2007 年 15 巻 2 号 p. 41-56
本論文は「固定資産の減損に係る会計基準」(以下,減損会計基準とする)の適用における経営者による利益マネジメント(earnings management)について考察するものである.本論文では,減損会計基準の2004年3月期,2005年3月期の早期適用企業をサンプルにして,利益と減損損失の計上額の関係について分析した.具体的には減損損失を計上する前の利益の水準ないし変化に着目し,利益の水準ないし変化がプラスの領域においては,プラスの程度に応じて減損損失を計上するという利益平準化仮説,マイナスの領域においては,多額の減損損失を計上するビッグ・バス仮説を設定した.分析の結果,早期適用企業において,利益の水準ないし変化がプラスの領域においては利益平準化仮説が支持された.また利益の水準がマイナス,利益の変化が大きくマイナスの領域においてビッグ・バス仮説が支持された.この結果から減損会計基準の早期適用を利用して,経営者が利益マネジメントを行ったことが示唆されている.