2025 年 25 巻 p. 29-33
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特集 |
トップダウン評価に基づいた評価とアプローチ |
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関西理学 25: 29-33, 2025
脳血管障害片麻痺患者の立位・歩行の評価とアプローチ
楠 貴光 1, 2) 大沼 俊博 3) 鈴木 俊明 2)
AbstractTakamitsu KUSUNOKI, RPT, MS1, 2), Toshihiro OHNUMA, RPT, MS3), Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc2)
はじめにThe evaluation and approach to standing and walking of hemiplegic patients with cerebrovascular disease will be presented. In patients with hemiplegia due to cerebrovascular disease, there are many possible functional impairments in the upper and lower extremities of the paralyzed side. Based on the idea of top-down evaluation, the process of narrowing down the top functional impairment and approaching them is explained.
————————————————————————————————— J. Kansai Phys. Ther. 25: 29-33, 2025
Keywords: hemiplegia, standing posture, walking
立位姿勢の評価と立位から歩行動作の予測今回、脳血管障害片麻痺患者の立位・歩行の評価と アプローチを紹介する。脳血管障害片麻痺患者では、麻 痺側上肢および下肢における機能障害は数々考えられる。ここでは、トップダウン評価の考えに基づき、機能障害 の上位を絞り、それに対してアプローチをおこなってい くプロセスと重要性について解説する。
脳血管障害片麻痺患者の立位と歩行動作を評価する際、適切に評価をおこなうことが重要となる。その背景には、脳血管障害片麻痺患者の機能障害は、麻痺側および非麻 痺側の上下肢に加え、体幹機能といった全身の機能を考 える必要があり、運動器の疾患と比較して、主要問題と なり得る機能障害が多い。とくに発症から経過した維持 期の脳血管障害片麻痺患者においては、生活習慣や代償 動作から生じる二次的な問題点も多い。そのため評価が 不十分な状態で運動療法を実施しても、なんらかの動作
の変化が生じる可能性があるが、必ずしも動作の実用性 が向上するとは言えない。我々理学療法士が運動療法を 実施する際には、動作の実用性を改善することで、日常 生活活動の向上につなげる必要がある。しかし、動作の 実用性が低下する要因はさまざまであり、予測される問 題点の違いにより主要な機能障害が異なることに難しさ を感じる。立位姿勢を観察する際には、関節肢位の関連 性や機能障害の順序性を考えることが重要と考える。単 関節の異常性から隣接する他の関節への影響を考えるこ とで、問題点とともに機能障害の順序性を予測すること につながる。歩行動作を評価する際にも、開始肢位であ る立位姿勢の解釈や症例の主訴を踏まえて、どのような 歩行動作になりそうかといった予測をもって観察する必 要がある。そのため歩行動作を適切に評価するためにも、立位姿勢をしっかりと解釈することで、得られるヒント は多く存在すると考える。
そこで本項では、脳血管障害片麻痺患者の立位姿勢を提示し、その立位姿勢の解釈と立位姿勢から歩行動作を予測するまでの過程を示す。
1.症例紹介
今回提示する症例は、60 歳代前半の女性である。数年前に脳出血の発症に伴い左片麻痺を呈している。現在の日常生活活動の状況としては、屋内の移動は、左足部に短下肢装具を装着した伝い歩きである。自宅の外にトイレがあり、トイレまでの移動は杖歩行であるが、外出時には車椅子を用いている。現在は訪問リハビリテーションを利用し、運動療法を実施している。症例の主訴は、
「早く歩けない。歩く格好が気になり、外出したくない。」であり、とくに「足が出ないこと」、「身体が傾いていること」を気にされている。そのため、ニードは、「歩行動作のスピード向上、社会に容認される動作の獲得」と設定する。
2. 立位姿勢の観察
図1に症例の立位姿勢を示す。立位姿勢を観察する際には、現象として姿勢の特徴を挙げる。そこで今回は、1.体幹前方傾斜位であること、2. 左殿部が後方に位置していること(骨盤左回旋位)、3. 両足部の位置関係として、とくに左足部が外向き、前方に位置していることを挙げた。そこで上記に挙げた現象を関節の肢位で表現する。


図1 症例の立位姿勢(健常者による模倣)
平面上の向きである左回旋位に対して、両大腿骨の向きを確認することで、左右どちらの関節運動に起因した肢位であるのかを判断でき、症例では骨盤左回旋位に対して、右大腿骨は右側を向いており、左大腿骨は骨盤と同じ方向を向いている。このことからも、骨盤左回旋位である要因は右股関節が外旋位であり、このとき左股関節は内旋外旋中間位であることがわかる。
右足部および足関節の機能障害により裸足歩行の右立脚初期から中期の体重移動が困難かつ、右遊脚初期に肘関節屈曲の増強を認めた右片麻痺患者への理学療法3. 機能障害の仮説
ここまで立位姿勢の観察にて示した3つの現象から異常な関節の肢位を挙げた。ここから機能障害の関連性や主要問題の影響により二次的に生じる問題点を予測していく必要がある。そこで今回は、左股関節の機能障害(左股関節伸展の可動域制限や左腸骨筋、大殿筋の筋緊張低下)により左股関節が屈曲位であることが主要な問題であると仮定する。その場合には、左股関節屈曲に伴い体幹前傾位を呈することに対して、左膝関節伸展位、左足関節底屈位にて、左殿部を後方に位置させていると考えられる。このとき、左殿部は後下方に位置することから骨盤左下制位となり、相対的に左股関節は外転位を呈すると考えられる。一方、左足関節は背屈、左膝関節屈曲位を呈する可能性もあるが、さらに左殿部の位置は大きく下方に位置し、相対的に骨盤は大きく左下制すると考えられ、体幹の左前方傾斜が増大することからも今回の症例では、左膝関節伸展位、左足関節底屈位を呈していると予測する。このとき、常に左膝関節は伸展位であることにより、左大腿四頭筋は、膝関節屈曲位保持作用として活動する機会が減少することで左大腿四頭筋の筋緊張低下が助長される可能性がある。また常に左足関節が底屈位となり、左足関節背屈運動をおこなう機会が減少することでも左下腿三頭筋の筋緊張低下や左足関節背屈の可動域制限が二次的に生じる可能性があると考えられる。さらに、この左股関節屈曲、外転位により体幹が左前方傾斜位となることで左殿部が後方に位置することに伴って常に骨盤左回旋位、右股関節外旋位となり、二次的に右股関節内旋の可動域制限や右中殿筋前部線維の筋緊張低下が生じる可能性があると考えられる。このように主要問題の影響により、隣接する関節においても、二次的に機能障害が生じる可能性が考えられる。
4. 歩行動作の問題点の予測
これまでに述べてきた立位姿勢の解釈や機能障害の仮説を踏まえて、歩行の問題点を予測していく。これによりどのような歩行動作になりそうかといったヒントをもって歩行動作観察に挑むことができる。さらには、主訴である「早く歩けない。歩く格好が気になり、外出したくない」といった訴えや、とくに「足が出ないこと」「、身体が傾いていること」を気にされているといった情報も重要となる。
まず、1. 体幹前方傾斜位であることが歩行動作時にも継続することによって、歩行動作の社会に容認される方法の低下が生じている可能性が考えられる。これに伴い、
2. 左殿部が後方に位置していることにより、常に右股関節外旋位にて骨盤左回旋位であることで、歩行の右立脚相での右股関節の内旋に伴う骨盤左回旋運動が充分に生じない可能性が挙げられる。これは右立脚相の短縮や左下肢の遊脚の困難さにつながると予測できる。また、3.両足部の位置関係として、とくに左足部が外向き、前方に位置していることにより、左足部と骨盤の位置関係は遠くなり、左立脚相の身体の前側方への体重移動が困難となる可能性が挙げられる。これも、左立脚相の短縮につながると予測ができる。このように立位姿勢の予測から、歩行動作について考えていくことで、どのような動作になる可能性があり、歩行動作のスピードの問題や社会に容認される動作方法であるのかといった予測をもっ
て、歩行動作の観察に挑むことができる。
症例は約 10 年前に脳梗塞を発症した右片麻痺患者で ある。裸足歩行にて右足部に体重を乗せにくいとの訴 えと共に、一定の調子で裸足歩行を遂行できないといっ た安定性の低下と、これに伴うスピードの低下を認めた。また、右遊脚初期に右肩関節伸展に伴う肘関節屈曲がみ られ、社会に容認される方法に低下を認めた。本症例の 裸足歩行の右立脚初期から中期にかけて右足関節底屈、足底の母指側が離床した足部内がえし位であり、足関節 背屈と足底接地での足部外がえしに伴う下腿の前外側傾 斜および股関節内転が困難であった(図2左図)。さらに、右立脚中期から後期に足関節底屈に伴う下腿後傾、膝関 節伸展位で股関節屈曲による体幹前傾と股関節の内旋に て骨盤が右回旋し、性急に左踵接地がみられた(図2右 図)。そして左立脚初期から中期には、左足関節背屈を 伴いながら膝関節、股関節は屈曲位から伸展した。右遊 脚初期では、足関節底屈、膝関節伸展位で腰椎右側屈に よる骨盤右挙上にて遊脚し、右肩関節伸展と肘関節屈曲 が増大した(図3)。本症例の裸足歩行では、右の足部、足関節の機能障害により、足関節背屈と足底接地での足
図2 裸足歩行における右立脚相 図3 裸足歩行における右遊脚初期
表1 右の広背筋下部線維、上腕二頭筋の筋緊張評価

部外がえしに伴う下腿の前外側傾斜、および股関節内 転が困難であった。さらに、右遊脚初期では足関節底屈、膝関節伸展位で腰椎右側屈による骨盤右挙上にて遊脚し、右広背筋下部線維の収縮にて腰椎右側屈による骨盤右挙 上と共に肩関節伸展が生じたと考えた。この際、上腕骨 結節間溝を走行し筋緊張亢進を認める上腕二頭筋長頭の 腱が伸張されることで伸張反射がみられ、肘関節が屈曲 すると考えた。10 mの裸足歩行時間は、18.61 秒であっ た。理学療法評価より、右の足関節背屈0°、足部外が えし0°の関節可動域制限と共に、後脛骨筋、長母指屈
筋、アキレス腱に短縮を有した。さらに、静止時筋緊張 検査にて右の下腿三頭筋、腓骨筋群に筋緊張低下を認め た。また、右の広背筋下部線維、上腕二頭筋に筋緊張亢 進を認めた(表1)。理学療法では、座位にて右の後脛 骨筋、長母指屈筋、アキレス腱へのダイレクトストレッ チングと共に、右の足部と足関節への関節可動域練習を 実施した(図4左図)。さらに座位での母指球荷重を伴 うカーフレイズにより、右の下腿三頭筋、腓骨筋群の収 縮練習を実施した(図4右図)。理学療法後の評価の関 節可動域測定では、右の足関節背屈0°、足部外がえし0°がそれぞれ10°に改善を認めた。静止時筋緊張検査では、右の下腿三頭筋、腓骨筋群の筋緊張が正常域に近づいた。結果、裸足歩行の右立脚相にて足関節背屈および足底接 地での足部外がえしを伴った下腿の前外側傾斜と股関節 内転を認めるようになり、安定性向上を認めた(図5)。
また、裸足歩行の右立脚中期から後期に足関節背屈を認め、右遊脚初期の腰椎右側屈による骨盤右挙上と、右肩関節伸展に伴う肘関節屈曲が軽減し、社会に容認される方法が向上した(図6)。10 mの裸足歩行時間は、18.61秒 から16.28 秒へとスピードの向上を認めた。本症例において右立脚相の円滑な体重移動を促すこと、および右遊脚相での右肘関節屈曲を軽減するには、右足部、足関節の主要問題を解決することが重要であった。
図4 理学療法
理学療法では、座位にて右の後脛骨筋、長母指屈筋、アキレス腱へのダイレクトストレッチングと共に、右の足部と足関節への関節可動域練習を実施した(左図)。さらに座位での母指球荷重を伴うカーフレイズにより、右の下腿三頭筋、腓骨筋群の収縮練習を実施した(右図)。
図5 理学療法後の右立脚相

おわりに図6 理学療法後の右遊脚初期
今回、脳血管障害片麻痺患者の立位・歩行の評価とアプローチについて紹介した。問題点となる機能障害の上位を理詰めて決定するには、動作のストーリーをつくる
ことが重要である。患者に大きな負担なく、シンプルかつ短時間で評価するには、セラピストの動作分析の能力が問われることから、さまざまな仮説を立てながら実施していく必要がある。