抄録
長期的な円高が進行し,日本の製造業は生産拠点の海外移転を加速させた。海外進出した企業は,為替変動のリスクが少なくなることを,利益面のメリットとして押し並べて主張している。一方,東日本大震災以降原子力発電が停止し,石油の輸入が増加したがために貿易収支が赤字に転換し,政権交代後に急激な円安が進行した。本研究では,一例として自動車メーカーを取り上げ,為替変動が輸出企業の利益率に与える影響を統計分析する。次に,経済性分析モデルを考え,為替レートや変動費の連動性が輸出企業の損益に与える影響を評価する。また,生産拠点のグローバル展開が必ずしも企業収益にとってメリットばかりではなく,むしろ円安のリスクを負い,増収のチャンスを失うことを数値例などで紹介する。