マーケティング史研究
Online ISSN : 2436-8342
特集論文
実用主義と帰納主義融合の陥穽
―ある批判的合理主義者の独り言―
堀田 一善
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 1 巻 1 号 p. 54-61

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抄録

 嘗て我国にあって商業経済学や商業経営論に埋め込まれて扱われてきたマーケティング論が,独自の研究対象として相対的に自立して措定されるようになったのは,日本が戦後の混乱期を脱して所謂高度経済成長期を迎えようとしていた1960年前後からのことであった。往時のマーケティング研究は,如何に早くアメリカに見る研究成果を導入するかを急ぐ余り,知識の普遍性を尋ねる険路よりもその実用的有用性の側面に注目が集まり,個別特殊な成功事例や眩惑的とも言える接近手法の推奨に関心を注ぐ傾向が強かった。

 確かにアメリカの知的伝統の一つに実用主義の思想があることは事実である。今日ではこれに帰納主義が加わって,些末かつ孤立した仮説を小規模にして再発現可能か否かも判然としないデータに照らして事を済ませる傾向さえ強まっている。本稿は,我国の近時の研究者の多くを捉えて離さないこの実用主義と帰納主義の無批判的な融合の蒙昧性と認識論的な問題点を提示し,以て争論の便に供することを試みようとするものである。

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© 2022 マーケティング史学会

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