日本血栓止血学会誌
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トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
COVID-19と抗リン脂質抗体
家子 正裕大津 瑛裕前田 峻大下瀬川 健二
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2021 年 32 巻 5 号 p. 625-627

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1.はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による世界的な感染症であり,肺炎に加え心臓病や呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS),血栓塞栓症を引き起こすことが知られている.静脈血栓塞栓症は入院患者の8.0%~35.0%に,また脳卒中などの動脈血栓症も1.9~21%に認められる1.さらに剖検例では58%に多発性微小血栓が認められるとされ2,COVID-19は極めて強い血栓リスクである.その血栓形成機序は明確にされていないが,SARS-CoV-2感染による補体活性化と過剰炎症3,およびそれに伴うサイトカインストームやNeutrophil extracellular traps(NETs)による凝固亢進,血小板活性化が報告されている4, 5.抗リン脂質抗体(aPL)産生もその背景として挙げられる.

2.COVID-19と抗リン脂質抗体

初期の研究6ではCOVID-19入院患者のaPL陽性率は27.6%と報告されたが,その後の研究7ではaPLは52%と高頻度に検出されることが報告された.その内訳は,抗カルジオリピン抗体(aCL)-IgMが23%,ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)-IgGが24%,aPS/PT-IgMが18%であった.aPLは重症患者のみならず非重症患者でも高頻度に検出される(表1).ICU入院重症患者の検討8では,1種類のaPL陽性者(single positive)が67%で,2種類aPL陽性(double positive)が25%,3種類aPL陽性(triple positive)が8%であり,aPL陽性者の9.5%はaPL検出後30日以内に死亡した.一方,非重症患者ではsingle positiveが47.1%で,double positiveおよびtriple positiveが11.1%および1.9%で検出されており,aCLが33.7%で陽性で,抗β2GPI抗体(aβ2GPI)-IgG,-IgM,および-IgAはそれぞれ8.7%,2.9%および5.8%であった9.血栓症はaCL-IgG陽性者の27.3%,aCL-IgMまたはIgAの45.5%に,そしてaβ2GPI-IgAの27.3%に認められていた9.興味深いことに,重症COVID-19ではIgAクラスaPLの検出頻度が高く,気管支粘膜などでのSARS-CoV-2に対する抗ウイルス反応が病態の根底にある可能性が示唆されている10.ループスアンチコアグラント(LA)陽性率は44.6~87%と非常に高く報告されているが,血栓形成との関与は明確ではない9

表1 COVID-19患者における抗リン脂質抗体検出頻度
COVID-19患者の背景 総数 抗リン脂質抗体陽性率(%) 参考文献
COVID-19診断患者 56 45 18
非入院COVID-19患者 69 43.3 19
入院COVID-19患者 53 50 19
入院COVID-19患者 172 52 7
重症COVID-19患者 29 55.2 20
重症/重篤COVID-19患者 21 57.1 8
重篤COVID-19患者 19 52.6 21

3.COVID-19と抗リン脂質抗体症候群

APSではaPLが12週間以上離れて2度以上検出されることが診断条件となる.COVID-19では一過性のaPL陽性が指摘されている11が,別の研究12では約半数の例でaCL持続陽性が確認されている.COVID-19で検出されるaPLの血栓症への関与は不明であるが,血栓症合併COVID-19患者から精製したIgGをマウスに投与すると静脈血栓症を誘発したとする研究7もある.

APSにおける血栓機序も明確ではないが,aPLによる血管内皮細胞や単球の活性化に伴う組織因子の過剰発現,補体活性化に伴う凝固亢進およびNETs形成などによる血栓形成が推定されている13, 14.この機序はCOVID-19の血栓機序と類似している.特に,ARDSや肺塞栓血栓症を主症状とする劇症型APS(CAPS)15は,補体活性化による多臓器の炎症と多発微小血栓による組織壊死を特徴とする16.CAPSは血栓性微小血管症(TMA)の一型とされ,COVID-19との類似点を指摘する論文は多い4.また,CAPSや成人スティル病(AOSD)などの過剰炎症病態ではフェリチンが異常高値となることが知られており,Hyperferritinemic Syndrome(HFS)という概念に属する17.重症型COVID-19ではHFSと臨床症状や検査所見を共有することが指摘されおり(表217,過剰炎症が主因となるCOVID-19の病態解明の参考になるものと考えられる.

表2 Hyperferritinemic syndromeとCOVID-19の特徴の比較
重症COVID-19 敗血症性ショック 成人スティル病 マクロファージ活性化症候群 劇症型抗リン脂質抗体症候群
高フェリチン血症 中等度 中等度 高度 高度 中等度
血清フェリチン値(ng/mL) >300
(300~5,000)
>300
(300~5,000)
>300
(5,000以上のこともあり)
>300
(10,000以上のこともあり)
>300
(300~5,000)
高サイトカイン血症 高度 高度 高度 高度 高度
感染症トリガー 高度 高度 中等度 中等度 中等度
発熱 高度 高度 高度 高度 中等度
多臓器障害 高度 高度 高度 高度 高度
ARDS 高度 軽度 軽度 軽度 軽度
肝腫大 NR 中等度 中等度 NR
脾腫 NR 中等度 中等度 NR
血球貪食像 NR 軽度 軽度 高度 NR
血小板減少 無~軽度 軽度 軽度 軽度
貧血 軽度 軽度 軽度 軽度 軽度
白血球減少 中等度 軽度 中等度 NR
NK活性減少/欠如 軽度 軽度 軽度 軽度 NR
可溶性IL-2R(>2,400 U/mL) 軽度 軽度 軽度 軽度 NR
中性脂肪高値 NR 軽度 中等度 NR
肝障害 中等度 中等度 中等度 中等度 中等度
凝固障害 中等度 中等度 軽度 中等度 高度
ESR/CRP変化 高度 高度 高度 中等度 中等度
       ESR
       CRP

ARDS: acute respiratory distress syndrome, NK: natural killer, IL-2R: interleukin-2 receptor, ESR: erythrocytes sedimentation rate, CRP: C-reactive protein, NR: not reported

参考文献17

4.終わりに

COVID-19の病態の一部にはaPLが関与している可能性は高く,APSの病態との類似性も高い.両者の病態の関連およびそれに伴う血栓機序の解明の中にCOVID-19およびその合併症の管理方法が隠れている可能性がある.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

文献
 
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