抄録
1992年7月、緬羊8頭と山羊1頭を飼育する岩手県一関市内のA農場において、重度の貧血を主徴とする疾病が4頭の幼齢緬羊に発症した。その内の1頭について死亡前の血液検査、さらに死亡時に虫卵検査(ウィスコンシン変法)および病理解剖学的検査を実施した。その結果、血液検査では赤血球数286万/mm3、ヘマトクリット値6%、血清総蛋白3.5g/dlといずれも低い値を示した。虫卵検査の結果、eggs per gram(EPG)は一般線虫卵13,500、拡張条虫卵2,300、羊鞭虫卵240であった。病理解剖学的検査では、第四胃と小腸に粘膜上皮の剥離および潰瘍が認められ、第四胃より数百匹の捻転胃虫、小腸より数匹の拡張条虫、また結腸より数十匹の羊鞭虫が検出された。以上の結果より本症例は、捻転胃虫、拡張条虫および羊鞭虫の混合感染による胃腸内寄生蠕虫症で、また発症時に気温が高かったことによるストレスが加わり、衰弱し死亡したものと診断された。これに伴い、同畜舎内の敷料交換、消毒剤(2%オルソジクロベンゾール)の散布を実施し、発症が見られなかった緬羊4頭と山羊1頭において、イベルメクチン製剤(0.4mg/kg皮下注射)とビチオノール(20.Omg/kg経口投与)を投与したところ、その後本症の発症は認められなかった。