日本野生動物医学会誌
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原著論文
希少種ヤンバルクイナ(Hypotaenidia okinawae)生息環境における薬剤耐性大腸菌の汚染実態
炭山 大輔石橋 佐和子金澤 朋子安齋 寛村田 浩一
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2023 年 28 巻 1 号 p. 45-52

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抄録

 ヒトと野生動物との間で感染する薬剤耐性菌は近年大きな社会問題となっており,その中でも薬剤耐性菌による環境汚染調査は重要な課題であるといえる。本研究では,ヤンバルクイナの生息環境試料(土壌や水)における大腸菌の陽性率とその薬剤耐性,さらに遺伝子型を調べることで,本種と生息環境試料における薬剤耐性大腸菌汚染とその傾向を知ることを目的とした。調査試料はヒトの生息環境および畜産農家の存在する地域(LA)と,ヒトの生息していない森林地域(FA)で採取し比較検討した。その結果,大腸菌陽性率はLAで38.2%(13/34)であり,そのうちの84.6%(11/13)が何らかの抗生物質に対し耐性を示した。対照的にFAでは,大腸菌陽性率は25.5%(12/47)であり,そのうちの16.7%(2/12)が何らかの抗生物質に対し耐性を示した。薬剤耐性大腸菌陽性率は,FA試料よりもLA試料で有意に高いことが明らかになった。さらにパルスフィールドゲル電気泳動によるパターン解析では,我々の先行研究でLAから採取したヤンバルクイナ糞便からの分離株と,本研究でFAの土壌から分離された大腸菌株で同一のパターンを示した。以上の結果から,LAの環境試料は薬剤耐性大腸菌による汚染が進んでいる可能性が示唆され,希少種である本種がその運搬者となってやんばる地域に拡散してしまう危険性が考えられた。

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