マーケティング史研究
Online ISSN : 2436-8342
資料
堤清二氏インタビュー記録
薄井 和夫ドーソン ジョン戸田 裕美子
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2025 年 4 巻 2 号 p. 114-130

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抄録

 本資料は,2009年11月26日(木)に旧ホテル西洋銀座(〒104-0061 東京都中央区銀座1丁目11)2階「プレリュード」サロンB(個室)において,薄井和夫先生とジョン・ドーソン先生が実施したインタビューの音声データを文字起こししたものである。

 薄井先生は1990年代初頭に堤清二氏を自身の講義に講演者として招いたほか,1995年に埼玉大学が主催した「マーケティングと開発」に関する国際学会(The international seminar on marketing and development)に招聘し,研究や教育を通じて親交を深めた。さらに,1998年3月には,堤氏が博士(経済学),薄井先生が博士(商学)として中央大学より学位を授与され,授与者名簿に両名が並んで記載されるという偶然の縁もあった。

 堤氏は,その学位論文を1996年に『消費社会批判』(岩波書店)として公刊し,同書において「産業社会がもたらす負の影響=自然環境の破壊,人間の精神構造と感覚構造に与える歪み,その結果もたらされる家庭の崩壊,社会の原子化の下での諸規範の消滅などに対して」,「反省に立っての新しいマーケティング思想も生まれてきた。マクロ・マーケティング論はその一つ」(p. 193)であると記し,上記の国際学会にも言及している。同書では,ドラキア先生(Dholakia, Nikhilesh,当時ロードアイランド大学教授)やフィラート先生(Firat, A. Fuat,The International Society of Marketing and Development会長,当時アリゾナ州立大学教授)の言説を引用し,マクロ・マーケティングの考え方を「あるべき消費社会の姿を取り戻すための糸口になる」として高く評価し,日本のマーケティング研究にとって新しい時代の到来を予告するものであると位置付けている。薄井先生が研究の中で力点を置いてきたマクロ・マーケティングの考え方の影響が,この堤氏のインタビューにおいて随所に確認できる。またドラキア先生の近況について尋ねている箇所では,この国際学会を通じた研究交流の痕跡が伺える。

 ドーソン先生と薄井先生は長年にわたり共同研究を行い,日本およびヨーロッパの多くの小売企業へインタビュー調査を実施してきた。ドーソン先生は,1980年代から2000年代を通じて大きく変容した日本の小売業の構造に関心を持ち,日本の小売企業が業態開発やブランド戦略,ロジスティクスなど様々な局面において起こしてきたイノベーションに着目してきた。そして,来日のたびに薄井先生とともに小売企業の経営者たちへのインタビューを重ねる中で,西友の経営者との出会いをきっかけに,消費者のライフスタイルに寄り添うという無印良品の新たなコンセプトに強い関心を抱くに至ったという。そして薄井先生が堤氏と既述のような関係性を有していたことから,このインタビューが実現した。2009年はリーマンショックに続く世界的な金融危機の最中であり,小売企業は新しい消費のあり方を模索するとともに,国際戦略の再検討を迫られた時期でもあった。こうした事情を背景に,このインタビューでは無印良品のマーケティング戦略に留まらず,消費社会・消費文化のあり方や,小売企業の国際戦略および社会的責任など幅広いテーマについて議論が展開されている。

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