2025 年 25 巻 p. 52-57
関西理学 25: 52-57, 2025
経穴刺激理学療法における圧刺激強度の違いが脊髄運動神経機能の興奮性変化に与える影響
-疼痛閾値の 100% と 30% 強度での比較検討-
片岡 拓己 1) 竹谷 壮平 1) 築山 葵 1) 東藤 真理奈 1,2)
福本 悠樹 1,2) 谷 万喜子 2) 鈴木 俊明 1,2)
AbstractTakumi KATAOKA1), Sohei TAKETANI1), Aoi TSUKIYAMA1), Marina TODO, RPT, Ph.D.1,2), Yuki FUKUMOTO, RPT, Ph.D.1,2), Makiko TANI, Lac, Ph.D.2), Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc1,2)
はじめにAcupoint Stimulation Physical Therapy (ASPT) is a therapeutic technique that adjusts muscle tone through pressure stimulation of acupoints. This study compared the effects of ASPT suppression techniques on excitability changes in spinal motor neuron function in healthy participants, using pressure stimulation intensity at LU5 set at 30% and 100% of the pain threshold. The objective of this study was to examine differences in spinal motor neuron excitability between ASPT suppression techniques applied at 30% intensity relative to pain threshold and those applied at 100% intensity relative to pain threshold. Results showed that at 100% of the pain threshold intensity, the relative amplitude F/M ratio decreased significantly at 10 and 15 minutes compared to during the pressure stimulation, but no difference was observed at 30% of the pain threshold intensity. These results suggest that at 30% of the pain threshold intensity, the inhibitory effect following pressure stimulation cannot be expected. Therefore, when performing ASPT suppression techniques clinically, it is necessary to perform them at 100% of the pain threshold intensity.
••••••••••••••••••••••••••••••••• J. Kansai Phys. Ther. 25: 52-57, 2025
Keywords: acupoint stimulation physical therapy, muscle tone, LU5 (chize)
日常生活をおこなううえで、食事動作や更衣動作、料理動作など様々な動作遂行において手指の巧緻性は重要となるが、脳血管障害による片麻痺患者では、手指の巧緻性が低下するケースが多い1)。手指の巧緻性低下の要因の1つに、手内在筋の筋緊張亢進が挙げられ、この問題に対し、著者らは経穴刺激理学療法(Acupoint
受付日: 令和7 年9 月5 日 受理日: 令和7 年11 月4 日
Stimulation Physical Therapy : 以下、ASPT)という手技を用いることで筋緊張を抑制する方法を提唱している。 ASPT とは、鍼灸医学における循経取穴の理論を理学療法に応用した新しい介入手技のことであり、治療対象筋上を走行する経絡上にある遠隔部の経穴に治療者の指で圧刺激を加えることで、関連した筋の筋緊張の調整を狙うものである。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜め方向に経穴を圧迫する手技を選択する2)。
対象と方法ASPT の抑制手技に関して、桂木ら3)は、脊髄運動神経機能の興奮性変化の観点から、尺沢への圧刺激強度を疼痛閾値の100%と50%に設定した場合の効果の違いについて短母指外転筋のF 波を計測し、比較検討した。その結果、疼痛閾値の100%強度の圧刺激(以下、100% 強度)において脊髄前角細胞の興奮性は、圧刺激実施中に一時的に増大した後に経時的な抑制効果を認め、さらに抑制効果は疼痛閾値の50%強度の圧刺激(以下、50%強度)では、100% 強度と比較して充分でなかったと報告している。これについて、疼痛閾値の100% 強度では侵害受容ニューロンが視床VPL 核に伝達し、その後VPL 核から体性感覚野(3b 野)に入る。3b 野からは1野、2野に伝導した後、筋緊張の抑制に関わる6野に投射するが、疼痛閾値の50% 強度では、この6野への刺激が乏しいことなどが要因としてあげられている3)。このことから、疼痛閾値の 50%強度では ASPT の抑制手技における抑制効果は充分でなく、充分な抑制効果を得るためには疼痛を伴うレベルでの圧刺激強度が必要であることが示唆された。しかし、臨床において疼痛は患者負担につながるため避けることが望ましい。一方、鈴木ら4)は経穴への刺激ではないが、短母指外転筋上の皮膚面に対して垂直に疼痛閾値の10~100%の強度での圧刺激を加え、圧刺激前と圧刺激後(以下、30% 強度)で脊髄運動神経機能の興奮性がどのように変化するかを検証した。その結果、疼痛閾値の 30%強度での圧刺激において、圧刺激前と比較し圧刺激後で脊髄運動神経機能の興奮性が最も低下したことを報告した。これら2つの先行研究は同じ圧刺激を用いているが、経穴と筋肉上という刺激部位が異なっており、さらにASPT においては圧刺激強度に関する検討が不十分な現状がある。このことから、疼痛を伴わない圧刺激強度での抑制効果を認める可能性があ
り、臨床においても患者負担の軽減を考慮しつつ有効な圧刺激強度を検討する必要があるため、本研究では疼痛閾値の30%強度と100%強度での比較検討をおこなうことにした。仮に、疼痛閾値の30%強度で100%強度と同様の効果が得られた場合、患者負担の軽減を考慮しつつ ASPT の実施が可能になると考えた。
このことから本研究では、健常者を対象に尺沢への垂直方向の圧刺激強度を疼痛閾値の100%と30%で設定し、圧刺激前後の脊髄運動神経機能の興奮性の変化を比較検討した。
本研究の目的・方法を説明し、同意を得た健常者 35名(男性18 名、女性 17 名)、平均年齢 20.8 ± 1.3 歳の非利き手上肢を対象とした。非利き手検査には、エディンバラ利き手検査を用い、Laterality Quotient(以下、 LQ)のスコアに基づいて利き手側を判定した。判定基準はLQ 値≧ 60 を右利き、LQ 値≦ -60 を左利きとした。なお、本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、被験者の人権・プライバシーに充分配慮し、関西医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:24-07)。
尺沢への圧刺激前(安静試行:以下、rest)と、圧刺激中(以下、during)、また、圧刺激直後から15 分後までの5分毎(post0、post5、post10、post15)に短母指外転筋よりF 波を測定し、それぞれ脊髄運動神経機能の興奮性の評価をおこない、経時的な変化を見た(図1)。
図1 研究の流れ
疼痛閾値を算出した後、充分な休息をとり、安静時(rest)、圧刺激中(during)、圧刺激直後(post 0)、圧刺激5 分後(post 5)、 10 分後(post 10)、15 分後(post 15)の6時点でF 波計測を実施した。
尺沢に対する垂直方向への圧刺激による脊髄運動神経機能の興奮性の評価に関して、脊髄前角細胞の興奮性の指標として用いられるF 波を用いた。F 波は運動神経に最大上の電気刺激を与えた時、すべての運動神経が軸索を逆行性に伝導し、脊髄前角細胞の軸索小丘の一部分で再発火したのち順行性に伝導し、その結果として支配筋から得られる複合筋活動電位である 5)。
F 波 の 記 録 は、Viking Quest ver.20.11.1(Gadelius Medical 社製)を使用しおこなった。刺激条件は、刺激 部位を手関節部の正中神経とし、刺激電極の陰極(S-)を中枢側、陽極(S+)を末梢側に配置した。刺激強度は、最大上刺激(M 波の最大振幅が得られる刺激の120%強 度)、刺激頻度は 0.5Hz、刺激回数は 30 回の連続刺激に 設定した。記録条件は、探査電極(R-)を短母指外転筋 上に、基準電極(R+)を第1中手骨頭背側に貼付し、接 地電極を前腕近位部に貼付した。環境設定は、静かな個 室で、室温を25℃と統一して実施した。F 波計測のタイ ミングは、圧刺激入力のないrest、圧刺激入力を実施するduring、圧刺激入力を終了した直後の post0、圧刺激 入力直後から5分毎の3時点(post5、post10、post15)の6時点で実施した。F 波分析項目は、振幅 F/M 比を 用いた。F 波が出現しなかった場合を振幅値 = 0とし、 F 波の振幅値の平均を算出し、最大M 波の振幅値で除す ことで振幅F/M 比を求めた。
測定肢位は背臥位の状態で両肩関節屈曲・伸展中間位、軽度外転、外旋位、両肘関節屈曲・伸展中間位、両前腕 回外位、両手関節掌屈・背屈中間位、橈屈・尺屈中間位、両手指伸展位とし、ベッド上に配置した。経穴刺激部位 に関して、短母指外転筋上を走行する手太陰肺経上にあ る尺沢とした。尺沢は、肘窩横紋上にあり、上腕二頭筋 腱の橈側に位置している。この尺沢に組織硬度計/ 圧痛計OE-220(伊藤超短波社製)(以下、組織硬度計)を用い、短母指外転筋の筋緊張抑制を目的に垂直方向の圧刺激を 加えた。前準備として本実験で圧刺激を加える尺沢にお ける疼痛閾値は、組織硬度計を用い計測した。具体的に は、実験者が組織硬度計を用い、被験者の非利き手側の 尺沢に、垂直刺激を加え続けた。この時、被験者の利き 手側に組織硬度計と連動するスイッチを把持させている。その後、被験者には触圧刺激から疼痛刺激に切り替わる 瞬間に利き手側のスイッチを押す指示を与えた。スイッ チを押した時、刺激強度が組織硬度計のモニターに数 値として表示される。この作業を充分な間隔を空け、計
3回実施し、その平均値の算出をおこない、この平均値を100%として疼痛閾値の基準を定めた(図1-b)。圧刺激の入力についてはduring にて組織硬度計を用い、尺
沢への垂直方向の圧刺激を1分間加えた。圧刺激強度は、
1人に対して疼痛閾値の100%と30%の2 種類で実施した。2種類の圧刺激強度での検討は、1週間の間を空けて順不同で実施した。
結 果本研究では、rest を除いた各施行(during、post0、post5、 post10、post15)の振幅 F/M 比の値をそれぞれ rest の 振幅F/M 比で除した振幅F/M 比相対値を用いて比較検 討をおこなった。統計解析について、Shapiro-Wilk 検定 にて正規性を認めないデータがあることから、ノンパラ メトリック検定を実施した。条件内比較では、疼痛閾値の100%強度での5条件(during、post0、post5、post10、 post15)の振幅F/M 比相対値を各時点間で比較するた めにduring とpost0 のように2条件ずつ、すべての2条 件間の組み合わせで比較しそれぞれ検討した。また、疼 痛閾値の 30%強度においても同様に5条件の振幅F/M 比相対値をそれぞれ比較検討した。その際、Friedman 検定を実施し、多重比較をおこない、Bonferroni 補正 を実施した。条件間比較では、疼痛閾値の 100%強度 と 30%強度の2群間で各試行(during、post0、post5、 post10、post15)の振幅 F/M 比相対値を比較検討した。その際には、Wilcoxon の符号順位検定(Bonferroni 補正)を実施した。なお、有意水準は5%とし、統計解析ソフ トにSPSS ver.19 を用いた。
考 察疼痛閾値の100%強度の条件内比較に関して、duringと比較して、post10 およびpost15 において振幅F/M 比相対値は有意な低下(post10-during : p = 0.017、post15-during : p = 0.028)を認めた(図 2-a)。しかし、その他の比較では有意差は認められなかった(post10-post0 : p
= 0.539、post15-post0 : p = 0.757、その他の各項目 : p = 1.000)(図 2-a)。また、疼痛閾値の 30%強度の条件内比較では、during およびpost0、post5、post10、post15のいずれの項目においても振幅F/M 比相対値に統計的な有意差は認められなかった(post10-post0 : p = 0.312、 post10-during: p = 0.211、post10-post5 : p = 0.156 その他の各項目p = 1.000)( 図 2-b)。100 %強度と 30 %強度の条件間比較においても、during およびpost0、post5、 post10、post15いずれの時点にも有意差は認められなかった(during(30 %)-during(100 %): p = 0.706、post0
(30%)-post0(100%): p = 0.270、post5(30%)-post5
(100 %): p = 0.276、post10(30 %)-post10(100 %): p
= 0.314、post15(30%)-post15(100%): p = 0.232)(図 2-c)。
図2 圧刺激中(during)から15 分後(post15)までの振幅F/M 比相対値の経時的変化
a.100% 強度の条件内比較では、during と比較して post10、post15 にて振幅 F/M 比相対値の有意な低下を認めた。
b.30% 強度の条件内比較では、いずれの比較においても有意性のある変化は認めなかった。
c.100% 強度と30% 強度との条件間比較では、いずれの時点でも有意性のある変化は認めなかった。
おわりに著者らは、100 % 強度では、during にて脊髄前角細胞の興奮性が一時的に増大し、その後、経時的に脊髄前角細胞の興奮性が低下すると予想していた。この時、100%強度の方が 30%よりも、during における脊髄前角細胞の興奮性の一時的な増大の程度は大きくなると予想していた。また、圧刺激後では30%強度において、 100%強度より抑制の程度は乏しくとも刺激後に同様の抑制傾向が見られると予想していた。100%強度と30%強度の条件間比較において、100%強度の方が、刺激後の抑制効果は大きくなると考えていた。しかし、本研究結果は、100%強度の条件内比較においてduring と比較したpost10、post15 でのみ抑制効果を認めた。このことから、本研究で 30%強度では、経時的な振幅F/M 比相対値の充分な抑制効果を認めにくいことが分かった。また、100% 強度と30% 強度の条件間比較において、いずれの時点でも有意差は認められなかった。この研究結果をもとに、① 100%強度でのみ抑制効果を認めた要因、
② 30% 強度において充分な抑制効果を認めなかった要因、
③ 100%強度と30%強度での条件間比較で有意差を認め
なかった要因の3点に関して考察をおこなう。
はじめに、① 100%強度でのみ抑制効果を認めた要因 に関して考察をおこなう。先行研究においてもASPT 抑 制手技で経時的な抑制効果を示す際に、during の時点に おける一時的な脊髄運動神経機能の興奮性増大を認める ことが、鈴木ら6)の研究をはじめとして多数報告されて いる。鈴木ら6)の研究では、被験者の左尺沢に対して垂 直方向に痛みを感じない最大の強度で1 分間刺激を与え、 F 波を左母指球上の筋群から経時的に測定した。この 時、振幅F/M 比は ASPT 実施中と刺激終了直後で増加 傾向を示し、刺激終了 10 分後に刺激終了直後と比較し て低下傾向となったことを報告している。このことから during における脊髄前角細胞の興奮性増大が重要である ことが示唆される。また、圧刺激部位に関して、健常人 を対象とした合谷へのASPT 促通手技で、経穴部に斜め 方向の圧刺激を加えた際には圧刺激直後から胸鎖乳突筋 の運動前反応時間が短縮したが、非経穴部のASPT 促通 手技では圧刺激前後における胸鎖乳突筋の運動前反応時 間に変化を認めなかったという報告7)がある。このこと から、経穴部へのASPT では特異的な変化を認めること が考えられ、本研究においても的確な尺沢への外的刺激
が必要であると考える。脊髄前角細胞の興奮性を増加さ せる要因に関しては、疼痛による不快刺激が与える影響 や防御性収縮の影響などさまざまな要因がある。本研究 では、F 波を用いることで脊髄前角細胞の興奮性の評価 を実施したため、脊髄レベルでの考察をおこなう。まず、 during にて脊髄前角細胞の興奮性が増大した要因として、本研究では、during で圧刺激を加えているため、皮膚 からの求心性線維を介した脊髄後角への入力が増加する ことが考えられる。その後、入力は介在ニューロンを介 し、脊髄前角細胞を反射的に興奮させることで during にて、一時的な脊髄前角細胞の興奮性増大に関与したこ とが考えられる。その後post10、post15 で抑制効果を認 めた要因としては、during にて一時的な脊髄前角細胞の 興奮性増大が生じる事が重要であると考察する。この反 応に対して、ヒトには恒常性(ホメオスタシス)という 生体反応が存在する。そのため、脊髄前角細胞では一時 的な興奮性の増大を認めた後に、介在ニューロン(Ⅰ a 抑制性介在ニューロン、Renshaw 細胞など)を介した反 射的な脊髄前角細胞に対する抑制反応が見られ、post10、 post15 にて脊髄前角細胞の興奮性の低下を認めた可能 性がある。これらの反応は圧刺激強度が大きいほど脊髄 後角への入力が増加することが考えられ、このことから 100% 強度では前述した抑制効果を認めたことが考えら れる。つまり、ASPT 抑制手技において充分な抑制効果 を得るためには、during で充分に脊髄運動神経機能の興 奮性を高めることで、刺激後から刺激前の状態に落ち着 くというホメオスタシスの特性を充分に活用することが 重要であると考える。また、本研究では脊髄レベル以外 での直接的な計測はおこなっていないため、あくまで推 測にはなるが以下の抑制メカニズムも考えられる。本研 究の刺激部位である尺沢は、デルマトームC6 領域であり、感覚刺激はC6 レベルの脊髄に入力される。その後、感 覚刺激は上行し、網様体脊髄路などの経路を経て、広範 囲の脊髄レベルにさまざまな影響を与える。その結果、本 研究の対象筋である短母指外転筋の脊髄運動神経機能 の興奮性にも関与した可能性がある。また尺沢に対して 刺激される疼痛刺激は、皮膚求心性線維(A δ線維、C 線維)を介して、脊髄後角細胞に入力される8)。その後、脊髄内で2 次ニューロンに接続した後、二系統の経路を 上行する。1つは、視床髄板内側核群に投射する経路(内 側系とよばれる)で、もう1つは視床後外腹側核(以下: VPL 核)群に投射する外側系の経路9)である。これらの経 路は情動を司る大脳辺縁系(扁桃体)に入力し、脳幹網 様体部を刺激した 9)後、下降性網様体脊髄路による抑制 が脊髄前角細胞に作用する可能性がある。これらの抑制 メカニズムでは、複雑な神経経路を形成しており、抑制 効果に遅延が生じる可能性がある。しかし、脳幹網様部 は部位によって抑制領域(網様体背内側部)、促通領域(網
様体腹側部)が存在する10)ため、本研究において、抑制のみの効果が現れたことの解釈は難しい。このことから、尺沢への疼痛刺激が脳幹網様部のどの領域に影響を与えるのか、また、その際の抑制性介在ニューロンへの影響はどのようなものであるのかという研究が必要であると考える。
つぎに、② 30%強度において充分な抑制効果を認め なかった要因に関して、考察をおこなう。30%強度では、疼痛刺激を伴わないため前述した疼痛刺激による網様体 脊髄路による抑制は生じず、脊髄前角細胞への関与は乏 しかった可能性がある。しかし、30%強度の刺激が加わ るとA β線維を介し、脊髄後角で2次ニューロンである 前脊髄視床路に結合し、VPL 核に投射する経路が存在す る。このため、100% 強度と同様に外側系の上行性経路 を介して脳幹網様体部を活性化させることは考えられる。しかし、本研究では充分な抑制効果が得られなかったこ とから、やはり脊髄前角細胞の興奮性の抑制には被験者 が疼痛感覚を訴える程度の充分な疼痛刺激が重要だとい うことが考えられる。その他にも、30%強度では、循経 取穴の理論に基づく「つぼ刺激」が充分でなかったこと が考えられる。東洋医療の考え方として、経穴は生命活 動に必要なエネルギーである気血を全身にめぐらせる経 絡上に存在するとされている。また、この経穴に垂直方 向の圧刺激を加えることで気血が堰き止められ、過剰な 筋緊張を抑制できると考えられている7)。30%強度では、この気血の堰き止めが充分でなかった可能性が考えられ る。そのため、本研究においても 30%強度での充分な 抑制効果は認めなかったと考察する。これらの要因から、 30%強度では、充分な抑制効果があると断定すること は困難であった可能性がある。本研究の結果をもとにま とめると、100% 強度と30% 強度での結果の違いは疼痛 刺激を伴うか否かということに加えて、純粋な圧刺激強 度の違いによる様々な要因が大きかったと考える。した がって、ASPT の抑制手技を臨床応用する上では100% 強度での実施が必要であると考察する。
最後に、③ 100%強度と 30%強度での条件間比較にてduring およびpost0、post5、post10、post15 いずれ の時点でも有意差を認めなかった要因に関して考察を おこなう。この要因として、①で述べた100% 強度にお けるduring での脊髄前角細胞の興奮性上昇が 30%強度 と比較して大きく差がなかったことが考えられる。この 要因として、本研究結果では、during における振幅F/ M 比相対値が 1.00 よりも低い数値を示す対象者が 35 名 のうち12 名存在し、これらの対象者においては100%強 度では疼痛刺激入力により生じる不快刺激が充分でなく、 during における充分な脊髄前角細胞の興奮性の増加が 得られなかったことが考えられる。このため、100%強 度で生じるはずの刺激後から刺激前の状態に落ち着く特
性を充分に活用することができず、その後の抑制効果も充分に得られないため、30% 強度との比較の際にduringおよびpost0、post5、post10、post15 いずれの時点でも有意差を認めなかった可能性がある。このことから、 100%強度よりも高い強度での脊髄前角細胞の興奮性反応を検討する必要がある。したがって、これまでASPT抑制手技では100%強度での実施が基本とされていたが、本研究の結果から今後さらに圧刺激強度を高めた時の検討が必要だと考える。
利益相反短母指外転筋上の皮膚面に対して垂直に疼痛閾値30%で圧刺激を加えた際に、圧刺激後の振幅F/M 比は最も低下を認めたという報告 4)から、これを ASPT 抑制手技にも応用できないかと考え、今回の研究に至った。結果として、30%強度では、100%強度と同様の抑制効果は認めなかった。このことから、臨床で短母指外転筋の筋緊張抑制のためにASPT 抑制手技を実施する際には、 100%強度で実施し、充分な触圧刺激と疼痛刺激を加えることで、圧刺激後の筋緊張を充分に抑制することが可能になるということが示唆された。しかし、100%強度での実施においても充分な抑制効果を認めない症例も存在することから、100%強度が ASPT 抑制手技において最適であるか、今後検討していく必要がある。
文 献開示すべき利益相反はない。
―尺沢への抑制手技が母指球筋のF 波および自律神経機能に与える影響―. 理学療法学40: 136-137, 2013.
岩村吉晃・他:タッチ. pp208-219, 医学書院, 2001.
金銅英二: 痛みの認知と情動. 日本顎咬合学会誌 35: 88-93,
2015.
332, 2009.