2022 年 100 巻 1 号 p. 245-256
大気の数値モデルにおける接地層スキームは、そのモデルに導入される大気境界層スキームに矛盾しないことが望ましい。この研究では、Monin‒Obukhovの相似則に基づいて、安定な接地層における運動量と熱量に対する安定度関数φmとφhをMellor–Yamada–Nakanishi–Niino(MYNN)スキームから導いた。得られた安定度関数は、運動量と熱量のフラックスを求めるために高度zに関して解析的に積分できるように、それぞれφm=1+4.8z/Lとφh=0.74+6.0z/Lの関数形に近似した。ここで、LはObukhovの長さである。こうして求めたフラックスを過去の研究で提案された4つの安定度関数から得られるフラックスと比較した。その結果、MYNNスキームによるフラックスは4つのうちの2つとほとんど同じであり、ほかの2つよりも、海氷上で行われたSurface Heat Budget of the Arctic Ocean experiment(SHEBA)で得た観測結果とよく一致した。MYNNスキームの結果とSHEBAデータの詳しい比較から、氷が乾雪に覆われた「冬」の期間に観測されたフラックスの著しいばらつきは、観測サイト周辺の粗度の大きな変動によって起こっていることが示唆された。MYNNスキームの安定度関数によると、バルク・リチャードソン数とフラックス・リチャードソン数はz/L→∞の極限で、それぞれ0.26と0.21の臨界値に近づくことが示された。これらの臨界値はMYNNスキームにおける乱流散逸にコルモゴロフ仮説が適用された結果であり、コルモゴロフ乱流から非コルモゴロフ乱流への遷移に対応すると考えられる。