日本官能評価学会誌
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研究報文
有機酸の嗜好性に及ぼす中等度運動の影響
穂保 麻由森髙 初惠内藤 成弘小此木 成夫木村 修一萬里小路 直樹渡辺 満利子永田 由美子福場 博保
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2001 年 5 巻 2 号 p. 118-126

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1. 緒言

現在, 生活習慣病の予防や健康保持・増進を考えるうえで, 日常生活における運動の実践が広く推奨されている. これに伴い, 運動で消費される電解質やビタミンあるいは疲労回復のための分枝鎖アミノ酸などを含む, 様々なスポーツドリンクやスポーツフードが多数開発されている. 飲食物の摂取により運動後の疲労回復を図ることは, プロスポーツや部活動などの強度な運動に対してだけではなく, 健康づくりを目的とした日常的な運動に対しても期待されている. 運動中や運動後に糖と水分を摂取することは, エネルギー補給や疲労回復に有効であると認識されている(小林, 1996)が, さらに, 糖と共にクエン酸や酢酸を摂取することにより, 運動後の疲労感が低下し, リラックス感が高まるなどの主観的評価結果が報告(中尾等, 1999)されている. また, クエン酸については持久運動後に経口摂取すると, 肝臓や筋肉において消費したグリコーゲンの補給を助けるとの報告(Saitoh等, 1983)もあり, 有機酸は運動時あるいは運動後の生理機能と深く関与していると考えられる. Horio and Kawamura(1998)は, 運動負荷によるクエン酸の嗜好性について報告しているが, クエン酸以外の有機酸については検討していない.

そこで, 本研究では運動の負荷が有機酸の嗜好評価に影響を及ぼすのか, また, その影響は有機酸の種類によって異なるのか検討を行なった. 有機酸としては果物に含まれており, TCAサイクルの中間生成体であるクエン酸とリンゴ酸, 体内へはほとんど吸収されないと報告されている酒石酸(藤井等, 1997)を用いた. また, クエン酸やグルコースは単独で摂取するよりも混合して摂取する方が, 運動回復期に肝臓や筋肉のグリコーゲンの補充が有意に大きいとの報告(Saitoh等, 1983)も発表されている. そこで, それぞれの有機酸溶液にグルコースを添加した溶液の嗜好性についても検討した.

2. 実験方法

有機酸は, 特有の香りを持たず, 等濃度(0.00125-0.02000M)で酸味の強さがほぼ等しいと報告(古川, 1994)されているクエン酸, リンゴ酸, 酒石酸(和光純薬工業株式会社製・特級)を用い, 糖としてはグルコース(和光純薬工業株式会社製・特級)を用いた. 有機酸の濃度は, Horio and Kawamura(1998)の報告を基に, 0.0024M, 0.0096Mとした. また, 濃度範囲を広くとる目的で, 0.0096Mより高濃度の数種のクエン酸溶液について, 6名のパネルにより3回官能評価を行い, 0.0096Mの3倍の濃度である0.0288Mも有機酸の濃度として加えた. 試料溶液の温度は25℃とした.

パネルは昭和女子大学生活科学科所属の22歳の女子大学生45名で構成した. 実験を行なう室内温度は23±1℃, 湿度は40±10%とした. 第1回目の官能評価は30分間の安静を保った後に行い, 第2回目の官能評価は運動終了後直ちに, さらに第3回目の官能評価は運動後に設定した30分間の休憩後に行なった. 運動は自転車エルゴメーター(コンビ株式会社製コンビエアトバイク400)を用いて負荷した. 運動時心拍数は, 年齢22歳, 安静時心拍数を70拍(飯塚と上田, 1990)として, (1)(2)式(Boyer and Kasch, 1970)から算出し, 130拍とした.

最大年齢別心拍数=201.7-0.583x年齢・・・・(1)

運動時心拍数=(最大年齢別心拍数-安静時数)×0.5+安静時心拍数・・・・(2)

自転車エルゴメーターは, パネルの心拍数が1分間に130拍(堀尾, 1997;Horio and Kawamura, 1998)を保つように調節した. 運動の継続時間は目標心拍数に達してから30分間とした.

パネルの半数(22名)については, 運動中の脈拍数, 最高血圧値, 最低血圧値, 外聴道内体温を5分間隔で測定し, 運動中の身体状態の推移を観察した.

濃度の異なる有機酸溶液の評価は, 予備実験を数回繰り返した結果, 刺激の強い高濃度の有機酸溶液を評価した後では低濃度の酸味が感じにくくなるために, 0.0024M溶液から0.0288M溶液へと低い濃度から高い濃度へと順番に行った. 種類の異なる有機酸溶液の評価の順番は各パネリスト間で異なるようにラテン方格法により設定した. パネルに与える有機酸溶液は10mlとし, 溶液を一度に全量口に含み, 飲み込まずに吐き出して評価した. 1種類の溶液の評価が終了したら, 脱イオン水で口腔内を十分に洗い, 脱イオン水が口腔内に残らないように吐き出した後, 次の評価を行なった. 嗜好の評価尺度には, 極めて好ましい:+4, 非常に好ましい:+3, 中程度に好ましい:+2, 僅かに好ましい:+1, 好ましくも好ましくなくもない:0, 僅かに好ましくない:-1, 中程度に好ましくない:-2, 非常に好ましくない:-3, 極めて好ましくない:-4の9段階尺度を用い, その平均値を計算した. 評価の実施時間は1日の内で朝食時, 昼食時, 夕食時を除いた極度の空腹感・満腹感のない時間帯に設定し, 1人1日1回行なった.

各有機酸溶液にグルコースを添加した試料については, 有機酸単独溶液を評価した日から1ヶ月の期間を置いて, 有機酸単独溶液で行った評価方法と同様の方法で1人1日1回の官能評価を行なった. なお, グルコースの濃度は, 堀尾(1997)とMeyer等(1995)の報告をもとに, 6%以下の数種の濃度のグルコースを3種類の濃度の有機酸に添加し, 6名のパネルによる官能評価を3回行い, グルコースの存在下でも各酸の味質の評価が可能であった3.8%とした.

運動直後にパネルの全員に対して, 運動の強度(`辛くない´, `少し辛い´, `非常に辛い´). 疲労感(`疲れなかった´, `少し疲れた´, `非常に疲れた´)・発汗(`汗をかかなかった´, `少し汗をかいた´, `非常に汗をかいた´)・口渇感(`喉が渇かなかった´, `少し喉が渇いた´, `非常に喉が渇いた´)の4項目ついてアンケート調査を行なった.

本報告では, 有機酸の嗜好に対する有機酸の種類, 濃度, グルコース添加の効果, 運動の効果を検討することを目的としている. 分析の手法としては多元配置の分散分析も考えられるが, 多元配置の分散分析を用いた場合, ある一つの変動要因の分析を計算するときに, 他の変動要因による変動は繰り返しと見なしてプールされる. そのため, 本研究では要因ごとに一元分散分析を用いて検定を行った. データ解析にはSPSS9.0J用い, 主効果のすべての有意差検定を1元分散分析により行い, 主効果が有意であった場合には多重比較としてTukey法を用いた.

3. 結果

(1)運動条件

運動開始から5分ごとに測った脈拍, 最高血圧, 最低血圧の各平均値(N=22)をFig.1に示す. 脈拍数は平常時70拍であったが, 運動開始から5分前後で急速に上昇して120拍に達し, その後120~130拍を保ち, 運動終了後にはほぼ平常値に戻った. 最高血圧は運動前107mmHgであったが, 運動開始後に上昇して148mmHgにまで達し, 運動中は同程度のレベルを保ち, 運動終了後は元のレベルに戻った. 一方, 最低血圧は, 運動による影響がほとんど見られなかった. Fig.2は, 外聴道内体温の平均値(N=22)の推移を表したもので, 運動前の35.8℃付近から運動開始後徐々に上昇して, 最も高いときでは36.0℃を超えたが, 運動終了後は穏やかに下降し, 運動前のレベルに戻った. このように自転車運動中には最高血圧, 体温の上昇が明確に認められた.

運動強度・疲労感・発汗・口渇感の4項目について, 3段階のアンケート調査を行なった結果をFig.3(a)~(d)に示す. 各回答で最も回答割合の高かったのは, `少し辛い´・`少し疲れた´・`少し汗をかいた´・`少し喉が渇いた´であり, 疲労感・発汗・口渇感において運動の影響が見られた. 以上の結果, 本実験で行なった30分間の自転車運動は, 運動時に発汗を伴い, 最高血圧・体温が上昇し, やや辛く感じられる中等度強度(堀尾, 1997;Horio and Kawamura, 1998)の負荷であることが確かめられた.

Fig.1.

Heart rate and blood pressure monitored every 5 min during exercise Mean values were calculated from the data of 22 persons.

…■…Diastolic blood pressure, …◆…Systolic blood pressure, ―▲― Heart rate

Fig.2.

Temperature monitored every 5 min during exercise Mean values were calculated from the data of 22 person.

Fig.3.

Physical condition after exercise

(1) Intensity of exercise, (b) Intensity of fatigue, (c) Intensity of perspiration, (d) Intensity of thirst.

The number of panelists was 45.

(2) 運動前の有機酸の嗜好性

(2―1)有機酸単独溶液

(2-1-1)有機酸の濃度の影響

運動前の有機酸単独溶液(Fig.4)において, 各濃度の酒石酸溶液の嗜好評価の平均値-1.33, -2.38, -2.76では, 各濃度間で嗜好の評価には有意差があり(p<0.05), リンゴ酸でも各濃度の嗜好評価の平均値-0.98, -2.53, -2.78間には有意差があった(p<0.05). クエン酸では0.0024M溶液の嗜好評価の平均値-1.00と0.0096M溶液の平均値-2.36間, 0.0024M溶液の嗜好評価の平均値-1.00と0.0288M溶液の嗜好評価の平均値-2.96間で有意差が見られたが(p<0.05), 0.0096M溶液の平均値-2.36と0.0288M溶液の嗜好評価の平均値-2.96の間には有意差が見られなかった(p>0.05). 各有機酸において, 有意差(p<0.05)の見られた濃度間では, 濃度の低い有機酸の嗜好が高く評価された.

(2-1-2)有機酸の種類の影響

0.0024M, 0.0096M, 0.0288Mのどの酸味の強さにおいても, 3種類の有機酸間で嗜好評価に有意差は見られなかった(p>0.05, Fig.4). リンゴ酸とクエン酸はTCAサイクルの中間生成体であり, 酒石酸は体内へはほとんど吸収されない(藤井等, 1997). 各有機酸溶液の味質については, クエン酸では酸味度が高く, 酒石酸では渋味があり, リンゴ酸にはクエン酸と同程度の酸味と苦味がある(藤井等, 1997). 実験前には, 同じ味の強さの有機酸溶液の嗜好評価は生体内の生理機能に寄与する程度の強い有機酸ほど高くなるのではないかと予想された. しかし, クエン酸(0.0024M: -1.00, 0.0096M: -2.36, 0.0288M: -2.96)・リンゴ酸(0.0024M: -1.33, 0.0096M: -2.38, 0.0288M: -2.76)・酒石酸(0.0024M: -0.98, 0.0096M: -2.53, 0.0288M: -2.78)の間では嗜好性に有意差は見られず(p>0.05), 特に体内の代謝に直接関与しない酒石酸の評価が低くなることはなかった. これらのことから, 運動前の有機酸溶液の嗜好性は, 0.0024M, 0.0096M, 0.0288Mのどの酸味の強さにおいても, 体内代謝には影響を受けないと考えられた.

Fig.4.

Pre-exercise preferences for various organic acid solutions

―▲― Citric acid, ―■― Tartaric acid, …●… Malic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : Like slightly;+1, Neither like nor dislike;0, Dislike slightly;-1, Dislike moderately;-2, Dislike very much;-3, Dislike extremely;-4

(2―2)グルコース添加有機酸溶液

(2-2-1)グルコース添加の影響

3.8%グルコースの添加により各有機酸溶液の嗜好性評価は, 0.0024M(Fig.5(a))と0.0096M(Fig.5(b))において3種類全ての有機酸で, 有意(p<0.01)に高くなったが, 0.0288M(Fig.5(c))では有意差が(p>0.05)認められなかった.

本来, 酸味は腐敗を認識する味であり(小川, 1999)嗜好性は低いが, 甘味はエネルギー源であり, 反対に嗜好性の高い味質である. 味質から考えると, どの濃度の有機酸溶液の嗜好評価もグルコースの添加により高まると予想されたが, 有機酸の濃度の相違によりグルコースの添加効果には差がみられた. 3.8%のグルコースの添加により嗜好の高まった0.0024Mおよび0.0096M有機酸溶液では, 味質の改善が可能な有機酸とグルコースの濃度であったと考えられた. しかし, 0.0288M有機酸溶液では酸味の強さに対し甘味の強さが弱く, 有機酸溶液の味質が改善されなかったために, グルコースを添加したにも関わらず評価が変わらなかったと考えられた.

(2-2-2)有機酸の濃度・種類の影響

グルコース添加有機酸溶液は有機酸単独溶液の場合と同様に, 各濃度の酒石酸溶液の嗜好評価の平均値0.33, -1.22, -2.13間で有意差があり, 各濃度のリンゴ酸溶液の嗜好評価の平均値0.22, -0.91, -2.11間でも有意差が見られた(p<0.05). グルコース添加クエン酸溶液についてはクエン酸単独の場合と同様に0.0024M溶液の平均評価値0.51と0.0096M溶液の平均評価値-1.13間および0.0024M溶液の平均評価値0.51と0.0288M溶液の平均評価値-2.36間に有意差(p<0.05)が見られたが, 0.0096Mと0.0288M間には有意差が認められなかった(Fig.6, p>0.05). 有意差の見られた濃度間では, どのグルコース添加有機酸溶液についても, 濃度の低い有機酸の嗜好評価が高く得られた.

グルコースを添加した有機酸溶液(Fig.6)でも, 等濃度で酸味の強さが同じである場合, 3種類の有機酸間には有意差は見られなかった(p>0.05).

Fig.5.

Pre-exercise preferences for organic acid solutions with or without glucose

(a) 0.0024M, (b) 0.0096, (c) 0.0288M

―◆― Organic acid solution, …■… organic acid solution with glucose

** Significant differences at 1% level between the solution without glucose and the solution with glucose, containing the same organic acid. * Significant differences at 5% level between the solution without glucose and the solution with glucose, containing the same organic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

Fig.6.

Pre-exercise preferences for various organic acid solutions added with glucose

―▲― Citric acid, ―■― Tartaric acid, …●… Malic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

(3)運動の影響

(3―1)有機酸単独溶液

運動後では, どの濃度でも3種類の有機酸単独溶液間では有意差が見られなかった(Fig.7(a), (b), p>0.05).

酒石酸・リンゴ酸の0.0024M溶液(Fig.8(a))および0.0096M溶液(Fig.8(b))では運動前より運動後に嗜好は有意(p<0.05)に高く評価された. しかし, クエン酸では0.0024M溶液および0.0096M溶液においても有意差は認められなかった(p>0.05). クエン酸の嗜好への運動の影響について, クエン酸濃度や運動条件が同じである Horio and Kawamura(1998)らと異なる結果が得られた原因の一つとしては, パネルの違いが考えられる. また, 31名の評価者を用いたHorioらは, 0.0024Mおよび0.0096M水溶液では有意差(p<0.05)があり, この中間の濃度である0.0048M溶液では有意差がなかった(p>0.05)と報告している. つまり, クエン酸濃度により嗜好差の有無が異なるので, 運動がクエン酸の嗜好に影響するとは断言できない. 従って, クエン酸の嗜好への運動の影響については, さらに実験を重ねる必要があると考えられる. 0.0288M(Fig.8(c))では, どの種類の有機酸についても運動前と運動後の嗜好評価に有意差は見られなかった(p>0.05). この原因は, 0.0288Mでは有機酸の濃度が高過ぎて酸味が強くなり過ぎるため, どのような身体的状況下でも嗜好が低かったためと考えられる. TCAサイクルにおいてエネルギーを生産するのに最も関連の深い有機酸はクエン酸であり, また, クエン酸はグリコーゲンを合成する酵素glycogen synthetaseの活性を促進すると報告(Magner and Kim, 1973)されている. 本報告では中等度の運動を負荷することにより, 運動前に比較し運動負荷後の嗜好評価が有意に高くなったのはクエン酸ではなく, 酒石酸・リンゴ酸であった(p<0.05, Fig.8). 運動の負荷が本実験程度である場合, エネルギーの生産に関与する有機酸の嗜好性が運動の負荷により選択的に強く影響を受けることはないと考えられた.

休憩後では, どの濃度でも3種類の有機酸単独溶液間で有意差は見られなかった(Fig.7(b), p<0.05). 各有機酸の各濃度について, 運動前・運動後・休憩後という時系列的な嗜好の変化に注目すると, リンゴ酸では0.0024Mおよび0.0096M溶液において運動前と休憩後の間にも嗜好評価に有意差(p<0.05)が見られ, 運動を負荷することにより高まった有機酸の嗜好は, 休憩後にも運動前のレベルには戻らなかった. しかし, 酒石酸では運動前と休憩後の間には有意差がなく(p>0.05), 休憩後には運動負荷により高まった嗜好評価は運動前のレベルに戻った. また, クエン酸では運動による嗜好への影響はどの濃度においても有意には見られなかった(p>0.05).

Szlykら(1989)はランニングにより運動を負荷するトレッドミル運動後には, 香りを付けた水あるいは冷やした水では摂取量が増加すると報告し, Wakkace(1992)は乳児の母乳摂取行動について研究し, 母乳中の乳酸濃度が上昇すると, 乳児の母乳摂取量は少なくなると述べている. Bar and Wilk(1996)は自転車運動後の子供の飲料摂取について実験を行い, 運動後には香りを付けない水よりもブドウの香りを付けた水の方を好むようになると発表している. このように, Szlykら(1989), Wakkace(1992), Bar and Wilk(1996)らも本報告と同様に, 運動の負荷により嗜好は変化したと報告していることから, 運動の負荷は嗜好に影響を与えると考えられる. 運動の負荷が嗜好に与える影響のメカニズムについては明確にされていないが, Horio and Kawamura(1998)は, 運動による嗜好の変化は, 体の生理変化が原因であり味覚へのフィードバックが生じ, 嗜好や摂取行動に影響を与えるのではないかと述べている. しかし, この点については今後さらに検討する必要があると考えられた.

Fig.7.

Preferences for various organic acid solutions.

(a) Post-exercise, (b) Post-rest

―▲― Citric acid, ―■―Tartaric acid, …●… Malic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

Fig.8.

Comparison of pre-exercise, post-exercise and post-rest preferences for various organic acid solutions

(a) 0.0024M, (b) 0.0096M, (c) 0.0288M

―◆― Pre-exercise, …■… Post-exercise, ―▲― Post-rest

** Significant differences at 1% level between pre-exercise and post-exercise preference and between pre-exercise and post-rest preference of the same organic acid, * Significant differences at 5% level between pre-exercise and post-exercise of the same organic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using 1 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

(3―2) グルコース添加有機酸溶液

(3-2-1)グルコース添加の影響

酸味の強さが同じである場合, 運動前と同様に, 運動後および休息後のグルコースを添加した有機酸溶液の嗜好評価は有機酸単独溶液の嗜好評価より高くなり, 0.0024M, 0.0096Mではすべての有機酸で有意に高くなった(Fig.9, p<0.05). しかし, 0.0288Mではグルコースの添加効果が全く認められなかった(p>0.05). 0.0288Mでは酸味の強さが, 強すぎるためにグルコース添加の影響を受けなかったと考えられた.

(3-2-2) 有機酸の濃度・種類の影響

グルコース添加有機酸溶液ではどの濃度においても運動負荷による有機酸の嗜好評価は運動前と比較し有意に増加しなかった(Fig.10(a)~(c), p>0.05). これは, グルコースの添加により味質が改善されて, 運動前の嗜好評価が高くなり, 運動後の嗜好評価との差が少なくなったためと考えられた.

3.8%グルコース添加有機酸溶液の嗜好評価は, 運動負荷による体内代謝機能の変化には影響を受けないと考えられ, 運動を負荷することで嗜好評価が有意に高まった有機酸は認められなかった(p>0.05).

堀尾(1997)は, 30分間の自転車工ルゴメータによる運動後には, グルコース単独水溶液の嗜好評価が上昇したことを報告している. しかし, 運動による嗜好の変化は, 呈味物質単独の場合と複数の呈味物質を混合した場合では異なると考えられ, 今後, 呈味物質の混合系についても新たに検討していく必要があると考えられる.

Fig.9.

Post-exercise and post-rest preferences for organic acid solutions with or without glucose

(a) 0.0024M, (b) 0.0096M, (c) 0.0288M

Post-exercise : …○… Organic acid solution , ―●― Organic acid solution with glucose ,

Post-rest : …△… Organic acid solution , ―▲― Organic acid solution with glucose ,

** Significant differences at 1% level between the solution without glucose and the solution with glucose, containing the same organic acid, * Significant differences at 5% level between the solution without glucose and the solution with glucose, containing the same organic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

Fig.10.

Comparison of pre-exercise, post-exercise and post-rest preferences for organic acid solutions added with glucose

(a) 0.0024M, (b) 0.0096M, (c) 0.0288M

―◆― Pre-exercise, …■… Post-exercise, ―▲― Post-rest

* Significant difference at 5% level between pre exercise and post-exercise preferences and between pre-exercise and post-rest preferences of the same organic acid

Hedonic rating was the mean calculated from 45 assessors data using a 9-point scale.

Hedonic rating : see Fig.4

4. まとめ

中等度運動負荷により, 0.0024M, 0.0096Mのリンゴ酸, 酒石酸溶液の嗜好は有意に高く(p<0.05)評価されたが, 同濃度のクエン酸溶液および0.0288Mのクエン酸, リンゴ酸, 酒石酸溶液では運動負荷による嗜好の有意差(p>0.05)は認められなかった. また, 運動前においても運動後においても, 3種の有機酸の中で他の有機酸と比較し, 嗜好が有意に高い有機酸は認められなかった. このことから, 中等度運動負荷による身体の生理的変化は, 実験の範囲において低濃度, 中濃度のリンゴ酸, 酒石酸の嗜好に影響を与えたが, 特に特定の有機酸の嗜好に強く影響することはないと考えられた. グルコースの添加により0.0024M, 0.0096Mのクエン酸, リンゴ酸, 酒石酸溶液の嗜好は有意に高く(p<0.05)評価されたが, グルコースを添加したすべての濃度, すべての有機酸溶液で運動負荷による嗜好評価の増加は認められなかった(p>0.05). この点は, グルコース単独溶液で行われた先行研究結果とは異なり, 呈味物質単独の系と混合の系では運動負荷による嗜好への影響は異なると考えられた.

本研究は一部日本レジャースポーツ振興協会の助成により行った.

日本レジャースポーツ振興協会と, 研究に御協力いただいた堀口綾子氏に深謝致します.

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