日本野生動物医学会誌
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総説
総説:北海道沿岸に棲息する鰭脚類の感染症の血清疫学
大石 和恵丸山 正
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2023 年 28 巻 2 号 p. 81-89

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抄録

 この数十年の間に鰭脚類において何回かの感染症による大量死が報告され,鰭脚類と海洋の保全について,世界的な関心がもたれている。日本沿岸ではそのような大量死は今のところ見られていないが,北海道沿岸に棲息する鰭脚類において,インフルエンザウイルス,モービリウイルス,ブルセラ菌,トキソプラズマ,ネオスポラの5つの病原体の血清疫学調査がなされ,全ての病原体に対して特異的抗体が検出されている。この総説では,これらの血清疫学の結果を,この分野の近年の重要な知見を交えながら概説する。これらの病原体は接触や摂餌を通して種を超えて伝播する可能性があり,鰭脚類の保全に加え,感染症のハブとしての鰭脚類にも着目して,陸と海を繋ぐ生態系に棲息する他の哺乳類や,それ以外の動物,例えば鳥類,餌となる小動物,寄生虫などを含む大きな枠組みの中で捉える必要がある。近年の環境の変化は,動物の棲息域や行動に影響を与え,種間伝播のリスクを高める可能性がある。鰭脚類のみならず,より広い動物群におけるモニタリングの継続が重要である。

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