2002 年 6 巻 2 号 p. 116-120
化粧品のなかでも, 洗顔料・化粧水・乳液といったスキンケア化粧品は, 食品でいうところの米飯や食パンなどの主食にあたり, 毎日欠かさずに使用するアイテムである. 中でも「化粧水」は, ほとんどの化粧品ユーザが使用しているといっても過言ではない.
化粧水はその名の通り, 水が主体であって, 使用時にはみずみずしい触感と, 清涼感・爽快感を与えることが特徴である. 一般的に「化粧水」といえば肌の潤いを保つことを目的とした「保湿化粧水」のことを指すが, 肌をひきしめ, 発汗・油浮きをおさえる「収斂化粧水」も好まれる. この「収斂化粧水」は通常, 極めて高い清涼感・爽快感を与えるため, メイクアップ前のシャキッと目を覚ましたい朝に使うと効果的である.
この主食たる化粧水を消費者に買ってもらうためには, 保湿や収斂といった機能や, 使用感・触感が優れているということだけではなく, 毎日使って気持ちがよく, かつ, 飽きのこないものであることが必要である. しかし, これまでの化粧水開発の現場においては, 触感を中心とした官能評価のみがおこなわれてきた感がある. そしてそれは主に使用した瞬間から直後の評価でしかなく, 毎日, 繰り返し, 長期間使用することを想定した評価にはなっていない. また, 触感中心の評価だけでは使って気持ちよいかどうか, 気分がシャキッとするのかといった「使い手の感情」を量ることはできない.
そこで現在, 我々はより使い手の意識に近づいた官能評価をおこない, 消費者に受け入れられる化粧水を開発することを目的として, 長期連用とその時の使い手の心理に着目した評価を志している.
その一環として, 化粧水を単回ではなく日常と同じように連用した際の, その時どきの触感と感情, その他を含めた評価をおこない, 単回評価と連用評価の比較を試みた.
パネルは20~50代の女性44名. サンプル化粧水は基準となる化粧水(X)と, その処方から, 保湿成分や美容成分などの配合成分の質および量を様々に変えて作製した化粧水6品(A~F)の計7品を用いた(Table 1).
1品につき1週間の連用. パネル1人に対し, サンプルXは必ず含むこととし, その他に3品, 計4品を(期間として4週間)使用してもらった. 割り当て順序はランダムとし, サンプルA~Fはそれぞれn=22(サンプルXはn=44)と成るように均等に割り付けた. 使用方法は特に指定せず, ホームユースにて普段おこなっている通りの使用をお願いした.
評価方法は, 「官能・感情評価用紙」と「化粧水日記」に記入する形でおこなった. 「官能・感情評価用紙」は触感・香り・感情・嗜好などの計23の項目からなり, 7段階の評定尺度である. この評価用紙の記入は, 各サンプル化粧水を使用する初日と, 1週間連用した後の2回おこなった. 「化粧水日記」はその名の通り, 日めくり形式の日記帳であり, 白紙に日付と罫線が書かれただけのものである. この日記には各サンプル化粧水を日々使用してゆく上で, 感じたこと, 思ったことなどを自由に記述してもらうこととした. 記述方法に制約は設けず, 何も感じなかった場合は記述しなくても良しとした.
「官能・感情評価用紙」の評価結果は, サンプルごとに各評価項目の平均値を求め, このデータを元に分散共分散行列を出発として主成分分析をおこなった. データの構造は縦7サンプル×横23評価項目である. なお, 解析ソフトはJUSE Package Software Ver.2.20を用いた.
初日の評価結果では, 第1主成分の寄与率は0.412, 第2主成分が0.253で, 累積すると0.665であった. 第1および第2主成分において, 主成分負荷量散布図で評価項目を布置したのがFig. 1, 主成分得点散布図でサンプルを布置したのがFig. 2である.
Fig. 1より第1主成分は「なめらかな触感」「しっとりした触感」や, 対極に「さらさらした触感」「肌のつっぱり感」などが布置されていることから, 総じて「湿⇔乾」, 「軟⇔硬」を表しているようである. また第2主成分は「さっぱりした触感」と「べとつく触感」が対極にあることから察して, 「触感の重さ」「触感に起因する快と不快」を表していると考えられた.

Test samples

Result of the first day. Two dimensional graph of factor loading.

Result of the first day. Two dimensional graph of principal component score.

Result of the last day. Two dimensional graph of factor loading.

Result of the last day. Two dimensional graph of principal component score.
Fig. 2では1軸上でサンプルAとDが, サンプルFと対極に布置された. 処方の上では, サンプルAとDはともに触感に影響を及ぼすと考えられる保湿成分やその他美容成分の配合量が少なく, 一方, サンプルFにはそれらが多く含まれていた. また, サンプルXと近接しているサンプルBとCは, サンプルXとさほど触感の違わない処方であった. サンプルEは水の配合比率が高く, 他サンプルに対し異質な触感であった. 以上のことから, Fig. 2におけるサンプルの配置は主に触感の違いによって成されていることが推察できた.
同様に1週間連用後の評価結果を解析すると, 第1主成分の寄与率は0.341, 第2主成分が0.268で, 累積すると0.609であり, 初日の分析結果よりもやや低い値となった. 第1および第2主成分において, 主成分負荷量散布図で評価項目を布置したのがFig. 3, 主成分得点散布図でサンプルを布置したのがFig. 4である.
Fig. 3はFig. 1と比較すると, 評価用語同士の位置関係は類似しているが, 全体として第1象限に固まって布置されている. このことは, 因子構造の変化, 言い換えればパネルの評価基準に変化がみられたことを示している.
同様にFig. 4におけるサンプルの位置関係にも変化が見られ, Fig. 2とは異なり, 触感の違いだけでは説明の付けにくいものとなった.
3. 2 「化粧水日記」化粧水日記に記入された内容を, プロトコル分析(妹尾等, 2000)として, 意味の通る文単位に切り, それらを「触感」「感情」「肌効果」「嗜好」「その他」の6カテゴリに分類した後, 発現頻度などの集計をおこなった.
その結果, 初日には「触感」に関連する表現が多くみられ, 使い始めたサンプルを分析的に評価しようとしていた(Fig. 5). また, 「香り」に関する表現も初日に多く, 第一印象を決める大きな要因となっていることが伺えた. しかし, 日毎に「触感」「香り」関連の表現は減り, 「肌効果」「感情」「その他」の表現の比率が増えていった(Fig. 6).

Frequencies of 6 categories.

Ratio of 6 categories.
「官能・感情評価用紙」の結果から, 初日の評価は「触感」「香り」を中心とした分析的な評価であることがわかった. これは至極当然のことである. 化粧水を評価しようとすれば, 触感から得られる圧倒的な量の情報と, 視覚情報(ex. 中身の色)や, 嗅覚情報(ex. 中身の香り)をもとに評価せざるを得ないからである. しかし, これらの知覚情報は, 個人のこれまでの経験や知識といったデータベースと照らし合わされて「嗜好」を生み出し, さらに進むと「感情」が意識されるようになる.
評価初日は, この化粧水はどういう特徴をもっているのかに重きが置かれるあまりに, 知覚情報そのものが重要なのであろう. しかし, 使い続けるうちにこの化粧水がどうかということよりも, この化粧水は自分に何を与えてくれるのかが重要となり, 「感情」や「その他」の評価基準の重みが増してゆくと考えられる.
それを明確に表しているのが, Fig. 2とFig. 4の違いである. Fig. 2のサンプルの配置は主に, 配合成分比率の違いにより生じた, 「触感」の違いによって成されており, 作り手の我々が見てすぐに納得のゆくものである. しかしFig. 4のサンプルの配置は触感の違いだけでは説明がつかず, 簡単には理解ができない. しかし, サンプルEだけはFig. 2および Fig. 4に共通して, 他サンプルとはかけ離れた存在となった. この理由としては次のことが考えられる. 緒言にて述べたが, 化粧水は水が主体であって, 使用時にはみずみずしい触感と, 清涼感・爽快感を与えることが特徴である. しかし, 水の配合比率が高すぎると, かえってみずみずしい触感にはならず, 清涼感・爽快感が感じられなくなるのである. おそらくサンプルEは水の配合比率が高すぎて, 化粧水に不可欠なこれらの要素が欠け, 化粧水とは呼べない不快なものとなったと考えられる.
以上は評価結果の変化であるが, 一方で, 連用すると, 評価するパネルそのものが変化するということもある.
その1つは「肌の状態」である. 「化粧水日記」の解析結果(Fig. 6)をみると, 「肌効果」表現の比率が日毎に増えている. このことからみても, 化粧水のもつ生理効果が, パネルの肌状態に影響を及ぼしているということがわかる.
また, 「その他」の中では日々の環境, 体調に関連する表現が多くみられたが, 評価最終日にはサンプルの「触感」「香り」に対する「慣れ」の表現が多かった. これもパネルそのものの変化であると言える. すなわち, 1週間使ったことにより, その化粧水に対する情報がインプットされ, 知識, 経験が増えたのである. これにより, 「はじめて使う化粧水」から「使ったことのある化粧水の1つ」へと変わったのである.
そして「嗜好」に関する表現は, 初日および最終日に多く見られた. これは「官能・感情評価用紙」の記入を両日におこなったせいとも考えられる. しかし, 実際に消費者が商品の良し悪しを評価するのも, 使い初めと使い終わりであることは容易に想像できる. そして, その商品を再び購入するかどうかを決めるのはおそらく最終日である. しかし, その最終日の評価結果は決して「触感」だけで決められるものではないのである.
少し前の化粧品をとりまく官能評価の世界は, 主に「モノの物理的特長」を区別することに主眼が置かれていた. 今回の結果と照らし合わせれば, それは初日だけの評価である. しかし, 現在は実際の使用環境の中で生じる「モノ」と「使い手」の関係を重視し, 「使い手がどう感じるのか」を様々な状況で考えることが重要とする研究者が増えてきている. 我々も同じ考えであり, 今後も使い手の立場にたった評価をおこなってゆきたいと考えている.
最後に, 本実験のサンプルは化粧水であったが, 冒頭にも述べたように, 食品における米飯や, 衣類における下着などの必需品の評価においても, 同様の考え方を当てはめることができるのではと思われる.