哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan
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野生ハツカネズミの島と本土個体群における生息環境の利用性
高田 靖司
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1985 年 10 巻 3 号 p. 123-134

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抄録

愛知県三河湾の佐久島 (171ha) と本土 (春日井市・名古屋市) の間で、野生ハツカネズミの分布と密度 (捕獲率を尺度とする) を比較した。1981年から1984年までの調査により次の事がわかった。1) 島には本種の他に, ドブネズミとジネズミが見られ, その他の野生哺乳類を欠く。2) 本土では本種の他に, アカネズミ, カヤネズミ, ハタネズミ, ジネズミ及びヒミズが見られる。3) 島のハツカネズミは森林を除いて、調べた総ての生息環境, すなわちイネ科の一年生と多年生の草地, タバコ・クワ畑及びヨシ湿地に独占して見られる。4) 本土のハツカネズミはイネ科の一年生草地にだけ優占し, ここでも他のネズミと共存している.また, 多年生草地と森林にはアカネズミが, ヨシ湿地にはカヤネズミが優占している。5) 本土の各生息環境におけるネズミ類の総密度は, 島の同じ生息環境におけるそれに等しいか, あるいはより高い.6) 他の優占的な競争種を欠く島におけるハツカネズミの密度, 繁殖, 齢構造及び食性は生息環境間で異なることが示唆された。ハツカネズミの生息地拡大と好みの分析から, その分布を決定する上で重要な要因として, 1) ネズミ共同体, 特にアカネズミやカヤネズミのような優占的な競争者, 2) 環境, 特に植生に働く人為作用が考えられた。

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