スポーツ社会学研究
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原著論文
サーフィンからはじまる有機農業
千葉県X町の事例から
宮澤 優⼠
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2025 年 33 巻 2 号 p. 51-65

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抄録
 本研究は、サーファーによる有機農業の実践を通じて、ライフスタイルスポーツの実践者が自然との関係性についての独自の感覚や認識を、いかに地域社会との関わりの中で具体的な実践として展開しているのかを分析したものである。
 従来のライフスタイルスポーツ研究は、それぞれの文化に内包する排除の論理を明らかにしつつ、実践者たちのオルタナティブを模索している。しかし、実践者たちが地域社会との関係性の中でいかに具体的な実践を展開するのかという点は、十分に検討されてこなかった。
 本研究で取り上げる千葉県X 町のF農場では、サーファー5人組が「半農半サーファー」というライフスタイルを実践しながら、約1700坪の農地で有機農法による栽培を行っている。彼らの実践には3つの特徴が見られる。
 第一に、サーフィンで培った「待つ身体」の感覚を農業に転用している点である。波を待つ身体感覚は、自然のリズムに従う有機農業と共鳴し、環境との長期的な対話を可能にした。
 第二に、農を通して身体をDIYする実践である。彼らは自家栽培した有機作物の効果をサーフィンのパフォーマンスで検証し、その経験を農業実践に反映させる循環的なプロセスを確立している。
 第三に、波の状況に応じた柔軟な時間管理が、自然のリズムに沿った農場運営を可能にしている点である。当初、この実践は地主のG氏との間に軋轢を生んだが、時間の経過とともに「土地を大切にする」という共通の価値観を見出すに至った。
 本事例は、ライフスタイルスポーツの実践者による社会変革の試みが、必ずしも対立や断絶ではなく、地域社会との重層的な関係性の中から生まれる創造的な実践として展開しうることを示している。本研究は、このような地域社会との日常的な交渉や協働の過程に焦点を当てることで、ライフスタイルスポーツ研究における新たな視座を提示するものである。
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