日本官能評価学会誌
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研究報文
トマトに期待される官能特性に関する大学生の嗜好構造
玉木 有子阿久澤 さゆり澤山 茂飯田 文子山口 静子
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2004 年 8 巻 2 号 p. 117-125

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1. 緒言

トマトは野菜の中でも特に近年品種の改良やバラエティ化が進んだ食品の一つで, 消費者の高品質志向と相まって, さまざまな特徴ある品種が次々に開発されている(田中, 1995;吉田, 1998, 2002). しかし, 徒に新奇性のみを追求することは, 長い年月をかけて形成され, 定着してきた消費者のトマトに対する嗜好やイメージ, 期待から逸脱するおそれもあり, 開発に多大の資金や時間, エネルギーを費やす生産者にとってもリスクが大きい. 真に好まれ, ライフサイクルの長いトマトの開発や評価に資するには, 消費者が望んでいるトマトとは何かを明らかにすることが重要である.

筆者らは前報(玉木ら, 2003)において, 生食用としてもっとも多く流通している桃太郎系統のトマトを試料として, トマトの官能特性を客観的に把握することを試みた. 本研究では, より広汎な種類のトマトの開発や改良も前提としながら, 消費者がトマトに抱いているイメージや価値観をアンケート調査によって分析することを試みたので報告する. ただし, 消費者として今回は大学生を対象とした研究を行ったものである.

2. 方法

(1) 質問票

質問項目は, 予備調査で収集した自由記述回答を参考にして, 例えば, 「トマトは大好きだ」などのような63のステートメントを作成した. 内容は, i)トマトの好ましい特性(トマトのどこが好きか)に関するもの, ii)好まれるトマトのタイプ(どういうトマトが好きか), iii)好ましい味(どういう味のトマトが好きか), iv)好ましい食べ方(どのようにして食べるのが好きか), v)加工製品の好み(どのように加工して食べるのが好きか), vi)健康意識との関係(食べたときどのような心理的効果をもたらすか)に関する6つの群からなるものである. それぞれに対する同意の程度を以下の7件法により評価した. 質問票には「同意の度合いの強さ」について, 「7:全くそうだ」, 「6:そうだ」, 「5:ややそうだ」, 「4:どちらともいえない」, 「3:やや違う」, 「2:違う」, 「1:全く違う」という数字と言葉を組み合わせて示し, 好みや考え方に関してもっとも近い言葉に対応する数字を記入させた.

(2)被験者

調査は2001年と2002年に東京農業大学および日本女子大学の学生602名(男性89名, 女性513名)を対象として行った. 調理学や官能評価の授業時間中に質問票を配布し, その場で記入してもらった. 被験者の出身地は関東が過半数(72.8%)を占めた. さらに, 家族構成や, トマトの購入実態などについても質問したが, それらとの関係については, トマトの官能評価と関連づけながら以後続報で順次報告する. また, 調査は春と秋数回に分けて行ったが, 結果に大差は認められず, 大学間でも大差は認められなかったので, データはまとめて集計した.

(3)解析方法

男女別, 嗜好別に集計し, トマトの特性別に評点の平均値の比較を行った. さらに, 被験者のトマトに対する嗜好の構造を明らかにするために因子分析を行った. 解析にはExcelおよびSPSS Base 11.5Jを用いた.

3. 結果および考察

(1)被験者のトマトに対する好みの程度

「トマトは大好きだ」に対して, 「全くそうだ」から「全く違う」までの回答率の内訳を性別に図1に示した. トマトは, 野菜の中で性別に関係なくもっとも好きな野菜としてあげられているが(永井ら, 1995), これまでの我々の調査においても大多数(7割以上)がトマト好きであったことが認められており, 本調査においても, トマト大好き=ややそうだ以上の賛成回答率は男性73.0%, 女性82.7%であった. いずれも嗜好度は高く, 評点の平均値は7点満点で男性5.1点, 女性5.6点でやや女性の方の方が好みの程度が高かった(p<0.01).

(2)性別による嗜好意識の比較

以下のステートメントに関しては, 図2, 3に示した. 7件のカテゴリーに与えられた数字をそのまま計量値と見なし, 項目ごとに評価者の平均得点を求め, ステートメントに対する賛成の程度の指標とした. なお, 図2, 3における各質問郡内の項目の序列は, 女性の平均得点の高い順とした.

図1.

「トマトは大好きだ」に対する応答の割合

図2に男女別による平均得点を示す. 大半の項目には性差は認められなかったが, 大差ではないが少数の項目に統計的有意差が認められた(統計的に危険率5%および1%で有意差のあったものをそれぞれ図中に*および**で示す). 性差でもっとも大きかったのは, 加工製品に関する項目で, トマトジュースに対する摂取頻度と好みについて, 男性の方が評点が高かった. また, トマトの食べ方において, 女性の方が煮込み料理を好み, ボルシチやシチューなどに調理して食べるのを好ましいとしていた. その他のトマトの特性や好みのタイプについては差は僅少で, 平均点で0.5点以上差のあった項目はなかった. 女性の方が, 「トマトはやっぱり高糖度トマトが好きだ」, 「変わった種類の珍しいトマトをいろいろ食べたい」にも高い得点を示し, また, 男性の方が「トマトは果物より野菜らしくあるべきだ」に高い得点を示しており, 女性の方がやや新奇性志向が高い傾向がみられた.

好きなトマトの特性(i)の中では, 男女ともに共通して「トマトは大好だ」の評点は高く, 次が「トマトを食べると口の中がさっぱりする」で, もっとも低かったのはトマト独特の青臭さであった. 好ましいトマトのタイプ(ii)として, 男女ともにもっとも評価の平均点が高かったのは, 「ピンク系より赤系の色が好きだ」で, 2番目に高かったのは「真っ赤に熟れたトマトが好きだ」あった. 逆に評点が低かった項目を下位から順番に並べると, 「種なしトマトがあったらいいと思う」, 「赤くなりすぎているよりは青いところが残っている方が好きだ」, 「果肉部よりもゼリ一部が好きだ」であった. また, 近年様々な種類のトマトの開発が進んでいるが(田中, 1995;吉田, 1998, 2002), 種類を増やすより今のトマトをおいしくしてほしいという要望が高いことも示された.

好ましい味(iii)には性差がなく, うま味・こく味, さっぱりした味, 濃厚な味および果物のように甘いトマトが高く期待されていた. このことから, うま味・こくがあり, 味が濃厚なもの, ただしさっぱりした味のものを期待しているということが示された. 酸味の弱いトマトが食べたいかどうかは, 平均値としてはどちらともいえなかった.

食べ方(iv)では, ピザやパスタにして食べたいがもっとも高く, 次が丸かじりであった. 煮込み料理やボルシチやシチューなどについては, 女性の方が男性よりも期待度が有意に高かった. また, サラダに入れて食べることについては男女とも期待が高かった. 塩やマヨネーズをつけることはあまり期待されていなかった. 加工食品(v)で好まれているのはトマトソースとケチャップで, トマトジュースは性差があり, 特に女性にはあまり好まれていなかった.

健康意識(vi)に関しては性差はなく, トマトを食べることは健康によいと見なされ, 生活習慣病の予防によいと考えられていた. しかし, 「トマトを食べると活力がでる」「胃腸の調子がよくなる」 などの具体的な効果についてはどちらともいえなかった.

図2.

各ステートメントに対する応答の男女別平均値(±SE)

(3) トマト嗜好度別による意識の比較

男性の被験者数が少なかったので, 以下の解析は女性のみについて行った. トマトに対する嗜好度によって各特性への期待の違いを見るために, 評価者を「トマトが大好きだ」に対して, G1:「全くそうだ」と答えた人(n=178), G2:「そうだ」と答えた人(n=138), G3:「ややそうだ」と答えた人(n=108), G4:「どちらともいえない~全く違う」と答えた人(n=89)の4群に分類して, 群別にそれぞれの設問項目の平均値を図3に示した. 群間の平均値の有意差検定も行ったが, 図中に記載するには煩雑すぎるので省略し, 標準誤差を表示するにとどめた.

好きなトマトの特性(i)では, 名前, 形, 香り, 味, さっぱり感等は, いずれもトマトの嗜好度が高い人ほど平均値が高く(p<0.01), なかでも嗜好度による平均値の差が大きかったのは, 独特の香りと青臭さ, 果肉とゼリー部からなるユニークな食感, およびトマト独特の味であり, いずれもG1とG2, G2とG3, G3とG4の間それぞれに有意な差(p<0.01)が認められた.

好ましいトマトのタイプ(ii)では, 「トマトは大好きだ」を嗜好度の代表質問として, それと各項目との全回答者についての相関係数を求めた結果, 相関の高かった順に, 「汁がこぼれるようなジューシーなトマトが好きだ」, 「真っ赤に熟れたトマトが好きだ」, 「果肉のしっかりしたトマトが好きだ」, 「果肉部よりもゼリー部が好きだ」であった(r=0.4以上). トマトの嗜好度と高糖度トマトやフルーツトマトへの好みには相関がなかった(r=0.1以下). 「真っ赤に熟れたトマトが好きだ」や「汁がこぼれるほどジューシーなトマトが好きだ」は, トマトをもっとも好まないグループG4の人の評点が特に低かった. また, トマトの嗜好度が高い人ほど変わった種類の珍しいトマトをいろいろ食べたいとしていたが, 種なしトマトのような新奇性については期待が低く, G4の人の方が平均値は高かった.

味の好み(iii)では, トマトの嗜好度が高い人ほど, うま味・こくのあるトマト, さっぱりした味のトマト, 濃厚な味のトマトを食べたいとしていた. 青臭さと酸味についてはG4の人の方が, 弱いものを食べたいとする傾向があった. 甘味については, トマトの嗜好度に関係なく甘いものを好ましいとしていたが, 甘ければ甘いほど好ましいというわけではなかった.

トマトの食べ方(iv)では, ピザやスパゲティ, 煮込みなどについては, トマトの好みに関係なく高い嗜好を示した. トマトの嗜好度が高い人ほど「丸かじり」を好んだ. サラダやサンドイッチに対する評価は好きな人は一様に高かったが, G4の人のみはどちらともいえなかった. 加工製品(v)については, ケチャップやトマトソースについてはトマト好きの程度とは無関係に好まれていた. トマトジュースについては平均的な好みは低かったが, トマトの好みの程度と有意な正の相関が(p<0.01)が認められた.

健康意識(vi)に関しては, 「トマトを食べることは健康によい」, 「生活習慣病の予防によい」, 「たくさん食べると長生きしそうだ」と考えており, その傾向はトマトの嗜好度が高い人ほど強かった. しかし, 「トマトを食べると活力がでる」, 「トマトを食べると胃(腸)の調子がよい」「トマトを食べると便秘の予防によい」については必ずしも高い評価ではなかったが, トマトの嗜好度とは正の相関(r=0.4以上)が見られた. また, G4の人は, おいしさよりも健康のためを考えてトマトを食べている傾向が窺えた.

(4) トマトの特性に関する消費者嗜好の構造

好きなトマトの特性, 好ましいトマトのタイプおよび味の好みに関するステートメントについて因子分析を行った. 因子負荷量の推定には, 重み付けをしない最小二乗法(繁桝ら, 1999)を用いた. ステートメントのうち, 共通性が低い(0.25以下)変数と負荷量の小さい変数(0.35以上)を除外し, 因子行列(固有値=1以上, 20項目)をバリマックス法およびプロマックス法(柳井ら, 1990;青木, 2002;小塩, 2004)により回転させ, トマトの嗜好に関する潜在的な因子構造を明らかにした. 表1に結果をまとめて示す.

バリマックス回転の結果, 5つの因子が抽出され, データの57.9%が説明できた(表1の左側). 第1因子はトマトの嗜好にもっとも影響を与えるトマト独特の特徴に関する因子, 第2因子は高糖度志向に関する因子, 第3因子は熟しすぎるよりは熟し足りないものを好む因子, 第4因子は青臭さと酸味が弱く果物的な甘さのトマトを好む因子, 第5因子は濃厚でうま味・こくのある味を好む因子を示し, かなり単純構造化されていることが分かる. しかし, 図3に示したように, 例えば, 「濃厚な味のトマトが食べたい」「熟しすぎより熟し足りない方が好き」など, 人とトマトの嗜好度は無関係ではない. つまり, これらの因子は必ずしも互いに独立な因子ではないはずのものが, 直交回転によって単純構造に引き裂かれていると考えられる.

そこで, 斜交回転によるプロマックス解を求め, その解から因子間の相関を求めた. 得られた斜交回転後の因子パターンを表1の中央部, それらの因子間の相関行列を表2, また因子構造行列を表1の右側に示した.

プロマックス解の因子パターンを見ると, 5つの因子の内容はバリマックス解と概略一致しているが, 因子負荷量の大きいものはさらに大きくなり, 因子はより明確に単純構造に分離されている. 内的整合性を示すクロンバックのα係数は, 第1因子0.90, 第2因子0.85, 第3因子0.68, 第4因子0.69, 第5因子0.78で充分に高い値を示した. 因子間の相関は, 濃厚さとこくに関する第5因子とトマト好きに関する第1因子の間で0.55とかなり高い相関を示し, 熟しすぎより熟し足りない方を好む第3因子も第1因子との間では0.27であった. また, 高糖度や甘ければ甘いほど好ましいとする第2因子は第1因子と低い相関を示しており, 以上の構造が図3の結果をよく反映していることがわかる.

プロマックス回転後の因子構造行列(表1の右側)は, プロマックス回転で得られた因子と元のそれぞれの変数(ステートメント)の相関係数の行列を示したもので, プロマックス回転が結果として直行回転であれば, この3つの行列は一致するはずのものである. プロマックス回転後の因子構造行列と, パリマックス回転による因子負荷量行列を比較すると, 前者の方が後者では単純化されて見えにくかった因子間の複合的な関係が, よりよく反映された構造になっており, 図3の結果とも整合性がとれている. すなわち, プロマックス回転後の構造行列においては, 第1因子はトマトの好ましさに関する因子であるが, トマトが好きな人は果肉のしっかりした, 濃厚な味のものも好むことを示している. 第2因子は高糖度トマトやフルーツトマトを好み甘ければ甘いほど好む因子であるが, 比較的独立性が高く, トマトの好みの程度とは相関が低いことを示している. 第3因子ではトマト好きや青臭さの好みに熟しすぎよりは未熟を好むことも関わっていることを示している. 第4因子は真っ赤に熟れた, 青臭くなく酸味の弱いものを好み, 甘味志向とも関わっていることを示している. 第5因子の濃厚でうま味が強いものへの好みはトマトの好みその他と複雑に関わっていることを示している. 以上から, この事例においては, 通常のバリマックス回転よりもプロマックス回転によって明快な単純構造に分解して基本因子を求めてから, 因子間の関連を求めるほうが, よりよくデータを説明できることが分かった.

図3.

各ステートメントに対する応答のトマトの嗜好度別女性の平均値(±SE)

表1

好ましいトマトに期待される特性の因子分析結果

表2

プロマックス回転で得られた因子間相関係数行列

4. 要約

大学生を被験者として質問紙法による調査を行い, トマト嗜好の意識構造を明らかにした. 期待されるトマトの特性は, 赤系で, 熟れたもの, ただし果肉のしっかりしたもの;うま味・こくがあり, 味が濃厚なもの, ただしさっぱりした味のもの;甘い味のものであった. ただし甘ければ甘いほどよいわけではなかった. また, 種類を増やすより現在あるトマトをおいしくすることが望まれていた. トマトの嗜好構造について, プロマックス法による斜交回転を用いた因子分析の結果, 5因子の単純構造が得られた. 第1因子はトマトの嗜好度を支配するトマトの独特の味, 風味, 食感に関する因子, 第2因子は高糖度志向に関する因子, 第3因子は熟しすぎより熟し足りないものを好む因子, 第4因子は青臭さと酸味の弱く果物的な甘さのトマトを好む因子, 第5因子は濃厚でうま味・こくのある味を好む因子であった. 因子間の相関は, トマト嗜好に関わる第1因子に対して, 第5因子は0.55, 第3因子は0.27であったが, 第2因子および第4因子は第1因子とは独立であった.

謝辞

本研究において有益なご助言を項いた蜷川貞好氏に感謝いたします. また, 本研究におけるデータの収集やアンケートにご協力項いた学生諸氏に感謝致します.

引用文献
  • 青木繁伸(2002)多変量解析実例ハンドブック, 柳井晴夫, 岡太彬訓, 繁桝算男, 高木廣文, 岩崎学編集, 朝倉書店, 東京, pp.541-564.
  • 繁桝算男, 柳井晴夫, 森 敏昭(1999)Q&Aで知る統計データ解析 DOs and DON'Ts, サイエンス社, 東京, pp.136-142, 148-152.
  • 柳井晴夫, 繁桝算男, 前川眞一, 市川雅教(1990)因子分析―その理論と方法―, 朝倉書店, 東京, pp.93-128.
  • 永井耕介, 有方千裕, 小河拓也, 中川勝也(1995)野菜に対する消費者意識と今後の流通対策, 近畿中国農業研究, 89, 45-50.
  • 小塩真司(2004)SPSSとAmosによる心理・調査データ解析―因子分析・共分散構造分析まで, 東京図書, 東京, pp.117-124, 128-134.
  • 玉木有子, 阿久澤さゆり, 澤山 茂, 飯田文子, 山口静子(2003)知覚プロセスを考慮したトマトのおいしさの総合的評価, 日本官能評価学会誌, 7(1), 25-36.
  • 田中和夫(1995)野菜・果実・花きの高品質化ハンドブック, 日本施設園芸協会編, 養賢堂, 東京, pp.25-28.
  • 吉田建実(1998)最近のトマト品種開発の動向, 今月の農業, 11, 88-93.
  • 吉田建実(2002)施設野菜の品種開発戦略トマトの品種開発戦略, 施設と園芸, 118, 24-30.
 
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