関西医科大学雑誌
Online ISSN : 2185-3851
Print ISSN : 0022-8400
ISSN-L : 0022-8400
SH阻害化合物N-ethylmaleimide(NEM)の心臓毒作用に対するalkylS-S化合物の防禦機序に関する薬理学的研究
西窪 靖和
著者情報
ジャーナル フリー

1979 年 31 巻 1 号 p. 90-101

詳細
抄録

1.SH阻害化合物N-ethylmaleimide(NEM)2×10-5g/ml(1.6×10-4M)が摘出ラット自動心房律動を停止させる毒作用は,alkyl S-S化合物であるthi-amine tetrahydrofurfuryldisulfide hydrochlo-ride(TTFD)10-4g/ml(2.3×10-4M)によって減弱した.
2.TTFDのこの効果は,TTFDを栄養液中で心房標本(以下標本と略記する)に作用させた後,洗浄除去し,標本をこの化合物を含まない栄養液に置いた場合でも,ほぼ同様に現われた.
3.TTFD 10-49/ml(2.3×10-4M)を含む栄養液に1時間この標本を置いた場合,心房組織中のthi-amine量を測定すると,極めて多量のthiamine(167.5μg/g湿組織)を検出したが,一旦同量のTTFDを標本に1時間作用させた後,栄養液を交換して薬物不在の栄養液中にさらに1時間置いた場合でも,心房組織中のthiamine含量はほぼ同量であった.
4.心房標本をTTFD10-4g/m1(2.3×10-4M)を含む栄養液中におき,この液をL-cysteine 10-4g/ml(8×10-4M)を含む栄養液と交換して50分後,薬物不在の栄養液中に10分間標本を置いた場合,NEM毒性に対するTTFD処置の防禦効果は著しく減弱した.
5.心房標本にTTFD10-4g/ml(2.3×10-4M)を作用させ,次にL-cysteine10胴-4g/ml(8×10-4M)を含む栄養液中に置いた後,薬物不在の栄養液と交換したが,組織中のthiamine含量は3項と有意差はなかった.
6.心房標本にL-cysteine2×10-4g/ml(1.6×10-3M)を作用させた後,その存在下にNEMを作用させた場合には,NEMの心房律動停止作用は著しく減弱した.このL-cysteineを栄養液交換によって除去し,薬物不在の栄養液中でNEMを作用させた場合,このL-cysteineの前処置の効果はほとんど認められなかった.
7.NEMの心房に対する急性毒性は薬力学的作用のパターンより見て,細胞膜SH蛋白の一つであるATPase活性阻害によるところが大きいと推定される.
8.NEMの心房毒性に対するTTFDの防禦効果は,組織に移行したTTFD由来のthiamineに起因するものではなくて,他の生成原子団である alkyl mercap-tan体によることが明らかとなった.この alkylmercaptan体は組織との強い結合性があり,洗浄によっても容易に組織から離脱せず,添加されたNEMの毒性を防禦した.一方,生成 alkyl mercaptan体と組織蛋白SH基との複合体は,添加されたL-cysteineによって解離されるため,NEMの蛋白SH基阻害による心房毒性は再び強力に発現するにいたることを認めた.

著者関連情報
© 関西医科大学医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top