経営哲学
Online ISSN : 2436-2271
Print ISSN : 1884-3476
投稿論文
複数の組織変革の研究意義と課題
小沢 和彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 21 巻 1 号 p. 72-84

詳細
【要 旨】

比較的近年の研究では、組織内で複数の組織変革が行われるケースについて検討されている。しかし、既存研究では複数の組織変革を論じる意義、あるいは、これらの研究の問題点についての検討が不十分である。これらを踏まえ、本論文では複数の組織変革を論じる意義について検討している。くわえて、既存研究の限界を指摘しつつ、複数の組織変革に関する研究の今後の方向性について検討している。

本論文では、複数の組織変革に関する従来の研究として、組織変革の経験に注目した研究、近年のものとして非一貫性に関する研究について論じる。複数の組織変革を論じる意義については、主に近年の研究に注目して検討している。複数の組織変革に関する今後の方向性については以下のように検討している。従来の研究の問題としては、組織変革の経験について素朴な経験のみに注目しており、過去に行われた組織変革とその後に行われた組織変革の一貫性があるかなど「関係性の種類」については検討できていない点が挙げられる。また近年の研究の問題点としては、第1に、非一貫性がみられる際にどのような状況で、あるいはどのようにネガティブな影響を抑えられるか・改善できるかが解明できていない点が挙げられる。第2の問題点としては、同時期に行われる複数の組織変革の先行要因及びそれが別の組織変革に及ぼす影響が未解明な点が挙げられる。このように、従来と近年の研究ではそれぞれに問題点がみられるが、前者は後者に対して、後者は前者に対して示唆を与えられる点を本論文では示し、今後の方向性について論じている。

1.はじめに

組織変革(organizational change)や環境変化は、これまで多くのビジネスパーソンからの関心を集めてきた。近年の環境変化の一つとしては、たとえば新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられるであろう。新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークの普及など、働き方が多様化した。環境変化が激しい昨今においては、これらの変化に対応する必要があり、組織変革が迫られるケースもある。

環境変化への対応については経営学者も多くの関心をよせてきた。とりわけマクロ組織論では、組織と環境の関係について多くの検討が重ねられ、一定の研究蓄積がみられる。また組織変革についても、March and Simon(1958)において論じられているように、マクロ組織論では古くから検討されてきたトピックの一つといえる(c.f., Van de Ven and Poole, 1995大月, 2005)。

このような組織変革研究において、比較的近年の研究では「複数の組織変革」が注目されている(たとえば、Kanitz et al., 2022Kunisch et al., 2017Skov and Lê, 2024)。これらの先行研究によると、既存の組織変革研究の多くは単一の組織変革現象に注目しており、複数の組織変革現象については検討が不足している(Kunisch et al., 2017)。たしかに、外部環境の変化に対応するために、組織内の複数の構成要素を順番に変革するのではなく、同じタイミングで変革することが必要な場合もあるであろう。また、複数の組織変革が相互依存関係にある場合には、単一の組織変革のみを分析するだけでは、それらが組織に与える影響を十分に検討できないといわれる。複数の組織変革を分析することで、全体像を把握でき、組織に対してどのような影響を与えるかを検討できるとされる(Kanitz et al., 2022Skov and Lê, 2024)。

このように、近年では複数の組織変革が強調されているが、既存研究では複数の組織変革を論じる意義、あるいは、これらの研究の問題点について検討が不十分である。これを踏まえ、本論文では複数の組織変革を論じる意義について検討したい。くわえて、既存研究の限界を指摘しつつ、複数の組織変革に関する研究の今後の方向性について検討したい。

本論文の構成は以下の通りである。第2章では組織変革研究において「複数の組織変革」が取り上げられるようになった背景について検討する。第3章では、まず過去の組織変革がその後の組織変革に与える影響に注目した研究群について論じたい。その後、近年展開されている、非一貫性(inconsistency)に関する研究を検討したい。第4章では、近年の研究の意義、そして限界点を示した後に、複数の組織変革に関する研究の今後の方向性について論じる。

2.複数の組織変革が注目される背景

第2章では、組織変革研究において「複数の組織変革」が取り上げられるようになった背景について説明したい。

組織変革については様々な捉え方が先行研究でもされており、たとえば代表的な研究者であるVan de Venらは「時間の経過とともに、組織の形態、質、状態」が変化することとしている(Van de Ven and Poole, 1995:512)。また、大月(2005:6)においては、「組織の主体者(経営主体)が、環境の変化がもたらす複雑性の中で行う組織の存続を確保する活動」と定義されている。本論文では、先行研究において組織変革の定義が多様であることを踏まえ(古田, 2021)、「組織の構成要素の変更」 (小沢, 2015:75)と広くとらえることにする。

組織変革の関連概念としては、戦略的転換(strategic change)が挙げられる。これは資源配分の変更(e.g., Crossland et al., 2014Kowalzick and Appels, 2023Karaevli and Zajack, 2013Richard et al., 2019)や事業範囲の変更(たとえば、Boeker, 1997Chiu et al., 2016Klaner and Raisch, 2013Nakauchi and Wiersema, 2014Wiersema, 1992)と関連深い概念である。組織変革と戦略的転換は異なる概念であるが、複数の組織変革に関する研究群では組織変革と戦略的転換について明確に区別していない傾向があるといえる。そのため、関連深い戦略的転換の研究も、本論文における考察の対象に含めることにしたい。

近年の研究によると、既存の組織変革研究の多くは単一の組織変革現象に注目してきた。そして、単一の組織変革現象に注目している研究では、どのような状況において組織変革が行われるかなどが検討されている。状況要因に注目する際にも、たとえば市場の状況や規制などの環境要因が組織変革に及ぼす影響について検討されてきた(Kunisch et al., 2017)。

環境要因以外についても検討されており、組織変革や戦略的転換についてはUpper Echelonsパースペクティブなどに基づき分析されてきた(c.f. Kunisch et al., 2017)。Upper Echelonsパースペクティブでは、経営者あるいはトップ・マネジメント・チーム(Top Management Team)などに注目し、彼らの属性が組織活動などに影響すること、さらにそれがパフォーマンスに影響を与えることが想定されている(たとえば、Carpenter et al., 2004Hambrick, 2007Hambrick and Mason, 1984小沢, 2018)。

このようなUpper Echelonsパースペクティブを用いた既存研究では、経営者の交代やトップ・マネジメント・チームの属性などが組織変革に及ぼす影響が注目される。たとえば前者については、経営者の交代のパターンを場合分けし、それらが組織変革あるいは戦略的転換にいかに影響を与えるかが検討されてきた(たとえば、Karaevli and Zajack, 2013Nakauchi and Wiersema, 2014Richard et al., 2019)。

これらは単一の組織変革に関する研究と既存研究では位置付けられているが(Kunisch et al., 2017)、いくつかの近年の研究では(単一でなく)複数の組織変革現象を検討する必要性が指摘されている(たとえばKlarner et al., 2023Kunisch et al., 2017Skov and Lê, 2024)。環境変化などに対応するために、同じ組織においても、同じ時期・タイミングで複数の組織変革が行われるケースがみられるため、複数の組織変革は重要なテーマになりえる。先行研究によると、仮に単一の組織変革にみえる場合にも、より詳細に分析すると、複数の組織変革に分解できることもある。複数の組織変革が組織内で行われる例としては、たとえばある組織変革はコラボレーションの促進を志向しているのに対して、別の組織変革は効率性や競争を志向しているケースが挙げられる。このような状況においては、組織変革の一貫性が乏しいと従業員が認識する可能性があるといわれる(Kanitz et al., 2022)。

複数の組織変革がみられる際に、それらが相互依存関係にある場合あるいは相互に作用する場合には、単一の組織変革のみに焦点をあてても、全体像を把握することができず、それらが組織に及ぼす影響を正確に把握できない恐れがあるといわれる(Kanitz et al., 2022Kunisch et al., 2017Skov and Lê, 2024)。たしかに、そのような状況は考えられる。仮に全ての行為者が複数の組織変革の関係性を正確に把握し、それらが組織に与える全体像を全て把握できるならば、組織に与えるネガティブな影響はある程度抑えられるであろう。しかしマクロ組織論の研究を踏まえるならば、認知限界などにより、単一の組織変革のみに行為者が没頭してしまうケースや(Ozawa, 2023)、その結果、組織全体に与える影響に注意が散漫になってしまうケースはありえる。

また、組織変革研究では抵抗や組織慣性について議論されることもあるが、単一の組織変革のみに焦点をあてた場合に、それらの源泉やそれらが組織に及ぼす影響について誤った解釈をしてしまう可能性も考えられる(Kanitz et al., 2022)。これらを踏まえると、複数の組織変革を検討する重要性は、ある程度理解できるといえる。

3.複数の組織変革の研究

複数の組織変革の研究では、主に組織変革の順序、頻度、リズムが論点とされてきた(Kunisch et al., 2017)。リズムに関連する組織変革研究としてはKlaner and Raisch(2013)の研究が挙げられるが1) 、概してリズムに関連する研究は不足しているといわれる(Kunisch et al., 2017:1028-32)。

順序と頻度はそれぞれ異なる概念ではあるものの、両者の先行研究を説明する際にKunisch et al. (2017)の研究で取り上げられているのが、「過去の組織変革の経験がその後の組織変革活動にどのような影響を与えるか」を検討している研究群である。特に、複数の組織変革に関する定量研究においては、このようなテーマが比較的研究されてきたといえるであろう。これらの研究では下記のようにモメンタム(momentum)やディセラレーション(deceleration)の概念が提示され(たとえば、Amburgey, Kelly, and Barnett, 1993Amburgey and Miner, 1992Beck, Brüderl, and Woywode, 2008Keil, et al., 2023Kelly and Amburgey, 1991)、経験や組織学習あるいは組織ルーティンなどが鍵概念として用いられてきた。

これらを踏まえると、複数の組織変革については近年注目されているものの、従来から検討されてきたテーマともいえる。複数の組織変革について必ずしも定まった研究群が形成されているわけではないが、本論文では「従来」の研究として、「過去の組織変革がその後の組織変革に与える影響」に注目した研究群を取り上げる。その後、3.2節以降では、「近年」の研究として非一貫性に注目した研究(Kanitz et., 2022Skov and Lê 2024)に注目したい。

3.1 従来の研究

本節では、「過去の組織変革の経験がその後の組織変革に与える影響」に注目した研究を中心に論じたい。この研究群では、モメンタムなどの概念を用いて組織変革現象について論じられてきた(たとえば、Amburgey et al., 1993Amburgey and Miner, 1992Beck et al., 2008Keil, et al., 2023Kelly and Amburgey, 1991Miller and Friesen, 1980)。

モメンタムについて論じている初期の研究としてはMiller and Friesen(1980)が挙げられる。彼らの研究におけるモメンタムの概念は、たとえば有機的組織が時を経てさらに有機的になることや機械的組織がさらに機械的になること、集権的な組織がさらに集権的になることを意味する。

その後、経営組織論では主にAmburgeyらによってモメンタムは検討されるようになり、多くの実証研究が展開されてきた(たとえば、Amburgey et al., 1993Kelly and Amburgey, 1991Stoeberl, Parker, and Joo, 1998)。Amburgeyらは、「過去に行われた組織変革と同様の組織変革をくり返す現象」を論じる際にモメンタムの概念を用いている。モメンタムに関する研究では組織ルーティンを用いて組織変革を行うことが想定されており、これらの研究に基づくならば、たとえば過去に組織構造の変革を行っていた組織は、今後も組織構造の変革を行う傾向があると説明されるのである(たとえば、Amburgey et al., 1993Amburgey and Miner, 1992Beck et al.,, 2008Kelly and Amburgey, 1991小沢, 2019, 2023b)。

この研究群において、上記の主張は支配的であったが(Beck et al.,, 2008Turner, Mitchell, and Bettis, 2013)、それに反する主張を展開したのがBeck et al. (2008)である。Beckらは、企業行動理論を踏まえつつ、ディセラレーションの概念を検討している。そして、いくつかのデータセットを用い、組織は過去に行われた組織変革と同様の組織変革をくり返さない傾向にあることを実証的に示している。

以上のように、この研究群では異なる二つの主張が展開されてきたが、以下のような共通点もみられる。第1に、過去の組織変革の経験に注目している点である。組織学習の視点を取り入れ、過去の組織変革の経験に焦点をあてた点は、注目すべき特徴の一つである。第2に、その観点から、組織が同様のタイプの組織変革を繰り返す傾向にあるか(否か)に注目している点である。これは、組織慣性とも密接に関連しており、このような議論を展開している点もユニークな特徴の一つといえる(小沢, 2019, 2023b)。

このような特徴は組織変革研究において注目すべき点といえるが、一方でいくつかの問題点も指摘できる。これらの研究群では、組織変革の経験について基本的に頻度という素朴な経験に注目している点である。過去の組織変革の回数を数えるのみでは、組織変革の経験について十分には把握できないであろう(小沢, 2019, 2023b)。以前の組織変革がその後の組織変革に影響を与えるという単純な図式のみが想定されており、複数の組織変革の「関係性」については十分に検討されていない。これについては、次節の研究成果を援用することで、問題の一部を克服できる可能性がある。

3.2 近年の研究

非一貫性に注目した研究は比較的近年に展開されている(Kanitz et., 2022Skov and Lê 2024)。Skov and Lê (2024)は、行為者が意図的に非一貫性を形成する点をデンマークの学校の事例を用いて示している。より具体的には、Skovらは、外部からの二つの異なる変革をデンマークの学校が要求されていた現象に注目し、プラクティスの理論を用いながら、非一貫性がどのように形成されたかを検討している。彼らの研究によると、外部からの要求に抵抗するなどのため行為者は複数の変革が相互依存関係にある点や一貫性がない点を示すことがある。

Skov and Lê (2024)の研究では、Kanitz et al. (2022)の研究をベースとしつつ、Kanitzらの未解決の問題に取り組んでいるとされる。しかし彼らの研究では、外部からの要求に抵抗するために、それらの要求が相互依存関係や一貫性がないことを示す点が強調されており、(要求でなく)複数の組織変革自体の非一貫性については深く検討されていないという問題点も挙げられる。つまり、彼らの研究では複数の組織変革について言及しているものの、複数の組織変革の相互依存性や非一貫性よりも、「外部からの要求」の非一貫性が強調されている。そのため、組織への外部からのプレッシャーを強調していること、そして組織変革自体に力点が置かれていないことを踏まえると、組織変革研究というよりもあえていえば制度理論(Dimaggio and Powell, 1983)の研究に近いというきらいもある。

このように、Skov and Lê (2024)の研究もKanitz et al. (2022)の研究を先行研究の中心としている点、そして前者の研究に一部問題がある点を踏まえ、以下ではKanitz et al. (2022)の研究を中心的に論じたい。

Kanitz et al. (2022)は、同じ時期に、二つの大規模な組織変革を行った企業を研究対象としている。この企業は、従来エンジニアリング志向としての歴史が長く、商品の質や洗練された技術に関心を持っていた。組織文化は階層的で、官僚的であった。また、公式のプロセスやルールが重んじられ、トップダウンによる意思決定が中心であったとされる。このような本事例において、新たな企業戦略が提示された。新しい戦略では、技術に秀でた「製品」のメーカーから、「製品」に加えて幅広い「サービス」を提供する企業への転換が志向された。そして、このような戦略転換を踏まえて、二つの組織変革が本企業ではみられたのである(Kanitz et al., 2022:684, 686)。

一つ目の組織変革は内部志向の変革である。この変革は、組織文化の変革から着手され、上記の組織文化から顧客志向の組織文化への変革、くわえてイノベーションやコラボレーションを志向した組織文化への変革を進めるものであった。そして、この変革は研究開発に関する意思決定や人事評価、インセンティブ・システムの変革も伴った。この組織変革は人事部や経営戦略やイノベーションの関連部門が中心的な役割を担っており、ボトムアップの側面もみられたとされる(Kanitz et al., 2022:687, 693)。

一方、二つ目の組織変革は、プロジェクト・リブランディングと名付けられ、強いブランドを内外に示すことが意図されたものであった。そしてブランド名、ロゴ、企業カラー、ブランドのポジションなどが見直された。この変革はマーケティング部門と営業部門が中心的な役割を担ったが、トップダウンの色合いが強い変革であった(Kanitz et al., 2022:687, 693)。

経営陣にとって、二つ目の組織変革は一つ目の組織変革を更に前進させることを意図していたが、これら二つの変革は一貫性がないと従業員には受け止められた。その際の非一貫性については3つに分類できるとされる。一つ目は認知的な(cognitive)非一貫性である。これは、複数の組織変革の内容、具体的には目的や範囲が調整されていない、あるいは矛盾していることをさす。二つ目は手続き的な(procedural)非一貫性である。これは、複数の組織変革に関連する「活動」に一貫性が保てていないことを意味し、たとえばある組織変革に関連する研修内容が、別の組織変革の研修内容と整合性が取れないことをさす。また、この一貫性については、どのように経営資源を配分すればよいか、どのように優先順位をつければよいかなどの問題も関連するとされる。そして、最後に挙げられているが価値観(values)や規範(norms)に関連する非一貫性である(Kanitz et al., 2022:693-696)。

Kanitz et al. (2022)では、フィードバック・ループを想定しつつも、一貫性のない複数の組織変革がネガティブな感情をもたらし、それが組織内の共有活動を巻き起こし、組織変革への関与の低下や組織変革の失敗につながることが説明されている。なお、彼らの研究におけるネガティブな感情は、困惑や心配といった不確実性に関する感情、モラルに関する感情、無関心などを意味する。また、共有活動としては、組織変革に疑問を投げかけること、非難すること(reproach)、距離を取ること(distancing)が挙げられている。くわえて、経営陣の従業員に対する曖昧な反応や閉鎖的なコミュニケーションなども状況を悪化させたとしている。

4.「複数」の組織変革の研究意義、課題、今後の方向性

4.1 近年の研究の意義と課題

上述のように、複数の組織変革に関する既存研究は従来と近年の研究に分類できる。前者については先行研究においても一部検討されているため(小沢, 2019, 2023b)、本節では特に近年の研究の意義について検討したい。

複数の組織変革に関する「近年」の研究は、「従来」の研究と比較した場合に、どのような意義があるのであろうか。図1のように、近年の研究、つまり非一貫性に注目している研究の主たる特徴は、同じ時期に行われる、二つの異なる組織変革に注目し、非一貫性という関係性に注目している点である。一方で、従来の(組織変革の経験に関する)研究では「同じ時期に行われる複数の組織変革」でなく、「異なる時期に行われる複数の組織変革」を研究対象としている。つまり、後者の研究では、ある組織の過去に行われる組織変革とその後に行われる組織変革の関係性に注目している。これらを踏まえると、同じ時期に複数の組織変革が展開されるケースもあるため、同時期に展開される複数の組織変革の関係性について、非一貫性という概念を用いて解き明かそうとした点は意義があるといえるのではないだろうか。

図1:組織変革の経験に注目した研究群と非一貫性に注目した研究群の視点

注:組織変革A及びBは組織変革の種類を示している

出所:筆者作成

それでは、このような近年の研究の特徴は、経験に注目していない既存の組織変革研究を踏まえても意義があるといえるのであろうか。組織変革研究における中心的な研究の一つとして(大月, 2005)、断続的均衡モデルが挙げられる(たとえば、Tushman and Romanelli, 1985)。また、それを批判的に捉えたものとして、継続的変革研究(たとえば、Plowman et al., 2007)が挙げられ、この議論については国内の組織変革研究でも多く取り上げられてきた(大月, 2005小沢, 2015古田, 2021)。

このような既存研究において、前者の研究では複数の構成要素の変更が同時に行われる点について主張されてきた。つまり、複数の組織変革が同時に展開される点について既に論じられているといえる。また後者の研究においても、複数の行為者によって、複数の組織変革が同時に起きる可能性は示唆されている。これらを踏まえると、組織変革研究では「複数の組織変革」について論じること自体はそれほど目新しい議論とはいえない。また、複数の組織変革が「同時」に展開される点も、特段意義があるとはいえない。ただし、断続的均衡モデルや継続的変革研究は、近年では減少傾向にあるため、「同時」に行われる「複数の組織変革」を論じる意義を改めて提示したという評価もできるであろう。また、「非一貫性」という観点から複数の組織変革の「関係性」について論じた点は、既存の研究群では強く意識されておらず、これは新たな視座を提供していると考えられる。

ただし、マクロ組織論における組織変革以外の研究領域では、非一貫性に関連する議論が既に展開されている点も補足したい。具体的には、ステータス理論 (たとえば、Jensen and Wang, 2018Wang and Jensen, 2019)や企業行動理論 (たとえば、Blagoeva et al., 2020Lucas, Knoben, and Meeus, 2018)では非一貫性の議論が行われている。たとえば、前者の研究ではステータスの非一貫性が組織活動やパフォーマンスに与える影響が検討されている。そのため、マクロ組織論全体への示唆は限定的という解釈もできる。つまり、「非一貫性」という観点から複数の組織変革の関係性について論じた点は、「組織変革研究」に対して新たな視座を提供したというのが適した評価といえるであろう。

近年の研究の特徴あるいは意義としては上記のように考えられるが、一方でKanitz et al. (2022)の研究には以下の課題・問題もみられる。第1に、このような関係性がみられる際に組織変革が失敗した事例を取り上げているが、常にこのような関係性がみられるかを理論的に解明できていないという問題である。彼ら自身も、相互に干渉する複数の組織変革が常にネガティブな結果をもたらすわけではないとしているが(Kanitz et al., 2022:705)、どのような状況で、あるいはどのようにネガティブな影響を抑えられるか・改善できるかの検討は不十分であり、今後の解明が求められるであろう。

第2に、同じ時期に複数の組織変革が展開される際には、ある組織変革が別の組織変革の障害になるとは限らないが、彼らの研究ではそれが前提になったうえで検討が行われている。つまり、いかなる状況で非一貫性が生じやすいかという、非一貫性の先行要因について十分に検討されていないという問題がみられる。これは、非一貫性に限らず、同時期に行われる複数の組織変革の先行要因が解明されていないという問題ともいえる。くわえて、組織変革の関係性という観点からは、同時期に行われる複数の組織変革が別の組織変革にどのような影響を与えるかも検討の余地があると思われる。今後は、同時期に行われる複数の組織変革の先行要因及びそれが別の組織変革に及ぼす影響についての検討が求められるであろう。

4.2 研究課題への対応

前節では非一貫性に関する研究の特徴と課題について検討した。本節では従来と近年の研究を踏まえ、複数の組織変革に関する今後の研究の方向性について検討したい。本論文では、下記のように、従来と近年の研究にはそれぞれの問題点がみられるが、前者は後者に対して、後者は前者に対して示唆を与えることができると考えている。

第3.1節で示したように、従来の研究の問題として、組織変革の経験について頻度という素朴な経験に注目している点が挙げられる(小沢, 2019, 2023b)。その分析では、以前の組織変革がその後の組織変革に影響を与えるという単純な図式のみが想定されており、過去に行われた組織変革とその後に行われた組織変革に一貫性があるかなど、「関係性の種類」については検討できていない。一方で、非一貫性に関連する近年の研究では、内容を示す認知的な非一貫性、活動に関連する手続き的な非一貫性、価値観や規範に関連する非一貫性など「関係性の種類」について検討している。内容や活動あるいは価値観や規範に注目することで、頻度だけでなく、過去に行われた組織変革とその後に行われた組織変革の関係性に踏み込み、組織変革の経験についてより精緻化した議論を展開できると考えられる。

一方で、前述のように、近年の研究には2つの問題点がみられた。第1に、非一貫性がみられる際に、常にネガティブな結果をもたらすわけではないと指摘されていながらも(Kanitz et al., 2022)、どのような状況で、あるいはどのようにネガティブな影響を抑えられるか・改善できるかを解明できていない点である。それに対して従来の研究では、組織変革の経験に注目しているという特徴があり、経験は学習や知識と非常に関連深い概念である。これを踏まえならば、上記の問題に対して、経験や学習あるいは知識という観点から検討ができないであろうか。たとえば、組織変革に携わる行為者が別の(同時に行われている)組織変革に携わる行為者と経験や知識を共有できる場合には、あるいは互いに学習できる場合には、ネガティブな影響が抑えられる可能性がある。今後は、近年の研究に対して、経験や学習あるいは知識という観点の検討が求められるであろう。

近年の研究の二つ目の問題点としては、上記のように、同時期に行われる複数の組織変革の先行要因及びそれが別の組織変革に及ぼす影響が未解明な点が挙げられる。それに対して従来の研究では、組織変革の経験に注目することにより、ある組織変革が別の組織変革の先行要因になる点、そして別の組織変革に影響を及ぼす点が論じられてきた。これらを踏まえるならば、近年の研究は組織変革の経験という観点から発展の余地があると考えられる。つまり、組織変革の経験という観点を用いることで、①以前の(同時でない)組織変革は、特定の期間に同時に行われる組織変革に対してどのような影響を与えるか、また②同時に行われる組織変革がその後の組織変革にどのような影響を与えるかという研究課題が考えられる。

これらを発展させるならば、過去に同じタイミングで組織変革を行い、その後同時に組織変革を行わなかった組織は、どのような組織変革活動を行うかという研究課題も考えられる。これらについては、さらに同時に行われた組織変革が一貫していない場合と一貫している場合に分類して、考察を進めることも可能であろう。異なる観点としては、意思決定の背後に注目するという場合分けも考えらえる。つまり、複数の組織変革の必要性に直面した際に、組織の現状(たとえば経営資源の現状)を踏まえて、組織変革を同じ時期に行うか、あるいは順番に行うかの意思決定が背後にあるはずだが、それを検討に含めるという観点である。これを踏まえると、①組織変革を同時期に行うことを選択した経験、あるいは②あえて同時には行わずに順番に行うことを選択した経験が及ぼす影響は異なる可能性があり、今後の研究ではこのような場合分けを踏まえた検討も可能であろう。

既存研究では従来と近年の研究の関係性についてはあまり論じられてこなかったが、今後は上記のように、従来の研究の問題点については近年の研究の観点から、あるいは後者の問題点については前者の観点から検討することで、複数の組織変革について理解を深めることができると考えられる。

5.結び

比較的近年の研究では、組織内で複数の組織変革が行われるケースについて検討されている。これらの研究によると、既存の先行研究では単一の組織変革現象が多くの場合に検討されてきた。仮に複数の組織変革がみられる際にも、それらが完全に独立している場合には、単一の組織変革現象のみを検討する弊害も限定的といえる。しかし、それらが相互依存関係にある場合には、単一の組織変革現象のみに焦点をあてても全体像を把握できない恐れがあるため、先行研究では複数の組織変革の重要性が強調されてきたのである。

しかし、既存研究では複数の組織変革を論じる理論的な意義について十分に検討されてこなかった。また、これらの研究の問題点についての検討も不十分であった。これらを踏まえ、本論文では複数の組織変革を論じる意義について検討している。くわえて、既存研究の限界を指摘しつつ、複数の組織変革に関する研究の今後の方向性について検討している。複数の組織変革を論じる意義については、上述のように、主に近年の研究に注目して検討している。その際には、組織変革の経験に注目している従来の研究、その他の組織変革研究、マクロ組織論における組織変革以外の研究を踏まえつつ、近年の研究の意義について考察を行った。

その後、複数の組織変革に関する今後の方向性について検討した。従来の研究の問題としては、組織変革の経験について素朴な経験のみに注目していることから、(過去に行われた組織変革とその後に行われた組織変革の一貫性があるかなど)「関係性の種類」については検討できていない点が挙げられる。また近年の研究の問題点としては、第1に、非一貫性がみられる際にどのような状況で、あるいは、どのようにネガティブな影響を抑えられるか・改善できるかが解明できていない点が挙げられる。近年の研究の第2の問題点としては、同時期に行われる複数の組織変革の先行要因及びそれが別の組織変革に及ぼす影響が未解明な点が挙げられる。このように、従来と近年の研究ではそれぞれに問題点がみられるが、前者は後者に対して、後者は前者に対して示唆を与えられる点を本論文では示し、今後の方向性について論じたのである。

ところで、経営学研究では問題移動に関するPopperの図式(Popper, 1972)、つまり問題、暫定的解決(あるいは暫定的理論)、誤り排除、そして新しい問題という科学的知識の進化に関する図式を用いて検討される場合もある(たとえば、菊澤, 2020榊原, 1994柴田, 2013永野, 2015渡部, 1991)。たとえば渡部(1991)では意思決定論からゴミ箱モデルへの系譜を論じており、永野(2015)の研究では資源ベース論からダイナミック・ケイパビリティへの系譜を分析している。Popperの図式を用いることによって精緻な理論研究が展開できるため、この図式を用いていない本論文については、精緻な考察ができていないという見方もできるであろう。

本論文が対象としている従来の研究、つまり「過去の組織変革の経験がその後の組織変革に与える影響」に注目した研究は、ポピュレーション・エコロジーの研究の影響を受けている(Hannan and Freeman, 1984)。従来の研究におけるAmburgeyらの議論では(Kelly and Amburgey, 1991)、組織慣性や(組織変革による)失敗などに関する問題を検討している。モメンタムの議論は、ポピュレーション・エコロジーと組織学習の視点を用いたものあり(Amburgey et al, 1993)、(それへの批判として登場した)ディセラレーションの議論は組織学習と関連深い企業行動理論の視点を用いていたものである(Beck et al, 2008)。一方で、本論文で対象としている近年の研究は、従来の研究(モメンタムあるいはディセラレーションなどの研究)への批判として登場したわけではない。

そのため本論文では、これらの研究において問題が共有されている(あるいは問題の移動がみられる)と想定するのではなく(そして認識進歩に関する図式を用いて分析するのではなく)、両者の問題が異なることを踏まえ、「複数の組織変革の関係性を論じている」という共通点に注目して考察を行った。本論文で取り上げている従来と近年の研究の関係性については先行研究で十分に論じられておらず、特に後者の問題点については十分に指摘されてこなかったといえる。そのため、本論文において前者の研究の問題点に対して後者の知見を用いること、また後者の問題点に対して前者の知見を用いることで研究が発展できる可能性を示した点に本論文の意義はあると考えられる。また、複数の組織変革については問題の移動を論じられる状況にまだ既存研究が至っていないとも考えられるため、今後はこれらの研究がさらに発展することを期待したい。

最後に、本論文の限界点についても触れておきたい。第1に、時間(time)の概念について十分に検討できていない点である。経営学の分野では、時間についても研究が進められているため(e.g., Ancona et al., 2001Blagoev et al., 2024Shipp and Jansen, 2021)、今後は複数の組織変革と時間の概念の検討が必要である。第2に、リズムの研究(たとえば、Klarner and Raisch, 2013Stephenson et al., in press)について十分に検討できていない点である。リズムに関する研究は不足しているといわれるが(Kunisch et al., 2017)、今後はその更なる研究が求められるであろう。

1)  Klaner and Raisch(2013)の研究では組織変革のリズムは規則的なものと不規則なものに分類されている。そして、後者については断続的な(punctuated)リズムなどが論じられている。

参考文献
 
© 経営哲学学会
feedback
Top