2001 年 5 巻 2 号 p. 112-117
官能評価の実験事態は, 日常生活の中でのひととものとの関係と, 大きくかけ離れていることが多くある. 実験である以上, 実験統制などの問題から, 現実的には, 非日常的な事態での評価結果から, 結論を導き出さざるをえない. そこで, より日常に近いひととものの関係の下での実験を目指す必要がある.
通常, 作り手側としては, 物性につながる結果が得られなければ, ものつくりはできない. そこで, 物性を中心に考えて, 物性になるべく直結するような言葉を評価用語として, 評価者に商品の評価を行ってもらっている. しかし, 使い手は, 日常生活の中での商品との関係から, 何気ない表現を一般的に用いる. そこでは, あいまいで多様な意味をもった言葉で表現されることが多い. そして, これらの言葉はその商品の物性を必ずしも反映していない感情・感性表現がほとんどである. 使い手がものと接した時に何気なく発する言葉から, ものっくりに反映できる何らかの手立てが得られれば, 従来とは異なったものつくりの可能性が出てくる. そこで, 使い手志向の表現として, オノマトペと感嘆詞に注目した. これらが, 評価用語として適切かどうかを明らかにすることが, 本研究の目的である.
「コトコト」というような擬声語(onomatopoeia)は, その状態から得られた聴覚印象を言語表現したものである. と同時に, ものが転がる様をも表現することがあるので, 擬態語としても使われることが多くある.そこで, 擬声語と擬態語を合わせて, 通常「オノマトペ」と呼んでいる. オノマトペは, 感覚経験の直接的表現である. 擬声語は聴覚印象の言語表現で, 擬態語は五感それぞれの印象を言語音で表現したものである.
また, 感情が関わっているという意味で「擬情語」と呼ばれることもある. 物性の表現とともに, ものから得た感情(affection)の表現としても, オノマトペは可能性を持っている(神宮・竹本・妹尾, 1999a.b.c;神宮, 2000a.b;竹本・妹尾, 2000).
「おゃ」というような感嘆調あるいは感動調は, 感情の直接表現である. ものと接した時に, 最初に口をついて出てくる言葉で, いろいろな考えを経ずに発せられる第一印象による最初の言葉である.
これらの言葉は, あいまいで多様な意味を持っており, 物性とは必ずしも直結しないと考えられている. 従来, これらは, 評価用語として注目されることはなかった. 今回, 市販商品を使って, これらの可能性を明らかにする.
24名の20代の女性を評価者として実験に参加してもらった. 乳液を日常的に使用している一般の女性である.
2. 2 試料4種類の市販乳液を使用した. これらは, 同一メーカーのものであり, 以下ではA・B・C・Dと記す. Aは, こってりタイプで, 水分・油分のバランスを整え, 肌の保湿の働きをサポートし, ふっくらハリ感を与える乳液である. Bは, ややさっぱりタイプで, 化粧水のように肌のすみずみまで吸い込まれるように浸透し, うるおい感が得られる乳液である. Cは, ジェル状のさっぱりタイプで, 肌の柔軟さと保湿バランスを整え, 肌をみずみずしく保つ乳液である. Dは, ノーマルタイプで, べたつきがなくしっとりやわらかな肌にする乳液である.
2. 3 質問紙オノマトペで構成した質問紙と感嘆詞で構成した質問紙との2種類を使った.
オノマトペは, 事前の研究(神宮・竹本・妹尾, 1999a)で, 通常の官能評価用語(粘度・のびの軽さ・なじみの速さ・なめらかさ・清涼感・あぶらっぽさ・みずみずしさ・コク・膜厚感・べとつき・さっぱり感・しっとり感・肌の柔軟性)を参考にして選定した13語を使用した. これらは, ねばねば・ずるずる・ぼたぼた・すべすべ・すうすう・ぎとぎと・ぴちびち・ぬめぬめ・もこもこ・べたべた・さらさら・ばさばさ・ごわごわ, である. 5段階の単極評定尺度で, 乳液使用時に感じた程度を評価してもらった.
感嘆詞は, 事前に数名の女性評価者に聞き取り調査を行い, 乳液使用に際して発したことのある感嘆詞を挙げてもらい, 12項目を選定した. これらは, うわー・すー・えーっ・うっ・あぁ・ひいいっ・げっ・ふーっ・んー・ありゃ・ほっ・はぁーである. そして, 各乳液をつけた時に感じた, 第一印象としての気持ちを最も表している言葉に○印をつけてもらった. 丸の個数の制限はつけなかった. また, 他に適切な言葉があれば, 書いてもらうようにした.
2. 4 手続き各評価者は, 以下の手順で2種類の乳液について実験を行った. 24名の評価者に2種類ずつの乳液を評価してもらったので, 各乳液について12名分の評価結果を得ることになる.
1 洗顔する.
2 洗顔後2分間待つ.
3 手のひらに乳液をシリンジで0.3ml呈示する.
4 顔に日常と同じやり方で塗ってもらう.
5 塗り終えたら, 感嘆詞の質問紙に答えてもらい, その後続けてオノマトペの質問紙にも答えてもらう.
6 次に, もう一度洗顔する.
7 洗顔後2分間待つ.
8 手のひらに別の乳液をシリンジで0.3ml呈示する.
9 顔に日常と同じやり方で塗ってもらう.
10 塗り終えたら, 感嘆詞の質問紙に答えてもらい, その後続けてオノマトペの質問紙にも答えてもらう.
なお, 実験前に下記の教示を読んで, 評価者に理解してもらった.
「これから, 乳液についての触感を評価する実験を行います. 評価用語は次の2種類です(ここで2種類の質問紙を渡して一通り目を通してもらう). 最初に洗顔料で顔を洗ってもらいます. その後乳液を手のひらに出しますので, 日常のやり方で好きなように顔に塗ってください. 塗り終わりましたら, 2種類の質問紙に順次答えてください. 次に, もう一度同じように, 顔を洗っていただき, 別の乳液の評価をしていただきます. 何かわからない点がありましたら随時申し出てください.」
洗顔はぬるま湯で行い, 商品が見えないようにして, 個別に実験を行った. 実施は, 2000年5月から6月にかけて行った.
5段階評定値を感じた程度が大きければ値が大きくなるように1から5に得点化して, 4種類の乳液に対する結果をまとめた. オノマトペ13語の評価結果について, 4種の乳液の12名分の結果から, 横13列で縦48行のデータ行列で主成分分析を行った. 固有値1以上で4主成分が抽出された. Table 1の主成分負荷行列から, 第1主成分は, べたべたでぎとぎとしていてねばねばでもこもこしているので, 「油分」あるいは「油分に起因する肌への付着性」に関係する軸と考えられる. 第2主成分は, ずるずるでぼたぼたしていてぴちぴちですうすうしているので, のびやなじみなどの「肌への浸透力」に関係する軸と考えられる. 第3主成分は, ばさばさしてごわごわしているので, 「保湿」に関係する軸と考えられる. 第4主成分は, ぬめぬめしているので, 「水分に起因する肌への付着性」あるいは「コク」に関係する軸と考えられる. このように, 物性に応じた評価軸を得ることができた.
第1・第2主成分での主成分得点から, それぞれの乳液の平均値を12名のパネルの値から求めた. Fig. 1は4つの乳液の布置である. 各製品の特徴を反映した結果となっており, AとCが, 2つの主成分の側面ともに対立的な関係を示していた. つまり, Aは油分を感じるものの, 肌への浸透力を感じない乳液であり(こってりタイプ), Cは油分を感じず, 肌への浸透力を感じる乳液(さっぱりタイプ)といえる.
このように, オノマトペを評価用語として使用しても, 物性に対応した評価が得られ, 製品の特徴を反映する結果が得られることが明らかとなった.
次に, 感嘆詞での評価との対応から, 各オノマトペの状況に対して気持ちよさの程度を, 不快を1点, 快を5点とする5段階評価で381名の大学生に調査した結果(神宮, 2000a.b)を用いて, 分析を行った. この調査結果から, 各オノマトペにおける気持ちよさの程度の平均値が算出されている. 調査の対象が大学生であるが, 今回の実験での評価者も一般的な20代の女性で, 大学生とオノマトペの捉え方が大差ないと考え, この結果を用いた. 感嘆詞での評価は, 物性というよりも, 乳液と接した時の最初の感情表現と考えられ, オノマトペでの評価でも「気持ちよさ」という感情表現が可能であると考えたからである.
4種の各乳液について, 「総合気持ちよさ得点」を評価者毎に求めた. 「総合気持ちよさ得点」とは, 本実験で行った乳液に対する各評価者の13語のオノマトペ評価結果に, 前述した各オノマトペにおける気持ちよさの程度の平均値をかけた値の合計値である. この「総合気持ちよさ得点」を用いて, 横が乳液の4種で縦が12名のパネルのデータ行列で, 主成分分析を行った. 固有値1以上で2主成分が抽出された. Table 2の主成分負荷行列から, 第1主成分と第2主成分とで4種の乳液を布置したのが, Fig. 2である.
結果は, オノマトペそのものからの分析結果とは異なっていた. A・CとB・Dという対応を示しており, A・Cがより気持ちよいという結果であった. オノマトペによる物性と気持ちよさという感情・感性面とでは, かなり異なった対応関係があった. 物性に基づいた評価と, 使用時の気持ちの問題とはかなり異なっていることを意味している. このことは, Aがこってりした感触のクリームに近い乳液であり, 一方Cはさっぱりしたジェル状で乳液というよりは化粧水に近いタイプという, AとCではそれぞれの物性がまったく異なるものの, 共に本来の乳液らしさからはやや逸脱した乳液であり, だからこそ乳液として本来の枠組みにはないものに気持ち良さを感じていると考えられる.

Component loadings in Onomatopoeia

Plot of component scores of milk lotions in Onomatopoeia

Component loadings with total point of affection in Onomatopoeia

Component loadings with total point of affection in Onomatopoeia
感嘆詞12語に対して丸のついたものを1, つかなかったものを0として, 数量化III類を実施した(Table 3). 各乳液については, 12名での平均値を求めた. I軸とII軸とで, 4種類の乳液とともに12語を布置したのがFig. 3である. 乳液間の関係はA・C対B・Dという対応が得られ, この対応はオノマトペの物性での結果よりも, 総合気持ちよさ得点での結果に近いものとなった. そして, 12語の布置から考えると, I軸の一方向は「拒絶や驚き」を意味しており, 現在自分が使用している乳液とのギャップに基づいた反応と考えられる. また, I軸の+方向は「落ち着き感やいやし感」を意味している. なお, II軸の+方向は乳液と一体となるような「浸透感」を, 方向は「残存感」を意味していると考えられる.
Fig. 2とFig. 3とで乳液の布置関係を比較すると, A・CとB・Dとで気持ちよさと悪さとが逆の対応を示していた. すなわち, Fig. 2の総合気持ちよさ得点の評価ではA・Cが気持ちよく, B・Dが気持ち悪いと表現されていたが, Fig. 3の感嘆詞の評価ではA・Cは「拒絶や驚き」といった不快感・気持ち悪さが表現され, B・Dは「落ち着き感やいやし感」といった快感・気持ちよさが表現されていた. 総合気持ち良さ得点は, 物性を意識した評価結果から算出されたものであり, 本来の乳液らしい乳液としての気持ち良さというよりは, 本来の乳液にはない新たな感情・感性に訴える気持ちよさを表していると考えられる. 一方, この感嘆詞での結果は, 最初に乳液と接した時の第一印象の表現であり, 現在使用している乳液や他の基礎化粧品を基準として, 試料の乳液を判断したためと考えられる.

SURYOUKA III in exclamation

Plot of milk lotions and exclamations with SURYOUKA III
従来の一連の研究から, オノマトペは物性の評価について, 従来の官能評価用語と同等の力をもっていることが明らかとなった. と同時に, オノマトペの持つ気持ちよさ得点を加味することにより感情・感性評価用語としても使用可能であることがわかった. オノマトペには「擬声語・擬態語」としての物性と, 「擬情語」としての感情が内在しており, オノマトペによる評価は, 物性を意識した上での感情の表出と考えられる.しかし, 感嘆詞での結果は, オノマトペからの感情の結果とは異なっていた. これは, 感嘆詞自身には物性が内在しておらず, 感嘆詞による評価は, 評価対象に対する第一印象の感情を表出していることによると考えられた. これらの各言葉の性質から, 第一印象での感情と評価事態を意識した場面での感情という違いを認識し, 2つを使い分けて考える必要がある.
本研究結果は, お客様が最初に商品と接したときに発する感情表現と, 使い慣れた時や商品を比較しなければならない時のように評価を意識するようになった場面での感情表現とでは, 区別して考える必要があることを意味している.