2020 年 31 巻 3 号 p. 316-324
骨リモデリングは,骨芽細胞と破骨細胞が相互に密接に関わる制御システムである.骨では,骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が恒常的に行われており,この機能的に相反する性質を持つ細胞のバランスによって骨のホメオスタシスが保たれている.骨の基質蛋白質の一つであるオステオカルシンの合成にはビタミンKが必要とされる.同様に,血液凝固因子や凝固制御因子の一部についても,それらの蛋白質の翻訳後の修飾にビタミンKが必要とされる.最近,ビタミンK依存性凝固制御因子の一つであるプロテインCの活性型である活性化プロテインC(activated protein C: APC)が骨芽細胞の増殖を促進し,また破骨細胞の分化を抑制することにより,骨リモデリングを制御・調節することが明らかになった.本稿では,骨リモデリングとその制御に密接に関わる血液凝固系のクロストークについて,筆者らの研究結果も含めて概説する.
ビタミンKは脂溶性ビタミンの一つであり,骨代謝と血液凝固の両機能に重要な役割を果たしている.この点は,骨代謝にのみ機能するビタミンDとは異なっている.骨代謝において,ビタミンKは骨芽細胞で骨基質蛋白質の一つであるオステオカルシンが合成される際に重要である.すなわち,オステオカルシン分子内の三ケ所のグルタミン酸残基がγ-カルボキシル化され,γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)に変換される際,ビタミンKは変換酵素であるγ-カルボキシラーゼの補酵素として機能する.オステオカルシンは,分子内のGla残基を介してハイドロキシアパタイトに結合し骨の強度を維持する役割を果たしている1).
血液凝固系は,多数の活性型凝固因子前駆体の活性型への逐次的活性化反応により進行するが,そのうち,プロトロンビンや第VII因子,第IX因子,第X因子などの血液凝固因子及びプロテインCやプロテインSなどの凝固制御因子の正常な機能の発現にはビタミンKが不可欠である.ビタミンKは,オステオカルシンの場合と同様に,凝固関連各因子のN末端領域に存在する複数のグルタミン酸残基のγ-カルボキシ化を触媒するγ-カルボキシラーゼの補酵素として機能する2).そのため,ビタミンKが不足した場合には,機能が異常なプロトロンビン,第VII因子,第IX因子及び第X因子(protein induced by vitamin K absence or antagonist: PIVKA)が産生され3),それらは創傷部位に露呈した陰性荷電リン脂質に対してCa2+を介した結合ができないため,創傷部位での効率的な凝固反応が障害され,出血症状をきたす.また,プロテインCやプロテインSもビタミンKが不足した場合には,機能が異常なプロテインCやプロテインSになり,凝固制御機能が低下して血栓症の原因になる.
骨リモデリングは,骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収の精妙なバランスの上で成り立っている4).骨折時や骨障害時では骨形成が骨吸収を上回ると考えられるが,骨折時や骨障害時に傷害部位で活性化される血液凝固系と骨リモデリングの関係性については,両者に関連する蛋白質の一部がビタミンK依存性に合成されるという共通点はあるものの詳細は明らかではない.
本稿では,骨芽細胞と破骨細胞が関わる骨リモデリング,及び血液凝固とその制御系について概説した後に,骨リモデリングと血液凝固系のクロストーク,特に,筆者らが最近明らかにした活性化プロテインC(activated protein C: APC)による骨リモデリングの調節機構について紹介する.
骨芽細胞は間葉系幹細胞から分化した骨形成細胞であり,間葉系幹細胞から骨前駆細胞,前骨芽細胞を経て段階的に分化し形成される(図1).成熟した骨芽細胞は骨組織の表面に存在し,コラーゲンなどの骨基質蛋白質を生成・分泌する.また骨芽細胞は,リン酸カルシウム,ハイドロキシアパタイトなどの骨基質を分泌し,その結晶は骨組織の表面に沈着し,石灰化すると同時に骨芽細胞は骨細胞へと分化を進め,骨細胞は骨基質に埋没することで最終的に骨組織が形成される.骨芽細胞は,転写因子であるnuclear factor-kappa B(NF-κB)の受容体を活性化する因子であるreceptor activator of nuclear factor-kappa B ligand(RANKL)を細胞表面上に発現し,骨リモデリングの際に,破骨前駆細胞の破骨細胞への分化を促進する.RANKLは腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)スーパーファミリーに属する膜結合型サイトカインであり5),骨細胞特異的に緑色蛍光蛋白質GFPを発現する遺伝子改変マウスを用いた解析により,骨細胞もRANKLを高発現していることが明らかになった6).間葉系幹細胞からの骨芽細胞への分化には,Runx2,osterix(OSX),activating transcription factor 4(ATF4)やFra-1などの様々な転写因子が関与している7)(図1).
骨芽細胞の分化過程に関わる転写因子
成熟骨芽細胞は,コラーゲンのほかにもオステオカルシン,オステオポンチン,オステオネクチンなどの非コラーゲン性骨基質蛋白を産生・分泌しており,このうち,ビタミンK依存性蛋白のオステオカルシンは骨芽細胞で産生され,骨のハイドロキシアパタイトと結合して骨質を強固にする役割を果たすと考えられている.このことは,オステオカルシン欠損マウスでは骨自体は見かけ上太くなることと矛盾しない8).最近,Gla化されていない未熟オステオカルシンがホルモン様作用を有し,糖・エネルギー代謝の調節,雄の生殖機能,脳の発育・発達の調節に関与することが明らかにされた.オステオポンチンについては,その遺伝子欠損マウスの解析から,骨芽細胞には影響せず,破骨細胞の活性化に作用することが示された9).オステオネクチンもまたその分子内に低親和性カルシウム結合部位を有し,その部位を介してハイドロキシアパタイトと相互作用していると考えられる.なお,成熟骨芽細胞では,アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase: ALP)活性の上昇が認められるが,その役割は明らかでない.
2)破骨細胞形成破骨細胞は,単球・マクロファージ系の前駆細胞に由来する多核巨細胞であり10),骨基質に接着すると極性化し,酸やシステインプロテアーゼであるカテプシンKなどの蛋白分解酵素を分泌する.カテプシンKは骨基質中のコラーゲンを分解することにより骨吸収を促進する.骨芽細胞及び骨髄間質細胞は,破骨前駆細胞との相互作用により破骨細胞の分化に重要なシグナルを破骨前駆細胞に提供することで破骨細胞形成を誘導する11).破骨細胞分化に不可欠なシグナル分子には,骨芽細胞上のRANKL,及び骨芽細胞から分泌されるマクロファージコロニー刺激因子(macrophage-colony stimulating factor: M-CSF)があり12, 13),RANKLは破骨前駆細胞上に発現しているRANKL受容体であるRANKを介して分化誘導シグナルを伝達する.一方,骨芽細胞や線維芽細胞などから産生される液性因子のオステオプロテジェリン(osteoprotegerin: OPG)は,RANKLのRANKへの結合を競合阻害して破骨細胞分化を強力に阻害し,破骨細胞のアポトーシスを誘導する12).M-CSFは破骨前駆細胞上の受容体に作用して,その増殖・分化・生存に重要な役割を果たしている.破骨細胞分化の初期段階ではNF-κBの活性化に続き,c-FosやNFATc1などが活性化される.特にNFATc1は,カテプシンK,酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(tartrate-resistant acid phosphatase: TRAP)やカルシトニン受容体など多くの破骨細胞特異的遺伝子の発現に重要な転写因子である.加えて,細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular signal-regulated kinase: ERK),c-jun N末端キナーゼ(c-jun N-terminal kinase: JNK)なども破骨細胞分化に関与している(図2).カテプシンK,TRAPやカルシトニン受容体などを発現した単核の破骨細胞は,細胞融合により骨吸収能を有する多核巨細胞を形成する.最近,dendric cell-specific transmembrane protein(DC-STAMP)やosteoclast stimulatory transmembrane protein(OC-STAMP)が多核巨細胞の形成に必要不可欠であることが明らかにされた14).
破骨細胞分化に関わる細胞内シグナル伝達系
骨リモデリングは,骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスの上に成り立っている(図3).破骨細胞の異常な活性化による骨形成の抑制や破骨細胞の機能不全による骨形成の促進による骨リモデリングの破綻は,骨粗鬆症,関節リウマチで見られる骨破壊や大理石骨病の病因になると考えられている.事実,カテプシンK遺伝子欠損マウスは,破骨細胞は形成されるが骨吸収能が低く大理石骨病を呈し,骨細胞において特異的にRANKLを欠損させたマウスでは破骨細胞の分化障害により大理石骨病を発症する15).また,RANKノックアウトマウスについても重篤な大理石骨病をきたす16)ことから,RANKL-RANK相互作用が適正な骨リモデリングに重要な役割を果たすと考えられる.破骨細胞優位な自己免疫性の関節リウマチや閉経後骨粗鬆症などの骨疾患では,病的な骨吸収が観察されている.これらの疾患では,インターロイキン-1(interleukin-1: IL-1)や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α: TNF-α)などの炎症性サイトカインの血中濃度の増加が認められることから,これらのサイトカインが破骨細胞におけるシグナルカスケードを開始して,破骨細胞の分化による骨吸収を引き起こしたと考えられている17–19).他方,活性化T細胞から産生されるインターフェロン-γやIL-4は破骨細胞の分化を阻害することが報告されている16).
骨リモデリングに関わる細胞と分子
血液凝固系は組織因子と活性化第VII因子との複合体形成により開始される外因系凝固系と第XII因子の活性化で開始される内因系凝固系に分けられる.外因系凝固系と内因系凝固系は共に,基本的にはプロテアーゼによるプロテアーゼ前駆体因子や蛋白性補助因子の逐次的活性化反応であり,第X因子の活性化以降は共通経路をたどる(図4).
血液凝固系と凝固制御系
外因系凝固系は,創傷時に細胞表面に露呈した組織因子(tissue factor: TF)に血液中の第VIIa因子が結合して開始される.TFに結合した第VIIa因子は,第IX因子及び第X因子を活性化し,最終的に生成したトロンビンによって,不溶性のフィブリン血栓が形成される(図4).この凝固反応は主に傷害細胞膜上に露呈するホスファチジルセリンなどの陰性荷電リン脂質に結合した凝固因子クラスター内で進展する.既述のように凝固系のプロテアーゼ前駆体因子のうちプロトロンビン,第VII因子,第IX因子,第X因子はビタミンK依存性蛋白質で,分子内に複数のGla残基を有し,これらのGla含有凝固因子はCa2+を介して陰性荷電リン脂質膜に結合してクラスターを形成し,効率よく活性化反応が進展する3).
内因系凝固系は第XII因子・第XI因子・プレカリクレイン・高分子キニノゲンからなる多分子複合体が陰性荷電をもつ異物面に接触して第XII因子が活性化されて開始される.生体外異物としては,ガラス,カオリン,エラジン酸などが,生体内異物としてはグリコサミノグリカン,RNA,ミスフォールド蛋白質,血小板の活性化に伴って放出されるポリリン酸などがある.この反応では,異物面で活性化された第XIIa因子により第XI因子が活性化され,それ以後,第XIa因子による第IX因子の活性化,第IXa因子による第X因子の活性化,そして第Xa因子によるプロトロンビンのトロンビンへの変換が起き,最終的に生成されたトロンビンにより可溶性のフィブリノゲンから不溶性のフィブリン塊が形成される.さらにトロンビンは第XI因子,第VIII因子,第V因子を活性化して凝固反応にポジティブフィードバックをかけ,凝固反応を著しく増大化する(図4).
線溶系は過剰なフィブリン血栓を溶解する止血血栓制御系であり,それはプラスミンによるフィブリン分解が中心となる.プラスミンは血管内皮細胞から分泌される組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator: t-PA)によりプラスミノゲンが限定分解されて生成するが,プラスミノゲンとt-PAはともに分子上にリジン結合部位が存在し,それらはフィブリン上のリジン残基に高親和性に結合することにより,効率的にフィブリン血栓を溶解する.一方,血中には線溶阻害因子が存在し,過度の線溶反応を阻止している.thrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)は,血管内皮上のトロンボモジュリン(thrombomodulin: TM)に結合したトロンビンによって活性化される線溶阻害因子である.TAFIはカルボキシペプチダーゼの一種でフィブリンC末端のリジン残基を切除することにより,プラスミノゲン及びt-PAのフィブリンへの結合を阻害し,線溶反応を制御する.また,血中のプラスミノゲンアクチベータインヒビター-1(PAI-1)やα2プラスミンインヒビター(α2PI)などのセリンプロテアーゼインヒビターは,それぞれt-PAとプラスミンと複合体を形成して阻害する.
2)凝固制御系正常な血管内には血栓の形成を阻止して血液の流動性を維持するための複数の機構が存在し,これらの機構により,傷害部位以外での血液凝固反応は制御されている.この凝固制御反応は主に血管内皮細胞上で進行するものであり,作用機序から,(1)プロテアーゼ凝固因子を阻害するプロテアーゼインヒビターによる制御系(図4),及び(2)蛋白性凝固促進補助因子(第Va因子と第VIIIa因子)を限定分解し失活化するプロテアーゼとその補助因子からなる制御系がある3)(図4).
(1)プロテアーゼインヒビターによる凝固制御系血漿中には多数のプロテアーゼ凝固因子を阻害するプロテアーゼインヒビターが存在する(図4).そのうち,C1インヒビター(C1 inhibitor: C1INH),α1アンチトリプシン(α1 antitrypsin: α1AT),アンチトロンビン(antithrombin: AT),へパリンコファクターII(heparin cofactor II: HCII)及びプロテインZ依存性プロテアーゼインヒビター(protein Z-dependent protease inhibitor: ZPI)はセリンプロテアーゼインヒビター(serine protease inhibitor: SERPIN)に属し,組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor: TFPI)はKunitz型インヒビターに属す.これらのプロテアーゼインヒビターのうち,凝固反応の制御に最も重要なものはATであり,主にトロンビンと第Xa因子を阻害する20).抗トロンビン活性は高分子(未分画)ヘパリンによって著しく増強され,それは高分子ヘパリンがATのプロテアーゼ反応部位の立体構造を変化させるだけでなく,トロンビンにも結合して三因子複合体を形成し,ATによるトロンビン阻害反応を著しく促進することによる(bridging mechanism).ATによる第Xa因子の阻害は低分子ヘパリンでも促進され,その機序は低分子ヘパリンがATのプロテアーゼ反応部位の立体構造を変化させることによる(allosteric mechanism).HCIIも生理的なトロンビン阻害因子であり,その阻害活性はヘパリンのほかにデルマタン硫酸で増強されることから,主に血管内皮下のトロンビン活性を制御すると考えられている21).ZPIは,第Xa因子と第IXa因子を阻害するが,第Xa因子の阻害はプロテインZ,リン脂質,Ca2+依存性であり,第IXa因子の阻害には必ずしもプロテインZを必要としない22).
外因系凝固開始反応は主にTFPIにより阻害される23).TFPIは,肝臓や血管内皮で生成され,分子内にはKunitz型インヒビター構造が3個連なって存在する.TFPIの作用機構については,TFPIは最初に第Xa因子を阻害し,次に第Xa因子・TFPI複合体が第VIIa因子・TF複合体を阻害し,最終的に第Xa因子・TFPI・第VIIa因子・TF複合体が形成される.TFPIの第1Kunitzドメインは第VIIa因子・TF複合体を阻害し,第2Kunitzドメインは第Xa因子を阻害し,第3Kunitzドメインにはヘパリン(生理的には血管内皮へパラン硫酸)が結合する.TFPIの第Xa因子阻害活性は,後述のプロテインS(protein S: PS)により促進され,PSの結合部位はTFPIの第3Kunitzドメインであることが示唆されている24).
(2)プロテアーゼとその補助因子からなる凝固制御系(プロテインC凝固制御系)血液中にはビタミンK依存性に肝臓で産生されるプロテインC(protein C: PC)とPSが存在する.PCはセリンプロテアーゼ前駆体であり,PSはAPCの補助因子として機能する.一方,血管内皮細胞上にはTMとともに,PC/APC受容体(endothelial PC receptor: EPCR)3)が存在する.TMやEPCRは単球,好中球,好酸球などの白血球にも存在する25–27).
血液中には常に微量のトロンビンが可溶性フィブリンなどに結合して循環しており,このトロンビンは高い親和性で血管内皮細胞上のTMに結合することにより,血管内での血栓形成を阻止している.すなわち,TMに結合したトロンビンは,EPCRに結合したPCを特異的に活性化してAPCを生成する28).APCは,凝固系補酵素蛋白である第Va因子及び第VIIIa因子に結合しているPSと複合体を形成し,第Va因子と第VIIIa因子を限定分解して失活化し,凝固反応を制御する3).一方,血中のPSには遊離型と補体系制御因子のC4b結合蛋白(C4b-binding protein: C4BP)との複合体が存在しており,第Va因子や第VIIIa因子に結合できる遊離型PSがAPCに対する補酵素活性を示す3).他方,TMに結合したトロンビンはPC活性化能を獲得するだけでなく,フィブリノゲンをフィブリンに変換する活性,第VIII因子,第V因子,第XIII因子の活性化,血小板の活性化など血栓形成に関わる分子に対する活性化能を消失する.
以上のことは,TMがトロンビンの機能変換因子であることを示している.また同時にTMが十分に機能するためには血管内皮機能が正常でなければならない.しかし,様々な外因性・内因性要因(外傷性組織崩壊,外来異物や病原性物質の侵入,生体内由来の傷害物質の増加など)により血管内皮細胞が炎症をきたし機能が障害された場合,TMとEPCRの発現量は著しく低下してトロンビンの凝固制御機能は消失し,血管内は凝固亢進状態に陥る.
一方,APCの細胞に対する直接的作用として,APCは血管内皮細胞のPAR(protease-activated receptor)-1を活性化し,続いて細胞内のスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate: S1P)キナーゼを活性化してS1Pを産生させ,このS1Pが内皮細胞膜のSlP受容体を刺激して抗炎症作用及び細胞保護作用を示すことが明らかになっている29).また,内皮細胞上のEPCRに結合したAPCは,PAR-1分子上のトロンビン切断部位とは異なる部位を限定分解して活性化し,抗炎症作用を発現する30).他方,単球に対しては,APCはEPCRに結合して単球上のPAR-1を活性化し,LPS刺激に伴うNF-κBの核内移行を抑制することにより単球によるTNF-αなどのサイトカインの産生を阻害する31).好中球に対しては,APCはβ1/β3インテグリンに直接結合して好中球の移動を抑制する作用32),インテグリンCD11b/CD18依存性でかつEPCR非依存性にマクロファージの活性化と組織浸潤を抑制する作用33),及びEPCR依存性にCD8+樹状細胞の分化と活性化を抑制する作用34)などが明らかになっている.こうしたAPCの様々な細胞に対する作用の解析から,APCの受容体として,PAR-1の他に,SlP受容体30)とアポリポ蛋白E受容体-2(apolipoprotein E receptor-2: apoEレセプター2)35)が明らかにされている.
骨折部位では血液凝固の亢進が起こるが,骨リモデリングと凝固反応の関連性についての研究は極めて少ない.これまでに骨リモデリングと凝固反応との関連性については,トロンビンがPAR-1を活性化して骨芽細胞の増殖を促進し36, 37),骨芽細胞のアポトーシスを阻害する38)ことが報告されている.このことは,骨組織の傷害部位で生成されたトロンビンが骨芽細胞の増殖を促し,アポトーシスを阻害して骨組織の修復を促進する可能性を示している.このような背景下,我々は骨傷害時に起きる凝固系の抑制に働く凝固制御系との関係,特にプロテインC凝固制御系の骨修復に及ぼす影響について,凝固制御に重要なプロテアーゼであるAPCの骨芽細胞の増殖に及ぼす影響を解析した.そして,骨芽細胞がEPCRやPAR-1を発現しており,APCがPAR-1ではなく,EPCRを介して骨芽細胞の増殖を促進し,そのシグナル伝達系としてはp38MAPKが関わっていることを明らかにした39).このことは,骨傷害時に血液凝固系が機能するだけでなく,凝固制御系も骨修復に働くことを示している.APCの骨芽細胞の増殖促進に関わるEPCR以外の細胞膜受容体については明らかではなく,今後の検討課題である.
さらに我々は,APCの破骨細胞の分化に及ぼす影響についても検討した.その結果,破骨細胞も骨芽細胞と同様にEPCRとPAR-1を発現しており,APCがEPCRとPAR-1を介して破骨細胞の分化を抑制することを明らかにした40).APCの細胞膜受容体については,EPCRやPAR-1以外にS1P受容体30)やapoEレセプター235)などの受容体が報告されているため,さらに解析を進めた結果,APCによる破骨細胞の分化抑制には,EPCRとPAR-1に加えて,S1P受容体やapoEレセプター2も関与することが明らかになった40).前述のように,APCのこれらの受容体を介したシグナル伝達機序については,血管内皮細胞におけるS1P受容体を介するシグナル伝達系はEPCR/PAR-1依存性であること,U937細胞におけるapoEレセプター2を介したシグナル伝達系はEPCR/PAR-1非依存性であることが報告されており,APCによる破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制には,EPCR/PAR-1/S1P受容体を介するシグナル伝達系とapoEレセプター2を介するシグナル伝達系の両者が同時に必要であることから,この両シグナル伝達系が細胞内で合流している可能性があることが示唆された(図5).この仮説については,APCによる内皮細胞の保護作用の発現には,EPCR/PAR-1を介したシグナル伝達系とapoEレセプター2を介したシグナル伝達系の両方が必要であるという報告41)とも矛盾しないと考えられた.APCはNF-κBの活性化及びNFATc1の活性化には影響しなかったことから40),APCは主に破骨細胞分化の終段階である単核細胞同士の融合による多核巨細胞の形成を阻害することにより,破骨細胞の分化を抑制している可能性が高い.この点については,APCによる破骨細胞分化の抑制におけるEPCR/PAR-1/S1P受容体を介するシグナル伝達系とapoEレセプター2以降のシグナル伝達系の解析とともに今後の検討課題である.単核の破骨細胞の融合による多核化には破骨細胞上のDC-STAMPやOC-STAMP14)が重要であることが報告されており,APCの両蛋白質の発現や機能に及ぼす影響についても興味が持たれる.
APCによる破骨細胞の分化制御機序
骨リモデリングと凝固系・凝固制御系のクロストークに関する研究は緒についたばかりであり,少しずつではあるがデーターが蓄積され始めている.今後,生体の骨リモデリングにおける凝固系因子や凝固制御系因子の役割について,各種因子を用いたin vitro研究だけでなく,凝固因子や凝固制御因子の機能変換マウスなどを用いた詳細な解析が必要であろう.
執筆の機会を与えていただいた森下英理子先生(金沢大学医薬保健研究域保健学系病態検査学講座),辰巳公平先生(奈良県立医科大学血栓止血先端学講座)に深謝致します.
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし