抄録
背景:日本では児童を取り巻く環境の変化による食生活の乱れが指摘されている.肥満や高血圧等の生活習慣病のリスクが学童期の子どもにも出現し,子どもの健康状態が悪化していることが危惧される.そこで,政府は食育促進法を制定し,学校を基盤にして子どもの食生活の改善に着手している.しかしながら,子どもの食行動の形成には環境や心理的な多くの因子が影響しており,食生活の改善は容易ではない.
目的:本研究は,子どもの健康な食行動の確立を資するために,学童の食行動における形成因子を家族因子に着目して検討した.
方法:本調査の概念枠組みはプリシードモデルを使用し,家族環境要因として同居家族の有無や放課後の過ごし方,家族に対する子どものエスティームを独立変数として設定し,従属変数は目標行動である食行動として,各項目間の関係を検討した.三重県津市における小学校5年生192名,6年生295名,合計487名に対し,自記式の質問紙調査を,三重大学研究倫理審査委員会の承認を得て2009年に行った.分析は各項目の基本統計量を求めた後,関係性を検討するために,t検定とχ2 検定,一元配置分散分析を行った.
結果:「食行動得点」は女子のほうが男子よりも有意に高く,家族環境では父親の有無と食行動が有意に関連(t=2.289)していた.セルフエスティームに関しては,男子のほうが女子よりも有意に高く,自分自身・家族に関するエスティームが高いほど食行動も有意に高かった(t=8.310).
考察:以上より,セルフエスティームを高めることが児童の食行動に貢献すると考えられ,家族の要因を含んだ関連因子に注目した食に関する健康教育を考えていく必要性が示唆された.