昨年、筆者は「心的いのち」と「生物学的 (身体的) いのち」との接点において、 「老い」と「個性化の過程 (自己実現)」との関係から「生命 (いのち)」の理解を深めた。今回は、進化という別の視点から「いのち」を考えてみたい。「いのち」は進化と不可分な関係にあると思われるからである。その際、東西の進化理論の比較から論じる。本研究では、対応原理を仮説として認め、この原理を介して「いのち」の一面を考えた。ここで対応原理とは、心の世界と物質の世界の間に存在する (対称性に基づく) 不思議な対応関係のことを指している。ところで、この仕事で扱うのは、生命 (いのち) である。しかし、実際には生命そのものは捉え難いので、まず、「生命 (いのち)」を単純に「生物」に置きかえて、生物の進化理論、特にその東西の考え方の違いに着目して考察することから始めた。その差異の背景には、生物学的いのちばかりでなく、心的いのちが深く関わっているものと推察される。そこで、一見まったく異なるこの両理論が、河合隼雄の著述からヒントを得つつ、自然観の捉え方 (因果律・共時性) や対応原理を介して統合できる可能性について論じた。本研究は、生物の進化理論を介して「いのち」の理解を深める試みである。