2021 年 32 巻 4 号 p. 410-412
新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2: SARS-CoV-2)感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)は,WHOにて2020年3月にパンデミック宣言がなされ,2021年も感染流行が続いている1).SARS-CoV-2検査は,SARS-COV-2感染の病態の明確化と検査技術の応用により,患者の適切な診断・治療とともに,感染拡大防止の上で利用されている2–5).本稿では,SARS-CoV-2検査の意義と検査技術の展開について述べる.
行政検査の方法は,分離・同定による病原体の検出,検体から直接の核酸増幅法による病原体の遺伝子の検出,迅断診断キットや自動免疫測定装置(定量,定性)による病原体の抗原の検出がある(表1)2).核酸増幅法には,PCR(polymerase chain reaction)の他,LAMP(loop-mediated isothermal amplification),TRC(transcription reverse-transcription concerted reaction),TMA(transcription mediated amplification)法などの等温核酸増幅検査が用いられる.検体は,喀痰,気管吸引液,気管支肺胞洗浄液,鼻腔吸引液,鼻腔拭い液(鼻前庭),鼻咽頭拭い液,咽頭拭い液,便,唾液,剖検材料などが用いられる(迅断診断キットによる病原体の抗原検査は鼻咽頭拭い液,鼻腔拭い液のみ).有症状患者の臨床経過とウイルス検査の関係を図1に示す4).発症者において,発症前48時間前からPCR検査陽性となる.
項目 | 性能 | 所要時間 | 適用 |
---|---|---|---|
核酸増幅検査 | 高感度,高特異度,定量測定の可能性 | 1~3時間 | 診断(検出,鑑別),変異株の同定 |
核酸増幅検査(短時間) | 迅速,安全,感度良,特異度良 | 1時間以内 | 診断(検出) |
抗原定量検査(CLEIA) | 迅速,高感度,高特異度,定量測定 | 30分以内 | 診断(検出) |
抗原定性検査(イムノクロマト,CLEIA) | 迅速,感度中等度 | 15~30分 | 診断(検出) |
抗体検査 | 後方視的,交差反応 | 1時間 | 感染の確認,疫学調査,研究目的,ワクチン評価 |
細胞培養 | ゴールドスタンダード,研究・開発のための純培養,長時間 | 1~7日 | 診断(検出,鑑別,タイピング,性状解析),研究目的 |
CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay.
臨床経過と各種ウイルス検査(文献4を引用改変)
PCR検査,抗原(定量・定性)検査,抗体検査それぞれの検出の可能性について,臨床経過,検体種との関係で示した.
WHOは,2021年2月25日に懸念される変異株(variants of concern: VOC)と注目すべき変異株(variants of interest: VOI)を暫定的に定義した5).VOCとは,伝播性増強やCOVID-19疫学への悪影響,毒力増強または臨床像の変化あるいは公衆衛生的・社会的手段,診断・ワクチンや治療の効果の減弱を示す変異株をいう.
世界的に拡がるVOCには,英国で最初に検出されたB.1.1.7(20I/501Y.V1)(アルファ株),南アフリカで最初に検出されたB.1.351(501Y.V2)(ベータ株),ブラジルで最初に検出されたP.1(501Y.V3)(ガンマ株)がある.日本国内では2021年1月以降,B.1.1.7(20I/501Y.V1)症例の割合が急激に増加し,2021年5月に従来株からほぼ置き換わった.
何れの変異株も伝播性が高まるとされるN501Y変異を有する.特にアルファ株は,2次感染率や死亡リスクの上昇の可能性が示唆されている.ベータ株とガンマ株は,抗原性に影響を与える可能性があるE484K変異も有する.特にベータ株は,感染やワクチンによって得られた免疫を回避する可能性が示唆されている.インドで最初に検出されたB.1.617B(21A/S:478K)(デルタ株)は,N501Y変異よりさらに伝播性が高まるとされるL452R変異を有する.その検出症例が増加し,8月にもアルファ株から置きかわると推定されている.
変異株の同定法には,リアルタイムRT-PCR,融解曲線分析,TaqMan SNPジェノタイピング,次世代シークエンサー(next-generation sequencer: NGS)などが用いられる5).
ウイルス特異的抗原を検出する迅速診断法が実用化されている.イムノクロマト法によるウイルス特異抗原検出法は,外来やベットサイドで迅速かつ簡便な検査法として,診療現場への導入は大きな意義がある.ただし,検出感度,特異性の不良が課題である4).
ハイスループット・迅速化測定システムとして,高感度の抗原定量検査がある.SARS-CoV-2抗原検出用キット「ルミパルス SARS-CoV-2 Ag」(富士レビオ株式会社)が承認され,保険適用となった6).検出感度は,従来の抗原検出用キット(抗原定性検査)よりも高く,PCR検査と同等である.測定時間が約30分以内と短時間で迅速報告ができる.
血中のウイルス特異的抗体は,イムノクロマト法(迅速簡易検出法)や酵素免疫法による血清学的診断法が利用されている7).抗体検査は,感染(既往)の確認ができ,ウイルス感染拡大の状況や無症候感染の役割など疫学的調査さらにワクチン効果の評価に利用できる.ウイルスがヒト細胞内に取り込まれる際に結合する細胞膜上のACE2蛋白を認識するウイルスS蛋白の受容体結合部位(receptor-binding domain: RBD)に対する抗体は,中和抗体として意義がある.臨床的な有用性は,臨床経過中に遅れて受診(発症後2週間),症状が持続する場合,PCR検査で結果陰性の場合である.無症状の患者において,重症化リスクのある患者集団や暴露リスク集団における感染既往の評価,免疫の持続期間の把握に利用可能である.特異的IgG,IgMは,発症後5~7日以降に陽性化する.IgMが早期に上昇する一般的な反応を示す場合,重篤化する傾向がある.臨床的感度・特異度は,使用している抗原の性状,測定方法,臨床経過で異なるため,結果の解釈は臨床所見を踏まえて行う.
SARS-CoV-2検査は,環境・体制の整備のもと,適切に実施することは,個別患者の診療のみならず,医療や高齢者・福祉施設などのハイリスク群を保護しつつ,地域における感染拡大の防止対策を図る上で重要である.緊急事態が繰り返し発動され,社会経済が疲弊することを防ぐためにも,社会経済活動へ参加の指標として,PCR検査等を参考とすることが望ましい4).検査の利用推進には,必要な方法,検査の特性と限界などについて,正しい理解のもと適切な利用が大切である.
役員・顧問職・社員など(株式会社ビー・エム・エル,株式会社エスアール エル),講演料・原稿料など(栄研化学株式会社)