日本血栓止血学会誌
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年度日本血栓止血学会 岡本賞 Utako Award
リアルタイムイメージング技術が照らす線溶反応の時空間的制御機構
鈴木 優子
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2021 年 32 巻 4 号 p. 495-503

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抄録

血液の循環と流動性の維持は,時空間的に緻密に制御された血栓形成反応と溶解反応とのバランスのとれた調和の上に成り立っている.筆者らは,近年めざましく進歩したリアルタイムイメージング技術を用いて,線溶反応の時空間的な調節機構の解明に取り組んできた.まず線溶開始因子であるtissue-type plasminogen activator(tPA)の血管内皮細胞からの分泌に着目し,その分泌動態を可視化することで,血管内皮特有の分泌後のtPAの細胞表面における滞留現象を明らかにした.この膜表面滞留tPAに対して,その特異的インヒビターであるplasminogen activator inhibitor-1は液相中と同様に高分子複合体形成による阻害作用を発揮することを明らかにし,「新規細胞表面線溶ポテンシャル調節機構」を提唱するに至った.そして,滞留tPAの酵素活性発現ならびにその調節機構,フィブリン溶解現象を可視化することにより,溶解直前のフィブリンファイバーに多量にプラスミノゲンが集積する現象を初めて捉えることができた.さらに,血小板血漿あるいは生体顕微鏡を用いた解析により,凝固の開始から線溶反応までの一連の過程を可視化することにより,時空間的に制御された血栓形成-溶解反応の理解を進めてきた.最近,凝固と線溶のクロストーク分子であるthrombin-activatable fibrinolysis inhibitor活性調節系の病態生理学的重要性を示唆する結果を得た.その調節機構の詳細の解明を今後も推進していきたい.

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