2000 年 8 巻 1-2 号 p. 51-68
本論文の目的は,日本企業における成果主義への報酬システムへの変化と業績測定・評価尺度の変更が,そのマネジメント・コントロールに対し,どのような意味を持つかについて考察することにある.
成果主義への動きは,一見,日本企業のマネジメント・コントロールがあたかも米国テキストに示されている仕組みへの変化を意味しているように見える.しかし,米国マネジメント・コントロールのプロセスの本質は,株主利益最大化を実現させるためのしくみであるのに対して,日本企業のマネジメント・コントロールは,変更後も,株主利益最大化を徹底させるためのものとは必ずしもいえない.むしろ,社員全体の意識変革のための施策としてなされている.
また,マネジメント・コントロール・プロセスのうち,業績測定・評価尺度の変更を報酬制度の変更と同時に行なうことで,業績測定・評価尺度の変更も,マネジャーの意思決定情報の変更というよりもむしろ,企業としてマネジャーに求めている行動が変化していること,そして,企業全体がマネジャーに期待している成果も変化していることを明確に表わすことになる.
事例に取り上げた3企業ではいずれも報酬システムを変更したとほぼ同時に,業績測定尺度の変更を行なっていた.事例企業では,直面している不況やビジネスモデルの変更という事情から,成果主義にもとついた報酬システムをとりいれた.同時に,さまざまな理由から業績測定評価尺度が導入された.マネジメント・コントロールの2分割構造をなしていた2つのシステムをリンクさせたことによって,日本企業はマネジャーや社員に対する企業としての期待行動が大きく変わっていることを示し,意識変革を促したのであった.