本稿の目的は,歴史研究の知見による新興国マーケティング研究の可能性を探ることにある。新興国でも特にアジアに焦点を当て,重要と考えられるいくつかのテーマや事例を提示する。筆者は,新興国マーケティングに対して歴史研究の枠組みを応用する際に,マーケティングがすでに発展した先進国を前提とする視座をそのままの新興国に適用するのでなく,新興国の現状に見合った新しい視座を用いるべきであると主張する。そこで本稿では,「近代化」「埋め込み」「顕示的」「社会的ネットワーク」を鍵概念とし,近代化プロセス,華人ネットワーク,日本の経験の応用可能性,オンライン化という4つのテーマを取り上げ,新興国におけるマーケティング史研究の豊富な可能性を探った。取り上げたそれぞれのテーマにおいて,新興国固有の流通・消費の状況,国際化・近代化が現地にもたらした変化,新興国の流通におけるネットワークの特徴や役割に注目すべきことを示した。