日本官能評価学会誌
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研究報文
風味調味料のうま味強度測定に関する研究
小西 史子村上 知子香西 みどり藤森 厚畑江 敬子
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2003 年 7 巻 1 号 p. 37-42

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1. 緒言

現在, 多種多様な風味調味料が出回っており, その簡便性により家庭, 外食産業など各方面で使われている. しかし, 使用濃度は種類によって異なり, うま味の特性や閾値などについては, ほとんど知られていない. そこで, 本研究は最近開発された天然材料を原料とする風味調味料を用いて, グルタミン酸ナトリウムと比較することにより, そのうま味の強さと特徴を調べることを目的とした. 風味調味料には, コンソメスープの素, トマトスープの素, ラーメンスープの素として使用するように開発された理研ビタミン(株)製の「ウマメート-100」を用いた. この風味調味料は昆布エキス, 魚醤, 酵母エキスなどを原料とし, うま味成分としてグルタミン酸(1.92%), アスパラギン酸(0.51%), アラニン(0.44%)などを主とする遊離アミノ酸4.42%, イノシン酸2.20%, グアニル酸1.84%を含む. この他にも魚醤由来の分子量1,000 ~5,000のペプチドを含み, コク味, 複雑味の付与が期待されている. 製造もとの理研ビタミン(株)は, 計算上, ウマメート-100はグルタミン酸ナトリウムと等価のうま味を有すると考えているが, 実際に等価のうま味かどうかは確かめられていない. また, 実際にスープとして使用する場合, 遊離アミノ酸やペプチドが味にどのような特徴を付与するのかも明らかではない. 本研究では, まず, ウマメート-100の閾値を調べ, ウマメート-100とグルタミン酸ナトリウムとのうま味強度を比較した. また, 実際の調理を想定して, ウマメート-100溶液に醤油あるいは食塩を添加した場合, うま味強度あるいは塩味強度がどのように変化するのかを調べた.

2. 試料および実験方法

(1)ウマメート-100および試薬

ウマメート-100は理研ビタミン(株)で製造され, 昆布エキス, 魚醤, 酵母エキス, 澱粉を原料とする淡黄色粉末である. ウマメート-100の水分は5.0%, 粗灰分は20.4%, 全窒素は2.2%, 粗脂肪は0.4%, 塩分は14.3%であり, 核酸成分, 遊離アミノ酸は緒言に示した通りである. 実験に用いたウマメート-100の希釈溶液は無色, 無臭に近く, 官能評価時に, 色や臭いが影響することはなかった. 食塩およびグルタミン酸ナトリウム1水和物は和光純薬工業(株)の試薬特級を用いた. 醤油はキッコーマン(株)製の濃口醤油(市販品, 食塩濃度15w/v%)を用いた. 実験に用いる溶液の濃度はw/v%を用いた.

(2)ウマメート-100およびグルタミン酸ナトリウムの閾値測定

ウマメート-100の濃度を0.0360w/v%から0.0746w/v%まで公比1.2で5段階に調製し, ウマメート-100溶液の低い濃度から上昇法にて蒸留水と比較することにより, 識別闘を3点識別法の官能評価により比較した. また, ウマメート-100溶液と同様にグルタミン酸ナトリウム1水和物溶液を0.0250w/v%から0.0432w/v%まで公比1.2で4段階に調製し(グルタミン酸ナトリウム無水物にして0.0226w/v%から0.0390w/v%に相当), グルタミン酸ナトリウムの閾値もウマメートと同様に調べた.

(3)うま味強度の比較

0.5w/v%食塩を含む0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液(0.0452w/v%グルタミン酸ナトリウム無水物に相当)を比較対照溶液として, これと主観的に等価のウマメート-100溶液の濃度を求めた. 0.0347~0.0720w/v%の範囲で公比1.1あるいは1.2で増加させた6段階濃度のウマメート-100溶液(0.05w/v%食塩を含む)のそれぞれと, 0.05w/v%食塩を含む0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液とを対にして, うま味の強い方を選択させた. 次にウマメート-100溶液のうま味が強いと答えた人数の割合を算出し, その値を正規確率紙の縦軸にとり, ウマメート-100の濃度を横軸にとり, 0.5w/v%食塩を含むウマメート-100溶液のうま味が強いと答えた人数の割合が50%になるところのウマメート-100溶液の濃度を求めた(佐藤, 1985).

(4)醤油添加によるうま味強度の比較

0.5w/v%食塩, 1.0w/v%醤油を含むグルタミン酸ナトリウム1水和物溶液(食塩濃度は0.65w/v%)を比較対照溶液とし, (2)で得られた等価濃度およびその1/1.2濃度の2段階濃度で, 0.5w/v%食塩, 1.0w/v%醤油を含むウマメート-100溶液を調製して, グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液と各濃度のウマメート-100溶液を対にしてパネルに示し, どちらのうま味が強いか選択させた. 結果については2項検定により有意性の検定を行った.

(5)食塩添加による塩味強度の比較

0.6w/v%食塩溶液と(2)で明らかにされた閾値×1.2濃度のウマメート-100溶液を含む0.6w/v%食塩溶液を対にしてパネルに示し, どちらの塩味が強いか選択させた. 結果については2項検定により有意性の検定を行った.

パネルは18~40名のお茶の水女子大学調理学研究室の学生および研究室員である.

3. 結果と考察

(1)ウマメート-100およびグルタミン酸ナトリウムのうま味の閾値

ウマメート-100の閾値は0.0518w/v%, グルタミン酸ナトリウムの閾値は0.0325w/v%であることが明らかになった(Table 1). ウマメート-100の閾値はグルタミン酸ナトリウムの閾値より高い値である. これは, グルタミン酸ナトリウム無水物を1とすると, ウマメート-100は0.627(=0.0325w/v%÷0.0518w/v%)であることを意味する. ウマメート-100はグルタミン酸ナトリウムを1.92%含み, それ以外にも遊離アミノ酸やペプチドも含むが, グルタミン酸ナトリウム単独のうま味より強度が低いことがわかった.

(2)うま味強度の比較

(1)より, ウマメート-100溶液の閾値は0.0518w/v%であったので, 0.05w/v%を中心に公比1.1あるいは1.2で0.5w/v%食塩を含むウマメート-100容液を6段階濃度で調製した. これらのそれぞれと0.5w/v%食塩を含む0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液とを対にして, うま味の強い方を選択させた. うま味が強い溶液としてウマメート-100を選択したパネリスト数とその割合をTable 2に示した.うま味が強いとしてウマメート-100溶液を選択したパネリストの割合が50%になるときのウマメート濃度を求めた結果, 0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液(グルタミン酸ナトリウム無水物0.0452w/v%に相当)と等価のウマメート-100溶液の濃度は0.0578w/v%であることがわかった(Table 2). これはグルタミン酸ナトリウム無水物を1とすると, ウマメート-100は0.782(=0.0452w/v%÷0.0578w/v%)であることを意味する. (1)の結果から, ウマメート-100の閾値はグルタミン酸ナトリウムより低く, グルタミン酸ナトリウム無水物を1とすると, ウマメート-100は0.627であったが, 食塩の添加によりウマメート-100のうま味強度が0.782に増加し, グルタミン酸ナトリウムのうま味強度に近づくことがわかった.

(3)醤油添加によるうま味強度の比較

うま味強度が等価である0.5%食塩を含む0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液(グルタミン酸ナトリウム無水物0.0452w/v%に相当)と0.5%食塩を含む0.0578w/v%ウマメート-100溶液に醤油を1.0%に添加すると, グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液よりうま味が強いとしてウマメート-100溶液を選択したパネリストが有意に多かった(p<0.05, Table 3). 次にウマメート-100溶液濃度を0.0482w/v%に下げると, 0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液とうま味強度に有意差がみられなくなった. これにより醤油添加によってグルタミン酸ナトリウム無水物を1とすると, ウマメート-100のうま味強度は0.938(=0.0452w/v%÷0.0482w/v%)となり, 結果(2)で得られたウマメート-100溶液に食塩を添加した時の0.782に比べてさらに高くなった. これは, 醤油に含まれるうま味成分とウマメート-100の成分が相乗的にうま味強度を高めたものと考えられる.

(4)食塩添加による塩味強度の比較

0.0622w/v%のウマメート-100を含む0.6w/v%食塩溶液と0.6w/v%食塩溶液を対にして, どちらの塩味強度が強いか選択させた. その結果, 0.0622w/v%のウマメート-100を含む0.6w/v%食塩溶液の方を選択したパネリストが有意に多かった(p<0.05, Table 4). 0.0622w/v%ウマメート-100溶液の食塩濃度は0.00889w/v%に相当する. これは石田と菊池(1991)が報告した食塩の閾値0.0287w/v%以下であり, 0.0622w/v%ウマメート溶液に含まれる食塩は無視できる量である. この結果から, ウマメート-100添加により塩味強度が増加することがわかった. 山口(1999)は0.6w/v%食塩溶液にグルタミン酸ナトリウムを0.19w/v%以上添加すると塩味強度が増加することを報告している. ウマメート-100もグルタミン酸ナトリウムと同様の効果があるが, グルタミン酸ナトリウムより低濃度で効果のあることが明らかになった. これには, ウマメート-100に含まれるイノシン酸, グアニル酸, 遊離アミノ酸, ペプチドなどが影響しているものと考えられる. 以上の結果よりウマメート-100を調理に用いれば, 減塩効果のあることが示唆された.

風味調味料は広く使われているが, うま味強度やその特性についてはあまり知られておらず, 特に天然素材を原料とする風味調味料はその種類の少なさから殆ど知られていなかった. しかし, この研究から, 風味調味料ウマメート-100のうま味強度は, グルタミン酸ナトリウムより弱いが, 食塩や醤油の添加によって, グルタミン酸ナトリウムのうま味強度に近づくことがわかった. さらに, グルタミン酸ナトリウムより減塩効果が大きいことがわかったことは, 大変興味深いといえる. 近年, 旨味調味料, 特に, グルタミン酸ナトリウムの給食への使用が見直されている. 最近発売された風味調味料ウマメート-100は, 天然素材から作られ, 含有グルタミン酸量も1.92%と低く, 塩や醤油の添加によりグルタミン酸ナトリウムに近いうま味強度が得られることから, 給食などの調理への応用が可能であると考えられる.

Table 1

ウマメート-100とグルタミン酸ナトリウムの閾値

注)Tableに示す濃度でウマメート-100溶液およびグルタミン酸ナトリウム溶液を調製し, それぞれの溶液の低い濃度から上昇法にて蒸留水と比較することにより, 識別閾を3点識別法により官能評価を行った. 結果については, 2項検定法にて有意性の検定を行った.

**p<0.01, ***p<0.001

Table 2

グルタミン酸ナトリウムに対するウマメート-100の主観的等価値の測定

注)0.5w/v%食塩を含む0.05w/v%グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液と, Tableに示す濃度で0.5w/v%食塩を含むウマメート-100溶液を調製した. グルタミン酸ナトリウム1水和物溶液を対照として, 各濃度のウマメート-100溶液と対にしてパネリストに示し, うま味の強い方を選択させた. aはウマメート-100溶液を選択したパネリスト数を示し, ()内の数値はそのパネリストの割合を示す.

Table 3

醤油添加によるうま味強度の比較

注)0.5w/v%食塩, 1.0w/v%醤油を含む0.05w/v%グルタミン酸1水和物溶液と, 0.5w/v%食塩, 1.0w/v%醤油を含む0.0578w/v%あるいは0.0482w/v%ウマメート-100溶液を対にして, うま味の強い方を選択させた. 結果については, 2項検定にて有意性の検定を行った.

*p<0.05

Table 4

食塩添加による塩味強度の比較

注)0.6w/v%食塩溶液と0.0622w/v%ウマメートを含む0.6w/v%食塩溶液を対にして, 塩味の強い方を選択させ, その結果を2項検定にて有意性の検定を行った. *p<0.05

4. 要約

風味調味料 ウマメート-100のうま味強度をグルタミン酸ナトリウムのそれと比較した.

その結果, 次のような結果が得られた.

① ウマメート-100とグルタミン酸ナトリウムのうま味の閾値はそれぞれ0.0518w/v%, 0.0325w/v%で, ウマメート-100の方がグルタミン酸ナトリウムより高かった. これはグルタミン酸ナトリウムを1とすると, ウマメート-100は0.627に相当する.

② 0.5w/v%食塩を含む0.0452w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液と同等の0.5w/v%の食塩を含むウマメート-100溶液のウマメート-100濃度は, 0.0578w/v%であった. これはグルタミン酸ナトリウムを1とすると, ウマメート-100は0.782に相当する.

③ 1.0w/v%醤油, 0.5w/v%食塩を含む0.0452w/v%のグルタミン酸ナトリウム溶液と同等の1.0w/v%醤油, 0.5w/v%食塩を含むウマメート-100溶液のウマメート-100濃度は0.0482w/v%であった. これはグルタミン酸ナトリウムを1とすると, ウマメート-100は0.938に相当する. ウマメート-100に食塩および醤油を添加することにより, ウマメート-100のうま味強度はグルタミン酸ナトリウムのそれに近づくことがわかった.

④ ウマメート-100を0.0622w/v%含む0.6w/v%食塩水は, 0.6w/v%食塩水より塩味強度が強かった. このことから, ウマメート-100は滅塩効果をもつことが示唆された.

引用文献
 
© 2003 日本官能評価学会
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