日本血栓止血学会誌
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原著
血小板膜糖蛋白質GPIb変異体を用いたvon Willebrand因子活性測定試薬「INNOVANCE® VWF Ac」の基本性能評価
鈴木 敦夫鈴木 伸明兼松 毅岡本 修一田村 彰吾篠原 翔新井 信夫菊地 良介安藤 善孝小嶋 哲人松下 正
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2020 年 31 巻 4 号 p. 409-419

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Abstract

INNOVANCE® VWF Acは血小板膜糖蛋白質GPIbの変異体を用いるフォンヴィレブランド因子(von Willebrand factor: VWF)活性(VWF:GPIbM)測定試薬である.本研究では本邦で初めてその基本性能評価を行った.併行精度はCVが3%未満,室内再現性はCVが2%未満と良好な成績であった.希釈直線性も良好であり,最小検出感度は1.3 IU/dLであった.また,干渉物質や未分画ヘパリン混入による明らかな影響は見られなかった.正常検体100例を用いた相関性試験ではVWF抗原量およびVWFリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)と良好な相関性を示した.フォンヴィレブランド病患者検体においてもVWF:RCoとの測定値に大きな差はなく,VWF:GPIbMでは特に低濃度域を評価することが可能であった.INNOVANCE® VWF AcはVWF:RCo測定試薬と比べても高い性能を有することが明らかとなった.

Translated Abstract

The measurement of von Willebrand factor (VWF) activity and antigen (Ag) are required to diagnose von Willebrand disease (VWD). In Japan, ristocetin cofactor activity of VWF (VWF:RCo) has been used in a clinical setting. INNOVANCE® VWF Ac Assay is based on latex immunoagglutination and measures VWF:GPIbM activity, which employ recombinant glycoprotein Ib carrying two gain-of-function mutation. However, it has not been introduced in Japan yet. Here, we evaluated the performance of INNOVANCE® VWF Ac Assay in CS-5100 autoanalyzer. The results showed that within-run and between-day precision were the CVs of <3% and <2%, respectively. We observed a good dilution linearity and a superior limit of detection compared with VWF:RCo. The VWF:GPIbM assay was not affected by interference substances such as bilirubin, hemolytic hemoglobin and chyle, and also by unfractionated heparin (<10 IU/mL). The correlations of VWF:GPIbM versus VWF:RCo or VWF:Ag were excellent in normal plasma. In plasma from patients with VWD, VWF:GPIbM activity was also correlated with VWF:RCo. Taken together, INNOVANCE® VWF Ac Assay showed a remarkable performance and it would be expected the future introduction in Japan.

1.緒言

フォンヴィレブランド病(von Willebrand disease: VWD)はフォンヴィレブランド因子(von Willebrand factor: VWF)の質的あるいは量的欠乏を示す出血性疾患である.VWDの多くは常染色体性優性遺伝形式をとり,1型,2A型,2B型,2M型,2N型,3型の6病型に分類される1.主たる症状として,鼻出血や紫斑,皮下血腫,口腔粘膜出血,月経過多など血小板凝集障害を示唆する出血症状が多いが,3型を中心として関節や筋肉内出血,頭蓋内出血などの血友病に似た出血症状を呈することもある.一方で,最近では後天的なVWFの欠乏をきたす疾患概念として後天性フォンヴィレブランド症候群(acquired von Willebrand syndrome: AVWS)が提唱されており,VWFに対する自己抗体や,大動脈弁狭窄症に随伴するAVWS(Hyde症候群)など高ずり応力に起因して後天的にVWFの欠乏をきたし,出血症状を示す病態が報告されている2

VWDあるいはAVWSの診断には,血漿中VWF活性およびVWF抗原量(VWF:Ag)の測定が必須である3.なかでもVWF活性の測定は,本邦では古くからリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)が主流であり,現在でもVWDおよびAVWSの診断に使用されている.VWF:RCoは固定化血小板を用い,リストセチン存在下で被検血漿中のVWFによる血小板凝集能を測定するものであり,VWFの補因子活性を評価する.VWF:RCoは比較的単純な測定原理によるものであり,自動分析装置での測定が可能である一方で,測定間のばらつきが大きく,さらに検出感度が低いことが大きな問題としてあげられる4, 5.これを解決すべく改良法も検討されているが6,さらに精度の高い検査法が望まれる.VWF活性を評価する検査にはVWF:RCoの他にもリストセチン存在下における血小板膜糖蛋白質(glycoprotein: GP)Ibへの結合能を評価するもの(VWF:GPIbR)や,VWFのA1ドメインに対するモノクローナル抗体の結合能を評価するもの(VWF:Ab)などがある7

今回我々は,GPIb変異体を用いてリストセチン非依存性にGPIbとの結合を評価することでVWF活性(VWF:GPIbM)を求めるINNOVANCE® VWF Ac(Siemens Healthineers, Marburg, Germany)の基本性能評価を行う機会を得た.INNOVANCE® VWF Acはラテックス免疫比濁法を原理とし,自動分析装置での測定が可能な試薬構成であり,VWF:RCoに比して高い精度と検出感度を持つことが期待される.本研究ではその基本的性能を評価するべく検討を行った.

2.方法

1)測定試薬・測定機器

VWF:GPIbM測定用の検討試薬としてINNOVANCE® VWF Ac(Siemens Healthineers),対照試薬にはVWF:RCo測定用にBCフォンビレブランド試薬(Siemens Healthineers),VWF:Ag測定にvWF Ag試薬(Siemens Healthineers)を用いた.血液凝固第VIII因子活性(FVIII:C)は凝固一段法(One-stage clotting assay: OSA)および合成基質法(Chromogenic substrate assay: CSA)の両者により測定した.OSAにはAPTT試薬としてトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス株式会社,神戸,日本)およびトロンボチェックFactor VIII(シスメックス株式会社)を使用した.また,CSAにはレボヘムTM FVIII合成基質(シスメックス株式会社)を用い過去の報告に倣い測定した8.測定機器には全自動血液凝固測定装置CS-5100(シスメックス株式会社)を使用した.精度管理用血漿はSiemens Healthineersの血液凝固試験用コントロール血漿N(Control Plasma N: CPN)および血液凝固試験用コントロール血漿P(Control Plasma P: CPP)を使用した.測定試薬はそれぞれ添付文書に従って調製しCS-5100に搭載後,血液凝固試験用標準ヒト血漿(Standard Human Plasma: SHP,シスメックス株式会社)をキャリブレーターとして検量線を作成した.作成した検量線はCPNおよびCPPを用いて測定値のバリデーションを行ったのち測定を実施した.

2)検討項目ならびに対象サンプル

検討項目は,同時再現性(併行精度),日差再現性(室内再現性),希釈直線性,最小検出感度(limit of detection: LoD),干渉物質の影響,未分画ヘパリンの影響,および相関性とした.

併行精度

VWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:AgについてCPNおよびCPPを10回連続測定し,その平均値(mean)および標準偏差(standard deviation: SD),変動係数(coefficient of variation: CV)を求めた.

室内再現性

VWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:AgについてCPNおよびCPPを独立した7日間にわたって測定し,その平均値(mean)および標準偏差(SD),変動係数(CV)を求めた.

希釈直線性

SHPをオーレンベロナール緩衝液(Owren’s veronal buffer: OVB, Siemens Healthineers)で段階希釈し,希釈したサンプルを用いてVWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:Agをそれぞれ3回連続測定し,平均値(mean)および標準偏差(SD)を求めた.

最小検出感度(LoD)

SHPの原液を100%として10,8,6,4,2,1%の希釈試料をOVBにて調整後,それぞれについてVWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:Agを10回連続測定した.また,ブランク溶液としてOVBを同時に10回連続測定した.LoDは3SD法により求めた.具体的には,ブランクの測定平均値+3SDの値が希釈液の測定平均値–3SDと重複しない点をLoDとした.

干渉物質の影響

干渉物質には干渉チェックAプラス(シスメックス株式会社)を使用し,CPNおよびCPPに添付文書に従って添加し試料を作製した.本研究における変動許容範囲は±5%以内とした.

未分画ヘパリンの影響

未分画ヘパリン(unfractionated heparin: UFH)にはヘパリンNa注(持田製薬)を使用し,CPNおよびCPPに10,5,2,1,0.4,0.2,0.1 IU/mLの濃度になるよう添加したのち,VWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:Agを2回連続測定し,その平均値をプロットした.本研究における変動許容範囲は±5%以内とした.

相関性およびABO式血液型による測定値の比較

相関性試験には患者の検査後残検体(3.2%クエン酸ナトリウム加血漿)100例を,名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認を得て使用した(承認番号:2010-1038).対象患者は,血液学的基礎疾患を有さない患者とし,プロトロンビン時間(prothrombin time: PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)が当院の正常参考基準範囲内(活性%として80~120%)である血漿を抽出し正常検体として使用した.使用した患者血漿は年齢中央値が60.5歳(最小:1歳,最大91歳),性別の内訳は男性49名,女性51名であった.また,ABO血液型の内訳は非O型(A,B,AB型)71名,O型29名であった.これらの血漿サンプルを用いてVWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:Agを測定し,Prism7(GraphPad® Software)を使用してSpearmanの順位相関係数を算出した.ABO血液型におけるO型群(O)と非O型群(non-O)の測定値の比較はMann-Whitney検定を用いて実施した.本研究における有意水準は5%とした.

次に,VWDおよびAVWSと診断された患者検体を用いて測定値の比較を行った.VWD患者検体として12例,AVWS検体として6例の計18例を対象とし,VWF:GPIbM,VWF:RCoならびにVWF:Agに加え,OSAによるFVIII:C(FVIII:C1st)とCSAによるFVIII:C(FVIII:Cchr)を測定した.

3.結果

併行精度

併行精度の検討結果をTable 1に示した.VWF:GPIbMおよびVWF:AgではCVが3%未満であり,極めて良好な結果となった.一方VWF:RCoではCVがCPNおよびCPPでそれぞれ6.8%および5.7%であり,ややばらつきのある結果となった.

Table 1 Within-run precision of VWF assays
VWF:GPIbM VWF:RCo VWF:Ag
CPN CPP CPN CPP CPN CPP
Mean (IU/dL) 101.1 30.8 84.6 23.5 125.6 41.8
SD (IU/dL) 1.4 0.8 5.7 1.4 3.2 0.7
CV (%) 1.3 2.6 6.8 5.7 2.5 1.7

CPN, control plasma N; CPP, control plasma P; SD, standard deviation; CV, coefficient of variation

室内再現性

室内再現性の検討結果をTable 2に示した.VWF:GPIbMおよびVWF:AgではCVが3%未満であり,極めて良好な結果となった.一方VWF:RCoでは,CVがCPNおよびCPPでそれぞれ4.4%および3.9%であり,5%未満であったもののややばらつく傾向が見られた.

Table 2 Between-day precision of VWF assays
VWF:GPIbM VWF:RCo VWF:Ag
CPN CPP CPN CPP CPN CPP
Mean (IU/dL) 101.1 30.7 87.4 24.5 124.8 41.1
SD (IU/dL) 1.4 0.5 3.9 0.9 0.8 0.9
CV (%) 1.4 1.7 4.4 3.9 0.7 2.1

CPN, control plasma N; CPP, control plasma P; SD, standard deviation; CV, coefficient of variation

希釈直線性

VWF:RCoおよびVWF:Agの希釈直線性はr2がそれぞれ0.9925および0.9985と良好であった.一方,VWF:GPIbMの希釈直線性はr2=0.9992と高い結果となった(Fig. 1).

Fig. 1

Dilution linearity of VWF assays

Standard human plasma was diluted and measured VWF:GPIbM (A), VWF:RCo (B) and VWF:Ag (C). The dotted lines showed linear regression.

最小検出感度(LoD)

VWF:GPIbMのLoDは1.3 IU/dLであり極めて良好な結果となった.VWF:AgのLoDは0.7 IU/dLとなりVWF:GPIbMと同程度の結果となった.一方,VWF:RCoのLoDは13.3 IU/dLであり,添付文書上のLoD:10 IU/dLと同程度であった(Fig. 2).

Fig. 2

Limit of detection of VWF assays

Standard human plasma was diluted and measured VWF:GPIbM (A), VWF:RCo (B) and VWF:Ag (C). The limit of detection was determined by 3SD method and showed as the dotted line in each panel. The error bar indicates ±3SD in each measurement.

干渉物質の影響

VWF:GPIbM測定における干渉物質混入の影響を検証した結果,Bil-Cは19.1 mg/dL,Bil-Fは19.8 mg/dL,溶血ヘモグロビンは5.1 g/L,乳糜は1660ホルマジン濁度まで,測定値の変動幅は5%以内であり,明らかな変動傾向を認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3

Effects of interference substances on VWF:GPIbM assay

Interference substances were added into control plasma N or P according to the manufacture’s instruction and their VWF:GPIbM was measured. The results were shown as relative values to the reference (blank) sample. The dotted line showed ±5% from the reference (95% and 105%). Bil-C, conjugated bilirubin; Bil-F, free bilirubin; Hgb, hemoglobin; CPN, control plasma N; CPP, control plasma P; FTU, forumajin turbidity units.

UFHの影響

UFHはVWFのA1ドメインに結合する一方9,A1ドメインにはGPIbとの結合部位が存在する10.したがって,GPIb変異体とVWFとの結合を利用したVWF:GPIbM測定系におけるUFHの影響を検証した.その結果,UFH 10 IU/mLまでその測定値の変動幅は5%以内であり,明らかな変動を認めなかった(Fig. 4).

Fig. 4

Effect of unfractionated heparin on VWF:GPIbM assays

Unfractionated heparin (UFH) was added into control plasma N or P and their VWF:GPIbM was measured. The results were shown as relative values to the reference (blank) sample. The dotted line showed ±5% from the reference (95% and 105%). X-axis was shown in log-scale. CPN, control plasma N; CPP, control plasma P.

正常検体における相関性

正常検体100件の相関性試験の結果をFig. 5に示した.VWF:GPIbMとVWF:RCoとの相関性は,回帰式がy=1.006x+23.93,相関係数(r)は0.9077であり,VWF:GPIbMでVWF:RCoに対し切片相当分が高値となる傾向が見られた.また,VWF:Agとの相関性は回帰式がy=0.9747x–0.7399,r=0.9046で良好な相関性を示した.一方で,VWF:RCoとVWF:Agの相関性は回帰式がy=0.9116x+42.26,r=0.8422であり,VWF:AgがVWF:RCoに比してやや高値傾向にあった.また,年齢との相関を検証した結果,VWF:GPIbM,VWF:RCo,VWF:Agとの間にそれぞれr=0.5375,r=0.5148,r=0.5589と,統計学的有意性をもって正の相関を認めた(Fig. 6).

Fig. 5

Correlation of VWF assays in normal plasma

The correlation among VWF assays were investigated using normal plasma (n = 100) and shown as follows: (A) VWF:RCo versus VWF:GPIbM, (B) VWF:Ag versus VWF:GPIbM, (C) VWF:RCo versus VWF:Ag. The solid lines showed linear regression and the dotted lines indicated y = x.

Fig. 6

Correlation between VWF assays and age in normal plasma

The correlation between VWF assays and age were investigated using normal plasma (n = 100). Red, VWF:GPIbM; Blue, VWF:RCo; Green, VWF:Ag. The solid lines indicated linear regression.

ABO式血液型による測定値の比較

血中VWF濃度は,ABO式血液型のうちO型で非O型よりも低値を示すことが報告されている11.本研究においても正常検体をO型(O)群と非O型(non-O)群に振り分け,VWF:GPIbM,VWF:RCo,VWF:Ag測定値を比較したところ,O群ではnon-O群に比してやや低値傾向であったものの,統計学的有意差は認めなかった(P>0.05).そこで,年齢との相関が見られたことから60歳を境界として60歳未満と60歳以上の2群に分け同様の比較を行った(Table 3).その結果,VWF:RCoにおいてはどちらの群においても統計学的有意差は認めなかったが,VWF:GPIbMおよびVWF:Agでは60歳未満の比較において,非O型群に対しO型群で有意に低値であることが明らかとなった.

Table 3 Comparison of age-matched ABO blood group (O or non-O group)
Assay Age Sample number (non-O, O) Blood group P value
non-O O
VWF:GPIbM <60 (35, 12) 140.2 (126.4–148.0) 87.2 (65.5–173.1) 0.0258
≥60 (36, 17) 189.7 (161.1–200.3) 179.7 (129.7–235.4) 0.3896
VWF:RCo <60 (35, 12) 105.6 (93.5–116.6) 80.2 (50.5–153.9) 0.0855
≥60 (36, 17) 157.7 (133.2–183.8) 134.3 (113.0–153.9) 0.0595
VWF:Ag <60 (35, 12) 147.8 (135.3–169.8) 108.9 (89.4–136.9) 0.0291
≥60 (36, 17) 189.9 (168.8–209.5) 186.7 (146.9–222.0) 0.2661

The data are shown as median (95% confidence interval).

VWDおよびAVWSにおける測定値の比較

当院においてVWDあるいはAVWSと診断された患者検体を用いて測定を行った(Table 4).VWD症例におけるVWF:RCoの測定下限(13.3 IU/dL)までの活性を示した検体ではVWF:GPIbMとVWF:RCoの差は平均4.4 IU/dLであった.一方,AVWS症例においてはその多くでVWF:RCoが測定下限未満となったが,VWF:GPIbMでは低濃度域を評価でき,その結果著しく比活性が低下していることが示された.

Table 4 Comparison of VWF assay results in patients with VWD
VWD Type Age VWF:GPIbM VWF:RCo VWF:Ag GPIbM/Ag RCo/Ag FVIII:C1st FVIII:Cchr
Congenital 19 18.3 23.0 37.6 0.49 0.61 55.4 55.8
37 44.0 34.6 56.4 0.78 0.61 60.9 64.5
64 4.8 13.3> 24.5 0.20 n/c 25.9 28.5
69 12.4 13.3> 62.4 0.20 n/c 38.2 37.8
67 14.7 11.5 30.9 0.48 0.37 49.2 47.2
26 9.0 13.3> 12.5 0.72 n/c 21.9 23.1
43 11.6 13.3> 22.1 0.52 n/c 45.7 45.6
36 43.7 37.5 42.3 1.03 0.89 28.0 32.8
26 20.1 17.7 19.4 1.04 0.91 33.0 36.6
58 37.3 31.4 35.1 1.06 0.89 57.5 59.1
76 3.2 13.3> 7.2 0.44 n/c 20.7 20.4
11 3.0 13.3> 13.7 0.22 n/c 20.3 21.2
AVWS 85 23.8 15.7 34.1 0.70 0.46 17.7 19.6
53 3.6 13.3> 168.7 0.02 n/c 7.5 8.7
50 11.1 13.3> 22.6 0.49 n/c 32.3 34.6
83 8.0 13.3> 622.2 0.01 n/c 3.1 6.8
41 3.4 13.3> 6.2 0.55 n/c 4.9 6.0
85 61.4 38.7 89.6 0.69 0.43 46.6 47.4

AVWS, acquired von Willebrand syndrome; n/c, not calculated; FVIII:C1st, FVIII activity determined by one-stage clotting assay; FVIII:Cchr, FVIII activity determined by chromogenic substrate assay

4.考察

現在,本邦におけるVWF活性はほとんどがVWF:RCoにより評価されている.VWF:RCoは単純な測定原理に基づくものであるが,血小板凝集を捉えるために専用の測定装置あるいは検出機構が必要となり,血液凝固検査のなかでもやや特殊な測定系であると言える.また,測定上のばらつきはかねてからの問題であり,測定下限も10~20%程度12であることから決して優れた検査であるとはいえない.したがって,より高精度でかつ測定レンジが広く,一般的な分析装置でも測定が可能な検査法が望まれている.

VWF:GPIbMを測定する試薬であるINNOVANCE® VWF Acは,ラテックス免疫比濁法に基づく.試薬構成は三試薬系であり,マウス抗GPIb抗体固相化ラテックス粒子,ブロッキング剤を含む緩衝液,そしてリコンビナントGPIb変異体蛋白の三種を用いる測定系である.マウス抗GPIb抗体固相化ラテックス粒子に変異GPIbを結合させ,被験血漿中のVWFと変異GPIbが結合し架橋され,結果的にラテックス粒子が凝集することを光学的に検出する.今回,その性能評価を行なった結果,併行精度および室内再現性はVWF:RCoに比して明らかに優れていることが明らかとなった.また,高い希釈直線性と,良好な検出感度を有していることが示され,特にLoDにおいてはVWF:RCoを大きく上回る結果となった.本研究におけるVWF:RCoにおける併行精度・室内再現性・LoDの成績は過去の報告ともほぼ一致しており12,比較対象として妥当であると考えられる.さらに,一般的な干渉物質であるビリルビンや溶血ヘモグロビン,乳糜等の影響を強く受けることもなく,UFHの影響も10 IU/mLまで受けないことが示された.特に本邦では未だUFHが多用されることから,この点においても臨床において問題なく使用が可能であると考えられた.

正常検体を用いた相関性試験においては,VWF:RCoに比してVWF:GPIbMでやや高値となる傾向が見られたが,VWF:Agとの比(比活性)を考えた場合にはむしろVWF:RCoは抗原量に対しやや低値であり,VWF:GPIbMでは比活性が1に近く,正常検体としての特徴を反映していると考えられた.また,VWFはABO式血液型のO型群で非O型群に比して低値となると言われているが,本研究ではVWF:GPIbMとVWF:Agのみ,60歳未満でO型群と非O型群の間に統計学的有意差が認められた.60歳以上と全年齢における比較では明らかな差が認められなかった原因として,研究対象とした集団の年齢中央値が高齢であったことが挙げられる.過去の報告でも年齢により血中VWF抗原量が上昇することが報告されており13, 14,本研究においても年齢に伴いVWF抗原量が上昇する傾向にあることが示されている.このように年齢に伴ってVWF濃度が上昇したことにより,血液型による差が相殺され高齢集団では統計学的有意差が認められなかったと推察される.VWF:RCoでは60歳未満においてもO型群・非O型群の間に有意差は認めなかったが,その原因としてVWF:RCo測定自体のばらつきが影響した可能性は否定できない.その他,全体に言及できる要因として,本研究で正常血漿と定義したものはあくまで凝固スクリーニング検査上の “正常” であり,基礎疾患や内服している薬剤等による変動も含まれる点を注意する必要があると考えられる.実際の測定値は100 IU/dLを大きく上回るものが多く,血中VWFレベルが加齢をはじめとした様々な要因により上昇したことでABO式血液型の差が相殺された可能性が示唆される.

一方,VWDおよびAVWSを用いた検証では,VWF:GPIbM測定がVWF:RCoに対して低濃度域の測定に長けていることが示唆された.抗原量に対する活性値(比活性)はVWDの病型分類に重要な指標であり,特に1型と2型の分類には厳密な測定が必要である.また,AVWSの診断においても,比活性の評価は活性の阻害を受けるものであるのか,あるいはクリアランスの亢進による抗原量そのものの低下であるのかを評価することが可能である.これらの病態を診断する上で,VWF:RCoに比して信頼性のある測定が可能であることは高く評価できる.

VWF活性の測定はVWDの診断に最も重要であるが,本邦ではVWD診断におけるVWF活性値の基準は未だ明確なものがない.VWFの正常参考基準範囲も幅広く設定されていることが多く,また,血中のVWFレベルは様々な要因により変動する15.臨床検査医学上の観点では,本邦では古くから利用されているVWF:RCoの精度が決して高くないこともVWD診断を困難にしている一因であるとも考えられる.

現在,本邦ではVWF:RCoがほとんど “VWF活性” として測定されている.VWF:RCoとVWF:GPIbMは異なる反応を基にしていることから,今後国内への導入がなされた場合,“VWF活性” をどのように定義するかを考える必要がある.一次止血においてVWFとGPIb/IX/Vの反応は極めて重要であるが,このVWFとGPIb/IX/Vの結合は,in vitroでは抗生物質の一種であるリストセチンや蛇毒由来のボトロセチンにより惹起され,結果的に血小板凝集が生じる.VWF:RCoはこの人工的な反応を利用したものであるが,血小板凝集を検出するという観点では生体反応に近い.一方で,INNOVANCE® VWF Ac(VWF:GPIbM)ではGPIbの変異体を利用し,VWFとGPIbとの結合を検出する.GPIb変異体としてgain-of-function変異であるG233VおよびM239Vが導入されたリコンビナントGPIbを用いており,いわゆる血小板型VWD(偽性VWD)を反映した反応系である.本測定系に用いられているGPIb変異体は2つの遺伝子変異が導入されており,恒常的なVWF-A1ドメインとの結合能を獲得したことでリストセチンによる惹起を必要としない16, 17.したがって,VWFの活性としてはこちらも生体内に近いものを測定していると考えられる.

INNOVANCE® VWF Acはこれまでに幾つかの研究が行われ,その性能特性に関する論文が報告されている14, 16, 18–21).それらの報告によるとVWF:RCoとVWF:GPIbMの測定値は互換性があるといわれており,本邦でも “VWF活性” として共存できる可能性が示唆される.今回の研究は本邦における最初の検討であり日本人を対象とした成果であり,VWF:GPIbM(INNOVANCE® VWF Ac)は臨床検査としてはVWF:RCoに比して優れた検査法(検査試薬)であることが示された.今後,VWF活性の評価法として選択肢が増えることは望ましいと思われる.

*本研究成果の一部は第41回日本血栓止血学会学術集会にて発表した.

著者の利益相反(COI)の開示:

篠原 翔:役員・顧問職・社員など(シスメックス株式会社)

新井信夫:役員・顧問職・社員など(シスメックス株式会社)

その他の著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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