多種多様な動物を飼育する動物園や水族館では,感染症対策は非常に重要な課題である。これらの施設で飼育されている生物種は多様であり,感染症対策をより一層困難にしている。本稿では,細菌学研究の分野から,近年問題になっている薬剤耐性菌保有と,次世代シーケンスを用いた細菌叢解析という2つのテーマについて述べる。第1のテーマである薬剤耐性大腸菌(Escherichia coli)保有調査は,鳥類飼育施設にて行った。その結果,4割ほどが大腸菌陽性であり,そのうちの6~7割が何らかの薬剤耐性を示した。さらに,多くの薬剤に対して耐性を同時に示す多剤耐性大腸菌や,β-ラクタマーゼ産生大腸菌も検出された。この施設では,個体の再導入が行われていることもあり,この調査結果は飼育管理下における感染症対策の一助になると考えた。第2のテーマである細菌叢解析は,飼育下バンドウイルカ(Tursiops truncatus)を対象に,その肺胞内洗浄液を用いて行った。その結果,対象個体群の肺胞内に細菌叢が存在することが明らかになった。また,この解析手法を用いることによって,多くの病原性細菌を検出することができた。これらの手法は,症状が出ていない個体においても,さらには培養が困難である菌種検出にも応用できることから,飼育現場における感染症対策および予防医療としての健康管理に大きく貢献する可能性を示唆していると考えた。