日本野生動物医学会誌
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特集論文
「研究」は動物園の「役割」なのか?
安西 航
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キーワード: 研究, 水族館, 動物園
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2022 年 27 巻 2 号 p. 77-82

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抄録

動物園・水族館がもつ社会的役割の1つとして「調査・研究」が掲げられているが,そもそも「研究する」とは何だろうか。野外で調査をしたり,最新機器を用いたりしなければ,「研究」とは呼べないだろうか。当然そんなことはないが,そうした例も増えつつある近年,園館職員の「研究」への心理的なハードルが上がってしまっているように感じる。「研究」の本質は新規性と信頼性を兼ね備えた「科学的な言語化」であり,それらを意識さえすれば,日々の現場業務の延長線上に「研究」は成し得るものと考えられる。例えば新しい繁殖巣箱を導入する際には,複数の個体・複数の設置条件で試すことで,その巣箱の効果を客観的に評価できる。また,屋内での夜行性動物に照明環境が与える影響を評価したければ,照明機器のみを入れ替えつつ行動学的な定量観察を行い,統計解析で室温や観覧者効果の影響を排除すれば良い。こうした「科学的な言語化」は,現場業務での工夫を「研究成果」に昇華するものであり,個人の技術を向上させ,他者にそれらを共有するものでもある。「研究」は希少種保全,環境教育といった「役割」を果たすための「手段」であり,動物園・水族館の使命を果たす上で必要不可欠な基礎だと言える。科学的な視点を持ち,客観的な調査を行い,論文執筆を続ける,そうした「研究」が「日常」となれば,日本の動物園・水族館が世界に肩を並べられる日もくるのではないだろうか。

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