抄録
イタリア中央部のいくつかの粘性土地すべりにおいて地すべり土塊の下部で高い間隙水圧を示す部分があることがこれまでに報告されている。これは土塊の透水性が深度により違っているためと考えられた。
このようなことが別の地質状況のもとでもあてはまるかを調べるため, 日本の新潟県の第三系の地すべりについて差分法による浸透流解析を行った。文献及び透水試験結果を参考にすべり面付近に高い透水係数を与え, その局透水層の端が地表に出る場合, また初生すべりによる分断及び崩土による埋没により地表に出ない場合を考えて, 色々なケースについて解析を行い, 各々のケースの流線網を得た。そしてこの結果からすべり面の間隙水圧の分布を求め静水圧と比較した。また最も限界的な斜面の安定度を示すケースで安定度の逆解析を行った。
すべり面に沿う間隙水圧の実測値がないため計算値との比較はできないが, これらの解析の結果, 現位置の透水試験で得られた深度により異なる透水係数を与えた場合, イタリアの例と同様に斜面の下部で高い間隙水圧を示すことがわかった。また逆解析の結果, 安定計算を行うときすべり土塊全体として行うよりも, 下部の間隙水圧の高い部分を別ブロックとして考えて行ったほうが現実的であるという結果が得られた。このことは進行性のすべりは斜面の下方から発生することを示唆している。さらにそこで調べた事例ではすべり土塊を全体としてそして静水圧による間隙水圧が作用するとして逆解析を行うと, せん断強度を過大に評価することになってしまうという結果も得られた。