2022 年 100 巻 1 号 p. 141-165
2015年9月1日に日本海の南西部の海上で突風を発生させ、その結果海難事故を引き起こしたメソβスケール渦(meso-β-scale vortex: MBV)の発達のために重要な大気条件を理解するために、アンサンブルカルマンフィルター(LETKF)を用いた101メンバー(一つのアンサンブル平均を含む)のアンサンブル実験を行った。最もMBVが強くなった8メンバー(STRG)と最も弱くなった10メンバー(WEAK)における、MBVの構造と周りの大気条件の違いを明らかにするために、コンポジット解析を行なった。ここで、2つの強いメンバーは他の8メンバーと比べて早く発達していたことから、解析から取り除いた。解析の結果、STRGにおける、MBV中心より北東域及び南域の地表付近の低気圧性シアは、WEAKよりも強かった。加えて、STRGにおける下層の水蒸気及び水蒸気フラックスは、MBV南東域におけるより大きな対流有効位置エネルギーに寄与し、結果として、MBV周辺の強い対流を生じた。アンサンブル感度解析によって、コンポジット解析の結果は統計的に支持された。地表付近の水平シアは、MBVが埋め込まれた温帯低気圧の構造に強く関係していた。STRGにおける温帯低気圧の強さはWEAKと同程度であったが、温帯低気圧の北東象限における風の低気圧性水平シアは、STRGの方がWEAKよりも強くなっていた。