日本官能評価学会誌
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女子短大生の日常食に関する嗜好調査
品川 弘子平塚 陽子
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2004 年 8 巻 2 号 p. 126-131

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1. 緒言

我々の食べ物の好みは子供の頃からの家庭や学校, 地域社会等に根付いた食環境に左右されながら形成される. たとえば, 一度も食べたことが無い食材や料理を目の前に出されたとき, おいしいのか, まずいのか, 食べられるのか, 食べられないのか, とっさに判断がつきにくい. しかし, 日頃から慣れ親しんでいない食材であっても, 健康によいとか, 美容によいとか, 何かそのような知識があれば, 少々戸惑いがあったとしても, 一口だけでも食べてみようと思う可能性は一段と高くなるであろう.

近年, 食生活は多様化し, 家庭内で調理したものを摂取する内食(ないしょく)から家庭外の食事施設で摂取する外食(がいしょく)あるいは惣菜や弁当, 調理・加工食品を購入して家庭や職場等で摂取する中食(なかしょく)が増加している. また, テレビの料理番組やグルメ雑誌等の食情報も多い. 一方, 栄養バランスに起因する疾病や生活習慣病が問題になっている. このような食環境の中で, いま, 女子短大生はどのような食べ物を食しているのであろうか. その実態を調べることにより, その結果を食教育の実践資料としたいと考え, アンケート調査を実施した.

2.方法

(1)調査対象者と方法

調査は平成15年7月, 東京都内の女子短大生80名(生活科学科2年次)を対象に行った. 社団法人・栄養改善普及会発行「I & you」の「10のチェックポイント」(2003)をアンケートIとして使用し, 食事摂取状況に関する調査を行った. さらにアンケートIIとして主食・外食・中食・嗜好品の摂取状況の調査を行った. アンケートIの質問事項はTable 1の通りである. 質問項目1~10の回答結果を点数化し, これを全体の採点結果とした. 採点方法は, アンケートの回答結果の中から, (イの回答数×3点)+(ロの回答数×2点)+(ハの回答数×1点)として集計し, 合計点数を求めた. 合計点数が25点以上を「状態がよい」, 24~20点を「まあまあよい状態」, 19~16点を「改善の必要あり」, 15点以下を「放っておくと健康が損なわれる恐れあり」と評価した. アンケートII(Table 2)」は単純集計しアンケートIと併せて食嗜好に関する意識を考察した.

Table 1

Questionnaire I (The intake foods on daily meals)

Table 2

Questionnaire II (Staple food, Eat-out food, Takeout food and Favorite food (A&B))

3. 結果

(1)食品群別摂取状況

アンケートIの質問1から9までの回答率より食品群別摂取状況をまとめてFig. 1に示した. 最も摂取頻度の高い項目「イ」が多い品目は油類であり, 次いで牛乳・乳製品, 卵であった. 中でも油類は最も摂取頻度の低い回答「ハ」が少ないことからも9品目中最も摂取頻度が高いことが認められた. 牛乳・乳製品についても油類と同様の傾向が示され, 「ハ」が少なかった. 一方, 摂取頻度の最も低い回答「ハ」が多いのは豆類・豆腐製品であり, 次いで海藻類, 緑黄色野菜という結果であった. 芋類は摂取頻度の高い「イ」の回答数が少ないものの「ハ」の回答数も少なく, 週に2~3個食べている「ロ」が70%を占めていた. これらの質問項目1~10を点数化し, その採点結果をFig. 2に示した. 「状態がよい(25点以上)」(3%)と「まあまあよい状態(24~20点)」(46%)が全体のほぼ半数(49%)を占めた. しかし, 「改善の必要あり(19~16点)」の割合(36%)も少ない数値とは言い難く, 「放っておくと健康が損なわれる恐れあり(15点以下)」(15%)とを合わせると51%であった.

質問10の「味の好み」についての結果をFig. 3に示した. 「普通の味を好む(ロ)」の回答数(64%)が最も多く, 「濃い味を好む(ハ)」の回答数(19%)は「薄い味を好む(イ)」(18%)とほぼ同数であり, 全体の1/5の学生が濃い味を好んでいることが示された.

(2)「主食」の摂取状況

アンケートIでは炭水化物の摂取状況の質問が芋類だけであったので, アンケートIIでは一日における主食の摂取頻度と, 摂取内容を「米, パン, 麺類」に分別して調査を行った. その結果, 主食の摂取頻度については, 1日に2回摂取すると回答した学生(52.3%)が最も多く. 次いで1日に3回摂取する(39.2%)であり, これらを合わせると全体の91.5%を占めた. その内容は「米」「パン」「麺類」順に摂取頻度が高く, 特に「米」は50%の学生に好まれるという結果であり, 「パン」の33%を上回っていた(Fig. 4).

(3)外食および中食の利用状況

次に, 各食品群をどのような形態で摂っているのかを調べるため, 外食および中食の利用頻度を調べ, その結果をFig. 5に示した. 「外食」の利用頻度については, 全体の約3割の学生が1日に1回は外食すると回答し, 「2回/1日」が 1%. 「3回/1日」は0%という結果であった. 「その他」と答えた回答(72%)が最も多く, その中でも「1週間に2~3回利用する」という回答が半数以上を占めた. 「中食」の利用頻度については, 「1日に1回利用する」という回答(55%)が最も多く, その内容として「おにぎり」「お弁当」「惣菜・サラダ」「パン」「カップ麺」が挙げられた.

(4)嗜好品の摂取状況

若者の嗜好品摂取が少なからず食事摂取状況に影響を及ぼすのではないかと考え, 嗜好品A(飲料類)と嗜好品B(菓子類)の摂取状況を調べFig. 6に示した. 嗜好品Aの飲料類は, 1日に 1回飲むという回答数が31%で, 最多であった. これに1日に2~10回飲むという回答数を合わせると全回答数の87%であった. 嗜好品Bの菓子類は, 1日に1~5回摂取するという回答数が30%であり, 1週間に1~6回摂取するという回答は68%であった. これらの内容をTable 3に示した. 嗜好品Aでは, 摂取頻度の高い順にお茶, 紅茶, コーヒー, ジュース, コーラ, 牛乳等が挙げられた. もっとも多く飲まれているのは, 「お茶」であり他を大きく引き離していた. 嗜好品Bでは, 摂取頻度の高い順にスナック菓子, チョコレート, せんべい, ケーキ類, クッキー, アイスクリームが挙げられた. 最も多く好まれているのは「スナック菓子」であった.

Fig. 1

The intake of foods on daily meals

Fig. 2

The evaluation of girl students' health

Fig. 3

The preference on the concentration of seasoning in the foods

Fig. 4

The frequency of a staple food on daily meals

Fig. 5

The frequency of a Gaisyoku and Nakasyoku

Fig. 6

The most used favorite foods (A and B) on daily meals

A: canned of bottled beverages B: various kinds of confectioneries

4. 考察

油や牛乳・乳製品の摂取頻度が他の食品群より高く, 豆類・豆腐製品, 海藻類, 緑黄色野菜の摂取頻度が低いことが認められ, これらの結果から女子短大生の食嗜好においても洋風化傾向が進んでいることが示唆された. しかし, 主食の摂取頻度では「米」の方が「パン」を上回っていることから, 「米」を主食とし, これに洋風の菜を組み合わせた献立を好んで食していることが推察された.

アンケートI(Table 1)を集計し点数化した結果, 最も良い評価である「よい状態」とされる学生がわずか3%であった. 「まあまあよい状態」とされる学生は46%であり, このように判断された学生は, 「よい状態」とされる学生と併せで健康に害を及ぼさない食生活をしていると思われる. また, 「改善の必要あり」とされる学生は36%であり, 最も悪い評価である「放っておくと健康が損なわれる恐れあり」とされる学生は15%もあった. 前者の学生には, 健康な食生活への関心を促し, 好転するようなアドバイスを与えると容易に食生活を改善できる可能性があると思われる. 後者の学生にはとくに徹底し徹底した食教育が必要であり, 食べることの大切さ, 食べる喜びや食べ物への興味を持たせるための食教育対策が問われていることが示唆された. 食教育対策を行うに当たり, 学生が一人暮らしであるか, 親と同居しているか, アルバイトをしているか否か等の生活環境, ダイエットや食への関心度, 他の要因も十分考慮しなければならないと考える.

「中食」は「外食」より利用頻度が高く, 半数以上の学生が1日に1回利用している. 田辺ら (2001)によると女子大生の食物選択の要因として「おいしさ」「手軽さ」が重視され, 特に昼食には「経済性」や「手軽さ」が重視されることが報告されている. 今回の調査でも中食の利用頻度が高かったが, これは外食よりも経済的であり, 手軽に購入できることが魅力となっているためと思われる. また, 朝食に利用される中食としては「パン類」が最も多く, さらに, 昼食に利用される中食としては「弁当類」「麺類」が多いという(科学技術庁資源調査会 2002). 本調査でも「パン」は「米」に次いで好まれており, その手軽さから朝食や昼食として利用されているのではないかと考えられる.

アンケートII(Table 2)の結果から, 主食の摂取頻度は「一日に2回」が52.3%であった. つまり, 52.3%の学生が一日に1回は主食を欠食していると考えられる. 一方, Fig. 6では嗜好品の利用数は「一日に1~3回」がA(飲み物)は73%, B(菓子)では30%であり, Table 3の内容から, お茶類, スナック菓子やチョコレートのようなものが好まれている. また, Fig. 1では油脂類の摂取率が高かいことが示されている. これらの結果を併せて考えると, 一日のうちの主食の欠食分を飲料やスナック菓子および油脂類を多く含む副菜等で補い, 満腹感を得ているのではないかと推察される. 主食の欠食分をこのような形で補っているため, 半数に及ぶ学生が食品摂取にバランスを欠き, その結果, 食生活に「改善の必要あり」あるいは「放っておくと健康が損なわれる恐れあり」と判断されたと考える.

今中ら(1999)は現代の食生活を特徴づけるものとして挙げられるのが「食の外部化の進行」であり, 食の外部化は高脂肪で濃い味付け(甘味および塩味)の増加に繋がる傾向が強く, さらに, 間食に多用されるスナック菓子も高脂肪・濃い甘味・濃い塩味であることが多いことを報告している. Fig. 5では, 外食の利用頻度について「その他」が最も多く(72%), その中でも「1週間に2~3回利用する」が半数を占めている. さらに, 中食については「一日1回利用する」および「一日2回利用する」を合わせると過半数を占める. また, Fig. 6とTable 3の結果から嗜好品としてスナック菓子やチョコレートが好まれていることや, Fig. 1の結果から油脂類摂取率の高いことが認められる. これらの結果を総合して考察すると, 食の外部化が進行していることを示唆するものであり, また, このことが味の好みにも影響を及ぼし, Table 1の質問10で19%の学生が濃い味付けを好んでいるという結果と無関係ではないことが十分考えられる.

今回の調査対象は東京都内の一短期大学生80名という狭い範囲であるから, すべての女子短期大学生に当てはめることは出来ないが, 食教育を行う上で参考になるデータが得られたと考える. なお, 嗜好品A(飲料)の摂取状況とその品目について, 季節との関係も考えられるので7月(夏)以外にも同様のアンケートを行い, 季節との関係を検討したいと考えている. 今後の課題として, さらに日常生活環境を含めた調査項目も追加し, 食教育の実践資料としてアンケート調査を続ける意義は大きいと考えている. また, 他の短大との連携をとり, さらに調査対象を広げて行くことを検討している.

要約

女子短大生の食生活の実態を把握し食教育の実践資料とすることを目的として, アンケート調査を行った結果, 以下のような食生活を取り巻く実態が判明し, 今後の食教育のあり方について多くの助言が得られた. 摂取頻度のもっとも高い食品群は油類であり, 次いで牛乳・乳製品, 卵であった. また, 摂取頻度のもっとも低い食品群は豆類・豆腐製品であり, 次いで海藻類, 緑黄色野菜という結果であった. 食品群別摂取状況を調べ, それを点数化して分析した結果, 「改善の必要あり」および「放っておくと健康を損なう恐れあり」と判断された学生がそれぞれ36%および15%存在する一方, 「健康状態がよい」がわずか3%であり, 「まあまあよい状態」が46%であった. また, 50%の学生が米を主食として摂取しており, パンが33%, 麺類が17%であった. 「外食」としては, ファーストフード, ラーメン, 定食, すし, うどん・そば等が挙げられ, 30%弱の学生が1日に1回は利用し, 約70%の学生が週に2回~3回利用していた. 「中食」には, おにぎり, 弁当, 惣菜・サラダ, パン, カップ麺等が挙げられ, 60%以上の学生が1日1回は利用していることが判った. 嗜好品では, 87%の学生が1日に1~3回程度, 多い学生では10回もの飲料類を利用し, お茶がもっとも好まれていた. また, 30%以上の学生がスナック菓子やチョコレートを1日に2~3回摂取していた.

引用文献
 
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