することなく容量を変えて感覚評価させるような実験が求められる.

今回の研究をまとめると, 口腔内の食塊量とその感覚評価の間にはベキ法則の成り立つことが明らかになったものの, その感覚情報源についてはさらに研究する必要のあることがわかった.

Fig.1

Sensory evaluation of bolus weight in oral cavity examined by magnitude estimation method

Relationship between bolus weight and its sensory evaluation. Abscissa marks in logarithmic units of bolus weight, and ordinate plots on logarithmic scale. Medians (A) and geometrical means (B) are adopted as representative values. S, stimulus intensity; Ψ, magnitude of sensory evaluation; and R2, coefficient of determination. Equation of relationship between bolus weight (x=logS) and sensory evaluation (y=logΨ) is written as inset.

Fig.2

Sensory evaluation of bolus weight in oral cavity examined by magnitude estimation method

Relationship between bolus volume and its sensory evaluation. Abscissa marks in logarithmic units of bolus volume, S, stimulus intensity; Ψ, magnitude of sensory evaluation; and R2, coefficient of determination. Equation of relationship between bolus volume (x=logS) and sensory evaluation (y=logΨ) is written as inset.

5. 謝辞

本研究に被験者として参加してくれた山形県立米沢女子短期大学健康栄養学科ならびに県立新潟女子短期大学生活科学科の学生諸氏に深謝致します. 本研究の遂行に当たっては, 広島修道大学人文学部心理学研究室の今回純雄先生からマグニチュード推定法に関する文献紹介を頂き, また山形県立米沢女子短期大学健康栄養学科の田渕三保子先生から技術的なご助力を頂いた. さらに, 原稿の改訂に当たっては, 味の素株式会社食品総合研究所の河合美佐子先生から多くの貴重なご示唆を頂戴した. 上記の三先生方に, 衷心から感謝の意を表します. 尚, 本研究の一部は, 文部省科学研究費補助金(宮岡洋三, 課題番号 10671737ならびに山田好秋, 課題番号 11470389)を使っておこなわれた.

引用文献
 
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