日本官能評価学会誌
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壁の縞柄の方位が室内空間の見えの大きさに与える影響について
市原 茂遠藤 美帆
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2002 年 6 巻 2 号 p. 121-126

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1. はじめに

限られた空間をいかに広く見せるか. これは, 日本のような住環境にあっては, 切実な問題である. 同じ広さの空間であっても, あまりコストをかけずに, 少しの工夫で広々感が演出できれば, それにこしたことはないと思っている人々は, たくさんいるのではないかと思われる.

例えば, 乾(1982)は, 視環境の心理的大きさを評価する指標として「開放感」を取り上げ, 窓の大きさや位置が「開放感」に与える影響を検討している. 彼によれば, 窓が大きくて, しかもそれが部屋の中央部にあるほど, 部屋の「開放感」が増すという. また, Baum & Davis(1976)は, 部屋の壁の色を暗い緑にした時と明るい緑にした時とでは, 明るい緑にした方が部屋が大きく感じられるという実験結果を報告している.

Baum & Davis(1976)の調べた部屋は, 無地の壁であったが, 壁紙の中には模様のついたものもたくさんある. それでは, 壁の模様も色彩と同様に, 部屋の見えの広さに影響を与えるのであろうか.

例えば, 同じ大きさの正方形でも, その中に縞模様を描くと錯覚が生じ, 縞模様の方位によって正方形が縦長に見えたり横長に見えたりする. この錯覚は, へルムホルツの正方形といわれ, 縞が横縞の時には, 正方形が縦長に, 縦縞の時には横長に歪んで見える(今井, 1982).

横縞の正方形が縦長に見えるのは, 分割線錯視と垂直水平錯視の効果によるのではないかといわれている. 分割線錯視というのは, 同じ距離でも, それをいくつかの分割線で区切った場合には, 区切らなかった場合よりも全体に距離が長く見えるという錯視で, オッペル・クント錯視ともいわれている(和田, 1956 ; Noguchi, Hilz & Rentsler, 1990). また, 垂直水平錯視というのは, 垂直線と水平線では, たとえ両者が物理的に同じ長さであっても, 垂直線の方が長く見えるという錯覚である(Künapas, 1955).

つまり, 横縞の正方形は, 縦の線に沿って距離を分割するので, 分割距離錯視の効果により, 正方形の縦方向が長く見え, さらに, 垂直水平錯視によってこれも縦方向が長く見えるために全体に横縞の正方形は縦縞の正方形に比べて縦長に見えるのではないかと解釈されている(今井, 1982).

横縞の方が縦縞よりも縦長に見えるということであるならば, 縦縞の洋服よりも横縞の洋服を着た方が細く見えるはずであるが, 実際は逆で, 横縞の服の方が太って見える. これを, 「縞柄俗説」という(今井, 1982;吉岡, 1985;吉岡, 1986). この食い違いの原因については, まだ確実なところはわかっていない. しかし, ヘルムホルツの正方形が平面図形で生じる錯覚であるのに対し, 「縞柄俗説」の方は, 三次元的な立体の世界で起こる錯覚であるという点, さらに, 前者は, 完全な直線で構成された縞柄であるのに対し, 後者は, 人間の体型にあわせて曲線の部分が混じっている点などが刺激構成上大きく異なっている点であり, それらが, この食い違いを生じさせたとも考えられる.

いずれにしても, 縞模様の方位が異なると見かけの高さや幅が異なって感じられるという錯覚が生じることは確かである. そうだとすれば, 壁紙の縞模様の方位によって部屋の大きさが異なって見えることも, あるのではないかと思われる.

壁紙の色彩だけでなく, その模様を工夫することで広々感を演出できるということになれば, 特に日本のような住宅事情の国においては, 役に立つ発見になるかもしれない. そこで, 今回は, 壁紙の縞模様の方位の違い(縦縞模様か横縞模様か)によって, 部屋の見えの大きさが変わって見えるのかどうか, どちらの方位の方が部屋を大きく見せるのかについて実験的に検討することにした.

2. 実験1

2. 1 目的

灰色の無地の壁で構成されている模型の部屋(標準刺激)と, 縞模様の壁でできている模型の部屋(検査刺激)とを比較して, 大きさの評定をさせることにより, 検査刺激の縞模様の方位によって, 部屋の見えの大きさが違って見えるのか否かを検討する. 併せて, 縞の太さの効果も見る.

2. 2 方法

1)被験者

裸眼視力もしくは矯正視力が正常な大学生18名(男性8名, 女性10名)が実験に参加した.

2)実験装置

幅40cm×高さ30cm×奥行50cmの部屋の模型を2つ作成し, 一つは標準刺激用の部屋の模型, 一つは検査刺激用の部屋の模型とした. いずれも, 天井部分は白色半透明のアクリル板を用いて照明光が取り入れられるようにした. また, 被験者から箱の外観が見えないように, それぞれの部屋の模型の前面にケント紙で衝立を作り(高さ68cm×幅52cm), その中央に観察窓(高さ25cm×幅35cm)をあけた. 標準刺激用の部屋の正面, 両側面, 及び床には, 灰色(N4)の厚紙を貼付けた. 検査刺激用の部屋の床部分は標準刺激と同じ灰色を用い, 正面と両側面は, 刺激条件に応じて壁紙を取り替えられるようにした(Fig. 1 参照).

3)刺激条件

縞の方位は, 縦と横の2条件. 縞は, 白のケント紙の上に黒の厚紙を貼付けて作成した. 白と黒の縞の太さは同じで, 太さは, 2.5cmと5cmの2条件であった.

実験装置を設置した部屋は, 標準光源(D65)の蛍光灯で照明されており, 標準刺激および検査刺激用の模型の部屋の底面における照度はそれぞれ40 lxであった.

4)手続き

検査刺激用と標準刺激用の部屋はテーブルの上に横に並べて置き(検査刺激用の部屋の模型を右に, 標準刺激用のそれを左に置いたそれぞれの観察窓の手前10cmのところに顎台を 2台設置した. 被験者を椅子に座らせ, 顎台に顔をのせる形で模型の部屋の中を観察させた. 被験者は, ①正面の面の横の長さ(幅), ②正面の面の縦の長さ(高さ), ③正面の壁までの見えの距離(奥行き), ④正面の面の面積, ⑤空間全体の大きさ, の5項目に関して, それぞれ標準刺激を100としたときの検査刺激の相対的な大きさを答えた. なお, 被験者は各質問において常に標準刺激から先に見るようにし, 標準刺激と検査刺激を何度見比べてもよいこととした.

2. 3 結果

幅, 高さ, 奥行き, 正面の面の面積, 空間全体の大きさについての各刺激条件における評定値の平均はFig. 2及びFig. 3に示す通りである. Fig. 2は, 縞の太さが2.5cmの時の, Fig. 3は, 縞の太さが5cmの時の結果を示している.

それぞれの評定値に対して, 縞の方位と縞の太さの要因に関する対応のある2元配置の分散分析を行った. 検定の結果は, 以下の通りであった.

1)正面の面の横の長さ(幅)について

縞の方位の主効果(F(1,17)=13.59, p<0.01)だけが1%水準で有意となり, 縞の太さの主効果と交互作用は有意ではなかった. 横縞の部屋の方が縦縞のそれよりも幅が広く評定された.

2)正面の面の縦の長さ(高さ)について

縞の方位の主効果(F(1,17)=7.65, p<0.01)と縞の太さの主効果(F(1,17)=9.33, p<0.01)が1%水準で有意となり, 交互作用は有意にはならなかった. 横縞に比べて縦縞の方が, 部屋が高く見え, 太い縞と細い縞では, 細い縞の方が部屋が高く見えるということであった.

3)正面の壁までの見えの距離(奥行き)について

縞の方位の主効果(F(1,17)=10.19, p<0.01)と縞の太さの主効果(F(1,17)=13.31, p<0.01)が1%水準で有意となり, 交互作用は, 有意ではなかった. 縦縞に比べて横縞の部屋の方が, 奥行きの評定値が大きく, 太い縞と細い縞では, 細い縞の方が評定値が大きかった.

4)正面の面の面積について

縞の太さの主効果(F(1,17)=4.50, p<0.05)だけが5%水準で有意となった. 細い縞の方が太い縞の部屋よりも正面の面積が広く見えると評定された.

5)空間全体の大きさについて

縞の方位(F(1,17)=5.16, p<0.05)が5%水準で, 縞の太さの主効果(F(1,17)=10.69, p<0.01)が1%水準でそれぞれ有意になった. 交互作用は有意ではなかった. 横縞の部屋の方が縦縞の部屋よりも, また, 細い縞の方が太い縞の部屋よりも空間全体の大きさが大きく見えると評定された.

Fig. 1

A room having vertical stripes on the wall.

Fig. 2

Estimated relative size of the room having vertical or horizontal stripes (stripe width:2.5 cm).

Fig. 3

Estimated relative size of the room having vertical or horizontal stripes (stripe width:5 cm)

2. 4 考察

部屋の奥行きと幅, 及び全体の大きさについては, 横縞の部屋の方が縦縞の部屋よりも, 評定値が大きいという結果を得たが, 部屋の高さについては, 逆の結果で, 縦縞の部屋の方が横縞の部屋よりも高く見えるという結果であった.

これらの結果は, へルムホルツの正方形や分割線錯視から予想される結果とは逆の結果であり, 「縞柄俗説」を支持するものであった.

また, 洋服の場合, 縞柄の曲線部分が「縞柄俗説」を成立させるのではないかという考えもあるが, 今回用いた刺激は, すべて直線で構成されているものであることから, 「縞柄俗説」が成立するためには, 必ずしも曲線部分がある必要はないことが示された. 「縞柄俗説」が成立するためには, 縞(あるいは縞を含む面)が三次元的に見えることが重要なのかもしれない.

一つの可能性としては, 横縞の部屋の場合, 両側面の横縞が奥行き知覚の手がかりの一つとされる線遠近法(パースペクティブ)的な布置を強調し, その結果, 奥行きが大きく見えたとも考えられる. つまり, この場合には, 分割線錯視よりも線遠近法的な布置の効果の方が強く働いたということである. 正面の壁の幅と高さに関しては, これも, 両側の横縞が横方向の広がりを強調し, 分割線錯視の効果を打ち消してしまったのかもしれない.

3. 実験2

3. 1 目的

実験1では, 模型の部屋を用いたが, はたして, 実際の部屋でも同様の効果があるのか否かを検討する. そこで, 縦縞と横縞の布を実際の部屋の壁に貼り付け, 縞模様の方位が部屋の見えの大きさに与える影響について検討する.

3. 2 方法

1)被験者

19歳から23歳までの大学生20名(男性10名, 女性10名)が実験に参加した. いずれも裸眼視力もしくは矯正視力が正常であった.

2)刺激条件

評定される部屋の大きさの内径は, 幅261cm, 高さ218cm, 奥行き241cmであった. 部屋の入り口から見て正面と両側面に光沢のない縞柄の布を壁紙のように貼り付けた. 縞は白と黒で, それぞれの幅は5cmであった. 入り口側の壁の中央に壁に寄せて椅子を置き, 被験者は, その椅子に座って部屋の大きさを評定した. 被験者から正面の壁までの距離は, 約210cmであった. また, 天井の四隅から白熱球が灯され, 被験者の目の位置における上方からの照度は, 50 lxであった. 縞の方位は, 縦と横の2条件であった.

3)手続き

被験者を椅子に座らせ, 部屋の大きさがどれくらいに感じられたか, 部屋の幅, 高さ, 奥行きについて, 一回ずつ評定させた. 被験者は, それぞれの見かけの大きさを, 直接cm単位で評定した. 順序効果をなくすために, 被験者を2群に分け, 縦縞条件を先に, 横縞条件を後に評定するグループ10名と, 横縞条件を先に, 縦縞条件を後に評定するグループ10名とした. 1回目と2回目の間の期間は, 約一週間であった.

3. 3 結果と考察

横縞条件, 縦縞条件における部屋の幅, 高さ, 奥行きについての平均評定値をFig. 4に示す.

対応のあるt検定により平均値の差の検定をしたところ, 幅について横縞と縦縞の間に5%水準で有意差があり(t=2.35, df=19, p<0.05), 横縞条件の方が縦縞条件よりも評定値が大きかった. また, 高さについては有意差はなく, 奥行きについては有意傾向が見られ, 横縞の方が縦縞よりも奥行きがあるように見える傾向があった(t=1.83, df=19, p<0.10).

ヘルムホルツの正方形や分割線錯視から予想されることとしては, 正面の壁面の幅は, 縦縞条件の方が広く見えるはずであるが, 結果は逆で, 横縞条件の方が評定値が大きくなってしまった. ここでも, いわゆる「縞柄俗説」が成立した. また, 奥行きについても, 有意傾向があり, これも「縞柄俗説」があてはまる傾向が見られた. 高さに関しては, 平均値は, 横縞の方が高く, 分割線錯視の効果があったかのようであったが, 有意差はなかった.

実験1の結果と比較すると, 統計的に有意差がみられたのは, 幅に関してだけであったが, 今回も, 分割線錯視の効果を支持する結果は得られなかった.

実験2の結果が実験1の結果と若干異なった原因としては, 三つのことが考えられる.

一つには, 一方は, 模型の部屋であるのに対し, 他方は, 実際の部屋であり, 前者の場合は, 部屋の外から大きさを評定したのに対して, 後者の場合は, 被験者は部屋の中に入って評価したという点である. 実際の部屋の場合には, 模型の部屋ほど鮮明に縞の方位の効果が出にくいのかもしれない.

Fig. 4

Estimated size of the room having vertical stripes or horizontal stripes.

二つ目の理由としては, 測定法の問題である. 今回は, 実験1と異なり, 標準刺激を作ることができず, 被験者は被験者自身の内部基準で部屋の絶対的な大きさをcmで答えることになった. そのために被験者間でデータのばらつきが大きくなり, その結果, 微妙な差を検出することができなかった可能性もある.

また, 三つ目の理由として, 二つの実験で用いた部屋の幅と高さと奥行きの比率の違いを挙げることができるかもしれない. 実験1では, それらの比が, 40 : 30 : 50であったのに対し, 実験2の場合は, 261 : 218 : 241であった. 特に, 幅や高さに対する奥行きの比は, 実験1の方が実験2よりも大きくなっているため, 実験1では, 横に広がった印象が強調され, 結果として, 見えの奥行きを増大させるとともに, 見えの高さの減少を引き起こしたのかもしれない.

4. まとめ

実験1と実験2の結果, 部屋の幅に関しては, 横縞の部屋の方が縦縞の部屋よりも広く見えるということで一致した. 一方, 奥行きについては, 実験2では有意傾向しか得られなかったが, 実験1では, 1%水準で有意となり, 横縞の方が大きく見えるという結果であった. また, 高さに関しては, 実験2では有意差がなかったのに対し, 実験1では, 横縞の方が低く見えるという結果であった(1%水準で有意).

実験1と2の結果の間に若干のずれはあったが, いずれの結果も分割線錯視の効果を支持するものはなく, 全体としては「縞柄俗説」を支持するものであった.

これらの結果から, 正面と両側面の縞の方向の一体性, パースペクティブの効果など, 3次元空間に特有の要因が部屋の見え大きさに影響を与えたのではないかという可能性が示唆された.

また, 今回用いた縞柄は, 白と黒の縞の太さが同じものであった. 実際の壁紙などでは, それらの線の幅が白と黒とで異なるものが使われる可能性もある. 和田(1956)の分割線錯視の研究によれば, 分割線が等質的(分割線同士で濃淡の差や長さの差がないこと)で, 分散的, 等間隔的に布置しているときに錯視効果が大きくなるということであったが, 立体的なものにもあてはまるものなのかどうか, 検討する必要があろう.また, 実際の壁紙となると白と黒の縞ではなく, 別の色の組み合わせの縞柄も用いられることも考えられる. 色彩や明るさのコントラストが異なる場合にも, 同様の結果が得られるのかどうか, さらに詳細な検討が必要と思われる.

縞柄の壁紙は, 一般の住宅にも使われているが, その多くは, 縦縞模様である. 今回の実験の結果は, 縦縞模様よりも横縞模様の方が部屋を大きく見せる効果があることを示すものであった. 横縞模様をもっと活用してもよいのかもしれない.

 

現在の所属:1)(株)中央住宅広報宣伝部

引用文献
 
© 2002 日本官能評価学会
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