抄録
2010年3月に策定された新たな「食料•農業•農村基本計画」でも見られるように,我が国の農業政策において食料自給率が一つの政策目標とみなされている。しかしながら,食料自給率は需要と供給のそれぞれの面における様々な食糧事情の結果表れる数値である。それ自体を目標にしてもその手段は無数にあるため,具体的にどの面の強化が望ましいのかの議論が必要である。本稿では食料自給率を供給面と需要面から考察し,その上で現在の農業政策を分析する。代替の弾力性を回帰分析した結果,米と小麦の間の弾力性は小さいかむしろ補完性があり,米と肉類との間の代替の弾力性の方が大きいことがわかった。本稿の分析から戸別所得補償制度は米作の保護政策ともなっており,大幅な転換が生じるとは考えにくい。仮に供給面での転換が可能であったとしても,それが必ずしも需要に対応していない。需要面ではこれまで,米の生産減少分は肉類の増加によって代替されてきており,米から飼料用作物への転換の方がより農地などの限られた資源を効率的に利用することになる。