抄録
ヒト体外受精において,受精の判定は通常媒精または顕微授精16~18時間後に行なわれ,雌雄前核と第2極体の放出が確認された胚(2PN胚)は正常受精と判定される.ところが,臨床の現場ではこれに当てはまらない胚が少数存在し,その取り扱いに苦慮している.本研究では,受精判定時に前核が0個の胚(0PN胚),1個(1PN胚),3個(3PN胚),4個(4PN胚)をatypical embryosと定義し,その実際の染色体構成を調べ,さらに着床前診断の可能性を探ることを目的とした.本研究に対するインフォームドコンセントの得られた24症例から得られた38個のatypical embryosの解析を行った.割球3個以上のatypical embryosは胚生検を行い,生検割球と残りの割球を13,18,21,X,Y染色体特異的プローブを用いたfluorescence in situ hybridizationにて解析した.割球2個以下の胚には生検は行わず,そのまま固定し解析した.対照として同24症例から得られた正常受精胚34個を用いた.基本的な倍数性が2nであったものは,0PN胚,1PN胚,3PN胚にそれぞれ60%,55%,44%,対照の2PN胚に73%認めた.3PN胚由来の2n胚には性染色体異数体を75%,13,18,21染色体異数体を25%認めた.また生検割球と胚全体の診断結果を比較したところ,診断効率は87%であり,誤診の可能性を認めた胚はモザイクが原因であった.Atypical embryosにも移植可能な胚を多く含んでいることが示された.また,その着床前診断が可能であり,診断効率は87%であった.モザイクによる誤診の可能性を13%の胚に認めた.